命売ります (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
3.60
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本棚登録 : 6009
感想 : 635
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480033727

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    自殺に失敗した男が新聞に『命、売ります』という広告を出すところから話は始まった。

    前提として、この話は「社会における何らかの組織」にもはや属さなくなった主人公と、組織にいまだ属するその他登場人物に分かれている。
    「もはや自分の命なんていらないから、何でも割り切りまっせ」という主人公の飄々っぷりや、変な依頼をする様々な依頼人たちとのやり取りが読んでて面白かった。

    と、序盤から中盤にかけてはコミカルな展開なのだが、後半から一気に物語はスリリングな展開へと突入してゆく。

    終盤、次第に命が惜しくなった主人公は助けを求め始めるが、「組織に属さない」主人公を国家権力の警察ですら助けてくれないといった終わり方に。

    内容そのものもとても面白かったのですが、それ以上に社会から外れてしまうリスクについて、非常に考えさせられる1冊でした。


    【あらすじ】
    ある日、山田羽仁男なる27歳のコピーライターが自殺を図る。
    はっきりした理由はなかったが、あえて探れば、いつものように読んでいた夕刊の活字がみんなゴキブリになって逃げてしまったからだ。
    「新聞の活字だってゴキブリになってしまったのに生きていても仕方がない」と思った羽仁男は大量の睡眠薬を飲み、しかし救助されてしまう。

    自殺未遂に終わった羽仁男は、もはや自分の命は不要と断じて会社を辞め、新聞の求職欄に「命売ります」という広告を出す。

  • 命売ります 三島由紀夫
    【A;購読動機】
    タイトルで惹かれたのはいつの頃だろう? 中学時代か?はたまた、高校時代か?

    相当の年月が流れた。
    やはり、また惹かれた。いよいよ購読となった。
    なぜ、タイトルに惹かれたのか?
    自身の命を売るということは、どういうことなのか?どんな気持ちなのか?に関心があるということなのか? 

    自身でも、実は、あまりよくわかっていない。そう、「読みたい」という衝動だった。
    【B;印象】
    ミステリー ★★★★
    テンポ   ★★★★★
    意外性   ★★★★★

    読み終えての感想。
    「三島由紀夫の脳内、世界観は、凡人のわたくしには到底理解できない領域。よく、こんな構成を思いつくな・・・」
    である。

    【C;物語】
    出版社勤務の独身男性。病床で目がさめる。自殺に失敗したことを自覚する。
    一度捨てた命。彼は、新聞に「命売ります」広告を出す。

    買い手は、複数現れる。しかし、彼は、命をおえることなく、逆に買い手側で死亡するというめぐり合わせが続く。
    彼の死にたい気持ちが変化していく。生きたいかも・・・という欲求が芽生えていく。

    【D;解釈】
    主人公の生、死に対する考え方を観察できる箇所が複数ある。たとえば、F;のとおり。
    抜粋して、これからの箇所だけ読み返してみる。すると、下記のような解釈もできる。

    ・組織に属さない生き方。
    ・生活様式。たとえば家庭をつくり、その家庭に属すという生き方を志さないこと。
    ・目的をもって生きるのではない。生きながら目的を見出してくというプロセスも存在すること。
    ・社会は、己の臭いを気にしない個人の集合体だから回っていること。

    【E;読み終えて】
    なんなんだ、この小説は・・・。この構成、どうして思いつくんだ・・・。
    「命売ります」というメッセージ性が強いタイトル。
    そのタイトルに負けない、いやそれ以上に強い衝撃の展開。意外性とスピード感。

    人間、生きていると、こうした書との出会いも増えていく。
    改めて、過去から現在の作家のみなさんの作品に感謝、ありがとうである。

    【F;抜粋】
    250ページ
    ただあんた方が、人間を見れば何らかの組織に 属していると考える、その迷信を打破してやりたいんだ。そうでない人間も沢山いる。 そりゃもちろんあんた方もみとめるだろう。しかし、何の組織にも属さないで、しかも 命を惜しまない男もいるということを知らなくちゃいかん。 それはごく少数だろう。 少数でも必ずいるんだ。
    僕は命なんか惜しくない。僕の命は売物だ。どうされたって不服はない。ただ、無理 無体に殺されるのは腹が立つから、自殺しようとしているだけなんだ。あんた方全部を 道づれにしてね。

  • 主人公の心理変化とサスペンス性の高いストーリーが面白かった!

