シェイクスピア全集 (3) マクベス (ちくま文庫)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480033031

作品紹介・あらすじ

スコットランドの武将マクベスは、荒野で出会った三人の魔女の奇怪な予言と、激しい夫人につき動かされ、かねてからの野心を実行に移していく。王ダンカンを自分の城で暗殺し、王位を奪ったが、その地位を失うことへの不安から次々と罪を重ねていく…。四大悲劇の一つを新訳で。

感想・レビュー・書評

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  • シェイクスピア四大悲劇の1つ。

    荒野で出会った3人の魔女の予言をきっかけに、忠誠を誓っていた王の暗殺に手を染めるマクベス。
    しりごみする彼に暗殺を実行させたマクベス夫人の言葉が凄まじい迫力でした。
    王を手にかけ、あとには引けなくなったマクベスの堕ちていく様が、どんどん加速していく様子が恐ろしい。

    最初は消極的だったのに、物語が進むにつれて躊躇なく罪を重ねていくマクベス。
    夫を強い言葉で犯罪へと駆り立てたにも関わらず、罪の重さに耐えかねて、最期には自ら命を絶ったマクベス夫人。
    対照的でありながらも、根っこの部分では似たもの夫婦であるマクベス夫妻を、翻訳者の立場から考察した訳者あとがきも読みごたえがあっておもしろかったです。

    表紙は安野光雅さん。
    同じような背格好だけど、方や左腕を、方や右腕を身体の前に曲げた、線対称のポーズで描かれたマクベス夫妻。
    読後に改めて眺めてみると、「対照的だけど、似たもの夫婦」という印象をより強めてくれました。

  • シェイクスピア4大悲劇の1つ。
    スコットランドの将軍、マクベスは、やはり将軍であるバンクォーと荒地を歩いていて、3人の魔女に出会う。不気味な魔女たちはは、マクベスに口々に万歳を叫び、彼が王になると予言する。バンクォーには、将来、彼の子孫が王になると告げる。そして問いただそうとした2人の前から空気に溶けるように消えてしまう("vanished into thin air")。

    奇怪に思いつつ、汚い手を使うほどの野心は持たないマクベスだったが、予言のことを夫から聞いたマクベス夫人は、現王ダンカンを暗殺するよう、マクベスをけしかける。一度はやると決めつつも逡巡するマクベスに、夫人は激しい言葉で決心を促す。
    自分を臆病者と思い決めて生きるつもり?
    「やってやる」の口の下から「とても無理だ」、
    魚は食べたいが、足は濡らしたくないという猫そっくり。

    そしてこんな喩えまで。
    私はお乳を飲ませて子供を育てた。
    だから、この乳を吸う赤ん坊がどんなに可愛いかよく知っています。
    それでも、私の顔に微笑みかけてくるその子の
    柔らかい歯茎から乳首をもぎ取り
    子供の脳味噌を叩き出してみせます。さっきのあなたのように
    一旦やると誓ったなら。


    夫人に押されるように、マクベスは悪事に手を染めていく。
    ひとたび心を決めて足を踏み出してしまえば、もう引き返すことはできない。
    一方で、勇ましい言葉で夫を鼓舞した夫人は次第に心を病んでいく。洗っても洗っても、手についた血の染みは落ちない。どんなに香料をふりかけても血の匂いは消えない。
    あの激しい言葉を使った夫人がそんなにも弱いのかと少々意外な感じもする。だが、夫人はダンカン王を殺害した短剣に実際に触れている。口ではおどろおどろしいことを言っても、実際に目にした「血」は、思った以上に衝撃的だったということかもしれない。

    夫人に唆されてしぶしぶしたがっていたようだったマクベスは、夫人と入れ替わりのように非情さを増し、次々に邪魔者を排していく。もちろん、子孫が王位に就くとされたバンクォーも。
    さて、このままマクベスの天下となるのか。彼の前にもう一度魔女たちが現れ、またしても不思議な予言をする。「女から生まれたものはマクベスを殺せない」「森が動かなければマクベスは負けない」。およそありえないことであり、マクベスの世は安泰であるようにも思われたのだが・・・。

