ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)

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著者 : 阿部謹也
  • 筑摩書房 (1988年12月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480022721

ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 予備知識もなく衝動買いした本だが大当たりだった。社会史の書だが、ゾクゾクするような面白さはまるで推理小説を読んでいるよう。

    笛吹き男について、一般的に知られている話はグリムのドイツ伝説集によるものである。だが「鼠捕り男の復讐」というのは、どうも後付けのテーマらしい。最古の資料、リューネブルグ手書本に鼠捕りの話はなく、ただ1284年、笛吹き男に引率された130人の子供達がハーメルン市から姿を消した、とだけ書かれている。その理由は一切説明されていない。

    著者は、1284年に130人の子供達がハーメルンから消えたのは史実であると結論し、⑴なぜ子供達が失踪したのか、⑵なぜそれが有名な伝説となって今日の形で伝えられたのか、と疑問を投げかける。それに答えるべく、①当時のハーメルン市を取り巻く状況、②子供達を含む市民層の実態、③笛吹き男の正体、という3つの因子について、資料や論文をもとに自論を展開してゆく。

    本書の意義は、従来の西洋史学で黙殺されてきた都市下層民を取り上げた点にあるらしい。都市の最下層に生きる寡婦や被差別民である放浪者を、伝説の主役または語り手としてクローズアップしたところに新しさがあったようだ。

    民衆に光を当てるという、高邁な精神のもとに書かれた本なのだが、引き込むような語り口のおかげで、学問的下地がなくとも楽しめる。興味がある人には、肩肘張らずに一読することを薦めたい。

  •  ハーメルンの笛吹き男の伝説には二つのモチーフがある。一つ目はハーメルン市における130人の子どもたちの失踪というモチーフであり、2つ目は鼠捕り男のモチーフである。近代において、グリムやブラウニングが文学的表現によって描いたこの二つのモチーフには、どのようなつながりがあるのか。あるいはいかなる経緯によってこの二つが一体となり、今に伝えられる伝説の形をなすにいたったか。
     賤民論で卓越した著書をものしている中世史家の分析はあくまでも明晰であり、明晰でありながらも知に偏るばかりでなく、情念のほとばしりを感じさせる。文字を持たぬ中世の庶民の肉声に真摯に耳を傾ける態度には感じさせられることが多い。
     ハーメルンの笛吹き男という特定の伝説を扱っているけれど、これ以降著者が展開する賤民論等の萌芽は本書のなかにすべて含まれていると言って良いと思う。
     面白すぎて唸りました。

  • ご存知「ハーメルンの笛吹き男」伝説がどのように生まれたのかを作者が掘り下げてゆきます。

    オカルト的な話ではなく、当時のヨーロッパの状況や遍歴芸人の当時の境遇などからまじめに「ハーメルンの笛吹き男」を探求します。

    読み始めは楽しめるのだが、中だるみ。

  • 中世ドイツの貧しい庶民の内面にまで分析の光を当てた、哀切さをさえ感じさせる歴史研究書。

  • ハーメルンの笛吹き男伝説の源流をさぐる。

  • 「ハーメルンの笛吹き男」阿部謹也さん。ちくま文庫。もともとは1974年の本です。



    「世界史の本としては実にオモシロイおすすすの一冊」とほうぼうで褒められていて。いつかは読んでみたいな、と思っていました。

    「ハーメルンの笛吹き男」というのは、グリム(だったか?)童話で有名ですが、実はグリムの創作ではなくて、ハーメルンに伝わる伝説。
    どうやら、実際にあった事件なのでは?というか、実際にあった事件をネタに作られた伝説では?
    と、いうミステリーを追う趣向です。面白い。

    「子供たちは、戦争で死んだ若者たちの事だ」
    「別の地方に植民に行った人たちだ」
    「人買いだ」
    など、いろいろな説、これまでの研究を紐解きながらも、「どれも違う」と阿部さんは言います。
    もちろん、どうしてそう思うか、という論証も。

    (ちなみに、傑作漫画「MASTERキートン」でも、ハーメルンの笛吹き男はジプシーと絡めて論証されていました)

    さまざまな論を検討しながら、この本の白眉は、阿部さんが「中世ドイツ、中世ヨーロッパの実相」を見せてくれることです。
    物凄く大まかに言うと、「歴史の授業で学ぶだけぢゃ判らないと思うけれど、実はものすごく哀しい差別社会だった。多くの人が、子供が、人権なんかなかった」みたいな状況です。
    ちゃんとした史料を紐解きながら、宗教や財産、市民権などから見放された多くの貧民の日常、そこでの子供たちの唖然とするような愉しみ少ない暮らしを、丁寧に見せてくれます。そして、笛吹き男、つまり楽師や旅芸人というのも、被差別の人たちでした。
    そしてそういう差別と同時に、教会にせよ行政にせよ、歴史の教科書のゴシック文字だけでは分からない様な、腐敗や問題を抱えていたことも。

    それはものすごく、謎解きの旅であり、わくわくするものがありました。
    そして、この本が凄いなあ、と思うのは、
    「で、ハーメルンの笛吹き男は、実際のところ、どういう史実事件に基づいていると思われるか」という、味噌の部分。
    推理小説で言えば、真犯人の指名。

