ことばの食卓 (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
3.79
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本棚登録 : 1749
感想 : 130
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480025463

作品紹介・あらすじ

食べものに関する昔の記憶や思い出を感性豊かな文章で綴るエッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • 食べ物にまつわる昔の思い出は、今は亡き人を蘇らせるようで、とても静かな気持ちになる。
    牛乳配達人や、箱に入った森永キャラメル、アルミニウムのお弁当箱など、作者の子どもの頃の記憶がとても鮮明に綴られていることに驚かされます。
    そして、話題は食べ物のことだけにとどまらず、誠実亭という鰻屋でアルバイトをした時のことや、娘と入ったオムレツ専門店のことなど、語り口が妙にさばさばとしていて、話の展開が意外すぎてつい笑いが込み上げてしまいます。
    独特な世界を醸し出している、飾り気のない、自由奔放なエッセイ。
    圧倒的な存在感を感じます。

  • 著者の日常の食にまつわるエピソードをまとめた一冊。時代は幼少期(戦前?)から現代に至るまで幅広いが、常に楽しく和やかだけではない雰囲気と、それを冷静に見つめている著者の視点が一貫していた。そしてどの話にも不思議と懐かしい空気が流れていて世界に引きこまれた。

  • 食べ物にまつわる真摯な回想とシュールレアリズム風なイラストを合わせたエッセイ集。元は作品社から出版されただけあって洗練された雰囲気を醸し出している。文庫本ではなく単行本で欲しいたぐいの本。実は武田百合子作品を読んだのもはじめてで、野中ユリ氏の不思議なイラストの雰囲気と、独特に鮮やかでフラットな文章に没入してしまった。

    とにかく言い回しが上手い。良いとか悪いとか、分かりやすくまとめきれない現実を自分の目で見たまま描いていて、それがとても詩的であり同時に不気味さを残す。例えば飼い犬「ジョンや」が出刃包丁を背中に立てたまま坂道を登ってくる所など、自分はもう驚きすぎて10回くらい読み返してしまったが、文章には犬への同情とかちょっとした事件への驚きとか、そういった収まりのつく普通の心情はどこにもなくて、道端で変なものを見つけてしばらくじっと見た子供が夕飯の頃にはすっかり忘れてるような調子で書いてある。そのフラットさにすご味を感じる。こういう文章は書こうと思ってもなかなか書けない。

    積読にしている『犬が星見た』も読もう。

  • 不思議な文章を書くひとだ、というのが第一印象。
    しいて言うなら、無邪気、だとか、無垢、だとかの言葉が近いのだろうと思うけれど、それにしては手触りが冷やっこい。うらうらとしているのに湿っていて、艶っぽくないのになまめかしい。
    例えるならば、花冷え、のような。陽気と同時に、ひんやりとした二の腕のような感触を覚える。

    著者自身がもっとも思い入れがある、と言っている冒頭の「枇杷」が、やはり、もっとも素晴らしいと思った。恐ろしく生々しい。一文字一文字がそのまま、記憶と結びついているよう。深い、愛情を感じる。それでいて、老成した印象は、全くない。
    少女のような目を持った人だったのだろうな、と思う。見た目ではなく、「見る」目として。

  • なんとも素朴な視点で綴られているなあ、と。書題に食卓とあり、ほぼ全編何かしら食べ物は登場するも取り立ててそれを軸に書いているでもなく、生きる上で避けがたい食物を当たり前のものとして視線の端に捉えつつ、それのあるあるがままの常を述懐している。暖かくも寒くもないけれど陽射しは感じる縁側にいる気分で眺めたエッセイ。

  • どうしてもっと早く読まなかったのか。

    食のエッセイは好きだ。美味しそうで、幸せな気持ちになる。
    この本も、なんだかそんなものを想像して手に取った。そして大いに裏切られた。

    美味しそうだとは思えない。
    死の匂いと、老いと、戦争。仄暗いものがあちこちに落ちている。そんな落とし物たちをチラリと見ながらぼんやりと歩いていく感覚。

    語尾もですます調だったり、そうでなかったりする。子供の頃の話もあれば、娘との話もあり、おばあさんの話もある。時代もバラバラ。だけどどうしてこうも引き込まれるのか。

    夏に古民家などで汗だくになりながら読みたい。

  • わたしの知らない時代や、もう亡くなってしまった人のこと。本やネットで知ることはあっても、その背景にどんなごはんやおいしいものがあったのかは知ることがなかった。でも、どんな気持ちでその時にごはんを食べていたのか、ごはんを求めていたのかを知ると、知らない人や生きなかった時代の人と肩を並べて、おいしいね、と言い合うような身近さを感じられた。
    ごはんとことばは、私たちの身にいつなにが起こるかわからない、そのリアルな感覚を呼び起こすことができるツールなんだな、と思った。

