大正幻影 (ちくま文庫)

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著者 : 川本三郎
  • 筑摩書房 (1997年5月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480032669

大正幻影 (ちくま文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 映像文化のプロが描く大正時代の文学論です。著者は1944年の東京の生まれだとか。冒頭に「はじめに隅田川があった。40歳を過ぎた頃からなぜか無性に隅田川に心惹かれるようになった。隅田川沿いの町を歩くのが好きになった。」という始まりからして魅力的です。芥川龍之介、谷崎潤一郎、佐藤春夫、永井荷風ら耽美派を「隅田川派」とも呼び、大正期に活躍した彼らの共通点として明治期と比較し、幻想の世界に耽ったことだと言います。そして、共通点として隅田川の「水」、閉ざされた個室などの空間、幻想的な出来事、そして驚くべき美女・・・佐藤春夫「美しい町」は当時川の中洲だった島のガラス張りの屋敷を舞台にしている!とてもロマンを感じて、魅力的です。そして彼らの特徴は大作よりむしろ小品にあるとのことで、著者は隅田川べりの「ホテルニューハンプシャー」に宿を取り、そこでそれらの作品を読むことが無常の喜びとの事。隅田川周辺の情緒をいつも感じていた私としても非常に分かるように思います。大正時代の非常に自由でありながら袋小路に入っていく様子が手に取るように感じられます。

  • 自我の形成、家や旧制度との戦い、内面の告白といったテーマを追及した明治期の文学や、プロレタリア文学や社会主義文学を含む昭和期の文学に比べると、大正期の文学作品は小さな内密的な世界に閉じこもり、そこで現実から少し離れた淡い幻想を紡いでゆくものが多い。本書は、とくにこうした幻想性を帯びた佐藤春夫、谷崎潤一郎、芥川龍之介、永井荷風らの作品を読み解いている。磯田光一『思想としての東京』(国文社/講談社文芸文庫)の主題を、より具体的な作品鑑賞によって肉付けする試みと言うことができるように思う。

    彼らは4人とも、隅田川を文学的故郷ないし原風景にしている。江戸は隅田川を中心に発展した「水の都」だった。だが、明治国家はその「水の都」を破壊し、山の手へと中心を移動させていった。「水の東京」が失われ、「陸の東京」が取って代わる。富国強兵の国家の論理によって失われた「水の東京」に愛着を抱き続けた作家は、近代化・都市化によって汚され埋め立てられてゆく現実の隅田川に背を向け、幻想の中の「隅田川」を見つめる。彼らが原風景とした「隅田川」は、すでに失われた幻影の風景だったのである。著者は、「隅田川」と同種の淡い幻想性が、彼らの作品に登場する街の路地裏や映画館の暗闇にも見いだし、さらに彼らの「廃墟趣味」や「支那趣味」をも規定していたと論じている。

    だが著者は、こうした失われた幻影を見つめるまなざしが、「近代」をくぐり抜けてはじめて獲得されるものだと指摘する。佐藤春夫の「田園の憂鬱」の主人公は、自然そのものから自然の美を感じるのではなく、現実の貧しい実体の背後に、イデア化した美を求める。これは、あくまでも近代的なイメージ操作を通じて作り出された美である。著者は、佐藤らのこうした美的態度は、西洋の世紀末的なデカダンスと同種のものであり、佐藤らはどこまでも「近代」の作家だったと指摘している。

  • 川本三郎さんのエッセイが大好きです。大正時代の作家の視点を取り入れつつ、現代の東京という都市に想いを馳せる。川本さんの影響で永井荷風の「日和下駄」も読みました。大学時代、通学途中の路面電車で読んだらトリップしました。

  • 主として佐藤春夫、谷崎、芥川、永井荷風ら大正期の作家達の水辺、路地等への拘泥を書いてて面白い。一つ、大いに首肯したのは、山の手官吏の息子である荷風が、変貌する東京への幻滅〜江戸の匂いを残しつつも、それが幻影でしかなくて、リアルでは到底美しくなく、自身の作品上には幻想の町を書いた・・という点です。つい、荷風の書く町=江戸の名残を持つ下町的な読み方をしてしまうけれども、実際は暑苦しく汚い物だと思う。その暑苦しさからの脱却(それだけじゃないだろうけど)が、下町出身作家の西方移動だろうと。時代はかなり下るけれど、同じ下町出身の小林信彦が、映画「流れる」の評で、下町人にとって西が縁起が良いので、下町出身の作家、永井龍男達が鎌倉へ移住し、谷崎は関西へ移ったと指摘してたのには啓蒙させられた。
    (余談ながら「流れる」で"鋸山"と呼ばれる宮口精二が扮する登場人物が、山田五十鈴らにとって、不幸を呼ぶものであって、千葉の鋸山は縁起が悪い方角であり、また鋸の文字が禍々しさを添えたネーミングであるという指摘もあった。)

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