エレンディラ (ちくま文庫)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480022776

作品紹介・あらすじ

コロンビアのノーベル賞作家ガルシア=マルケスの異色の短篇集。"大人のための残酷な童話"として書かれたといわれる6つの短篇と中篇「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」を収める。

感想・レビュー・書評

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  • ガルシア=マルケスによる魔術的幻想文学の短編集。饒舌な文体と、魅力的な題名です。
    あとがきでは翻訳者が、南米作家が作り出し現実と幻想を取り入れる小説手法の生まれる土壌について触れていて興味深いです。

    ===
    雨の後村に落ちてきた翼のある男。村人は彼を鶏小屋に入れ、現実の生活を続ける。
     /大きな翼のある、ひどく年取った男

    海辺の村には腐った臭が漂う。しかしその年は無数に咲き乱れる花の香りが漂ってくる。
    海の底には、花の咲く村、教会、死者の村があった。
     /失われた時の海

    村に打ち上げられた美しい水死体。村人は彼の世話に夢中になる。
     /この世で一番美しい水死人

    運命を変え、死を招く女性に会った上院議員
     /愛の彼方の終わることなき死

    幽霊船を見たが相手にされなずバカにされた男が、村人に復讐するために幽霊船を誘う。やっと灯りを見つけた幽霊船は男に着いて村に打ち上げるのであった。
     /幽霊船の最後の航海

    魔術師の手伝いとして共に旅を回る男は、魔術を身に着けて彼に仕返しする時を待っていたんだ。
     /奇跡の行商人、善人のブラカマン

    その風がエレンディラの不運の始まりだった。
    損失を取り戻すために祖母はエレンディラに客を取り国中を回る。
    余談ですが、エレンディラはガルシア・マルケス代表作「百年の孤独」で若きアウレリャーノ・ブエンティーア(大佐)の初恋と初体験のお相手としても登場しています。
     /無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語

  • 数年前にたまたま見かけ、なんの予備知識もなかったのですが、素人読者?にもこの本の放つオーラを感じずにはいられませんでした。
    即購入、読み始めてその予感が的中していたと実感。
    これほどまでに作品とセットで語られる作家さんは珍しいのではないでしょうか。
    読み始めた瞬間、異国の地で同じ体験をしたような感覚に陥ります。
    辻褄という言葉は、彼の作品には不要のもの。
    白昼夢のような幻想も、血なまぐさいリアルさも、混然一体となって読者が文章に包まれるような錯覚。
    これこそマルケス作品が世界で広く読まれる所以かもしれません。
    一度の読了では枠に収まり切らない作品。再読を繰り返したくなる名作です。

  • 死ぬわけがないガルシア=マルケスの訃報。南米のどこかで永遠に小説を書き続けていると思っていたのに・・・。

    ということで再読。
    83年にサンリオ文庫から出た本を、「マジックリアリズム」ってどんなもんだろ、と手にしたのがこの本。薄い本だったしね。ノーベル賞取ってたし。

    「大きな翼のある、ひどく年老いた男」の蟹のはい回る家、鶏小屋に押し込められる年老いた天使、それを見世物にする人々、強烈なイメージで、この一篇でおなかいっぱいになって、しばらく放っておいたんだった。
    この話を映画で観た記憶があり、調べてみると1988年に映画化されている。そうそう、とyoutubeで観てみると、記憶にある映画とは違う。僕が観たのはモノクロでもっと暗い映像、年老いた天使の疲れた顔が老人というより中年の顔、部屋の中を蠢く蟹をつぶすシーンが強烈・・・だったはず。
    って、これって別の映画のイメージか?いや、そもそも映画なんて観てなくて、勝手に脳内で作り上げた映画なのか??? これぞ、マジックリアリズムか!いや違う。


    「百年の孤独」といえば、「手に入らない焼酎でしょ」言われ、ガルシア=マルケスといえば、「あのボストンテリアのバッグ、カワイイですよね」と言われる時代の孤独。

    ガルシア=マルケスをめぐるつぶやきの中で一番秀逸だったのは、「ガルシア=マルケスをマルケスと言うのは、佐村河内を河内と呼ぶようなもの」

    墓の下でもきっと小説を書き続けているはず。いや、水葬になって世界の海を漂っているのか。

  • 「大人のための残酷な童話」として描かれた7篇の短編集。
    童話といっても登場するモチーフは死や殺人、人間の欲など黒々としたもの多数。平穏な日常に舞い込んだ突然の非日常に遭遇する住人たちが良くも悪くも人間臭く、出来事も悲喜交々で味わい深いものばかりです。印象的な作品だけ簡単に。

    『大きな翼のある、ひどく年取った男』
    自宅の中庭でペラーヨ夫婦が発見したのは、汚れた翼を携えた見窄らしく惨めな老人だった。ひとまず鶏小屋へ閉じ込め、しばらくしたら見世物にし、いつしか手に余る存在に。人間の欲とミーハーさがよく表現された一編。妻エリセンダの「やれやれ」な安堵のラストが印象的。

    『この世でいちばん美しい水死人』
    海からその村へ流れ着いたのは、うろこのような皮膚で覆われたよそ者の大男の死体だった。水死人の生前の姿をとりとめなく妄想する女たち、やがて男たちの心をも動かし、村民の都合の良い妄想はやがて村全体に大きな変化をもたらす。思い込みは時として事態を好転させる原動力に。

