幸福な無名時代 (ちくま文庫 か 5-2)

  • 筑摩書房
3.65
  • (9)
  • (18)
  • (28)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 159
感想 : 17
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (209ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480030238

作品紹介・あらすじ

本書は、1958年、雑誌記者としてベネズエラに入国したマルケスが遭遇したペレス・ヒメネス独裁政権の崩壊と当時の民衆の生活に取材したルポルタージュである。この時期は、ジャーナリストとして頂点を迎えたマルケスがしだいに小説家ガルシア=マルケスに移行していく、いわば転換期にあたっており、のちの小説の核となった出来事も多く含まれている。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 幸福な無名時代
    (和書)2009年06月04日 13:24
    1995 筑摩書房 G. ガルシア=マルケス, Gabriel Garc´ia M´arquez, 旦 敬介


    読み易い作品だった。

    小説ではなく記事ですが、どのように物事を捉えようとしているのかが何となく分かって、小説を読む時の参考にもなると思いました。

  • 先月?狂犬病のニュースを見たときに、久しぶりに読みたくなって再読。
    ベネズエラの位置すらあやふやだけど、面白く読めた。
    ところで、雨は降ったのか??

    狂犬病は怖いね。

  • 記者時代の記事集。狂犬病の血清を空輸リレーする話「命の猶予は十二時間」が印象深い。権力に対する向き合い方にも独特なものを感じさせる。

  • 結構前に読んだのですが、
    ニュース翻訳のお手本が欲しかったので再読。

    文章、構成ともに狙いすぎていて、
    ちょっと実用的ではないわなという結論に至ったものの、
    素材の面白さとそれを調理する手腕はあらためてすごいですね。
    ベネズエラの色んな面がみえてくるのが面白かったです。


    ただ、ジャーナリストとしては手を加えすぎというか、
    物語を作りすぎてるきらいもあるように感じました。
    逆からみれば小説家としての鱗片が垣間みえるということでもあり、
    ファンとしては間違いなく面白い一冊でしょう。

  •  ジャーナリストから小説家へと転身したガルシア・マルケスのベネズエラでの記事集。
     1950年代に独裁政権の打倒やクーデターがあったベネズエラだがそういった大きなニュースだけでなく多彩な出来事が書かれている。

     私はベネズエラと聞いて今までカーロス・リベラぐらいしか知らなかった。1950年代の南米という自分が今まで知らなかった世界を短編小説を読むようにふれることができる。異世界のようでいて「ベネズエラは犠牲を払うに値する」などは今の日本が学ぶことも多いと思う。
     世界を広げてくれる一冊。 

     

  •  ガブリエル・ガルシア・マルケスのルポルタージュ集。本書の翻訳の底本は、ガブリエル・ガルシア・マルケス「ジャーナリズム作品全集」第六巻「ヨーロッパとアメリカ大陸から第二集(1955−1960)」ということで、取り上げられているルポは、ベネズエラの独裁政権の崩壊の時代のもの。
     実際のところ僕は、この時代のベネズエラや南アメリカについては詳しくない。というよりもほとんど何も知らない。時代背景を知っている方がより面白く内容を読むことができるはずだとは思うが、そうでなくとも関心を持って読むことができた。独裁政権の崩壊、狂犬病の犬に噛まれた少年の命を救うための血清を調達、妻と喧嘩して家を出た結果インディオに捕まって帰れなくなる若者、雨が降らず干上がった街、ベネズエラを海外の債務から救うために市民から寄付をつのる提案、競走馬の競売といったようなルポが掲載されている。どの話も興味深く読んでいたが、ルポなのか小説なのかよくわからないようなものが多いという印象を感じた。例えば、実際に雨が降らず干上がった街の話「1958年6月6日、干上がったカラカス」などは事実ではなく、未来の仮定である。まさに、ジャーナリストから小説家へと移行していく時代の作品を集めた本なのだと思う。
     短編小説集だと思って読んでも違和感無く楽しめると思うが、そのつもりであればマルケスの小説を読んだ方が面白い。マルケスというジャーナリストが、小説家になっていく一つの側面を知ることができるという意味で最も面白い本だと感じた。

  •  ガルシアマルケスがまだ無名の雑誌記者時代に書いたルポルタージュです。
    小説のように、まずこの世界観はどういう設定なんだ、と迷う必要もないし、取材対象に密着した著述が続くので、ガルシアマルケスの本としてはたぶん読みやすさナンバー1だと思います(彼の著作を全部読んだわけではないので断言はできませんが…)
     
