考えるための小論文 (ちくま新書 110)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480057105

作品紹介・あらすじ

論文は、なりよりも自分のモヤモヤした考えを明確にするため、またそれを他者に伝えるために書かれる。「自分とは何者か」から「人間の生」「現代社会の在り方」まで幅広いテーマを取りあげて、論文の「かたち」と「なかみ」をていねいに解説する。本書は、大学入試小論文を通して、文章技術の基本を身につけるための、最良の実用参考書である。と同時に、「書く」ことによって自分をつかみ、思考を深めていくための哲学の書でもある。

感想・レビュー・書評

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  •  論文とは、他者に自分を知って貰う手段の一つ。他者を説得しようと根拠を示しながら自分なりの意見を表明する。大学に入る為に求められる基礎レベルの教養だ。論文も、読者とのコミュニケーションの一種である。だから、誰もが納得のいくように論を進める必要がある。その際に、把握すべきなのは個人と社会の関係性、具体的事例と抽象的理論の関係性だ。今どんな社会が到来しているのか、そしてそれらが引き起こしている問題状況はどうなっているか等について、個人の生と深く照らし合わせながら論述する。

     そもそも、意見とはどのようにして形成されるのか。著者は、己がまだ認識できぬ隠された段階にある意見は、各人の抱える感覚や感情の中に眠っていると主張する。何かに対して心が動かされる、モヤモヤした感覚に囚われる。その靄の中から本当の自分らしい独自なる意見の芽を掬い取る事が大切だと語る。違和感だったり、怒りだったり、己に生ずる感覚を、まずは適切な言葉に置き換えてみる。感覚の精確な言語表現こそが、論文に書くべき理屈の骨子に変わるのだ。

     感覚は正直だ。嘘や偽りで誤魔化す事が出来ない性質を持つ。そして、一番奥深くに眠っている本当の声を探り当てるように、自分自身を掘り下げていく。そうすると、自分の意見とその根拠の有り様が、見えてくる。大切なのは、己を根本から捉え返す中で、当事者としての問題意識を強く自覚し、自分は何を求めているのかについて、真剣に考え抜く作業である。論文とは、考え続ける作業の過程が、言葉としての論述に置き換わっただけの話だから。

     一番云いたい事を結論に据えるのがベスト。或いは、自分自身が展開する論の主題に据えよう。その際に、社会に対する自分なりの接し方、処理方法を論述に組み入れていく事が望ましい。自分が成長すれば社会も違った角度で見えてくる。他者の存在自体が自分の中でその意味を変えていく。自分の意見の先に他者の声と態度があり、他者の声と態度が自分の意見に組み込まれて共鳴し合う。まずは、社会に向かって行く己の確かな意思表明からスタートしよう。

     他者がありありと他者性を開示してくる事もある。その中で恐怖を感じずに居られなくなる。だが、与えられた恐怖の根源は、社会を包む他者と自分を強固に関係させる相互作用の中で、次第に縮小へと向かうだろう。そのような補完的な関係性を樹立する上でも、コミュニケーションは最大の武器になる。様々な問題が絶え間なく生じ得る社会への関心と、其処への歩み寄りによって、己の生の価値はどんどん豊かな方向へ転じて行くだろう。そもそも、一般論としての解答などは、誰からも求められはしない。つまり、自分自身をより良く知って貰う為に、論文を書くのだから。

  •  「考える力」を身につけたいと思い、その一助となるような本を探していたのだけど、これは良い出会いだった。小論文対策として以上に、一人の人間として物事(人間の生や社会について)を考え、まとめることについて真摯に取り組んでいる本だ。 

     読んでいて思ったのは、「独自性ある文章」は思っている以上に簡単には出てこないし、かといって諦めるほど手の遠いものでもないんだ、ということ。
     普段から、私たちの周りには「もっともらしい正論」がそこら中蔓延していて、すぐに思考がそっちに引きずられてしまいがちだけれど、それは結局は考えた「つもり」でしかない。そうした紋切型の思考の軛から離れるには、素朴な問いに立ち返ること、粘り強く検討を続けて物事と自分を結びつけていくことが必要になる。
     残念ながら試験における論文には制限時間があるので、そんなことを言っていたらすぐにタイムアップが来てしまうが、普段の生活においては、その粘り強い思考こそが何よりも重要なのだろうと思う。その思考の繰り返しが、思考の深み、重みを生むのだと。
     実際にいくつか例を使ってその違いを見せられると、成程と頷くしかない。
     
     その問題についてどう問いを立てるか、抽象的に考えていくか、具体的に見ていくのか、歴史的視点はどうみるか、自分との引き付け方は…。そうやって細かく、慎重に考えを積み重ねていくこと。これは、とても面倒くさいことだ。しかし、この本はそこにある面白さを、伝えてくれる。考えまとめたものが「自分の経験」として確かに肉付けされていくのだと教えてくれる。とても素敵な本だった。
     

  • とうとうやらなくてはいけなくなった小論文のために、とりあえず手に取った一冊。全くの素人だったので読んでいて納得する場面が多く(特に前半)なるほどなあといった感じだった。備忘録的に自分なりだが小論文を書く流れを以下にまとめてみる。

