シェイクスピア全集 (13) (ちくま文庫 し 10-13)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480033130

感想・レビュー・書評

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  • 四大悲劇のうち、これだけが未読でした。
    これはご存知将軍オセローが部下のイアーゴによって妻を疑い殺害する悲劇です。しかし、こんな簡単に騙されるものだろうか…と素朴な疑問。

    そもそも事の起こりオセローが副官にイアーゴではなくてイケメン青年を抜擢したこと。それで嫉妬したイアーゴが画策して事件に至る。イアーゴはシェークスピア作品中最も腹黒い人物なのに他の登場人物はこぞって彼を「正直だ」と言う。一見正直で人当たりのいい人ほど腹の中はわからない…という事なんだけど…いい人って実は軽く見られてしまう。

    オセローもイアーゴを都合よく使っておきながら、彼の中の野望や出世欲に気付けなかった。いい人だから野望なんか持ち合わせていないと勝手に思い込んでいたのだろう。そういう点ではオセローの上司としての甘さと奢りが招いた悲劇とも言える。

  • 「4大悲劇」にも分類される、シェイクスピアの有名な戯曲。わたしは過去にもシェイクスピア作品をいくつか読んでいるが、本作はバツグンにおもしろく、ひょっとしたらベストかもしれない。内容はイアゴーの謀略によってオセローの人生が狂ってゆく話で、現代の感覚からしてもぜんぜん古びていない。だからこそいまだに世界各地で上演され続けているのだろう。一般的に本作のキイワードとしては「嫉妬」が挙げられるが、しかし登場人物たちの心情は、単なる「嫉妬」のひとことでは片付けられないところがあり、それこそがキモではないかと思う。オセローは被害者とはいえ、キャシオーの言葉を単純に受け容れてしまい最愛の人を信じてやれなかったという点で同情しがたいし、キャシオーも大悪人かといえば、夫婦仲が悪化していることなど人間臭い部分もあって、ひとつの像には単純には当てはめられない。作品じたいはさほど長くないが、会話のひとつひとつごとにその何倍も厚い感情が込められていて、やっぱりシェイクスピアは世界一の戯曲家であると思った。

  • よく引用もされ筋もよく知られている戯曲で、ハムレットとかよりずっとわかりやすいと思っていたのだが、逆に面白さが理解しづらかった。
    読者に見えるイアーゴーは最初から裏表のある男、ずるい男、なのに、作中人物誰もが終盤まで「彼は善良だ、彼は信頼できる」と言う。これで戯曲でなかったら、作中で「うわあ、これは裏の顔を知らなかったらだまされるわ」と読者に思わせないとだめだと思うし、むしろ最初は善良な役柄として出しておいて話の途中で読者の度肝を抜くべきだと思うが、戯曲なので舞台ではそれを演技で見せられる、ということなのだと思う。
    イアーゴーがどうしてそんなにもオセローを陥れたいのかはっきりは語られないが、黒人であり自分より下だと思う相手なのに、身分が高く尊敬されていて美しい貴婦人までめとったことが許せない、というのが現代ではわかりやすい解釈な気はする。
    オセローにも意外と感情移入できるシーンが少ない(彼を取り巻くレイシズムに義憤は感じるけど)のだけれど、それも役者の魅力で変わってくるのかもしれない。
    舞台で観てこそ、の戯曲なのだろうか。

    追記
    ナショナル・シアター・ライブで公演の映像を見たところで追記。いくつものプロダクションを見てこそわかることもあるのだろうが、とりあえず。
    松岡先生も書いているが、ロドリーゴーやキャシオー、オセローなど名前のある役ほとんどが上流階級なのに対して、イアーゴーは召使などと同じくらいの、一段下の階級だということが大事なのかなと思った。みんなが彼を「正直者」というのもあなどっていることの裏返しなのかもしれないし、イアーゴーがあんなにオセローを憎むのも「自分は貴族じゃないから昇進は難しいかもしれないけど、オセローは黒人だから、他の貴族とは違うから、自分を取り立ててくれるんじゃないか」という期待を裏切られて、「黒人のくせに!」と憎さ百倍なのだとすれば腑に落ちる。
    オセローがあんなに簡単にだまされるのは、ずっと軍隊の人間関係しか知らずに生きてきてきたことや、internalized racismのために自分が醜いと思っていること、デズデモーナとすごく年の差があって自分に不安があることが要因なんだろうなとは思うけど、でもやっぱり納得はしづらい。今の感覚で言えばDV夫だし、デズデモーナのことを「真珠」「宝」とは思っても、対等に人生を分かち合う伴侶としては見ていないから、彼女の愛情よりイアーゴー(軍隊の仲間)を信じるんじゃないのか。役者さんは軍人的魅力をよく出していたけどそれでも感情移入は微妙だったので、すごく難しい役だなと思います。

  • 嫉妬って怖いなぁ、というか証拠ないのにこんなに激しく自分の妻を責めることが出来るっていうのは、嫉妬とか愛とかより男が怖いよ…
    そんな中で本当のことを正直に語るエミリアは勇敢な女性だったと思います。
    イアゴーの手中で踊らされていく様が、どの場面も臨場感あって面白かった。
    最後、オセローが妻のデズデモーナの首を絞めるところは圧巻だったなー。しゃべってから死ぬのはびっくりしたけど。
    しかしシェイクスピアはセリフの言葉選びがほんとにうまいなーと思いました。ちょっと下品なところも素敵。