     国を追われる独裁者、反体制運動に立ち上がるカトリック神父、ジャングルの先住民の捕囚になった人、などなどクセのある人物を巧みな表現で雑誌記事の枠を超えた文学作品に仕上げた傑作です。

  • ガルシア=マルケスがジャーナリストとしてベネズエラに滞在していた時の記事を集めたもの。
    「事実は小説よりも奇なり」なんて言葉がしっくりくる。
    下手な小説よりも面白く、ガルシア=マルケスが評価される際に使われる「魔術的リアリズム」の息吹も感じられる。
    ベネズエラの独裁政権が崩壊する転換期の記事なのだけど、政治的にどうこうというよりは割と局地的な小ネタが多く、そういった記事の方が興味をそそり、小説らしさを感じた。
    未開のインディオに囚われの身になった男、女装して脱獄した囚人、水が干上がった首都、などは物語のプロットとしても十分通用するのではないだろうか。
    記事だけで済ますには勿体無いエピソードが多く見られた。
    反面、政治色の強い記事はあまり面白いとは思えなかったが、小説「族長の秋」の下地になっていると考えるとまた興味深く感じる(事実「族長の秋」は素晴らしい小説だった)。
    夢野久作もかつて新聞記者でその時代の記事を集めた全集を途中で挫折したことがあるのだが、ガルシア=マルケスのはすんなりと読むことができた。
    ベネズエラという未知の国が対象だったのも大きいと思う。

  • 若い頃のガルシア・マルケスによる、南米の短編ルポ集。どちらかというと合理主義的な世界にいる読者に向け、前近代的な混沌と現代社会の入り混じったようなエピソードを展開していきます。
    冷静に社会の問題点を切り取った良作。『古き現代』へのノスタルジーをかきたてられるかも。

  • 「一月二十三日,未明のカラカスは眠りについていなかった。外出禁止令の命ずる通り,家々は扉を閉ざしていたが,部屋の奥にこもった人々は,この三十六時間のうちにベネズエラで何がおこったのか,くわしい情報がほしくて外国の放送局にラジオを合わせようと苦心していた。市内のさまざまな場所で銃声が聞こえた。ちょうどころ,無人のウルダネーラ通りでは,黒い影に隠れるようにして四台の公用車が東の方角へと下っていくところだった。これこそ実は,誰もがラジオで聞きたいと願っていたニュースだった―独裁者マルコス・ペレス・ヒメネス将軍が国から逃げ出そうとしているのだ。」

    「狂犬病は人類と同じくらい長い歴史を持つ病気だが,医学は今なお,その治療法を発見していない。」
    「腹のなかにダイヤモンドをいっぱいに詰め込まれた鸚鵡の密輸取引でにぎわう軌跡の都市ベレン。」
    「数時間にわたってパトリシオ・ケリーと話をして,自らの冒険を熱く語るのを聞くと,彼の人格を解く鍵は,何があってもあせらないあわてないという美徳に尽きるとおもわされる。チリ北部における大胆にして幸福な自由への旅,その物語はほとんどミリメートル単位の細かい計算をほどこされた細部に満ちている。その雄弁,こっちが当惑してしまうほどの礼儀正しさ,あけっぴろげな身ぶり手ぶりにもかかわらず,非の打ち所のない厳しい自己監視をたえず行っている人物であることは端々に見てとれた。そして,チリ北部を不確実な,遠い自由へ向けて旅を続けた五十九日間,その自己監視の力なくして追及者をかわすことはできなかったに違いない。」
    「映画や歯磨きの公告に反応しやすい現代の大衆は,政治化の純粋に外見的な側面,フォトジェニックであるかどうかに大いに左右される。」

    家出したところを,原住民に捕らえられ,命からがらで逃げ出した男がたどり着いたのは,ダイヤモンドをお腹に詰め込んだ鸚鵡の取引される町だった。女装して自由を求め牢から逃げ出したアルゼンチンの政治家は,当局が彼を血眼で捜しているとき,街中でどうどうとご飯を食べていた。狂犬病の犬にかまれた子どもを助けるために必要なアンプルを24時間以内に入手できるか。そして,姿を消した7人のイタリア系移民の謎。
    魅惑の国ベネズエラで,ガルシア=マルケスが記者として書いたルポルタージュ集。題材がいいのはさることながら,稀代のストーリーテラーガルシア=マルケスの手にかかると,ニュース記事であっても,幻惑的な物語になるから,不思議。

全17件中 1 - 10件を表示

G.ガルシア=マルケスの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×