    ①主題を掴む→②「問い」を発する→③主張を打ち出す
      ①出題意図の把握、
      「読む」:筆者意見の絞り込み、
           わからない言葉を考える、
           自分なりに言い換える
      ②問題状況の設定
      ③喚起力・解明力、具体例(自分に引き寄せる)、
       「自分⇔世界、具体的⇔抽象的」をまわす
       言えること、紋切り型(世の中の一般論)×
     ※感情(心の動き)と考え(普遍性、客観性を持つ)は違う

    正直どこまで理解し切れたのかわからないけど小論文を書く際の思考の組み立て方みたいなものはぼんやりと掴めたような気がする。時間は限られているがもっと練習したい。
    ちなみに理系なので、例題(特に後半)がつかみづらく難しかった。けどこの手の文章にももっと慣れて面白さを感じられるようになりたい。

  •  大学受験生向きの本のようだが、結構面白い勉強本。学生時代、このような文章を読むのが本当に苦手で、理系を目指したようなものだった自分にとっては、今、ようようと本書の内容がなんとか理解できるようになった段階。まだ途上だろうが、こういう思考ツールを詳細に書いてもらえると助かる。こんなことは基礎の基礎なのだろうが、中々できないもんであるとあらためて実感。
     それにしても最近読んだハウツー物より、数倍の効果が感じられるものだった。これをただ感じ、で終わらせずに復習、拡張していきたい。

  • 小論文入試を控えているため、

    1.評価される小論文とはどんなものか
    2.それを書くに当たって必要な力は何か
    3.その力をどのように養えばいいか

    について知りたいと考えて読んだ一冊。
    1、2については明確に知ることができた。3についても完璧とは言わないまでも、8割程度の、かなり明確ではあるけれども少しぼんやりしている、といった程度まで知ることができた。残りの部分は他の書籍や、実際に文章を書くことによって明確にできそう。
    自分の読書目的と本書の内容の一致度を考えると、非常に効率の良い読書だった。

    内容については、小論文の文章テクニックとかではなく、書く際の思考の軌跡をメインに据えて論じられていく。そのため、小論文を書く必要がある人以外にも十分役立つ一冊といえる。

  • ○試験の時は、構成案を固めるのに充分時間を使うこと。
    ○どんな主張も論理的には何らかの問いに対する答えとみなすことができる。
    ○喚起力は、自分の感覚をていねいに見つめ、そこに「ぴったりくる」言葉を紡ぎ出そうとする、なるべく根本なところから考えていく方法はないかと考える。ただ自分に訴えかける魅力の強さから判断するのではなく、あくまでも論理の強さ=考えの筋道そのものの強靭さから判断しようとすること。
    ○解明力は、明確に問いを発してそれに答えを出そうと努める習慣をつけること。
    ○実際に「読む」場合、課題文の内容を追いながら、その構成を把握するのと同時に、そうした自分の「声」を書き込んでいく方法が一般的だ。読みながら、ポイントだと思われるところを目立つようにかこみ、ポイントとポイントのつながりを確かめる。それと同時に、何か引っかかりを感じたり、心が動いたときにペンが動く。書き込まれるのは、○、◎、?、
    !のような記号と線、そしていくらかの言葉である。
    ○できるだけ多くの時間を、考えること書くことに割きたい。
    ○ベストのフォームは、常に模索され続けなければならない。
    ○与えられた主題と「自分」とがクロスするところに、論述の出発点としての主題がある。
    ○①読むことは他者との出会いである。②出会うことの意味は、触発されることにある。
    ○お定まりの、安易な反応を信用してはいけない。
    ○「深く思考する」というのは、性急に言葉を見つけようとしないこと、「もやもや」に何度も立ち返って、じっくりと言葉を探すことである。日頃の「鍛錬」がないと、実は出来ない。
    ○①筆者の主張をまとめる。②賛成か反対か述べる。③その理由を説明する。
    ○常日頃から自分や世界を「見る」ことを心掛ける。
    ○要約とは筆者のイイタイコト(主張の核)をとり出す作業。

  • 四十代のおじさん向けの本ではなかった。ターゲットは高校生かな?

  • 『勉強法が変わる本 心理学からのアドバイス』にて紹介。

  • コラム中の筆者の死生観に共感した。
    小論文は、世間一般で「常識」とされていることを書いてはいけないと分かった。

  • 小論文の基礎を学ぶに良い

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著者プロフィール

哲学者。京都精華大学社会メディア学科助教授。哲学者らしからぬ軽い風貌と語り口で若いファンを多くもつ。「普通の人々の心に届く新しい哲学を構築するのは彼しかいない」といわれる期待の学者。著書は、『哲学的思考』(筑摩書房)、『実存からの冒険』(ちくま学芸文庫)、『ヘーゲル・大人のなりかた』『哲学のモノサシ』(NHK出版)、『哲学は何の役に立つのか』(洋泉社新書y、佐藤幹夫との共著)など多数。現在、『哲学のモノサシ』シリーズを執筆中。

・もう一つのプロフィール……
だれに聞いても「怒った顔をみたことがない」という温厚な哲学者。学生からの人気はピカイチ。天才的頭脳の持ち主にしては「ちょっと軟弱」「貫禄がない」との評もあるが本人は全然気にしていないようだ。

「2004年 『不美人論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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