武士の娘 (筑摩叢書 97)

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著者 : 杉本鉞子
制作 : 大岩 美代 
  • 筑摩書房 (1967年10月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480010971

武士の娘 (筑摩叢書 97)の感想・レビュー・書評

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  • P61 日本の子どもは、話されもしないことを聞き出すということを致しませんし、私ども日本人の生活のなかには、ただあるがままに受け入れていることが大変多うございます。そんなことからわたしもそれきにこのことを考えてみたこともありませんでした。

    P62 これが義に忠実な武士の精神であり、成敗は天にまかせてことにあたるのが武士の勇気なのです。国が異なれば、すべてを測るものさしも異なるものでありますが、忠義と勇気のみは、どこの世界にも求められるものでございましょう。

    P65 父は笑って「いくら立派だって、役にたたないものを持っているのは昔のことだよ。当節は見苦しくても役に立つものがなによりだからね」と申しました。

    P92 子供時代を通して、この本は私の心にさまざまのことを吹きこんでくれました。が、女学校に入って英語をべんきょうするようになりましてから、幼い頃にの本で読み覚えたお話のつづきや、その中に流れていた思想と同じようなものが、むずかしい言葉の蔭に秘められていることをおぼろげながらもたしかめました時、その喜びは口にも言い難いものでございました。それからは夢中で書物を読み続けました。机にかじりついて、辞書は傍らに置いてありましても、それを操るのさえもどかしく、そこここつまずきながらも、時にはわからない言葉をぬかしたり想像の翼をかりながら、不思議にも意味をとってゆき、倦むことを知りませんでした。この読書の魅力は、お月見の宴にもたとえられるかと思います。漂う浮雲は銀盆の光をさえぎるのですが、丘の高楼に月の出を見守る人は心をときめかせながら、明るい光の輝き出る瞬間を今や遅しと待ちわびるのでございます。それにも似て心はやりながら、捕えがたくて、半ばかくされたりを文章の意味を極めたいものと、息もつかず読みふけるのでありました。また英書を読んでおりま
    すと、幼い頃解かれないままに残されていた問題の解答が得られることもありました。ともかく英書は私にとって、汲めどもつきない喜びの泉であったのでございます。

    P97 私はその頃、まだ幼のうございましたが、これからは、物を尋ねるにも、控えめに女らしくして、男の子のように無遠慮な訊き方をしてはならないと、しみじみ思わされたのでした。
    ところが、東京の学校の感化は微妙なもので、私の心は知らず識らずのうちに成長し、やがて、質問することは進歩の一歩であるということを悟るようになりました。そして、生まれて初めて心の中に秘めてきたいろいろの思いを言葉に表現してみようと、自ら企てるるようになり、家庭の母姉のような先生方によって、やさしく育まれてゆきました。

    P143 アメリカへ参りました時は、いろいろのことを勉強したいと思っていましたが、となりびとから質問をうけたり、批評を聞いたりして、思いもかけず、さまざまの角度から祖国をみるようになり、かえって、日本のことを勉強するような結果になりました。

    P145 私は日本の習慣の多くを、あるがままに受け入れており、ご先祖さまもこうなされたし、今でもそのままに行われているのだと思う外に、別に深くも考えてみませんでした。

    P151 幾週も幾月も過ぎ去る中に目新しいと思っていましたことが、遠い過去に深いつながりを持っていらことに気づきました。日ごとの経験を通して、アメリカが日本によく似ていることに気づいていたからでした。時が流れ去るにつれ、もの珍しい周囲の事情は、古い記憶の中にとけこみ、私の生涯は、故郷の子ども時代から、これまで、少しも乱されることなく、淡々と流れてきたもののように、思い始めて参りました。

    P167 日本では、日ごとの生活が神秘なものに満ち満ちております。人々の生活の中で、八百万の神々様は親しみぶかい神々様、現実的な神々様、実在を暗示する神々様であります。私どもは親しみをもって、神々様の祀りのつとめに奉仕しております。祀りを怠ったとしても、天から罰せられることの怖れはさほどでなく、むしろ、敬いに欠けたことを恥ずかしいと思うのでございます。この恥ということこそ、日本人の心の重荷となるのです。

    P176 子ども心ほど測りがたいものはございません。花野はその日から日本のものごとに心を動かされるようになりました。松雄は好んで花野の片言を聞いたり、花のと戯れたりいたしましたが、お話となると、いつも私のところへまいりました。
    それで、夜な夜な、私は日本の英雄の話や、子どものころから聞きなれた唄やお伽噺を聞かせました。黒い髪の毛の美しい子どもー私はいつも美しいと申しましたーが、糸を桜の花びらに通して鎖を作ったり、石燈籠があり、池に太鼓橋のかかった庭の花村の中で遊ぶお話が殊に花野を喜ばせました。私がこうして日本のことを話したり、夕あかりの中に立って、日本の子守唄を唄いますと傍らにいる花野が小声でそのあとをつけて唄っています時など故郷こいしい思いが胸に迫るのでありました。

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