合葬 (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 60
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  • Amazon.co.jp ・本 (197ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480021922

感想・レビュー・書評

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  • 江戸をこよなく愛された杉浦さんの江戸レクイエムでした。彰義隊は、ビジョンも名分も軍略もない烏合の衆でした。これに飲み込まれる末端士分の若者たちの視線で、江戸が消えてしまう上野戦争の惨劇を描いています。「維新とは実質上、末期幕府が総力を挙げて改革した近代軍備と内閣的政務機関を明治新政府がそのまま引き継いだにすぎない」とは杉浦さんの醒めた近代史観です。文庫サイズではなく、大判で味わいたかったなぁ。

  • 杉浦日向子さん。

    まえがきに、志ん生のマクラとして「上野の戦争」の話が出てくるのですが、ハテ上野?東京の?戦争?と、のっけから「?」だらけになってしまいました。

    スイマセン、上野の戦争も彰義隊も、さらに西南戦争のこともさっぱり知りません^^;。これを機会に少し勉強したいと・・・思いました(思っただけで終わるかも知れません)。

    ともあれマンガ作品ですが、その彰義隊と上野戦争のことを、隊の端くれに参加した若き3人の志士の目から描いたものとなっています。

    幕末という時代の流れに巻き込まれていく青年たち。その困惑やもどかしさを含んだ一途さが、独特の間と陰影とともにつづられており、大変せつないものを感じました。

    「合葬」というタイトルは、その3人の死を言うとともに、これもまえがきにある通り「江戸の風俗万般が葬り去られる」その転換期の空気を描きたいという作者の思いがあったようです。

    なお、小沢さんという方による巻末解説がまた凄い。いかに杉浦さんの“考証”が深く、リアリティとして反映されているかを示してくれて興趣三倍増です。

  • 森まゆみ『彰義隊遺聞』を読んだら無性に読み返したくなり部屋中探したのだけどみつからなかったので買い直しました。映画の帯がついたバージョンで、そういえば2015年に実写映画化されたのだっけ(見てない…)青林堂から出た版が実家にあったはずなのだけどあれも行方不明かも・・・。

    閑話休題。慶喜謹慎後の彰義隊、秋津極は「君辱めらるれば臣死す」という潔癖頑固な武士気質ゆえに彰義隊で命を捨てようと覚悟、許婚の砂世との婚約解消を申し出る。砂世の兄で極の幼馴染である福原悌二郎は長崎留学から帰省中にこの話を知り納得がいかず、極を彰義隊から脱退させようと談判に赴くが逆に巻き込まれ・・・。一方で、同じく彼らの幼馴染である吉森柾之助は、養子先の陰険な養母らに愛想を尽かし出奔、たまたま極らと再会して成り行きで彰義隊士に。やがて上野戦争が始まり、三人の少年たちはそれぞれ思いがけない結末を迎えることに。

    極が美形で好きだったなあ。杉浦さんの絵は独特の味わいがあり、時代の転換期の若者たちのやや過激な思想や行動、残酷な戦争の現実を描きながらも描写は淡々としていて過剰に感情に流れず、それでいて得も言われぬ情緒がある。悌二郎がふと柾之助に語る、子供の頃に蝉の羽化を見たことを語る場面や、逃走中の極と柾之助が納屋でふと目をさます場面など、なにげないエピソードを今でも夢の中でみた光景のようにふとした瞬間に思い出して涙ぐんでしまう。彼らは実在の歴史上の人物ではないけれど、こういう無名の市井の人々が確かに実在し生きて死んだというその血肉の通わせ方が素晴らしい。

    ところで実写映画の出演者の中にオダギリジョーの名前をみつけて、イケメン役なら春日左衛門か丸毛靫負かなと思ったらまさかの森篤之進、いやしかしこれはこれでいい感じ。映画もそのうち見たい。

  • 幕末の幕軍側についた彰義隊の少年たちの漫画です。戦争漫画だからと言って、ことさら煽るような描き方ではなく、淡々と物語は進みます。ラスト近く、見開きの青空の美しいこと。泣きました。時代の変革期に犠牲が出てしまうのを「仕方ない」と片付ける世の中になってほしくないと思いました。名作です。

  • 先月、深川の杉浦日向子展に行って、未読のものを読んでいこうと思った。 それぞれの事情で彰義隊に加わった3人の若者の行く末。未熟さゆえに時代に翻弄される切なさ。映画版も見てみようと思います。

  • なんて素晴らしい作品なんだろう。「歴史」とひとくくりにされがちな戦争からかつての人の息づかいを強靭に甦らせる。小沢信男による解説がまた素晴らしくて、一冊の本として満足感がすぎます。

  • 著者を江戸の「師匠」と慕っている。2005年に鬼籍に入られた今となっては全てが遺作なのだが、師匠の漫画を読むのは久しぶりだ。上野戦争を若者の視点で描いた本作は、解説にもあるとおり類書に抜きんでているのだと思う。江戸っ子の落首「うえからは明治だなどと云ふけれど 治明(オサマルメイ)と下からは読む」は秀逸!

  • 短編が主な杉浦日向子にしては珍しく一貫した展開をもった長編作。近世から近代への移り変わりを、彰義隊をめぐる上野戦争を軸に描く。いつもの淡々とした表現が悲劇性を高めている。
    今年は杉浦日向子没後10年で、「合葬」の映画化や「百日紅」のアニメ化など話題に事欠かない。

  • 誰もが主人公ポジションで、重要な事は知らされていて
    確固とした意見をもっていて、考え抜いて決断する。

    そんな生き方をしている人は一握りだろう。。。

    幕末、よく分からないままにノリや友人に誘われて
    命を落とした若者は多かったのかもしれない。。。

  • 時代の趨勢も、戦いの意味も見通しもよくわからないまま、勢いに振り回されて散っていった少年たち。
    みんな、普通に生活していた、普通の若者たちだった。

    愚かと言えば愚かだし、悲劇と言えば悲劇だし。
    彼らは、死にゆく徳川幕府の道づれだったのか。
    生きて次の時代を迎えた者は、変わらぬ時の流れの中に身を置く。
    淡々と。
    また、普通に。
    生きていればなあ〜
    生きていれば。

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著者プロフィール

杉浦 日向子(すぎうら・ひなこ):1958年、東京生まれ。1980年、「通言室之梅」(「ガロ」)で漫画家としてデビュー。1984年、『合葬』で日本漫画家協会賞優秀賞受賞。1988年、『風流江戸雀』で文藝春秋漫画賞受賞。1993年に漫画家を引退し、江戸風俗研究家、文筆家として活動した。NHK「コメディーお江戸でござる」では解説を担当。主な漫画作品に『百日紅』(上・下)『ゑひもせす』『二つ枕』『YASUJI東京』『百物語』、エッセイ集に『江戸へようこそ』『大江戸観光』『うつくしく、やさしく、おろかなり』『一日江戸人』『杉浦日向子の食・道・楽』『吞々草子』等がある。2005年、没。

「2023年 『風流江戸雀/呑々まんが』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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