    それが、無いんです(笑)。

    「まあ、実際のところはまだわからないけれどね」で、終わってしまう。

    なんだけど、それで本としては正しんだなあ、という満足感。だって、判らないものは判らないわけですからねえ。
    無理に派手な仮説に固執するよりは、「なんだろうね」と探っていくなかで見えてくる世界観みたいなものが、オモシロイ。
    そういう教科書の太文字だけではない歴史の実際を知ることは「僕たちはそこから来たんだ」という発見であり、回りまわってニンゲンがどうありえて、どこに向かう方が愉しそうか、ということも示唆してくれます。

    「世界史読書案内」でも推奨されていた一冊なんですが、まさに、日本語オリジナルの世界史読み物の、傑作でした。



    実は、阿部謹也さんは、昔、とある大学の学長をされていたことがあって。
    良く考えたら、僕がその時期にそこの大学生だったんです。
    入学式も卒業式も出なかった無精者なので、恐らく会ったことが無いんだろうなあ、と思いながら、そんなちょっとしたご縁も感じて手に取った本でした。それに、ちくま文庫だし。
    ちくま文庫、好きなんです。

  •  実話だったのか。

     子ども130人が行方不明になったっての、事実だったんだね。最初から最後までおとぎ話だと思ってた。
     ただ、その行方不明になった詳細な原因は分かってないみたいで、その理由がいくつか挙げられてて、なかなか面白かったです。
     当時のドイツ、ヨーロッパの文化や歴史を知らないので、難しくなるとななめ読みしたけど。
     とりあえず、最初は笛吹男が出てくるだけで、ネズミ捕り男は出てこない、ってことは理解しました。

  • 歴史的事実が、普遍的な伝説へと昇華してく過程を丹念に解明していく傑作。

    権力者やインテリが書き残す歴史ではなく、押さえつけられた庶民や賤民の呻吟の隙間から浮かび上がる、中世ヨーロッパの暗黒っぷりを解き明かしてみせた良書です。

    そしてハーメルンでの子供たちの失踪事件から700年ものの歳月の中で、なぜ人々がこのローカルな事件を語り続けてきたのか、それぞれの時代でそれぞれの学者たちがどのような態度や距離感でこの事件と向き合ってきたのか、利用してきたのか。

    グリム童話にも収録されている世界的にも有名なお話ですが、その中には、歴史では語られることのない中世ヨーロッパの民衆たちの生活史が滲み込んでいる。
    東ドイツ植民運動、律院による圧政、強固な身分制社会、キリスト教と古代から続く民俗宗教、十字軍、差別される女性や子供や遍歴芸人、ユダヤ人襲撃、魔女裁判、洪水、ペスト、飢饉、そして宗教改革と農民戦争。
    これらの要素がすべてこの童話に内包されているのですね。

    1284年にハーメルンというドイツの田舎町で起こった事件は、後世の人々が、それぞれのおかれていた時代の社会的・心的境位の中でこの伝説を受けとめ、その内面からの要請に応じてこの伝説を変容させていった。

    悲惨な運命に襲われたとき、庶民はどのようにしてそれに耐えうるのだろうか。彼らは現在の不幸を過去の体験や言い伝えと比べてその深さを計るのである。

    ブリューゲルの一連の作品群を並べてみると、なおのこと本書の迫力感が増す。

  • 「ハーメルンの笛吹き男」伝説の謎について考察を展開しつつ、ヨーロッパ中世の都市下層民の生活と精神に深く分け入っています。

    民衆史や社会史といった新しい歴史学の手法が取り入れられており、中世の都市に生きた名もなき人びとの息遣いが聞こえてくるようなおもしろさを感じました。とくに、当時の人びとが「子ども」をどのように扱っていたのか、また、遍歴芸人に対する恐れと蔑みの意識の実態などについての考察には、興味を覚えました。

  • 経済雑誌で紹介されていたので。

    ハーメルンの笛吹き男の伝説の元となった歴史的事実に関する諸説の紹介と、伝説の変容を通してヨーロッパ中世の社会史にふれている。

    その歴史的事実が、東独への移民や子供十字軍という説は聞いたことがあったが、
    抑圧された日常生活からの解放である祭りの興奮のあまり、子ども達が町の近くの崖に火をともす行事にでかけ、沼地にはまってしまったという説は知らなかった。
    このヴォエラー女史の説によると、中世において笛吹き男の属する遍歴芸人は賤民であり、不幸な出来事の原因を去ってしまった遍歴芸人に押しつけてしまうこともしばしばあったため、この事件の際に存在していなかったとしても問題ないとしている。

    また、笛吹き男の話と鼠捕り男とは別々の伝説だったことにも驚いた。
    ハーメルンが古来水車の町であり鼠の被害も大きかったこと、現実の社会で市参事会の政策に苦しめられた庶民たちの恨みが、別の伝説だった鼠捕り男を裏切った市参事会の話を合成した、ということらしい。

    著者は元となった歴史的事実としては、
    ヴォエラー女史の説を支持しているようだが、
    これという結論を強く示している訳ではないので、
    今一つすっきりしない。

    でもまあ、金銭がまだ魔力を持っていなかった中世社会が、服装も階級によってしばられ、貧民は半地下の部屋に生活し、貧しく固定化された社会だからこそ祭りが激しかったことなどが描かれていて面白かった。

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ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)の作品紹介

《ハーメルンの笛吹き男》伝説はどうして生まれたのか。13世紀ドイツの小さな町で起こったひとつの事件の謎を、当時のハーメルンの人々の生活を手がかりに解明、これまで歴史学が触れてこなかったヨーロッパ中世社会の差別の問題を明らかにし、ヨーロッパ中世の人々の心的構造の核にあるものに迫る。新しい社会史を確立するきっかけとなった記念碑的作品。

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