セーフティーネットの政治経済学 (ちくま新書 214)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480058140

作品紹介・あらすじ

バブル期から今日に至るまで「自己責任」や「規制緩和」がいわれ続けている。こうした市場原理主義的な政策と、無節操な公的資金投入を繰り返した結果、デフレが深刻化している。長期停滞から抜けだし、失業や年金不足といった将来不安を解消するには、セーフティーネット(安全網)を張り替え、大胆な制度改革につなげていくことが不可欠だ。ハイリスク社会に警鐘を鳴らし、「市場か政府か」という二元論を超えた、第三の道を具体的に提唱する。

感想・レビュー・書評

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  • 「セーフティ・ネット」という言葉を日本に定着させるのに大きく貢献した著者が、深刻なデフレに陥っている日本経済の問題を解決するための道筋を示した本です。

    著者は、日本が陥っているデフレ・スパイラルを、急激なリストラによって人びとが雇用不安を抱き、消費を手控えるため、ますます企業経営者はリストラを進めるという悪循環によって生じていると考えます。しかし従来の経済学は、こうした問題に直面してなお、市場競争を促進するための規制緩和政策を主張することしかできないでいます。現在のデフレの原因は人びとの慣習的行動の基礎となる制度やルールが解体し、長期の期待が形成できなくなったことで、上のような悪循環が生じているのであり、リフレ論者の主張するインフレ・ターゲットの設定によってはこうした問題はけっして解決されないと主張します。

    経済学におけるホモ・エコノミクスの前提を問いなおし、経済政策をより広い社会政策的な観点から考えていく著者の姿勢に素朴な意味での共感を覚えるものの、著者の主張するような社会政策のもとで、どのような経済状況がもたらされることになるのか、まだよく見えないと感じるところもあります。

  • チェック項目4箇所。「将来の不安を解消するために必要な制作は何か」という問いに対して、政府や主流経済学者たちの政策的主張である「減税」と答えた人はわずか13%、「財政赤字の解消」も12%であったのに対して、「福祉や年金制度の整備」が36%、「雇用の安定」が35%で合計すると71%に上っている、以上の結果は、新たに買うべき大量生産されたモノがなくなって経済が成熟段階に入る一方で、雇用不安や年金制度の動揺がデフレの悪循環を生み出していることを示唆している。介護保険制度……さらに問題なのは、療養型屏障郡つまり老人病院を介護保険制度に移行させて、特別養護老人ホーム(特養)の不足を老人病院で穴埋めしようとしている点である、老人病院は、明らかに特養よりも待遇が悪くて寝たきりを増やす、いわゆる社会的入院問題が生ずる。使用料の一割負担の導入によって低所得者層へのサービス定価が生じるのではないかと懸念されている。

  • 出版年月日が古く、情報としては古いです。内容も分かったような分からないような…という感じでした。
    自身の知識不足で、大まかにしか理解できませんでした、残念。

    グローバルスタンダード、まぁ実質アメリカのやり方を日本にも取り入れるのは危険で不毛ですよ、日本は日本なりのやり方をするべきで、アメリカを模倣してもダメですよ、と言っています。
    また、自由か平等か、大きな政府か小さな政府か、等の二項対立による二者択一は無意味で、第三の道を進むべきだと主張しています。このあたりは指摘通りまっとうなことを述べているので言及しません。
    社員の解雇規制はどうなんでしょうか?職業訓練(人的資本理論に基づく雇用政策『能力開発バウチャー』)して技術を身に付けても、リストラの第一対象は中高年層だから意味ないでしょ?と著者は言います。これは僕も別の視点から賛成します。というのは、能力を磨いたところで、その能力の需要が無ければ意味がないし、往々にして最近の若年者は高い能力を持っている人が多く、その能力の活用の場が無いことが問題であり、失業対策としては不十分だと思います。
    で、リストラに代表される能力主義が人々の行動を萎縮させ、ますます今の仕事にしがみつかせ、思い切った行動ができなくなると著者は言います。解雇規制はタイムリーな問題で、非常に繊細な問題ですが、政府は著者の主張と反対の政策を取ったようです。これは看過できない問題なので、今後の動向に注目です。