    いくつも邦訳があるが、今回はちくま文庫・松岡和子版を。
    解説の指摘で興味深いのは、マクベスと夫人が、しばしば「we」という一人称を使っていること。2人は一心同体、運命共同体なのだ。
    まるで1人の人物が内心の葛藤と闘うように、ときには「悪」が「善」を抑え、ときには「光」が「闇」に抗う。表の顔と裏の顔。マクベスと夫人も役割を入れ替えながら、結局のところ破滅へと突き進んでいく。
    陰鬱で救いがない話だが、いくつかの名台詞とともに、どこか心をとらえる魅力のある作品である。あるいはこの陰惨な闇自体が、戯曲「マクベス」の魅力か。


    *このお話は、11世紀のスコットランドの実在の人物をモデルにしており、マクベス、バンクォー、ダンカン王はいずれもモデルとなった人物がいます。暗殺されたダンカン王の息子マルカムがマクベスを誅して王位につくところまでは劇中で描かれます。
    あれ?バンクォーの方の予言は?と思うわけですが、史実としては、バンクォー自身はあっけなく殺されてしまうものの、息子は生き延び、ずっと先の子孫がマルカムの子孫と結婚して、王家に入ります。予言は成就するわけですね(というか、シェイクスピアはマクベスの時代より後の人なので実際にあうように予言させた、というところですか)。

    • ぽんきちさん
      淳水堂さん

      コメントありがとうございます。
      いろいろ勉強になりました。

      そうか、ポランスキーが(しかもあの事件の後に)撮ってる...
      淳水堂さん

      コメントありがとうございます。
      いろいろ勉強になりました。

      そうか、ポランスキーが(しかもあの事件の後に)撮ってるのですか。そりゃ見てみなくちゃなー。黒澤バージョンも迫力ありそう。

      そう、マクベス夫妻に子供がいるような感じはないですよね。このセリフはちょっと不思議です。なんか、別の人物のエピソードとかが混じりこんでいる?のかもしれませんね。

      確かに、観客が誰かを思うと、政権側に心地よい展開になるのはさもありなんという感じがします。

      2人が使う「we」は王族が使う「royal plural」とする解釈もあるそうですが、2人きりの場面でも使われていることから、松岡さんは一心同体的に使っていると考察されています。加えて、血塗られた道をたどる夫妻が実は愛し合っていた、という方がロマンチックな感じでしょうかね。
      2017/07/20
    • 淳水堂さん
      映画はオーソン・ウェルズも撮っているようですね。オーソンは「オセロー」「フォルスタッフ」は見ましたがこれだけは見ていなくて。

      「女から...
      映画はオーソン・ウェルズも撮っているようですね。オーソンは「オセロー」「フォルスタッフ」は見ましたがこれだけは見ていなくて。

      「女から生まれたもの」も疑問ですよね。
      ”出された”から生まれてない?
      この時母体は死んでいたから生まれていない??
      色々生きるのが大変な時代だ…
      2017/07/20
    • ぽんきちさん
      淳水堂さん

      そうそう、「女から生まれた」もなかなか難しいところですね。「女の股から生まれた」とする訳もあるようですが。
      経腟でないと...
      淳水堂さん

      そうそう、「女から生まれた」もなかなか難しいところですね。「女の股から生まれた」とする訳もあるようですが。
      経腟でないところがポイントなのかな・・・?
      「生れる」がそもそもborn from a womanで受動態なので、bearという単語には母が主体的に押し出すっぽいイメージがあるのかもしれないです。ちょっとこじつけな感じもしますけど。
      マクダフは、母の腹を破って(rip)出てきたので、母が生んではいないのだ、的な。

      シェイクスピアのオリジナルと現代語で書き換えたサイトがありましたが、結構言い換えてる感じですね。ページの一番下のマクダフのセリフが、最後の2人の対決シーンでマクダフが「俺は月足らずで母の腹を破って出てきたから女から生まれていない」と主張するところです。ネイティブスピーカーでもここちょっとおかしいと思うのかもw

      http://nfs.sparknotes.com/macbeth/page_212.html

      そうだなぁ、やっぱりこの時代の帝王切開はほぼ母はそれまでに死んでしまっていたor切開で死んでしまったのかもしれないですね(--)。
      2017/07/20
  • 主人公マクベスの行動や心情を考えるのは当然として、前半は魔女とマクベス夫人の役割、後半はバンクォーやマクダフ、イングランド王の役割が興味深い。こういうことは今の世の中にもありそうだと感じた。