    『無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語』
    少女エレンディラは不注意で館を全焼させてしまう。借金返済のために祖母は男たちに声を掛け、エレンディラの若さと体で支払わせる。ある日エレンディラに少年ウリセスが恋をした――。
    可憐で純真無垢なエレンディラが、読み進めていくたびに生命力を帯び、力強く躍動していきます。ラストでは軽やかに舞うような後姿を想像し思わず頬が緩みました。

  • ◆ガルシア=マルケスの7つのおとぎ話。◆カリブの海は満ちて引いて、薔薇の香りや蟹、幽霊船を町に運び、死の気配が寄せては返す。退屈な町を掻き回すジプシー、アメリカ人、上院議員、密輸商人。無垢な子どもらの将来は、大人が握りつぶして離そうとしない。仕方なく子どもらは、愛を捨て、自由へと逃亡する。引き換えに十字架と孤独を背負い込んで。◆描かれる死の世界は、味気ない砂を噛みしめるような現実よりも、ずっと穏やかで不思議と懐かしい。「大きな翼のある、ひどく年取った男」と「失われた時の海」が特別に好き。
    【2014.06.23】

  • 寝て覚めて、また眠って繰り返される夢のような話ばかりで、面白かった。荒唐無稽で残虐な場面も多いのに、嫌な感覚が全然残らないのがすごいなー。翼を持った男とエレンディラのラストシーンがとても印象に残った。

  • 民話を思わせるがこの独特な面白さをどう書いたらいいか…。始めから「天使の羽が生えたホームレスばりのジジイ」の話で度肝を抜かれる。
    その設定はおとぎ話のようなのだけど、全編に共通していると思うのだが、生まれや土地に縛られる荒涼とした人間たちの生活が同時に描かれる。ジメジメしていたりカラカラだったり、きつい香水の匂いだったり汗の匂いだったり、そういった所から生々しい。それが奇妙な物語が現実味を持って迫って来る所以だろう。
    もっと言うなら、不条理にやってくる希望の残酷さ、を扱っていると思う。先述の短編の最後は、天使が降り立って居着いていた家から飛び立つのだが、「エリセンダは天使を見つづけた。見ることがもはや不可能になるまで、見つづけた。なぜなら、そのときの天使はもはや彼女の日常生活の障害ではなくなり、水平線の彼方の想像の一点でしかなかったからである。」という文章で締めくくられる。自然災害のように何かがやってくるが、それが奇跡ではないと明らかになって失望する人、それが怖くて最初から拒絶する人、それでも信じる人と、様々に登場する。希望のない凡庸な日常に縛られていた方が幸せなのかも。
    しかし、だからこそエレンディラが祖母も、またウリセスも振り切って走るのは感動的だ。出生と希望という2つの呪縛から自由になったのだから。意志を持った、1人の人間としての彼女が生まれた瞬間。

  • 強烈な祖母に散々使い回され、エレンディラは神様にお祈りする。再び無垢な自分に戻して欲しい、愛を享けて欲しい。エレンディラが平然とウリウスに訊く。殺す勇気ある?ウリウスが砒素で殺しそびれるとののしる。満足に人も殺せないのね。いやはや強烈な。ばぁちゃんも刃物でようやく切り殺されるとき緑の血を流すなんて。エレンディラの体がオレンジ色とか、写真屋が頭をライフルで木っ端微塵になるとか、普段なら読まないグロテスクな表現。死が身近なものとして緊張感を生むのは南米ならではか。同掲された短編とともにお得で中身の濃い一冊。

  • エレンディラ…


    ☞『予告された殺人の記録』

  • 最初の数ページを読んで読み方がわからず、数ヶ月放置してたのを、ガルシア・マルケスがマジック・リアリズムの代表的な作家であることや、私の好きな映画監督が多数生まれているメキシコ出身であることを理解したのちに再度手に取ったら、スラスラ読めるようになった!
    なお、巻末の解説に、ガルシア=マルケスが、祖母から昔話、民話を聞かされていたという話があり、それを最初に知っていればもっと腑に落ちて読めただろうなと思った。
    どんな世界でも、民話では、動物も喋れば、妖怪や、妖精や、人間と動物の中間のような存在も当たり前に現れ、普通の生活に入り混じってくる。
    翼の生えた汚い天使も、蟹が部屋に入り込むことも、海から吹く薔薇の匂いの風も、流れ着く美しい死体も、そして、あくどくて強力な魔女のような祖母に囚われ途方もない人数を相手に売春するエレンディラもまた、日常の中でふと祖母が話して聞かせる、強烈な残滓を染み付けて消えていく話の一つと考えれば、なんとも自然に受け入れられる。
    実際、こんなにも魔法に近くはなくても、平成生まれの私にとって、祖母から聞く、戦時に掃除に駆り出されて、空襲後に散らばった屍肉を拾い集めた話や、本土復帰以前の島から密航して本州に渡った話などは、ほとんどおとぎ話に近いものだった。
    とはいえ、全編通して感じる吹き荒れる熱風や、エレンディラの話に満ち満ちている女性の奔出する力には、南米という土地から湧き立つ異国情緒も存分に感じた。
    私は、レイプや、売春の描写が極端に苦手なのだが、それでも読後嫌な気持ちにならなかったのは、民話に近いからこその普遍性があることと、エレンディラの自然を超えるほどの力強い出奔の様子があまりにも爽快だからだろう。

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