    死にたいと思った主人公、自殺すらセンチメンタルでしたくない。
    人の都合で死なせてほしいと自分の命を売るようになる。
    そんな主人公が危ない橋を渡りながら命拾いしていく中で生きている事を実感していったんだろう。
    ただ、どうしても社会倫理の中には違和感を覚える。
    生きている事の無意味さを考えつつ、本能として死にたくない。



    喜びも楽しみもチューインガムのように噛んでいるうちに味がなくなって道端にペッと吐き出される頼りなさ。人生の無意義。

    こんなセリフが印象的だったがそんな事言いながら、最後には生きる事に強く執着する羽仁男。
    そんな事考えない方が人生楽なのにと思いながらも、すごく人間的な感覚でリアリティを感じる本でした。

  • 三島の作品の中ではあまり知られていないが
    1968年、週刊「プレイボーイ」に連載された
    ハードボイルドでエロチックなエンタメ小説である。

    自殺に失敗した27歳の広告マン羽仁男は
    「命売ります」と新聞広告を出す。
    一度死んだ彼にとってこの世はもはや
    ゴキブリの活字で埋まった新聞紙にすぎない。

    だがなかなか命を売り切ることはできず
    次々と依頼が舞い込み
    さまざまな男女に関わるうち
    人間という不可思議の渦に巻き込まれて行く。

    エンタメ小説として最上級に面白いが
    そこは三島である。
    テーマは「死」だ。

    あの衝撃的な最期ゆえに
    私にとって三島は「死」そのものであり
    同時期に「豊穣の海 第二編 奔馬」を
    書いていたことを考えても
    簡潔な言葉の奥には
    人として生まれてきたことへの
    やりきれない絶望が見えてならない。

    純粋を求めれば存在の否定という無に行き着く。
    しかし無になりそこねれば
    人の世からハラリと剥がれたまま
    身の置き場もないままに
    時だけが過ぎて行く。

    生から剥がれないよう
    必死でしがみつくのが人生であれば
    しがみつく意味が見いだせないと
    手を離したくなるものだ。
    だが一度手を離したら最後
    たとえ無になれなくても
    もう元には戻れない。

    桜の花びらが排水溝に吸い込まれて行くように
    羽仁男はいともたやすく
    生に執着する者たちの世界に落ち込んで行く。
    集団としての彼らはあまりに強固だ。
    なぜなら自らの「無意味」に気づいていないからだ。

    1968年。日本人が自由をはき違え、
    アイデンティティを一気に失って行った時代。
    やはり羽仁男はまぎれもない三島なのである。

    ところでこの作品は多分映像化されると思うのだが
    羽仁男役は松田龍平さんがいいと私は思う。

  • 命や世間との距離感が離れたり、近づいたり。この人は、生きるということの意味を普通の人よりずっと強く感じたがっていたのじゃないかな。

  • 面白かった。
    年月が経っても、おもしろいものは面白いんだと感じた。

  • 「彼の人生の無意味は、だからその星空へまっすぐにつながっていた」

    自殺に失敗した男。おまけに過ぎない命を売ろうと広告を出すと、奇怪な事件に巻き込まれ…

    三島流ラノベ世界観の中に時折、命の哲学が見え隠れ。

    いやぁ、これは面白い。全く古びない!

  • こんなポップで軽い文体で書かれた三島作品があるとは。でも、やはり鋭さがそこかしこに見え隠れして、終始ハラハラドキドキしながら楽しめた久々の傑作。ときどき時代を感じさせながらも、今から50年前に発表されたとは思えない作品だった。

  • 三島由紀夫って重いとか難しいってイメージを持っている人にこれは読んでもらいたい。
    かく言う私も三島と言えば数冊読んだイメージがそういうものだったから、この帯を見て買って読んでみて良かったと思ってる。表現の美しさは残しつつ、小難しさを抜かした読みやすいエンタメ小説。純粋に面白かった。

    自殺に失敗して病院のベッドで目覚めた27歳の羽仁男は、どうせ捨てるつもりだった命だと思い、その命を売ることに決めた。そして新聞広告に出して待つと早速客がやってくる。
    羽仁男は依頼された仕事を遂行するために動き出すのだが…。

    自分の思想のために若くして自害した三島の、命や死に対する考えが描かれているのかなと思った。
    彼はけして命を軽んじていたわけではないし、死ぬのが怖くなかったわけでもないのかもしれない。

    命に限らず、執着が無くなると恐れも無くなるけれど、僅かでも執着が生まれた瞬間、それをなくすことに対する恐怖も生まれる。
    死ぬのが怖いと思うのは健全な証拠で、そういう感覚が薄れてしまうのはとても恐ろしいことなのだと思う。

    羽仁男の心理の変化はとても人間臭くて、最後は情けないと思えるほどだったけれど、そこが不思議と好もしかった。
    羽仁男に関わる女たちはみんな少しずつ壊れていて魅力的。変なのに色香がある。

    三島由紀夫の著書にはこういう堅くなくて深く面白い小説が他にもあるらしい。見方ががらりと変わった一冊でした。

  • マイファースト三島。激しい人だったようだがやはり小説も激しい。古臭くなくて読みやすくて驚いた。

著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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