賃上げはなぜ必要か: 日本経済の誤謬 (筑摩選書)

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  • 筑摩書房
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  • / ISBN・EAN: 9784480015938

感想・レビュー・書評

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  • 第1章 成長と循環のあいだ
    第2章 増大する非正規労働者をどうとらえるか
    第3章 ミドルの不満と閉塞の構造
    第4章 要塞化する日本企業
    第5章 自分を見失った政府
    第6章 少子化と家庭の変容
    第7章 立ちすくみの構造

  • 1998年の金融危機以降、日本企業はその内部に膨大な利益余剰金(内部留保)を積み上げ続けている。資金循環を見ると、企業は黒字主体となり、株主には配当金、労働者には賃金を還元せずにひたすた自己資本比率を高めてきた。筆者によれば、既存のケインズ的処方箋(公共投資、減税、金利引き下げ)は限界に達しており、賃上げを行うことで企業から家計へ滞留した資金を流して、家計の可処分所得の増加によるデフレ脱却の処方箋を提言しているのが本書である。

    ①日本経済の分析
    第一章と第二章では日本経済の分析が行われている。フィリップス曲線とオークンの法則から、筆者は日本の完全失業率を4%と見積もっており、4%を切ると労働市場がタイト化して賃金は上昇するとしている。(P.26~P.34) また日本のマクロ経済の「波」は、(1) 少子高齢化などの影響を受けている潜在成長率を表す長期トレンド、(2)在庫循環を中心とした短期サイクルが組み合わさってマクロ経済変動が生まれており、短期サイクル(景気変動)においてインフレ・ターゲット、円安誘導政策といったゼロ金利下の非伝統的金融政策は限界があるとしている。「グレートモデレーションという経済安定時代にアメリカで形成された金融政策理論を無理やり日本に当てはめようとしている、日本の金融政策はアメリカや世界経済という太陽を受けて光っている月に過ぎない」と日本のリフレ派に対して皮肉が強烈である。

    ②日本の労働市場の分析
    「リストラ」の代名詞であった日本企業の正社員であるが、平成不況下において離職率は横ばいであり、新卒から最初に就職した会社に勤め続けている雇用者の割合は男性ではほとんど変化はない。企業における正社員という中核層の長期雇用は実は深化しているのが実情である。日本の労働市場は、そうした中核社員、非正規雇用に従事する主婦パートなど「労働時間調整グループ」、非正規雇用に従事する中高年など「切羽詰まったグループ」による三階層に分化している。(P.95) この現状から「雇用の流動化」が主張されそうではあるが、筆者によれば企業側は不況下で買い手独占であるために、安易な雇用の流動化により「賃金を引き下げれば有効需要が減り、さらに失業者が減るという負のスパイラル(乗数)効果がある。」としている。

    第三章は、所謂「日本的労働慣行」について。日本的労働慣行は(1)暗黙知に依存し、大まかな職務内容とその区分に代表される職場レベルでのマイクロ・マイクロ的な慣行、(2)長期雇用制や年功賃金制に代表される大企業レベルでのミクロ的な慣行、(3) 春闘やボーナスに代表される労働市場レベル全体でのマクロ的慣行の三層構造から形成されており、長期雇用・年功賃金制の下では、個別企業内の労働組合・労働者は交渉力が弱く、分断されているので、どうしても経営者側の買い手独占が強まってしまう。それを補うのが春闘であり、企業内の労働移動をスムージングするのが職場レベルの調整であると説明されている。(P.135~P.138) 本章では、日本的雇用慣行は「保険メカニズム」と「非対称情報」といったミクロ経済学の概念によって説明されている。それによれば日本的雇用慣行には好況・完全雇用下では労働者の力が強く「契約関係」が成立するが、不況・不完全雇用下では、それが「上下関係」に転化する危険性があるが、それなりに合理性があり、筆者の日本的慣行の評価は肯定的である。

