男流文学論 (ちくま文庫 う 17-1)

著者 :
  • 筑摩書房
3.70
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本棚登録 : 223
感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (452ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480033284

作品紹介・あらすじ

吉行淳之介、島尾敏雄、谷崎潤一郎、小島信夫、村上春樹、三島由紀夫ら、6人の「男流」作家の作品とそれらをめぐる評論を、当世"札付き"の関西女3人が、バッタバッタと叩き斬る!刊行当初から話題騒然となり、「痛快!よくぞいってくれた。胸がスッとした。」「こんなものは文芸論じゃないっ!」など、賛否両論、すさまじい論議を呼び起こしたエポックメーキングな鼎談。面白さ保証付。

感想・レビュー・書評

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  •  俎上に載せられた作家と作品は、
     吉行淳之介「砂の上の植物群」「驟雨」「夕暮まで」
     島尾敏雄「死の棘」
     谷崎潤一郎「卍」「痴人の愛」
     小島信夫「抱擁家族」
     村上春樹「ノルウェイの森」
     三島由紀夫「鏡子の家」「仮面の告白」「禁色」
     
     このうち、わたしが読んだのは島尾敏雄の「死の棘」だけだった。以前は小説をあまり読まなかったうえ、近頃は主に女性作家のものをよく読んでいるからだ。しかし、ラインナップを見てみると錚々たるメンバーの有名な作品群であることはわかる。やはり、読まなかったのは、読もうとしても、解説なり批評なりを見て、自分に近く引き寄せられるものを感じなかったからだと思う。
     唯一読んだ「死の棘」については、本書の中で上野氏が言う「この『死の棘』をミホという病妻の狂気への往還記ととるんじゃなくて、それ以前に島尾自身が病んでいたと考える」という視点は「死の棘」を初読したときにわたしが持った違和感を解き明かすものだった。そしてまた、心理カウンセラーの小倉氏が妻ミホについて「書かれた人間は弱者なのかもしれないけれども、これを書かしてしまったことによって島尾敏雄を食い尽くしたみたいなとこも感じますね」「加害者と被害者がしっぽとしっぽを噛みあっている蛇みたいなね」と言っている点も、読んだ後にわたしに残ったもやもやを晴らすことになった。
     小説というものは、エンターテインメントではあるのだけれど、読むことによってその世界の中に入り込み疑似体験するような一面もあるのだから、男性の勝手な思い込みで描かれた虚像の女に共感できなければつまらなく感じることもあろうし、苛立ちもおぼえるだろう。虚像であってもよくあるファンタジーとして捉えうるならば、それも良しだが、作家が本気でそう思っているふうだったら、うすら寒い感じもするだろう。本書の俎上に載っていない作品で思わず爆笑したり呆れたり憤慨した経験は、わたしの少ない男性作家小説読書経験のなかにもちょいちょいあり、実際、今まであまり小説を読んでこなかった理由の一部でもあると思うのだ。
     なお、巻末には単行本発刊時と文庫化時のお三方それぞれのあとがきがあり、解説は斎藤美奈子による点も得をした気になれた。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「思わず爆笑したり呆れたり憤慨した経験」
      女性より男の方が、夢を見ている度合いが極端なのかも(それが、失礼でないコトを祈るばかりです)
      「思わず爆笑したり呆れたり憤慨した経験」
      女性より男の方が、夢を見ている度合いが極端なのかも(それが、失礼でないコトを祈るばかりです)
      2014/04/18
  • 三島由紀夫の話はメチャクチャ面白い

  • 詩人で作家の富岡多恵子、社会学者の上野千鶴子、心理学者の小倉千加子の三人のフェミニストが、6人の男性作家のみならずそれを盲目的に評価する男性批評家まで斬りまくる鼎談集。ちくま文庫35周年記念復刊で店頭に並んでいたので入手。文庫初版は1997年ですが、鼎談自体は1989~1990年のもの。

    まずは吉行淳之介「砂の上の植物群」「驟雨」「夕暮まで」。実は今まで1冊も読んだこともないし興味も持ったことがない作家なのですが、のっけからケチョンケチョンに貶されていて、ここまで貶されていると逆に一度自分で読んで確認してみたいような、でもやっぱりムカつきそうなので読みたくないような。

    島尾敏雄「死の棘」は既読、さらに妻のミホさんの「海辺の生と死」も既読なので、「そうそう!」と大変共感しながら読めました。「死の棘」は、追ってきたエリスと結婚してしまったパターンの「舞姫」だという考え方は面白い。「私の島尾隊長を返して」「そんなものはもうおらん」に爆笑。やっぱりこの夫妻の関係性って究極これなんだよなあ。そしてそれを受け入れたときにミホさんの病は治るんですね。

