京極夏彦が選ぶ水木しげる未収録短編集 (ちくま文庫 み 4-37)
- 筑摩書房 (1999年12月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480035387
感想・レビュー・書評
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1999年に出た本です。ちくま文庫さん。
京極夏彦さんは最近読んで。「うーん、なんて水木しげるっぽい!」と思っていたところ。(もちろん、京極さんの持ち味の何分の一か、という話ですが)
どうやら、やっぱり京極さんは相当な水木マンガ愛好家らしい、という情報を知って、衝動買いしました。
非常に玉石混交な短編集。「水木しげるさんのマンガはほとんど読んだ」、という強者ならいざ知らず、それほどでもないので。
特段、良かったの悪かったのと言う本でも無いんです。
水木しげる風のトボケタ味わいが、色んな角度、色んな作風で観れますね、ちょっと楽しいね、というマンガ本。
でも、そのなんとも地味で地道で狭いところを通してくるような本作り。
なんていうか…原稿料と広告費は、ほとんど、無い。でも面白い本を作るもんね、という淡々とした情熱。
さすが筑摩さん、という感じですね。
収録中の一篇、「屁島」というのが、僕は大好きでした。度胆を抜かれました。あまりに下らなくて(笑)、肩の力、腰の力、抜けまくりな名編。脱帽です。
######以下、備忘録#######
●「亡者の笛」(1960)は、現代劇の、怪奇ミステリー。なにやら言い伝えのある笛、学会内の功名争い、殺人。ごつごつした荒削りさがありますが、ちょっとギョロっと面白い。
モノクロな、黒が印象的な画調・演出は、今で言うととっても黒田硫黄っぽい、とも言えます。
ミステリーのドロドロ感で言うと、成程、京極さんっぽい、とは言えます。
●「おんぼろ小僧一番槍」(1961)は、時代劇、真田幸村の息子の大助の活躍を描く。大いにダイナミックな荒削りさはありますが、左程面白くは…。
●「なまけの与太郎」シリーズ計6作(1966)は、単純に「ゲゲゲの鬼太郎」の原型ですね。そういう意味での面白さはあります。ねずみ男も出てくるし。
もう、完全に水木しげるワールドは出来ている感じですね。
●「水晶球の世界」(1967) は、火星の風景が見える水晶、という、まあそれだけのお話ですね。
●「サラリーマン革命」(1969)
サラリーマン革命、というよくワカラナイ革命が起こって、実に何ともとりえのない山田さんが首相になるけれど…という。何とも説明不能な、腰砕けな短編。
●「屁島」(1972)
屁を美しくすることに価値がある、という、南の島風の世界で、「屁ーベル賞」を受賞した人が、それがプレッシャーで美しい屁を出せなくなる…。
実に、感動的で荘厳なまでに、圧倒的にクダラナイ掌編。馬鹿馬鹿しくて、愉快で、涙が出ました。
●「吉備津の釜 雨月物語より」(1972)
コレはコレで、いかにも、京極さんと水木さんを繋ぐ線のような。
実にがっぷり四つに雨月物語。
恨みつらみ、ヒトの悪業。なかなか力強い一篇。
●「地蔵和讃」(1974)
スパっと印象だけの、セリフの無いパントマイム掌編。
●「コチョコチョ菌」(1980)
これまた、実にどうでも良い馬鹿馬鹿しい、ナンセンスでちょこっと下ネタお色気のSF的短編。
●「てんぎゃん」(1995)
博物学者?なのかな?…南方熊楠さんの、少年時代の伝記漫画です。
これはなかなか、水木さんの食指をそそるような、オッたまげたマイペースな巨人ですね。
尻切れトンボ感が残念。水木さんの自伝マンガのような絵柄が良く合っています。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
あまり水木先生の作品を文庫に編纂されたもので読むのは好きではないが、本書はちくま文庫のためのオリジナル編集だそうなので、初版を探して読んだ。
うーむ、読ませるね。
強迫観念に殺される『亡者の笛』
カラー復刻がたまらない。塗りも古き良き時代を感じる。
『コチョコチョ菌』のオネエサンは色っぽくてエロいし。
『てんぎゃん』では南方熊楠の少年時代のエピソードの一端が知れて、「読んだ感」がある。
しかし他人にオススメするとすれば、まずはやはり代表作数作や戦争モノを薦めたい。 -
京極先生セレクトの御代の未発表作品集。
出だしの亡者の笛が素晴らしい。ホラーでありながら、あのオチ!