    ③要塞化する日本企業
    第四章は、内部留保(剰余利益金)をひたすら積み上げて「要塞化」している日本企業について。法人企業統計を使い、人件費・設備投資・利潤(営業利益)と利益余剰金(内部留保)の付加価値に対する寄与度をプロットする分析などが行われている。分析によれば、98年以前までは企業利潤が上昇後に、人件費を先導に企業純資産、設備投資の三者がバランスよく上昇していたが、98年の金融危機以降には純資産、設備投資、人件費の優先順位になっている。筆者によれば、金融危機以降、銀行依存が危険と見た企業は内部留保を積み上げて自己資本比率を上昇させて、企業は今後の設備投資のために設備投資を削れないので代わりに人件費の伸びを抑えたというのが原因であるとしている。(P.189~207) この傾向は、不良債権業種や大企業だけでなく、企業部門全体に広がっているようだ。賃金のみならず、設備投資や株主への配当にさえ企業利潤が回っておらず、純資産を増やして自己資本比率を高め続けているこの現象を「日本企業の要塞化」と名付けている。具体的な解決案として、以前存在した地価税のように企業資産、預貯金や株式保有等のストックへの課税(P.233)や春闘を通じて労働組合が賃上げを実現させていくことが提言されている。労組による下からの賃上げというのは、ロナルド・ドーアがかつて主張していた「賃上げリフレ」(by 稲葉振一郎)と似た案であろう。

    後半の二章は、長期的なトレンド対策として少子化の克服・出生率上昇が挙げられている。具体案は、子ども手当の充実、社会保障番号制度導入、財政改革などだ。エコカー補助金に1台当り25万円も支給されているのに、子ども手当に対して反対論が多いことを論難しているが、全く持って同意である。自動車メーカーを救うよりは個人・家族を助成するのが本筋であろう。

    以上が本書のあらましである。要塞化している日本企業から内部留保を吐き出させて、賃上げに持っていくという方向性自体には賛成である。しかしながら、企業資産、預貯金や株式保有等のストックへの課税によってそれがなされるかどうかは疑問がないわけではない。賃上げには向かわずに、もっぱら株主への配当金に流れてしまう自体もありえるかもしれない。もっときめ細かい税制上の政策が必要ではないかと思う。そこの所は個人的にも考えたいところだ。本書は、完全失業率を4%と過大に見積もっていたことや、出版されたのが5年前と内容が少し古くなっている難点がある。筆者の最新の見解を知りたいのなら、今年出版された同じ筆者の「日本経済論15講」(新世社)を読めばいいだろう。

    評点 6.5点 / 10点

  • ・2014年(労働需要不足のとき)の本。


    【簡易目次】
    第1章 成長と循環のあいだ 015
    1.1 日本のマクロ経済観測の基本 026
    1.2 日本経済はなぜ一進一退したのか 036
    1.3 ひもは押せない――金融政策の限界 043
    1.4 円安誘導の限界 058
    1.5 海外展開の限界 064
    1.6 念頭に置くべき4点 071
    第2章 増大する非正規労働者をどうとらえるか 081
    2.1 非正規労働者の急増と失業率の変動 088
    2.2 中核社員の過剰と管理・計画の過剰 108
    2.3 正規・非正規の関係をどう位置づける? 120
    第3章 ミドルの不満と閉塞の構造 135
    3.1 保険メカニズム――日本的労働慣行の光と影 138
    3.2 まぜ不満があるのか――非対称情報からの接近 146
    3.3 多能工的熟練形成と専門職敵対視の構造 155
    3.4 労働政策は何をなすべきなか 176
    第4章 要塞化する日本企業 187
    4.1 混乱するガバナンスの議論 189
    4.2 利益処分の優先順位変化 198
    4.3 企業純資産増加の問題点 207
    4.4 賃金上昇反対論の誤り 216
    4.5 賃上げは充分なのか 232
    4.6 企業優遇政策の帰結 241
    第5章 自分を見失った政府 251
    5.1 財政の現状 255
    5.2 社会保障と世代間不公平 286
    5.3 地方の「壊死」問題 304
    第6章 少子化と家庭の変容 323
    6.1 少子化とその要因 326
    6.2 女性労働と2つのM字型カーブ 335
    6.3 子ども手当は過大だったか 346
    第7章 立ちすくみの構造 357


