ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 135
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  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480022721

作品紹介・あらすじ

《ハーメルンの笛吹き男》伝説はどうして生まれたのか。13世紀ドイツの小さな町で起こったひとつの事件の謎を、当時のハーメルンの人々の生活を手がかりに解明、これまで歴史学が触れてこなかったヨーロッパ中世社会の差別の問題を明らかにし、ヨーロッパ中世の人々の心的構造の核にあるものに迫る。新しい社会史を確立するきっかけとなった記念碑的作品。

感想・レビュー・書評

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  • レビューと帯でミステリー的な読み物と思い年末から挑戦してやっとやっと読み終えた。が、果たしてちゃんと理解できたか疑問。学術書とは、研究とは、こうして隅々にまで目を配り検証していく静かだけど長い熱意が必要なんだと思った。

  • 予備知識もなく衝動買いした本だが大当たりだった。社会史の書だが、ゾクゾクするような面白さはまるで推理小説を読んでいるよう。

    笛吹き男について、一般的に知られている話はグリムのドイツ伝説集によるものである。だが「鼠捕り男の復讐」というのは、どうも後付けのテーマらしい。最古の資料、リューネブルグ手書本に鼠捕りの話はなく、ただ1284年、笛吹き男に引率された130人の子供達がハーメルン市から姿を消した、とだけ書かれている。その理由は一切説明されていない。

    著者は、1284年に130人の子供達がハーメルンから消えたのは史実であると結論し、⑴なぜ子供達が失踪したのか、⑵なぜそれが有名な伝説となって今日の形で伝えられたのか、と疑問を投げかける。それに答えるべく、①当時のハーメルン市を取り巻く状況、②子供達を含む市民層の実態、③笛吹き男の正体、という3つの因子について、資料や論文をもとに自論を展開してゆく。

    本書の意義は、従来の西洋史学で黙殺されてきた都市下層民を取り上げた点にあるらしい。都市の最下層に生きる寡婦や被差別民である放浪者を、伝説の主役または語り手としてクローズアップしたところに新しさがあったようだ。

    民衆に光を当てるという、高邁な精神のもとに書かれた本なのだが、引き込むような語り口のおかげで、学問的下地がなくとも楽しめる。興味がある人には、肩肘張らずに一読することを薦めたい。

  • 以前、テレビで「ハーメルンの笛吹き男」の特集を観てすごく興味を持ちました。
    謎を解きたい、現地に行きたい、そう思いました。それから少し時間がたってしまいましたが、ブクログでフォローしてる方の本棚を拝見していたらこの本の存在を知り手に取りました。

    少し難しかったです。読み終えて思った事は、身分差、貧富の差、覇権争いは全世界共通してることです。過去も現在も一緒。たぶん未来も変わらないんだろう、被害を受けるのはいつも民なんだろうと思う。

    結局、謎は解けなかったです。でも、この本を読んで私なりに考えはまとまりましたけど。

  • そんなにお気楽に読める本ではない。まず、舞台がヨーロッパの中世。
    現代の日本人にはそれだけで理解が難しくなりますが、本書は史料を読み解きながら丁寧に時代とハーメルンの町と人々を叙述して行きます。

    庶民や一般大衆を中心にした社会史は、網野善彦さん等の考え方に連なるものであると思うが、人間を根源的に解き明かす一つの考え方でもあると改めて感じた。

    また、作者が巻末でふれている老学者のあり方も、作者の学問に対する考え方をよく表していると思う。

  • ハーメルンの笛吹き男伝説についての先行研究を引用しつつ、批判的に検証した上で、自身の見解を添えている。

    ミステリーを読むような面白さ!というような謳い文句の新帯を携えて再ブレーク中の本書。
    ただ本書の主眼としては、伝説は事実なのか・子供達はどこへ行ったのか、などの謎解き要素よりも、どのように伝説が読まれてきたか・何故広く流布するに至ったのか、という受容史の考察に重きが置かれている。

    ナショナリストは祖国解放戦争の暗喩として、教会は庶民を教導するためのツールとして、啓蒙思想家は民衆の愚昧さの根拠として、ハーメルンの人々は市参議会への怨念の結集点として…主体や時代が変わる事でその意味付けも変化していく。

    もともとローカルな言い伝えに過ぎなかった笛吹き男伝説が、鼠捕り男伝説と合流し普遍性を獲得したという仮説は、他の民話の成立過程にも適用出来そうな考え方で、面白い。

  • 史料を丹念に紐解き、伝説が生まれた社会的、心理的構造を明らかにしていく。日本も当時は鎌倉時代。被差別問題も似たような構造であったことに気づかされる(外圧(モンゴル帝国:元寇)まで含めて)。思考過程も丁寧でそつがなく分かりやすい。

  • グリムが記した童話として知られるハーメルンの笛吹きの真実を探求する興味深い書物。
    社会情勢や環境変化、身分制度やプロパガンダなど多方面から謎を解きほぐそおと試みる。
    どこまでも私達にはミステリーとしてしか映らない事件の真相はいつか暴かれる日がくるのだろうか。

