骨董屋 上 (ちくま文庫 て 2-5)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (537ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480023414

作品紹介・あらすじ

19世紀、イギリス産業革命の激動の時代を背景に、祖父に引きとられた純情無垢な少女ネルの辿る薄幸の生涯を描く大作。祖父は骨董屋を経営していたが、ネル可愛さの余り一獲千金を夢見て賭博に手を出し、破産してしまう。骨董屋は高利貸クウィルプに差し押えられ、ネルは老人とロンドンをあとに、あてどない旅に出る。美と醜、善と悪、さまざまな対立を描きながら、波瀾万丈の物語の幕が上がる。

感想・レビュー・書評

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  • 『クリスマス・キャロル』や『大いなる遺産』などで有名な屈指のストーリーテラー、チャールズ・ディケンズ(1812~1870・イギリス)。なかでも「旅」を彷彿させる作品が好きで、フランス革命時を舞台にした『二都物語』やディケンズの自伝的作品となる『デビット・コパフィールド』、そして運命の糸車が激しく回る少年『オリバー・ツイスト』あたりがとても楽しい。

    そして本作もこれまた好きな作品です。スピーディーで息もつかせぬ展開、まるでシェイクスピア作品をながめているようなわくわくとした高揚感。人間性が希薄になっていく激動の時代、それに翻弄される人々、みずみずしい登場人物の数々……読みはじめるととまらなくなってしまいます。

    ***
    14歳の少女ネルと骨董屋を営む祖父は、あこぎな金貸しのクィルプから逃れるためロンドンを飛び出します。しかし執拗に彼女を追うクィルプ。ネルを崇拝し恋慕する騎士少年キッドは、はたしてネルを救うことができるのか。

    産業革命による社会の繁栄におしひしがれた子どもや女性や労働者。貧困、疫病、当時の産業や都市がもたらした虚栄と不毛。
    まるで背からはがれない重い荷物を背負いながら「滅亡の都」を脱出する基督者(クリスチャン)の苦楽の旅を描いた『天路歴程』のようです。行先もわからず、放浪するネルの道行には、活気あふれた旅籠があり、風変わりな蝋人形や見世物小屋があり、素っ頓狂な貴婦人に妖しい火夫労働者、大道芸人や悪党連中といったさまざまな人々が闊歩して、ときどき不思議な国に迷い込んだアリスのような気分にもなります。

    「まるで私たち二人はあのクリスチャンになって、背負ってきた悩みも苦労もみんなこの青草の上に捨ててしまったような気がするわ……」

    時々刻々と変わりゆく機械化文明と、大いなる宇宙の摂理に変わらない自然。ネルは木々や小川や太陽を愛でながら、崩れかかった教会や朽ちた墓地の厳かな静けさと安らぎに心を打たれます。これってわかるな~木々に囲まれた古墳や古い墓地を訪ねてみると、凛とした空気の中に、時の流れに角もとれた石のような愛おしさ、ある種の穏やかさがそこらに漂っていて、とても心地よいのです。

    それにしても、エゴにまみれた祖父を歯牙にもかけない聖人ぶりのネル。14歳にしてすでに諦観したネルは人間離れしています。彼女が背負ってしまった罪を果たしておろすことができるだろうか。失われた人間の純朴さや心の静寂というものがとても印象深いです。

    そしてなにはなくとも、絶対はずせないのは憎悪にみちたクィルプ!! このキャラクターは抜群によい。『マクベス』や『リチャード三世』のような破天荒にして平板な残酷さをはるかに凌駕しています。複雑で重層的で、しかも憐れで切なくて、どうしようもないほど魅力的なキャラです。

    いくつか無視できない差別的描写はありますが、それらが、当時の人々や社会に深く根差していたのだ……ということを前提に読んでみると、クィルプという人物は決してクィルプにとどまらない。誰の心にも巣くっている普遍的な真実なのかもしれない。彼の憎悪、恨み、狂信性、そして美や善というものに対する羨望、ひがみ、嫉妬……人間のもっとも悲惨で陰鬱で複雑怪奇な心情がみごとに吐露されます。それなのに易しい言葉で誰にでも読める……やっぱりディケンズはすごい!

    この「本」には、魅力あふれる「人」たちとの出会いがあり、心を震わせるような「旅」があり、読む人の心を豊かにわくわくさせてくれます。いや~これは隠れた名作ですね(^^♪

    ***
    「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことをおもしろく……」(井上ひさし)

  • ネルのおじいさんを思う姿が切ない。
    ギャンブルにハマる人の愚かな興奮した感情は、いつの時代も同じなのだな、と感じた。

    「骨董屋」というタイトルのわりに、早々に骨董屋を失業してしまい、話の筋に職業はからまない。
    下巻では何か意味を持つのだろうか。

    このお話にも、特徴的で強烈な個性を持った人物が沢山現れる。そこが面白い。
    画面がバタバタと切り替わり、少し粗削りだと感じる話だが、この先どうなるのか。
    下巻へ。

  • 挫折

  • ちくまの復刊はおいしいなぁ。ディケンズってだけでテンション上がる。感想は下巻まで読んでから。

  • レビューは下巻参照。

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著者プロフィール

Charles Dickens 1812-70
イギリスの国民的作家。24歳のときに書いた最初の長編小説『ピクウィック・クラブ』が大成功を収め、一躍流行作家になる。月刊分冊または月刊誌・週刊誌への連載で15編の長編小説を執筆する傍ら、雑誌の経営・編集、慈善事業への参加、アマチュア演劇の上演、自作の公開朗読など多面的・精力的に活動した。代表作に『オリヴァー・トゥイスト』、『クリスマス・キャロル』、『デイヴィッド・コパフィールド』、『荒涼館』、『二都物語』、『大いなる遺産』など。

「2019年 『ドクター・マリゴールド 朗読小説傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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