    【目次】
    目次 [003-007]
    はじめに(著者) [011-013]

    第1章 成長と循環のあいだ 015
    1.1 日本のマクロ経済観測の基本 026
      マクロ経験法則① シフトしないフィリップス曲線を基本として考える
      わずかなデフレがなぜ問題とされるのか
      雇用者報酬の低迷こそ問題
      マクロ経験法則② 失業率の減少速度を示すオークンの法則
      マクロ経験法則③ 景気の体感温度を示すGDP実質成長率
      ベンチマーク水準実質成長率3%は高すぎないか
    1.2 日本経済はなぜ一進一退したのか 036
      中期の低迷と「洗面器のカニ」生成のプロセス
      「洗面器のカニ」を行き詰まった企業から理解する
      不良債権問題の量的なインパクトと経済成長率
    1.3 ひもは押せない――金融政策の限界 043
      分かりやすい米国の金融政策
      日本の金融政策の限界は何か① 金融市場のルーズ化
      日本の金融政策の限界は何か② 金融の国際化
      日銀は動かなかったのか、動けなかったのか
      なぜインフレが生じないのか
      金融政策の異常がもたらす結果
    コラム:売り家と唐様で書いた日銀 
    1.4 円安誘導の限界 058
      円安になるための期待の変化とは
      なぜ好況初期に円高になるのか
      為替介入には効果があるのか
    1.5 海外展開の限界 064
      機械中心の輸出産業はどう特徴づけられるのか
      輸出比率で産業別の特徴を理解する
    1.6 念頭に置くべき4点 071
      ①労働 高齢化による労働力人口減少と非正規雇用化の流れ
      ②生産物需要 グローバリゼーションの一方的認識
      ③金融 どこにお金があるのか
      ④政府 お行儀は悪いけれども……
    注 077

    第2章 増大する非正規労働者をどうとらえるか 081
      労働市場をめぐる議論――
      マクロ的視点で「質」と需要不足を重視すべき
      上下関係か契約関係か
    2.1 非正規労働者の急増と失業率の変動 088
      年齢別失業率と雇用形態別失業率
      非正規雇用の実態と推移
      若者と就職氷河期世代
      就職の「本音」と「建前」
      新卒一括採用慣行を企業は止めたいのか
    コラム:新卒一括採用とナビサイト
      主婦パート・アルバイト① 130万円の壁
      主婦パート・アルバイト② 「組合・保険・訓練」の3点セットを望んでいるのか
      高齢者と在職老齢年金制度
      非正規雇用を促進してしまう制度と動学的不整合性
      兼業農家化を促進する非正規雇用の契約や制度
    2.2 中核社員の過剰と管理・計画の過剰 108
      長期雇用は変化しない正社員
      ホワイトカラー過剰を示す職種別の状況
      ブラック・ジェネラリストとモンスター・スペシャリスト
      管理職過剰がもたらす「空気」
      職務給と職能給と運とコネ
      序列と格差
    コラム:プライドの分配と金銭の分配

    2.3 正規・非正規の関係をどう位置づける? 120
      非正規雇用の理論分析――パッケージかチョイスか
      平均所得減少の原因① 非正規雇用の低賃金
      平均所得減少の原因② 非正規雇用から正規雇用への波及効果
      平均所得減少の原因③ マクロ的な生産性が上昇するのか
      平均所得減少の原因④ 派遣村とブラック企業
      雇用政策の何が問題か
    注 130

