- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480024497
感想・レビュー・書評
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ゲゲゲの鬼太郎でおなじみの水木しげるさんが描いた「ヒットラー」。
ヒトラーというと、どうしても残酷なホロコーストが思い浮かびますが、本作ではそのことはほぼ書かれていません。
アドルフ・ヒトラーという人物に焦点をあてている作品だと思います。
ホームレスだったヒトラーが、どうやってあのような人間になっていったのかが詳しく書かれています。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
水木しげるさんのマンガ本です。1971年に「週刊漫画サンデー」(実業之日本社)という雑誌に連載したものだそうです。
ヒットラーの伝記ですね。水木しげるさんらしい、不思議な魅力ある本でした。
今、ナチスドイツ絡みの翻訳小説を読んでいます。
それを読むうちに、「ナチス/ヒットラーについての基本的なモノゴトをちょっと改めて知りたいなあ」と思いました。
第二次世界大戦史、みたいなことで言うと、ガッツリ記憶に残るような本を読んだことって、あんまりなかったんです。
と、いう訳で一時その小説を中断して、コレを読みました。
「劇画ヒットラー」、ちくま文庫の薄い一冊です。あっという間に読めます。
だから、網羅している訳じゃないんですね。むしろ、ポンポン飛んでいきます。お話は。気持ちいいくらいに。
ヒットラーが子供の時代は無いし、ユダヤ人大量虐殺についても細部はありません。
でも、不遇時代の性格みたいなものは良く見えます。無名の存在から、有能な兵士、そしてある種の社会運動家になっていくあたりも良く判る。
その頃のドイツの世の中の感じも、そこはやっぱりビジュアルで見えるし、感じます。
そして、いくつか、なるほどなあ、と思ったのは、
「ヒットラーとナチスのドイツ内の政権基盤が、盤石だった訳ではない。むしろ、盤石にするために戦争を続けていったんだなあ」
ということとか。
「潜在的なことはともかく、イギリス侵攻作戦の挫折、そしてレニングラードの攻防戦で負けたあたりから、もう滅亡は匂っていたんだなあ」
ということとか。
水木しげるさんの描く、どこか不安なヒットラーの表情が、印象に残りました。
不遇ゆえの餓えと怒り、不幸ゆえの強烈な自己正当化、担ぎ上げられ駆け上っていく中での恍惚と不安。
男女関係のいびつさと歪み、それゆえのストイックさと純粋さ。
急成長組織の内側のもろさ、めちゃくちゃさ。そこにのっかるしかない、ヒットラーさん。
ヒットラーのカリスマに乗っかって成り上がったナチスは、ヒットラーさんが裸の王様になってブレーキが効かなくなったときに、ブレーキを踏むことができない。
ものすごい割り切った省略の中で、そんなことが手触りとして残ります。
恐らく資料写真などを駆使して描かれるビジュアルの中に、水木しげるさんの作家性が気負わず乗せられています。
意外に名著。僕は面白かったです。 -
2020.2.2読了
誰もが知る恐ろしい独裁者がいかにして生まれ、滅んだか、非常に丁寧に描かれている。本人の心情が詳にされているわけではないのでノンフィクションに近い。
昨今の我が国にきな臭い雰囲気を感じる中、改めてファシズムの実例を知ることは価値があると思って手にし、とても興味深く読んだ。
ヒトラーにスポットが当てられているので、ユダヤ人虐殺に関する記述や、ゲッペルスをはじめとする周辺の人物達のエピソードに関しては、期待していたほど触れられてはいなかった。
また、ヒトラーの人となりはとてもわかりやすいものの、なぜそこまで時代に選ばれたのか、一介の浮浪者に過ぎなかった者がなぜ一国の独裁者になりおおせたのか、それでもやっぱり今ひとつわからない。
読み終えて振り返っても、演説の熱量が凄いこと、軍人として戦術戦略に関する才能がある程度あったこと、運が良かったこと、くらいしか思いつかない。その程度であれば、他に適任がいたのではと思う。
では、ヒトラーは独裁者に成りたかったのか、というとそれはそれで疑問だ。
やはり敵味方含め戦争の犠牲者達、また虐殺された者達の怨嗟を表立って受け止められるのは、狂人か狂人になる覚悟を持った者でなければならなかったということだろう。 -
