深沢七郎の滅亡対談 (ちくま文庫 ふ 15-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (466ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480028365

作品紹介・あらすじ

人間滅亡教祖による終末的対談19篇。

感想・レビュー・書評

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  • 山下清との対談が、とてもよい印象を受けた。大神様と野坂昭如との対談は非常に面白かった。座談会のあたりは苦笑いしながら読み切る。一番印象に残ったのは、大江健三郎が何度も「はあ」と返しているところ...確かにどの方との対談にも終末観が漂っているかも。

  • 1958年から60年代、つまり深沢七郎が『楢山節考』を発表してから埼玉で農業を始める辺りまでの期間をフォローする対談集である。
    対談の相手というのが、文学者・歌手から山下清、動物園の園長、新興宗教の教祖、三味線弾き、赤帽創始者の子息である運送業者など、滅茶苦茶な人選なのが面白い。しかも、さすが文壇で「馬鹿」と呼ばれた深沢七郎、誰と話してもリラックスした世間話の趣で、文学論などはほとんどない。
    これを読んでみても、彼の人間的特質が浮き彫りにされてくる。
    私が深沢七郎に非常に惹かれるのは、彼の考え方・世界観・生き方が、私に対する強烈なアンチテーゼとなっているからだ。彼は「衝撃的な他者」なのだ。どんなに憧れても、決して彼のようにはなれないという確信が、私を痺れさせる。
    そしてこの隔絶した世界には、素朴でナチュラルな真実の言葉が満ちあふれている。
    「日本人ってのが、悪い考え方してる民族だからね。こないだ小林弘が負けたボクシング見たけど、あれはスッとしたね。勝つと困るよ。・・・観衆まで自分が買った気になっちゃう。そいで、たちまち日本民族は優秀だなんて思っちゃう。」(p397)
    これなんか、歴史が浅くまだ全然強くもない日本のサッカーに先日もやたら期待して、熱くなって見ていた日本人に贈りたい言葉だ。
    「そう、人類全体が多すぎるの。人間なんか地球に生きてない方がいいんだから。生きてるからヘドロモドロなんてことになる。・・・地球のために一番いいんだよ、人間がいなくなるのが・・・。」(p397)
    この完全なニヒリズムは、たとえばニーチェのような、優れた者=自己だけを救い出そうというような浅ましさからも脱却しており、仏教的な静かさに到達しうる境地である。私は決して、こんなところまでたどり着けない。
    そんな深沢七郎は若い頃からギター弾きとしても活躍していたが、彼の愛する音楽は広義の民俗音楽であって、あくまでも大衆と共にあるものだ。
    「私はベートーベンとか、ああいう人たちの音楽は悪魔の音楽じゃないかと思うんです。邪道な感じですね。音楽で何か表現しようとするから、無理なんです。リズムで、ただ音をきかせるのが音楽で、何かあらわそうとするのは卑怯というか、悪い考えじゃないですか。」(p348)
    とはいえ、彼は常に自己を世界の最下層の、無意味な存在と見なしているのであって、決して他者を断罪する権利を主張するわけではない。すべては<無>へと回帰するまなざしなのだ。
    この希有な人間の希有な書物を、もっともっと読んでみたいと思っている。

  • ギター奏者でありながら40代を過ぎて「楢山節考」で文壇にデビュー、「風流夢譚」事件を経て埼玉・菖蒲でラブミー牧場をはじめ、晩年は草加にも住んでいたらしい。作家の枠におさまらない数奇な人生。

    対談相手も文壇の大家にとどまらず、新興宗教教祖や芸者、瞽女など多彩。

  • 人類滅亡教教祖にして「クソ」の深沢による対談。作家や文化人との対談ではあえて下世話な方向にもっていこうとするが、非インテリとの対談では常識的な聞き手に回っているようにも見える。
    例えば殿山泰司との対談で「スチュワーデス殺しとカトリック」という言葉があるが、朝倉恭司の本を読んでなかったらこれが当時世間を騒がせた事件のことを指していることがわからなかった。多分そうした時事的なコメントやスラング的な言葉がかなりあるのだろうが、注釈が無いので読み飛ばすほか無いのはもったいない。手間はかかるのだろうが、文庫化に際してはそうした丁寧な編集も期待したいというのは厚かましい読者だろうか。

  • こっちの方が俄然おもしろい。宮本常一「忘れられた日本人」を思い出した。

  • まず、対談の相手が面白い。文豪から山下清から駅の赤帽さんまで、多種多様。
    アホみたいな返答をしていると思いきや、突然舌鋒が鋭くなったりする。三島由紀夫批判など、ものすごく正確。
    でもアホみたいに見えるのは、裏を返せば相手の投げかける質問が陳腐なものだからで、さんざ訊かれた面倒な質問に答えてやっているといった気さえ、読み進むにつれてしてくる。

    山下清との対談が面白かった。彼に親近感をおぼえながらも、ユーモアがない、と喝破できたのは深沢七郎くらいじゃないか。

  • 深沢七郎さんなんて、もう忘れられつつある人かもしれないが、こんな時代にはもっと読まれてもいいのではないかな。元瞽女のおばあさんとの対談が白眉ですね。

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著者プロフィール

大正三年(一九一四)、山梨県に生まれる。旧制日川中学校を卒業。中学生のころからギターに熱中、のちにリサイタルをしばしば開いた。昭和三十一年、「楢山節考」で第一回中央公論新人賞を受賞。『中央公論』三十五年十二月号に発表した「風流夢譚」により翌年二月、事件が起こり、以後、放浪生活に入った。四十年、埼玉県にラブミー農場を、四十六年、東京下町に今川焼屋を、五十一年には団子屋を開業して話題となる。五十六年『みちのくの人形たち』により谷崎潤一郎賞を受賞。他に『笛吹川』『甲州子守唄』『庶民烈伝』など著書多数。六十二年(一九八七)八月没。

「2018年 『書かなければよかったのに日記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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