- Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480032812
作品紹介・あらすじ
『舞姫』から『風の歌を聴け』まで、望まない妊娠を扱った一大小説ジャンルが存在している-意表をついたネーミングと分析で、一大センセーションを巻き起こした処女評論。待望の文庫化。
感想・レビュー・書評
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「妊娠小説」というジャンルを提唱して、そのテーマに沿いながら、明治文学から80年代の青春文学までの文学史を俯瞰。あざとく「われわれ」と言いつのるところとか語り口が鼻につくが、この著者にかぎっては毎度のこと。小川洋子の『妊娠カレンダー』(「妊娠小説」の集大成でおそらく最高峰)は、出版時期が前後したのか、言及されていない。
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「赤ちゃんができたらしいの」と女が宣告し、男はうろたえるという展開が、さまざまな小説のなかでくり返し描かれてきました。ほとんどパターン化しているといってよいこのような場面を含む小説を著者は「妊娠小説」と呼び、その構造と歴史の解明をおこなっています。
森鴎外の『舞姫』と島崎藤村の『新生』によって、「どうでもいい女の問題」だった妊娠が「どうでもよくない男の問題」に昇格し、文学のテーマになったと著者はいいます。それ以前の小説に描かれていたのは、「妊娠」ではなく「堕胎」でした。しかしそれは、「生むにせよ堕ろすにせよよろしくやってもらいたい」という男にとっては「問題の解決」でしかありません。こうして著者は、妊娠を告げられる男の「近代的自我」の確立は『舞姫』と『新生』によって成し遂げられたといい、これは近代文学史上における「妊娠の発見」というべき事件だという主張を掲げます。
その後著者は、妊娠と堕胎をめぐる世相の動きに「妊娠小説」が連動していることを明らかにしていきます。さらに、村上春樹の『風の歌を聴け』、村上龍『テニスボーイの憂鬱』、辻仁成『クラウディ』などの現代の小説を「妊娠小説」として読み解き、それらが表面はさまざまな意匠を凝らしているにもかかわらず旧態依然とした枠組みを継承していることが明らかにされていきます。
とにかく文章が痛快で、おもしろく読みました。 -
2017年12月1日読了。Cakesの書評を見て購入。日本文学において黙殺されてきたジャンル『妊娠小説』をもっともらしく分析する体で、作家(と読者)たちの無自覚っぷりを笑いのめすすごい本。終始苦笑い、内容に共感しつつ「いや、ちょっと待てよ言いすぎだろ」と反感も覚えつつとにかく読み進まされるというこの体験・読後感は他の読書ではなかなか得られないものだった。『妊娠小説』とは突飛な表現に思えるが、戦争が出てくる『戦争小説』、警官が出てくる『警官小説』がありうるのならば『妊娠小説』という表現・ジャンルもあり得ない話ではない、のかな…と納得させられそうになるところがすごい。これを読んでしまうと、作家も安易に妊娠について書けなくなるよなー。
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望まない妊娠をとりあげた「妊娠小説」というジャンルを提唱し、様々な方法論を用いてそれを論じている本。
まずジャンルを確立してしまうところがすごい!笑
そして、あらゆる角度からこれでもかこれでもかというほどに、評論の嵐が吹き荒れる。
歯に衣着せぬ言葉の数々は、爽快と笑いをもたらします。
小説を読むのがまたひとつ楽しくなれる。
あと、ルビのふり方がかっこよくて好きです。
パロディとは反復(まねっこ)と差異(ひやかし)を含む形式 とか
それにしても、メンズ系妊娠小説(男性作家の)に対する批評は胸がすく感じがしちゃった。 -
女が生みたがるのには理由はいらぬが、生みたがらないのには理由がいる。これが妊娠小説界の鉄則だ。
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出会ったときに、すごくびっくりして、読み終わった後は、清清しさ。これ読めば、多くの女性は救われるんじゃないかなってくらいの救済本だと私は思いました。『美徳のよろめき』、『美しい星』を読んでいたとき、<妊娠>もしくは<中絶>ってのは、文学作品として扱いやすいんだろうなあって思って、漠然と、このテーマを扱った小説がどれくらいあるんだろう・・・とか考えていたこともあった。
だから本屋で背表紙みた瞬間に息が止まりましたね。おお、私、あなたを求めていたよ。って感じ。タイトルの衝撃に劣らず、中身が伴っている。たとえば、世の中に氾濫する妊娠小説を読んだ女性の中には内面化された<中絶>=女にとっての悲劇の物語みたいなのが植付けられたりするかもしれないですよね。そんなん、ちゃんちゃらおかしいかもなって、ちょっと冷静にしてくれるような本で。こりゃ、すげえ。
まことさん、こんばんは(^^♪
たぶん読みにくかったのでしょうね、そんな感じが漂っておら...
まことさん、こんばんは(^^♪
たぶん読みにくかったのでしょうね、そんな感じが漂っておられます。
私は終始くすくす笑いながら読みました。
妊娠・出産に関してトラウマになっている女性も世にたくさん存在します。
その人たちにとっては救いになる本だと思います。
まさかと思うカテゴリーの本ですが、同様のものはありませんものね。
そうなんだー。まことさんはシナリオライターを目指してらしたのね。
それでレビューに並々ならぬこだわりを持っておいでなのですね。
お聞きしたときは「??どうして??」と謎だらけでしたが、やっと理解できました。
私は音楽の世界でのみ暮らしてきた(本はあくまでも趣味のひとつ)ので、まことさんのような方はむしろ新鮮です。ではでは。
私も5552さんにお礼のコメントをしたかったのですが、どこにしたらいいかわからず…でした。
この...
私も5552さんにお礼のコメントをしたかったのですが、どこにしたらいいかわからず…でした。
この本は、1996年に出されたみたいですね。時代は大分かわっていますが、私もこの本は凄い!近現代文学を知るうえで必読書だと思いました。
お薦めありがとうございました(*^^*)
『文壇アイドル論』も面白そうですね。レビューできるかどうかはわからないけれで近いうちに読みます。
「妊娠小説」に違和感を感じる人は多いと思いますというのは、安心しました。私だけじゃなかったんですね!よかった。
シナリオは勝手に憧れて、書いていましたが(恥ずかしい過去です)自分の文章が上手いなんて思ったことは1度もありません(^^;
コメントありがとうございます(*^^*)
妊娠・出産がトラウマになった女性のための本である...
コメントありがとうございます(*^^*)
妊娠・出産がトラウマになった女性のための本であるとのこと。なるほどですね。
それとは、ちょっと違うけれど昔は望まない妊娠をしたときの教科書として読まれたとかも書いてありましたね。
シナリオライターは勝手に憧れていただけで、鳴かずとばずでした。nejidonさんの方が私なんかよりずっとレビューお上手だと思います。
nejidonさんは音楽の世界の方なんですね!
私も、2年前まで近所の子供にピアノを教えていました。音大を出ているわけではないので、専門家では全然ありませんが…。
あっちこっちつまみぐいして、何にもできない人間じゃないかな~と思っています。