    本書終盤に出てくる著者の提言はそうそう簡単にできるものではないので空理空論に終わりそうな気がしますが、今までにない斬新なアイデアなだけに、検討の価値は大いにあります。
    本書が出て10年以上経ちますが、この間にどれだけの政策効果があったのでしょうか。著者の危惧したアメリカのバブル崩壊はリーマンショックとして世界中に影響を及ぼし、混乱に陥れたのは記憶に新しいです。この予言?は不幸にも当たってしまい、著者の先見の明と言えるでしょうが、10年もあれば恐慌なんて起こりそうなので凄いとも言えませんが、アメリカを端に発した不況が世界中に広がったのは瞠目です。
    内容は良かったのですが、一部理解できなかった部分もあり(僕自身の理解力であり不足忸怩たる思い!)、評価はAにします。

  •  著者は政治・経済の機能や役割を、「将来不安を取り除く」ことに求めているかのように、見える。
     そこで、書名に採用した「セーフティーネット」を「再構築することによって」「(将来不安を取り除く)制度改革」(44p)が、必要だと主張する。世に「閉そく感」ということを、言うではないか。そこのところに、経済学の立場で展望を開こうとしている、ようだ。

     「市場競争そのものは、セーフティーネットとそれに連結する制度やルールと切り離して存在しているのではない」(70p)とも、書く。
     市場原理や自由化、規制緩和、自己責任(新古典経済学派と括るらしい)を求めう学者、政治家、官僚が、他方で金融機関救済のために公的資金注入に対して、口をつぐむのはおかしいとも、言う。

     1999年の著作。その後の、あるいは直近の政治・経済状況に寄せる、最近の著者の見解を読んでみたい。

  • [ 内容 ]
    バブル期から今日に至るまで「自己責任」や「規制緩和」がいわれ続けている。
    こうした市場原理主義的な政策と、無節操な公的資金投入を繰り返した結果、デフレが深刻化している。
    長期停滞から抜けだし、失業や年金不足といった将来不安を解消するには、セーフティーネット(安全網)を張り替え、大胆な制度改革につなげていくことが不可欠だ。
    ハイリスク社会に警鐘を鳴らし、「市場か政府か」という二元論を超えた、第三の道を具体的に提唱する。

    [ 目次 ]
    プロローグ 病気と誤診―なぜ不況が長期化したのか
    第1章 経済学の失敗
    第2章 セーフティーネットとは何か
    第3章 市場の限界をどうとらえるか
    第4章 グローバルスタンダードの落とし穴
    第5章 セーフティーネットの再構築
    第6章 第三の道―財政中立的な制度改革
    エピローグ 信頼の経済学序説

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    [ 参考となる書評 ]

  • 今と成ってはもう古いかもしれない「セーフティーネット」というアイデア。学部違うのに毎回一番前の席を陣取って、毒舌な彼の授業を受けてました。この人好きだ。

  • 新古典派かケインジアンか、とかの二択に限らない道を示してますね。正直、具体性に欠ける気がするし、マルクス経済やってた人らしいし。でも、授業は楽しいんでこの教授は好きですがw朝まで生テレビとか、メディアでおなじみですよね。

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著者プロフィール

金子 勝(かねこ・まさる):1952年、東京都生まれ。経済学者。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学社会科学研究所助手、法政大学経済学部教授、慶應義塾大学経済学部教授などを経て現在、立教大学経済学研究科特任教授、慶應義塾大学名誉教授。財政学、地方財政論、制度経済学を専攻。著書に『市場と制度の政治経済学』(東京大学出版会)、『新・反グローバリズム』(岩波現代文庫)、『「脱原発」成長論: 新しい産業革命へ』(筑摩書房)、『平成経済 衰退の本質』(岩波新書)、『資本主義の克服』(集英社新書)ほか多数。

「2023年 『イギリス近代と自由主義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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