- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480022783
感想・レビュー・書評
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帯の煽り「ナンセンス、アブノーマル・グロテスク。奇妙キテレツ……」に
釣られて、ローラン・トポール風のノリを期待して買ったら
結構違う……と、若干残念に思ったが(面白くないわけではない)
読み進めるうちに坂田靖子『月と博士』のような
シュールなSF&ファンタジーの味わいを感じ始め、そして、
ある友情の顛末記「アフリカでの私」が猛烈に好みでクラクラ来た!
馬車を待たせて用事を済ませるはずが
大冒険になってしまう「陸と海の冒険」も馬鹿馬鹿しくて面白い。
佐々木マキさんの挿絵もイイ味。
訳者あとがきと数学者・森毅先生の解説によると、
作者はファシスト党員だったので、
作品が政治的・好戦的な内容ではないにもかかわらず
戦後、無視され、黙殺されざるを得なかった……ということらしい。
で、検索したら、
翻訳者・岩崎純孝(1901-1971)は日本ファシズム連盟を結成した人だった。
この本が絶版になった後、復刊されないのも
そうした由縁が関係しているのだろうか。
森毅先生が仰るように、
思想云々を抜きにして、もっと評価されてもいいと思うのだが。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
冷めたユーモアと奇想とが共存する23編。「便利な治療」は、毎朝往診を希望する煩わしい女患者の代わりに、この患者に似せた蝋人形をつくって診察することを思いつく医師の話。蝋人形にトラブルが起きたとき、果たして患者はどうなるか? 「頭蓋骨に描かれた絵」は、とある小さな村の小さな墓地にまつわる話。この村では、場所の節約のため古い骨は掘り返し、頭蓋骨に直接小さな絵と名前を入れて、それだけを別の小屋にとっておくのだという。絵を描いている画家をたずねた語り手は、画家自身の名前が入っている頭蓋骨を見せられるのだが……。こうしたグロテスクな話ばかりではなく、ミステリアスな話、ふんわりした話もある。きれいにオチをつけるというよりは、どこかシニカルでとぼけた味わいは『鏡の前のチェス盤』と共通の香りがする。
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佐々木マキの挿画が本書の魅力を倍増させていると思う。
マッシモ・ボンテンペルリ。
唱えるとゴム毬がうまくつけそうな名前のイタリア人はジャーナリストで小説家。佐々木マキは絵本作家にして漫画家。二人の共通点はおしゃれナンセンス詩人であること。
物語と画の親和性の高さには驚嘆するしかない。
鍵盤一叩きで町は吹き飛び、瓶一振りで世界の果てまで連れ去られる。
今何が起きた?
混乱したまま海の寛大さと繊細な美しさを見せつけられ、心をわしづかみにされる。
幻想、怪奇、ユーモア、ナンセンスをごたまぜにした遊園地みたいな23篇。最高です。
《2016.06.22》