    第3章 ミドルの不満と閉塞の構造 135
    3.1 保険メカニズム――日本的労働慣行の光と影 138
      日本的労働慣行の「光」――保険と相互扶助メカニズム
      労働問題用語で保険機能の3分解
      長期安定雇用をファイナンス理論で理解する
    3.2 なぜ不満があるのか――非対称情報からの接近 146
      雇用慣行に関する怨嗟① 共同体の格付け
      雇用慣行に関する怨嗟② 非対称情報から考える
      雇用慣行に関する怨嗟③ 相互監視と共同体嫌悪の知識人
    コラム:「体制」としての日本的労働慣行
    3.3 多能工的熟練形成と専門職敵対視の構造 155
      特殊的熟練工は将棋の「と金」
      マイクロ・マイクロ的労働慣行と多能工的熟練
      職種別市場幻想とジェネラリスト
      流動化論への留保① 専横排除
      流動化論への留保② 「タテ」と「ヨコ」の競争意識
      流動化論への留保③ 「成果」主義の経験
      流動化論への留保④ 現状ではバブル入社組のリストラ一辺倒
      スペシャリストの限界
      高度人材養成と専門職市場の失敗
        A 大学と大学院改革
        B 法科大学院と司法改革
        C 医療改革
      司法改革はなぜ失敗したのか
      労働市場のエコノミークラスとビジネスクラス
    コラム:福島原発問題と専門家のコントロール

    3.4 労働政策は何をなすべきなか 176
      対策① 分類と社会保険番号
      対策② ミスマッチと価格メカニズム
      対策③ 財源と雇用保険の埋蔵金
    注 184

    第4章 要塞化する日本企業 187
    4.1 混乱するガバナンスの議論 189
      企業は誰のものか?① 理論的な問題は残余請求権
      企業は誰のものか?② 順番の議論
      企業は誰のものか?③ 具体的にシェフとオーナーで考える
      企業は誰のものか?④ 日本企業と経営者の役割
      ダブル・スタンダードな議論の結果としての要塞化

    4.2 利益処分の優先順位変化 198
      収益分配優先の順位の変容① 企業純資産増大へ
      企業純資産増大の具体的状況
      収益分配優先の順位の変容② 1998年の銀行危機の影響
      収益分配優先の順位の変容③ 失われた10年と設備投資のパズル

    4.3 企業純資産増加の問題点 207
      企業埋蔵金増加の問題点① 
      企業埋蔵金増加の問題点② 
      企業埋蔵金増加の問題点③ 
      企業埋蔵金増加の問題点④ 
      企業埋蔵金増加の問題点⑤ 
    4.4 賃金上昇反対論の誤り 216
      賃金上昇反対論の誤り① 
    コラム:ケインズ的な消費関数の成立
      賃金上昇反対論の誤り② 産業は空洞化するのか
      賃金上昇反対論の誤り③ 減価償却費のトレンド的上昇と労働分配率
      賃金上昇反対論の誤り④ 設備投資費用とサイクルの動き 
      賃金上昇反対論の誤り⑤ 会計上の錯覚なのか
    4.5 賃上げは充分なのか 232
      政府の認識と対応
      春闘とボーナスの二部料金システム
      ボーナスの罠
    4.6 企業優遇政策の帰結 241
    コラム:もしドラと資本家の不在 
    注 246

    第5章 自分を見失った政府 251
    5.1 財政の現状 255
      財政危機の実態
      財政の外部要因――国債暴落の可能性
      プライマリー・バランスで状況を理解する
      税制改革の方向性
      懐疑(1a) 税収見積もりの予測誤差と財政急好転の論理
      インフレ政策は危険
      懐疑(1b) 抜け穴の多い法人税
      懐疑(2a) 政府資産の状況と埋蔵金論争
      埋蔵金論争① へそくり論の問題点
      埋蔵金論争② なぜ生成されるのか
      埋蔵金論争③ 混乱の原因は総債務と純資産の使い分け
      懐疑(2b) 債務超過と資産査定の必要性
      懐疑(3) 社会保障費の一般財源化
      財政危機と対策の現状
      財政危機対応への一試案――日本政府の上下分離と持株会社導入
    5.2 社会保障と世代間不公平 286
      社会保障改革の方向性――ワークフェアとベーシックインカム
      現金給付政策に
      日本の公的年金のあらまし――三階建ての構造
      賦課方式と積立方式
      二重負担と初期時点
      積立方式化は可能か
      世代間不公平論への疑問① 遺産と国富
      世代間不公平論への疑問② 現在価値計算の利子率
      若者はなぜ不満なのか
      世代間の優先順位の変更が必要
    5.3 地方の「壊死」問題 304
      地方の産業構成と集積の経済
      「デフレの正体」の正体
      都会と地方の格差
      社会資本の廃棄
      地方分権の陥穽
    注 318

