シェイクスピア全集 14 (14)コリオレイナス (ちくま文庫)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480033147

作品紹介・あらすじ

ローマの隣国ヴォルサイとの戦いで都コリオライを陥落させた将軍ケイアス・マーシアスは、コリオレイナスの名を与えられるが、市民の反感を買ってローマから追放される。行方知れずになった誇り高き英雄は、宿敵オーフィディアスと手を結び、祖国ローマを攻め落とそうとする。この企てを知った母ヴォラムニアと妻ヴァージリアは嘆き悲しみ-。シェイクスピア最後の悲劇。

感想・レビュー・書評

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  • 訳者の松岡和子さんがあとがきで「コリオレイナスは板ばさみの劇である。さまざまな状況でさまざまな人物が二者択一を迫られる」と書いているのが、言い得て妙だ。
    しかし、事を複雑にしているのは「二者択一」が、どちらかが正しい/どちらかが支持できる、とは単純に決められないところにある。

    「コリオレイナス」がシェークスピア作品の中でどちらかと言えばマイナー扱いにあるというのは、翻訳作品ラインナップでもこの作品はどちらかと言えば隅に置かれていることからもわかる。
    しかし私には、主人公コリオレイナスの発言は拒絶感なく入ってきたし、展開も楽しく、飽きることなく最後まで読めた。

    この作品が低い位置に置かれているのは、ひとえにコリオレイナスが民衆の感情に徹底抗戦し、あくまで強固に武勲高き貴族としての気位を矜持し続けようとしたという“反民衆の視線”であると思える。
    私を含めた民衆側から言わせると、コリオレイナスの言い分は、ある意味、弱いがそれが多く集まり1つの勢力となった民衆の声を、たんぽぽの種子を吹き飛ばすように、1個の存在として否定し拒否しているように受けとれる。

    だが、もし自分がコリオレイナスの立場だったらどう考えるだろうか?他の読者はそういうふうに考えることはないのだろうか?
    国の命運を左右する大事な戦で、大将が傷を負いながら勝利をもぎとっている間に、民衆の多くは怖気づき戦意を消失させて足踏みする根性無しで、さらには自分だけ試練や苦難からトンズラここうとして国のことなんかどこへやらで、あげくにはおこぼれの戦利品をできるだけ多く分捕ることばかり考えている…

    さらに、日々の窮乏から「貴族が貯め込んでいる穀物を放出しろ」と民衆は声高に叫ぶが、確かに今の時点で放出すればその場はしのげるものの、数年後あるいは長期で考えた場合、目先の貯蔵の放出は将来の食糧危機をもたらす恐れを多分に孕んでいる、だから今の備蓄は放出できないとコリオレイナスがもし考えていたならば、どちらが正しいのか?

    私たちはともすれば条件反射的に「民衆が正しい」「施政者は横暴」と捉えがちだが、この戯曲でわかるとおり、民衆の意見だから正しい/お上の意見だから間違っているというのは、近視眼的であって正しい認識ではない。
    “To be or not to be, that is the question ”と同様に、どちらかが正解なんて断定できない。
    繰り返すが、大衆の意見だから、あるいは政府の意見だから、すなわち正しいなんて絶対に言えない。
    これは現在の私たちが生きる社会にも当然当てはまるから言ってるのであって、私たちは悲劇の主人公コリオレイナスになるべきではないのはもちろんだが、この戯曲に出てくる市民にもなるべきでない。いわば“賢い民”になるべきである。

    そう考えた時、私はコリオレイナスに横綱白鵬の生き方を重ねて考えた。
    1人横綱を長く務め、現在も「勝って当たり前」であり続けるのは、尋常ではない才能と努力の賜物。
    それは誰もがわかっているはずなのに、白鵬関とちょっとした土俵上の所作について、ブーイングやネットなどで悪口を言われるのに、個人的に疑問に感じている。
    仮に、白鵬関が立ち会いの変化や猫だましなどを一切しなかったとしよう。
    そのために白鵬関の相撲人生が結果的に短くなり、私たちが稀代の名横綱の取り組みを見られるのが短縮されるとすれば、私たちファンとしてはどっちが幸せなのか?一時の感情で横綱を批判や否定をするのが、真の相撲ファンとして正しい態度なのか?
    白鵬関にも確かに絶対的強さでドンと構えていてほしいけど、相撲の核心を十分知りえない周りのやつらも、雑音立てずに静かに見てろよ…、そんなことまで思いはせてしまう。

  • ちくま文庫版シェイクスピア全集第14巻。古代ローマを追放された将軍をモデルとしたシェイクスピア最後の悲劇。

    ローマをめぐる政治劇。ヴォルサイ人との戦いに勝利をおさめ、「コリオレイナス」の称号を受けたケイアス・マーシアス。しかし護民官の策略により民衆を侮蔑したため、ローマを追放されることになる。敵であったヴォルサイ軍とライバルのオーフィディアスを味方につけローマ側に侵攻を進めるが、残してきた母と妻子が現れ……。