水木しげる(1922~2015年)氏が、ヒットラーの半生を描いた劇画で、『週刊漫画サンデー』に1971年5~8月に連載されたもの。連載時のタイトルは『20世紀の狂気ヒットラー』であったが、単行本化の際に改題された。これまで、様々な出版社から出版されているが、ちくま文庫版は1990年に出版され、45刷(2019年7月時点)を重ねるロングセラーである。英語、ドイツ語、フランス語などにも翻訳されている。
本書で描かれているのは、ヒットラーが、ウィーンで画家をめざして貧乏生活を送っていた青春期から、ソ連軍に包囲されてベルリンで拳銃自殺するまでの半生であるが、600万人以上のユダヤ人が犠牲になったといわれるホロコーストについては、最初の導入部分以外では全く描かれておらず、姪のゲリが自殺したときの悲しみ様や、ソ連軍に追い詰められた総統官邸での最期の姿からは、むしろ妙な人間臭さが感じられ、悪人ではない(当然ながら、善人でもない)一人の人間としてのヒットラーが浮かび上がってくるのである。
水木氏は、自らの太平洋戦争への従軍経験に基づいた『総員玉砕せよ!』などの作品を残してはいるが、なぜ、欧州戦線のヒットラーを本書のような姿で描こうとしたのか?
S・ハフナーは評伝『ヒトラーとは何か』の中で、「今日の世界は、それが私たちに気に入ろうが入るまいが、ヒトラーがつくった世界である・・・かつて歴史上の人物で、さして長くない生涯のうちに、これほど根底から世界をひっくり返し、しかもその影響があとあとまで長く続いた人間が、ヒトラーをおいて他にいただろうか」と語っているのだが、水木氏は、ホロコーストを実行した“狂人”ヒットラーも一人の人間であり、逆に、そのような一人の人間の狂気によって、根底から世界がひっくり返ってしまうことがあり得るのだということを言いたかったのではまるまいか。。。
近年は世界中で、自国第一主義の、いわばネオナチ的なイデオロギーが公然と支持され、相当な勢力を得る状況となっているが、今こそ、我々は歴史に学ぶべきなのだ。そのための一助となる一冊と思う。
(2020年2月了) -
ゲゲゲ忌に行ったのでした。
イベント毎に1冊、水木サンの本を買おうと思っていて、今回は気になっていた「劇画 ヒットラー」を購入。
正直、よくわからないというのが感想。
ぽんぽんぽんと話が進んで、色んな人が出てきて裏切られて裏切って、自殺して「千年王国‥」。
ホロコーストを描かなかったのは、何か意図があるのかな?
イメージ通りだなあと感じたのは、「迫害された経験」「性的なコンプレックス」「(姪への)性的支配」。
肥大した自尊心は歪んだ民族主義へと繋がり、領土の拡大は自己の拡大と同一化する。
こんなに狂った人が、スムーズとはいかずとも独裁者となれたのは、時代や人々が狂っていたからなのか?
水木サン特有の、細部まで描かれた背景と、比べ物にならないくらいのトボけた顔が、ますます歪みを感じさせるような。
ムッソリーニがほんと、変な顔! -
近代史めちゃくちゃ知らなくてちょっと文を追っているだけになってしまった……… 気だるく、親近感のある水木しげるの絵がとても良かった。
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ドイツ民衆を熱狂させた独裁者アドルフ・ヒットラーとはどんな人間だったのか。ヒットラー誕生からその死まで、骨太な筆致で描く伝記漫画。
芸術的画家を目指しながら挫折した青年期、決して順風満帆ではなかった政治生命、そして遺書に記された"こんどの戦争の責任はすべて私一人のせいにされてしまうだろう…"という言葉。実に人間臭いこの男の頭の中に描いた世界地図は、行動に現れた一端にどのくらいあったのだろうか。 -
ユダヤ人虐殺のホロコーストについてはほとんど言及なし、というのはある意味潔いというかなんというか。そちらは別に描いたものがあるんだろうか。
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あまりに歴史的にも有名で悲惨な出来事だったから、今までかえって教科書的な事実以上のことを想像できなかったのかもしれない。フィクションだったとしても、本作で人間ヒットラーを想像すると、どうして戦争が止められなかったのか分かる気がします。高校くらいで読んどきたかったなぁ。