  • リズムのある翻訳は他の作品と同じく読みやすい。
    内容は、やはり、さすがシェイクスピアと言ったところ。
    ありもしない妻の不義を吹き込まれて嫉妬に苦しむオセロー、最愛の夫がなぜ自分を突然憎むようになったのかわからず戸惑い悲しみながらもまだ信じようとするデズデモーナ。特に、様々な言葉で複数の人間を操り野望を現実にしようとするイアゴーの悪党ぶりはすばらしい。
    クライマックスで、オセローがついに愛する妻を殺してしまうシーンは圧巻!
    解説を読むと、より内容を深く知ることができてとてもいいです。

  • 「元老院議員ブラバンショーの娘デズデモーナと結婚し、幸福の絶頂にあるムーア人将軍オセロー。だが、部下イアゴーの策略により、その幸せは無残な結末を迎える。ハンカチ紛失事件でデズデモーナと副官キャシオーが不義の関係にあると確信したオセローは嫉妬に狂った末に―。シェイクスピア四大悲劇の傑作を待望の新訳で。」

    第三幕第三場
    ああ、用心なさい、将軍、嫉妬というやつに。
    こいつは緑色の目をした化け物だ、餌食にする肉をもてあそぶ。

    嫉妬というのは、やきもちのことです。嫉妬心があまりにふくらむと、心の中の憎しみでいっぱいになって、本当のことが見えなくなるんですね。これが「緑色の目をした化け物」だと、シェイクスピアは言います。みなさんも「緑色の目をした化け物」が自分の中に出てきそうなら、「ああ大変だ。オセローになっちゃう」と戒めるといいと思います。
    (斎藤孝『こどもシェイクスピア』第6章オセローより)

  • シェイクスピア四大悲劇のひとつ。日本人にも馴染みの深いゲーム、リバーシの商品名の由来元。黒と白は肌の色。

    テーマは「嫉妬」。シェイクスピアの他作品に比べると物語の構造は比較的単純で、わかりやすい話ではある。あらすじだけ見ても面白くないかもしれない。しかし実際の会話文に触れていくと読者にもドズ黒い感情が喚起され、嫉妬からくる苦悩という恐ろしい体験に巻き込まれてゆくところが、シェイクスピアのすごいところなのだろう。クライマックスに到るまでの盛り上がりが激しく、結末自体はおおよそ予想がつくものの、ラストのセリフでは予期しなかった感動を目の当たりにすることになる。

    天才的な悪知恵であるイアゴーへの怒りと、あまりに純真すぎるオセロへのもどかしい気持ちで、終始感情を揺さぶられながら、壮絶な結末に絶句しつつ、ラストのオセロの想いに感動する。嫉妬という人間普遍の感情にフォーカスした物語はシンプルながら強烈なものを心に残してくれたと思う。

  • 「嫉妬」の物語と解説されているが、その嫉妬を生み出した各自の劣等感(人種差別、階級差別など)を深掘りしたい。

  • シェイクスピアおなじみの「思い込みによる悲劇」の上、
    登場人物が少なく企みの中心には
    常にイアゴーがいるのでとても読みやすかった。

    イアゴーが自身を積極的に悪役としている姿勢はリチャード三世を思い出させる。
    誰が見ても立派な軍人であるイアゴーが
    鬱屈したものを抱え込んでいるというのが熱い。
    四大悲劇の中では『オセロー』が一番好きかな。

    ハンカチを盗むのに関与していなければ、
    エミリアを純粋にデズデモーナの忠臣として見ることができたのだが……
    自分のした事が主人の災いになるというのが
    悲劇性を増すのだろうか?

    ともかく、オセローはじめ主要な登場人物が顛末を把握した上で終幕となる展開は好み。
    そういう意味ではすっきりと読み終えることができた。

  • 読書会課題本。改めて読んでも面白い。今まで別訳に親しんでいたが、この松岡訳も悪くない。原文がどうなっているのか気になる箇所に、漏れなく注をつけている親切設計なのもとても良い。

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著者プロフィール

イングランドの劇作家、詩人であり、イギリス・ルネサンス演劇を代表する人物。卓越した人間観察眼からなる内面の心理描写により、最も優れた英文学の作家とも言われている。また彼ののこした膨大な著作は、初期近代英語の実態を知る上での貴重な言語学的資料ともなっている。
出生地はストラトフォード・アポン・エイヴォンで、1585年前後にロンドンに進出し、1592年には新進の劇作家として活躍した。1612年ごろに引退するまでの約20年間に、四大悲劇「ハムレット」、「マクベス」、「オセロ」、「リア王」をはじめ、「ロミオとジュリエット」、「ヴェニスの商人」、「夏の夜の夢」、「ジュリアス・シーザー」など多くの傑作を残した。「ヴィーナスとアドーニス」のような物語詩もあり、特に「ソネット集」は今日でも最高の詩編の一つと見なされている。

「2016年 『マクベス MACBETH』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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