    訳者あとがきによると、マクベスと夫人は一卵性双生児とのこと。言い得て妙だ。自分の中のマクベス的な要素とそれをそそのかす夫人的な要素はある。

    人間理解を深めることができる一冊だった。

  • 少しずつシェイクスピアに慣れてきた。それと本作は大まかなストーリーも知らなかったので素直に読めた。夫人にお尻を叩かれるということくらいは知っていたから「フェイクスピア」を観たときに、これは「マクベス」から来てるなということくらいはわかった。3冊目にしてまたしても感想は「これは悲劇なのか」というものだ。いったい誰にとっての悲劇か。マクベスやその夫人にとっては自業自得ではないのか。日本の戦国時代と同じと思えばよいのか。いずれにせよ話の展開が早いので、どこでどう気持ちが動いたのかなど、ついて行けないところも多い。おびえていたマクベスが最後には開き直り、かえって夫人の方がなんだか精神的に追い込まれている。そして先に逝ってしまう。今回は気をつけて( )内の小さな文字を読み落とさないようにしたので、どこで誰が死んだかはちゃんとつかめた。実際に舞台で見るとどんな感じだろう。場面がころころ変わるあたりはどのように対応されるのだろう。魔女たちはどのような衣装や化粧で登場するのか。そういうことを想像しながら読むと、少し楽しむことができた。解説を読むとマクベスの治世が17年続いたとの記述がある。それくらい続いたのであれば、マクベスのしたことに意味が見出せるのであるが、まあ、日本にも「三日天下」なんていう言葉はあるからこういう結末もありなのだろうか。

  • 初読

    福田恆存訳じゃなく、松岡和子訳は初めて。
    舞台の上で活きる翻訳ということで、
    何冊か続けて読むつもり。

    マクベスは舞台に映えるから観ていて楽しいけど
    戯曲で読むとやや散漫になるよなー
    初めて読んだ時から思ってたけど
    マクベス
    マクダフ
    マルコム
    て主要人物が出てくるの難易度高くない?w

    訳者あとがきの
    「もししくじったら?」
    の主語がweである、という下りがとても興味深く面白かった。

  • マクベスの王位簒奪を予言する魔女は彼の願望が見せた幻という解釈に一票。破滅するところまで含めて、自己成就的予言ということでは。

  • 魔女に唆されて殺人を冒すマクベス。一度の過ちが度重なる過ちを呼び、信頼を失い身を滅ぼす。

    初めてシェイクスピア読んだ。
    登場人物の名前が分からなくなることがあるので、人差し指を冒頭の「人物」にセットw
    宗教の考え方、言い回しがちょっと難しいね
    でも他の作品も読みたくなった。

    魔女の言葉
    人間の最大の敵は自信過剰だ。
    が印象的だった。

    作中で魔女って見えたり消えたりする設定だけど、
    本当は人間全員の心の中に生きてるんじゃないのかな

  • 初めてのシェイクスピア作品。面白かった!!!!!勧善懲悪の王道のオチなのには少し驚いたが、
    洒落た言い回しやマクベスの夫婦関係の描写などはとても面白く、純粋に娯楽として楽しんで読めた。
    「何が」とは言いにくいんだけどとにかく面白かった。

  • 「休息も、陛下のお役に立たなければ辛い労働でございます」
    なんて王に言っておきながら、裏では暗殺を画策しているのだから恐ろしい。
    まさに「偽りの心に巣食う企みは、偽りの顔で隠すしかない」だ。
    魔女が予言したことの一つが実現したからといって、それ以外のことも現実になるかは不明なのに、言い換えるとひとつの小成功を収めたからと言って、次の大成功が約束された訳ではないのに、自分の欲望に負け悪の道を突き進んだ結果身を滅ぼす。マクベス夫人が死んだ報せを受けた後の対応がとくに印象的だ。あまりにも悲しいが、それだけ切迫した状況であることを伝える表現だとも読める。

  • 劇団新感線の演劇「メタルマクベス」のDVDを観る前に原典を読んでおこうと思って手にとってみた。人の心の移ろいが描かれていて面白かった。根底に葛藤の源泉(良心)が最低限ある。その辺の人物像に少し時代を感じつつ。そういう前提が軽視され失われつつある時代ってどうなんだろうと思ったり。訳者のあとがきで深読みが披露されていて面白かった。知れば知るほどいろいろ感じられたり、語れるものなんだなぁと。これが「マクベス」かぁって感じ。機会があれば、ト書き付や他の訳も読んでみたいと思った。

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