    お次は谷崎潤一郎「卍」「痴人の愛」。ちょうど家にあったので再読しておいて正解でした。「痴人の愛」について上野さんの「肉体と精神の一致を目指して、理想の女に仕立てあげようと思った譲治の紫の上ことナオミが、肉体的には完璧になったけれど、霊の上では堕落したというストーリー」「精神においては尊敬できない女に、肉体においては屈伏するという、その精神と肉体の分離の主題」に納得。そして「卍」に限らず谷崎作品に三角関係が多いのは、二者だけの関係では相手に価値を見いだせず、「自分の欲望の対象の価値を保証してくれる自分以外の第三者」が必要というのも鋭い。

    小島信夫「抱擁家族」。すっかり読んだ気でいたのだけど、いつか読もう読もうと思っていただけでまだ読んでいなかったことに今更気づきました…。こちらは収録作家の中では、一番褒められていたかも。近いうちにちゃんと読みたい。

    村上春樹「ノルウェイの森」。他の作家がほぼ大正生まれなので、急に村上春樹だけ若い。1987年の刊行なので、この鼎談当時まだ売れまくっていた頃のはずだけど、もちろんケチョンケチョン。主人公ワタナベくんが頻発する「やれやれ」についての分析が面白い。嘆息混じりの「やれやれ」とはつまり「事態をありのままに受け入れて、それを変更する意欲や、それに責任をとるつもりが何ひとつないということを表す表現」だと。なるほどその通り。この表現からもわかるように、村上春樹の書く主人公の男は基本的に受動的なのに、なぜか周囲の女たちが放っておかないという構図。あとワタナベくんは「他の人のことばを借りて自分を褒める」それが厚顔無恥というのはとても鋭い分析だと思いました。私も昔この本を読んだときとてもイライラして気持ち悪かったのだけど、その理由がわかった気がする。

    ラストを飾るのは三島由紀夫「鏡子の家」「仮面の告白」「禁色」。「鏡子の家」は未読だけれど、あとの二作はわりと最近再読したので記憶に新しくわかりやすかった。谷崎は男を崇拝する趣味はないのでレズは書いてもホモはなし、一種のホモフォビア、と評されていたのと対照的に、三島はやはり同性愛についての話題が中心。三島は結婚しているし子供もいるけれど、本心では不本意だったのではないかっていうのは納得。多くの「ヘテロを偽装している女嫌いの文学者」の一人だったのだろうと。そもそも根底に女性を見下す気持ちがあり、こんな下等なものに欲情する自分が許せないという謎のプライド。男同士の同性愛のほうが高尚という古代ギリシャ的考えの根底にあるのもきっとこれなんだろうなあ。愛妻家=ホモ説も面白いですね。女なんか妻だけで沢山だと。

    「自分がノーマルでないことに対する選民意識」ってのも面白い切り口だなあ。女性より男性が好きなことも、自分が非凡な人間である証みたいな。あとは「愛されたいホモの不幸」ですね。私なりに噛み砕いた言葉で現代BL用語を交えて意訳すると、つまり三島は本来「受け」になりたかったのだけど、年齢や立場、あとはプライドからどうしても「攻め」にならざるを得なかった。「攻め」でいる限りは女性の代替物として美少年を愛でてるようなポーズを取れるけれど、実は三島の本来の嗜好は逆だったのではないか。それは彼の男性の好み(マッチョ系)からも明らかで、逞しい男に彼は愛されたかったけれど、それが叶わなかったので自らをマッチョ化させたんじゃないかと。

    とりあえず、フェミニズム文学論としても、フェミ抜きの文学論としても、そして毒舌お姉さま方の井戸端会議としても、とても面白い1冊でした。

  • 吉行淳之介、島尾敏雄、谷崎潤一郎、小島信夫、村上春樹、三島由紀夫の6人の作家と作品について、上野千鶴子、小倉千賀子、富岡多恵子の3人が語り合った鼎談を収めています。わが国におけるフェミニズム批評の嚆矢とは言えないまでも、フェミニズム批評の活性化に大きく寄与した本と言えるように思います。座談会ということもあって、三者ともかなり辛辣な言葉を吐いていますが、制度化してしまったフェミニズム批評には見られないおもしろさがあります。

    村上春樹の文体について富岡が作家の視点から鋭い分析をおこなっている箇所には目を見張らされました。また上野が、島尾の小説に対する吉本隆明の批評や、小島の小説に対する江藤淳の批評の視座から離れてそれぞれのテクストを分析する観点を打ち出そうとしていることも、興味深く読みました。

    解説は、自身がフェミニズムの観点から文芸批評を精力的におこなってきた斎藤美奈子が担当しているのですが、斎藤と上野の立場には相当な隔たりがあるので、彼女の独壇場とも言える辛辣な放言を交えたフェミニズムふうの批評という土俵に、富岡という強力な援軍を得て上がり込んだ上野に対してどのような評価をおこなっているのか気になったのですが、その意味では少し拍子抜けしてしまいました。なお上野はその後『上野千鶴子が文学を社会学する』(朝日文庫)という本を刊行して、本書における発言を敷衍するような議論を展開しています。