    第6章 少子化と家庭の変容 323
    6.1 少子化とその要因 326
      少子高齢化の実態
      少子化の原因と対策の有効性
      子どもの聖域化
      3つの少子化対策
      結婚しない日本人――生涯未婚率の急上昇
      児童(子ども)手当か保育所か――現金か現物か
    6.2 女性労働と2つのM字型カーブ 335
      2つのM字型カーブ
      拙速な就労支援は少子化対策にならない
      所得階層と少子化対策への評価
      出生率と女性労働
      現物給付の非効率性――時間がボトルネックか、所得がボトルネックか
    6.3 子ども手当は過大だったか 346
      手当のインパクト① 子育て費用
      手当のインパクト② 女性労働
      手当のインパクト③ 財政
      少子化対策反対の構図
      少子化を受け入れるコストは莫大
    注 355

    第7章 立ちすくみの構造 357
      3つの現状判断と合成の誤謬
      すべてはつながっている――「合成の誤謬」生成の契機
      処方箋と反感① 賃金増大
      処方箋と反感② 少子化対策
      A論とB論再考――本末転倒と「急がば回れ」
      どちらに行けばよいのか

    参考文献 [i-v]


    【抜き書き】
    ・3章から(pp. 172-173)。ここで参照されてるのは、小林正啓『こんな日弁連に誰がした?』(平凡社新書)。

    ――――――――――――
      司法改革はなぜ失敗したのか

     小林(2010)は司法改革に関して(異論はあるのでしょうが)興味深い分析を提示しています。同書は法曹一元のかけ声の下で弁護士会は人員増加を容認せざるをえないはめに陥ったこと、そして法科大学院の乱立などいかに需給を無視して、一見都合の良い夢想的な計画が実行されたかを活写しています。法科大学院の予想定員の和の集計程度はしておけば、いまのようなロースクール受難の事態を招かなかったと同書は指摘していますが、先に述べた大学院や医療崩壊も同じことで、「少しの計算」があれば事態はかなりましになっていたことでしょう。
     私たちは複雑な社会ですべての側面に知識を持つことはできません。たとえ難度の高い司法試験に合格したとしても、弁護士は弁護士業種の市場メカニズムの専門家ではなかった、ということです。日本の自動車産業は「すりあわせ」により、高い生産性と品質が達成された、とする研究が盛んでした。しかしこの「すりあわせ」は形あるものを目標として、専門家が何度も集まることにより達成されるものでしょう[注15]。ボトムアップ型などといって、素人が集まって「すりあわせ」を行い、希望的観測のかたまりとなった結論に到達することとは違うことなのでしょう。
     年金や社会保障上の「世代間不公平」については、第5章で否定的に考察しますが、上記専門職市場の崩壊については、先行世代の指導的立場にある人たちの責任は明らかです。たとえば司法改革について、小林(2010)は高名な中坊公平元弁護士を含めて、弁護士定員増加の責任を追及しています。「世代間不公平」論者も、抽象的に「一億総ざんげ」のようなことは要求せず、責任の所在を限って追及してほしいものです。

     [注15] 「形あるもの」は伝統的な日本文化論のポイントです。
    ――――――――――――

  • 150110 中央図書館
    非正規労働、少子化、財政などの日本経済の現在の論点が幅広く詳細かつわかりやすく取り上げられている。とりわけ、「明快である」というのが特徴。各章の末尾にある饒舌な補注を斜め読みするだけでも、今の日本の諸相が浮かび上がってくる。
    マクロ経済あるいは労働経済学の観点から、現実の経済問題に処方箋を書きたいという実践に重きをおく若手経済学者のようだ。とくに難解なだけの理論モデルにはあまり信をおかないというスタンス。

  • 日本経済に力強さを取り戻すため、マクロ的な視点での大きな戦略が必要。ミクロに囚われ、立ちすくんでいる現状を打破をすべき。そのためには、賃上げをし、資金循環を再始動が必要。

  • GDP成長率3%、10兆円規模、失業率4%が好不況のメルクマール。

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