  • 阿部謹也(1935~2006年)氏は、一橋大学経済学部卒、一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学、小樽商科大学助教授、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨学生としてドイツ連邦共和国(西ドイツ)滞在、小樽商科大学教授、東京経済大学教授、一橋大学社会学部教授・学部長、一橋大学学長・名誉教授、国立大学協会会長、共立女子大学学長等を歴任した、西洋史学者。専門はドイツ中世史。サントリー学芸賞、大佛次郎賞等を受賞。紫綬褒章受章。
    私はこれまで、著者の著作では、『自分のなかに歴史をよむ』、『日本人の歴史意識―「世間」という視角から』を読んだことがあるが、今般たまたま新古書店で著者の代表作である本書を目にし、手に取った。
    本書は、グリム童話で有名な「ハーメルンの笛吹き男」の話が、いかにして生まれ、今日まで伝承されてきたのかを、著者がドイツ滞在中に様々な文献史料に当たり、考察したものである。尚、グリム童話の話は、中世の時代、ハーメルンの街でネズミが大繁殖して人々を悩ませていたある日、街に笛を持ち、まだらの服を着た男が現れ、約束した報酬と引き換えに、笛で街中のネズミを川に誘い出して溺死させたものの、街の人びとが約束を反故にして報酬を払わなかったため、再び街に現れた男は、同様に笛で街の子どもたちを連れ出して、その130人の少年少女は二度と街に戻ってこなかった、というものである。
    本書でまず確かめられるのは、1284年6月26日に、130人の子どもたちが、まだら模様の男に連れられてハーメルンの街から姿を消した出来事は歴史上の事実だということで、驚くべきは、その原因・背景について、既に17世紀から様々な研究が為され、その解釈は26にも上るのである。
    そして、著者は、それらの様々な解釈について、仔細に分析・考察を行うのであるが、最終的に結論に至るわけではない。しかし、その過程では、それまであまり取り上げられることのなかった、中世の都市や農村の民衆(特に、都市下層民)の日常生活と、その思考世界が浮かび上がってくるのだ。
    本書は1974年に刊行(1988年文庫化)され、日本中世史研究の網野善彦らとともに、中世史ブームを作るきっかけとなった作品だが、それらが気付かせてくれるのは、どの時代においても、歴史のメインストリームとして残るのは、支配者が書いた支配者側の歴史であり、実際には、そこには描かれていない大多数の人間の歴史が存在するということである。
    グリム童話の一編をもとに、ヨーロッパ中世の民衆の生活に光を当てた、興味深い作品と言えるだろう。
    (2023年12月了)

  • ずっと読みたかった歴史学の名著をいまさらやっと。とても面白く興味深かった。

    「ハーメルンの笛吹き男」自体は子供の頃から童話として知っていたけれど、他の一般的な童話と違い、このお話の怖いところは基本的に実話ベースなところ。ハーメルンの町で1284年6月26日に起きたとされる子供たちの集団失踪事件自体は歴史的事実。そこからさまざまな憶測や尾ひれがついて伝承されていき最終的に童話化していったけれど、本書では、そのときハーメルンで一体何が起こったのかを、時代背景や歴史的事件から紐解いていく構成になっている。

    「笛吹」という職業の当時の社会での立ち位置、身分差別的な扱い、さらに戦争や飢饉による人々の移動(植民)など、その時代背景を知ること自体もとても興味深かった。子供たちの失踪理由にも、十字軍や流行病、さまざまな説があり、どれもなるほどなと思わされる。そして中世にはなんらかの事情で大勢の人が死ぬこと自体は珍しくなかったはずなのに、なぜハーメルンの事件だけが伝説化していったのか、その過程も。

    事件が伝説=物語化した例としてこれ以上のサンプルはないと思う。童話としては、大人たちが報酬をけちった(笛吹に嘘をついた)ことで報復され子供たちが失われる=嘘はいけませんよという教訓話のように思っていたけれど、本質は全然違うところにある。事実がどうだったにせよ、想像力を刺激される何かがありました。

  • グリム童話の「ハーメルンの笛吹き男」。ドイツのハーメルンの町に現れた男が笛の音でねずみを駆除してやるのだが、町は彼に報酬を支払わない。怒った男は笛の音で町の子どもたちを連れ去ってしまうというお話。ちょっと怖いが教訓も含んでいる、よくできた有名な童話だ。

    一方、中世ドイツの地方都市の文献を研究していた著者は1284年のハーメルンで130人の子どもたちが行方不明になっていた事実を知る。つながった童話と事実。なぜ子どもたちは消えたのか、笛吹き男は実在したのか、著者の歴史探求がはじまる。

    本書では、中世ヨーロッパの社会や生活、宗教、差別などを説明し、笛吹き男のような旅芸人やネズミ捕りの職人が実在しことを明らかにする。また、当時は植民のための市民の大量移住が起きていたし、子供だけの十字軍も編成されていたらしい。著者はこれら事実を組み合わせ、先人の歴史家たちの発表なども紹介し、様々な説を検討する。

    が、13世紀の小さな町での出来事だ。本書では断定的な決着までには至らない。しかし、それはしょうがないことだし、わからないままでいいんじゃないのか。ハーメルンでの悲劇が童話として現代まで語り継がれたことで歴史のすごさ、おもしろさを十分に味わえるのだから。

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著者プロフィール

1935年生まれ。共立女子大学学長。専攻は西洋中世史。著書に『阿部謹也著作集』(筑摩書房)、『学問と「世間」』『ヨーロッパを見る視角』(ともに岩波書店)、『「世間」とは何か』『「教養」とは何か』(講談社)。

「2002年 『世間学への招待』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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