  • 村上春樹をここまでこきおろす人たちを初めて見た。存在感が薄すぎるとか、主体性がなさすぎるとか、気持ち悪い、とか。 そして、村上春樹を好きな私って何なのだろうと考える。。。 主張しない、その薄さがよかったのだろうなと。その後、村上龍が「春樹さんの本は最大公約数の人の心の揺らぎ(ちょっとした後悔とか)をとらえていて、自分はそんな揺らぎなんかをブッ飛ばしたい本を書きたいんだ」と言っていて納得。

  • とっても爽快でした。座談会形式の評論ですがとにかくおもしろかった。いかに我々がジェンダーバイアスに晒されているか考えさせられました。解説が斎藤美奈子氏でさらにお得。

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  • フェミニズムの論客3人組が文学作品を、作者を、登場人物を、めった切り。時にあまりに行き過ぎていたり時に斬新な視点ありで、文芸評論としてはおもしろい。一緒に酒は飲みたくはない。

  • 快刀乱麻。もっと早く読みたかった一冊。
    これを読んで一緒に笑えるような男と付き合いたいもんだぜ。

  • 4.11
    けっこう女の子で「男の作家の書く小説に出てくる女の人が、男の都合のいい幻想の塊で読んでいられない」って言う子いるでしょ。自分はけっこうそういうの平気で、むしろ男流作家のほうが読むから、敢えて手にとってみました。ハルキも標的にされてたし!(にしても文庫で920円は高いってーorz)いやまあ、著者の方々のメンツを見ればこーなるだろうと予想してはいたけど、やっぱよってたかってハルキ(だけじゃないけど)のことを男尊女卑のブタ野郎扱いされると泣きたくなります。題材にされてるのが『ノルウェイの森』っていう自分内ハルキランキングのかなり下位作品ってとこがちょっと煮え切らない部分もあるんだけど。これ『スプートニクの恋人』とかだったらかなり違うんじゃないかな。確かにワタナベトオルは真のフェミニストたちから見ればダメダメだろうし。。でもさ、誰もハルキの書く女の人にリアリティなんて求めてないじゃん。あんな詩的な話し方する人たちいないことなんてわかってるよwそれを「直子にリアリティがまったくない」て言われてもなあ。(何故か上野先生は緑ちゃん絶賛だったけどw)支持する読者がバカだって言われてもなぁ;ドラマツルギーの構造解説も求めてないかなぁ。上野先生もいることだし、言ってることは間違ってないと思うよ。でもはっちゃけすぎだよ!!wこれは書かれたほうとしてはたまんないよ〜。ハルキかわいそうじゃん〜。ただでさえそういうの言われるの嫌いなのにさ〜。このひとたちやってるの批評じゃなくて、嫌悪感丸出しにした悪口大会だもん〜。上野先生はちょいちょい学問してるけどさ〜。しかもこんな目立つメンバーでさ〜。まーずいって〜。本にしないで居酒屋の個室でやってくれヨ!笑 これ読んで世間の女の人はスカッとするのかな?ほんとに?おいらなんか悲しくなっちまうけども・・・(誰だよ)大体、文学だって芸術なんだから、嫌いだったら読まなきゃいんだよ!それを「サクセスを求めているだけなのが見えすいている。この関西男(笑)」とか言うな〜ほっとけ〜!特に自分の書いた小説世に出すのって、丸裸で聴衆の前にさらされてるのと同じ感じだと思うんだよ!それにカケラの躊躇なしに石をぶつけまくる先生達!w本人とその読者がかわいそうだろ〜人それぞれの読み方があるんだから、ひとくくりにバカとか言わないでくれ〜うわ〜ん(泣くな) でもハルキやミシマはたまーーにほめられてるとこもあったし、一番たたかれ方が酷かったのは吉行さんとかかなぁ、やっぱ。まぁ、わからないでもないけど、そんなに嫌っちゃう?て感じだ(笑)。結局、一緒にこんな男達嫌いになりましょうって言われてるような気持ちになっちゃうし。。こんなこと言ってアンチフェミニズムととられたら困るが、どんな男だったらこのひとたちは満足するんだろうね〜。読みものとしちゃ確かにエンターテイニングだとは思うけど、先生達がよしとする女流作家の作品を題材にほめちぎるようなほうが断然読みたいわ。てか長いわ自分(°口°)

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著者プロフィール

上野千鶴子(うえの・ちづこ)東京大学名誉教授、WAN理事長。社会学。

「2021年 『学問の自由が危ない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

上野千鶴子の作品

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