  • 武田百合子さん的世界がむんむん、ではあるのだけど、ちょっと苦手だった。
    わたしって幻想文学っぽいのが苦手なんだよなぁ。宮澤賢治しかり稲垣足穂しかり。
    あまり大声で言えないのだけど。物語好きなのに、空想好きなのに、夢見がちなのに、おかしいじゃんと思うんだけど。

    あ、基本がローラだからなのかも。生活系。

    • 日曜日さん
      こんにちは!ゆきさんの石井好子さんの本のレビューで魅かれ本棚までお邪魔しました。こちらの『生活系』と言うの、とても面白いと思いました。
      武田...
      こんにちは!ゆきさんの石井好子さんの本のレビューで魅かれ本棚までお邪魔しました。こちらの『生活系』と言うの、とても面白いと思いました。
      武田百合子さんなら、富士日記は生活系??
      これからもちょくちょくお邪魔します。よろしくお願いいたします。
      2012/10/17
    • ゆきさん
      日曜日さん
      コメントありがとうございます。
      まさか「生活系」などという表現でわかっていただける方がいらっしゃるとは…!うれしい。

      ...
      日曜日さん
      コメントありがとうございます。
      まさか「生活系」などという表現でわかっていただける方がいらっしゃるとは…!うれしい。

      確かに富士日記は生活系かも(笑)。
      でも読み通せていないんです…。同じようなことが延々続くので…。

      わたしは『犬が星見た』とか『日々雑記』とかが好きです。

      日曜日さんの本棚、わたしもまたお邪魔いたしますね。
      よろしくお願いします。
      2012/10/18
  • 日記のようなエッセイ。人や風景の描写。
    挿絵も印象的

  • 食べものにまつわる記憶を描く、武田百合子のエッセイ集。

    この著者の書いたものを読むのは「犬が星見たーロシア旅行」[ https://booklog.jp/item/1/4122008948 ]に続いて2冊目。
    この著者の文体は不思議に魅力がある。筋のあるような無いような、本当に見えたものを思いつくまま書いたように見えるのに、リズムが良くてするっと読める。読後にはうっすら哀愁やユーモアが漂い、時に寒々しい気持ちになるけれど、それが文章のどこに由来しているのか、なかなか見極められない粋な文。艶消しなことを言うと国語の現代文読解の良い教材に使われそうでもある。

    「夏の終り」が面白かった。デパートのオムレツ屋で食べたオムレツが不味かった話。筋を述べればそれだけだが、店内の様子、周囲の客の態度、運ばれてきたオムレツの描写と進むにつれ、期待がだんだん違和感と失望に変わっていく様子がよく分かる。それが意地悪くなく、なんとも可笑しみのある描き方である。「やっぱり三口目くらいから元気のない顔になる。(p106)」が秀逸。

    あとがきによれば、本書のエッセイは1981-1984年にかけて執筆されたもの。1925年生まれである著者の子供時代のエピソードもあり、それぞれの時代風俗を垣間見る感じもある。たとえば「上野の桜」で描かれる花見の喧騒。
    「この匂い、-ゆで玉子に日本酒におでんに海苔に夏みかん。まだある、-靴と靴下の匂いに頭の匂い。(p136)」「桜の根元に脱いだ踵のつぶれた黒靴、ハイヒール、運動靴。植込みのつつじの上にひろげた、背広の上衣やネクタイ。植込みの縁石に投げ棄ててある、歯型のついた紅白蒲鉾や筍やカボチャ。一口くいちぎったケンタッキーフライドチキン、折った割箸。植込みに沿って歩いて行けば、ところどころから、はっきりした人糞の匂いが立ち昇ってくる。(p137)」傷病兵、銀色のカラオケ機械、着物で踊る女性の酔客。

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著者プロフィール

武田百合子
一九二五(大正一四)年、神奈川県横浜市生まれ。旧制高女卒業。五一年、作家の武田泰淳と結婚。取材旅行の運転や口述筆記など、夫の仕事を助けた。七七年、夫の没後に発表した『富士日記』により、田村俊子賞を、七九年、『犬が星見た――ロシア旅行』で、読売文学賞を受賞。他の作品に、『ことばの食卓』『遊覧日記』『日日雑記』『あの頃――単行本未収録エッセイ集』がある。九三(平成五)年死去。

「2023年 『日日雑記 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

武田百合子の作品

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