    P13~14 市民「俺たちを飢えさせておいて、自分たちの蔵は穀物で一杯だ。高金利条例を出して、金貸しどもの便宜を図る。金持ちに対抗する健全な法律は毎日のように撤廃するくせに、過酷な法律ときたら毎日のように発布して、貧乏人を締め上げ束縛する。俺たちは戦争に食い尽くされなくたって、あいつらに食い尽くされる。」

    民衆の政治への参加に公然と反対し、民衆をののしったため追放の刑となるコリオレイナス。確かにもう少し冷静であるべきだっただろう。上記の抜書きのようなセリフには共感もする。しかしこの物語における流れをみる限り、策略に踊らされた民衆の側も賢いとは言えず、手放しで民主制を礼賛できないところが歯がゆい。そんな中で、話はコリオレイナスの個人的な感情のストーリーに飲み込まれていく。母親の説得に彼がどう応じたかが、本作最大のハイライト。うーむ、母は偉大……なのか?結末が暗示するものを考えてみたい。

  • 歴史劇の中では読みやすい方か。移ろいやすい民衆心理は、現代社会も同じかもしれない。母子(男女)の関係は武士道と比較しても面白いのかなと思った。

  • なんだかやり切れないですわ。

    訳者いわく「総ハムレット状態」の本作。
    あらゆる登場人物が二者択一に迫られるのが印象的。
    物語に出てくる登場人物は一度した選択を貫き通すイメージがあったので、
    「Aを選んだがやっぱりBにする」というシーンが度々あるのには驚いた。

    常にnobleな選択をしようとするコリオレイナス、
    宿敵を撃つことに情熱を燃やすオーフィディアス、
    この2人が滑稽にも見えてしまうのは
    私自身が「市民」だからなのかしらん。

    市民たちの愚かな側面が、
    本作全体に不気味な雰囲気を醸し出していると感じる。
    自分に言われてるようで堪える。

  • シェイクスピア全集 14 (14)コリオレイナス
    (和書)2009年09月27日 20:08
    2007 筑摩書房 シェイクスピア, 松岡 和子


    コリオレイナスは初めて読みました。コリオレイナスの自由の相互性という視点を見いだすことができると感じた。最後は死んでしまい、とても英雄とは言えないけど別に英雄なんかにならなくてもいいのだよ。

  • 原書名:The Tragedy of Coriolanus

    著者:ウィリアム・シェイクスピア(Shakespeare, William, 1564-1616、イングランド、劇作家)
    訳者:松岡和子(1942-、中国長春市、翻訳家)
    解説:河合祥一郎(1960-、福井県、英文学)

  • Original title:The Tragedy of Coriolanus.
    Author:William Shakespeare.
    Caius Martius Coriolanusは軍祖国Romaの為に尽くしているのに軍人(貴族)です。
    性格が軍人的で傲慢な為、市民の賛成多数でRomaを追放されます。
    確かに彼は言葉は悪いですが傲慢であるとは、私には思えません。
    寧ろ護民官であるSicinius VelutusとJunius Brutusと
    深く物事を考えられない市民の方が傲慢です。

    Tullus AufidiusとMartiusが共に率いるVolsc軍がRomaに進撃中、
    自ら望んだのにMartiusにRomaに戻って貰おうと
    躍起になっている様を目の当たりにした時は呆れました。
    この様は丸で塩野七生女史が執筆中の『ギリシア人物語』
    二巻のAthína人の様だと似ていると感じました。

    そして哀れなのが追放されたMartiusです。
    Romaに進撃中に親友の言葉にも耳を貸さずを演じたのに、
    家族の言葉でVolscとRomaに和平を提案した事で、Aufidiusが放った刺客に殺されます。
    これが無ければ彼も殺さなかったでしょう…。
    又この後の展開が描かれていなかったので想像ではありますが、
    AufidiusのRoma統治は長くは続かないでしょう。
    Martiusを殺したのですから…。

  • 不器用なんだけど 言動が派手で身を滅ぼしてしまった主人公だと思うんだけど、そのまわりも、みる目が無かったというか・・。ただ 今の日本にもあるような現象かもしれません。政治に長けている人が、人格&性格がいいとは限らない。法律に触れるような あくどいことでなければ (まあ おじさん政治家の失言はそれ以前の資質の問題もあるが)仕事をきっちりしてくれる方を追い落とすようなことをしないほうがいいと思う・・・のだなぁ。
    (ア●サンは仕事せず 虚言ばっかだけど)

  • コリオレイナスの話だが、前半は何となく彼の血が通っていない印象。母親のために生きている印象が強いためか。
    後半、初めて自我がみえる。が、母親に会って結局、母の思う通りになってしまう。

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