「できる人」はどこがちがうのか (ちくま新書 304)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480059048

作品紹介・あらすじ

今日のように社会構造が根底から揺らいでいる時代には、各自が固有の判断のもとに動くほかない。そのためには、オリジナルなスタイルをもつことが大切である。「できる人」はどのように"技"を磨き、上達の秘訣を掴んだのだろうか。スポーツや文学、経営など様々なジャンルの達人たちの"技"や、歴史の上で独特な役割を果たした人々の工夫のプロセスを詳細にたどり、新しい時代に求められる"三つの力"を提案する。

感想・レビュー・書評

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  • 斎藤先生が、まねる力、段取り力、コメント力という3つの力を中心に、「技化」、「スタイル」、「上達力」といったキーワードを追いながら、上達の秘訣を探るもの。スポーツ、棟方志功、徒然草から、デルスー・ウザーラ、アラーキー、ビョーク、村上春樹とめくるめく展開で、大変面白い。ロングセラーである理由がわかります。

  • 一芸に秀でた人は、みな何か重要な共通の認識を持っている、としばしば言われる。ある道において、相当なレベルまで上達をした人は、上達一般についての認識を得ているように思われる。また、何をやらせても上達が早い人がいる。このような人は、たとえ運動神経がそれほどよくなくとも、様々なスポーツにおいてある程度のレベルまで上達するのが早い。一方には、何をしても先が見えずに途中で挫折してしまいがちな人がいる。

    上達を根底から支えるのは、「あこがれ」である。これがなければ、上達に勢いはつかないし、そもそも上達することの喜びが生まれてこない。藤子不二雄が手塚治虫にあこがれたように、あこがれが根底にあれば、上達の意欲は湧き続ける。「あこがれ」や「志」のスケールが器の大きさだとも言える。

    この本で主題としたいのは、あることがうまくなるということよりも、自分のスタイルを見つけていくということそのものだ。やっていることが様々なジャンルに分かれていても、そこにある一貫したスタイルというものが感じられることがある。自分のスタイルを持つことができるということは、非常な喜びである。

    自分の得意技を自分で認識し、それをトータルにコーディネイトしていく。その原理、工夫を支えるのがスタイルという概念である。自分のスタイルを練り上げていくこと。このことは、単に何かが上手くなること以上に、人生において重要な意味を持つ。上達の秘訣は、スタイルに対する意識を育てることである。 自分のスタイルを実感できると、自分の生を肯定できやすくなる。自分の得意技を磨き、自分のトータルなスタイルを表現できることによって、自分の存在感を十分に味わうことができる。「上達の秘訣」は、この生の充実感を味わうための、いわば梯子である。
    では、この変化の激しい現代日本社会において、大人が子どもに伝えるべきものとは、何なのだろうか。 端的に言えば、それは、「およそどのような社会に放り出されても生き抜いていける力」であろう。
    私が考えるに、この「生きる力」とは、「上達の普遍的な論理」を経験を通じて〈技化〉しているということである。どのような社会にも仕事はある。たとえ自分が知らない仕事であっても、仕事の上達の筋道を自分で見出すことができる普遍的な力をもし持っていれば、勇気を持って新しい領域の仕事にチャレンジしていくことができる。
    彼の言語の学習の仕方は、徹底的に自学自習主義であった。テレビやラジオから言葉を聞き取り、それをノートにとって反復して覚えたり、積極的に日本人と話すことによって実践的に会話力を鍛えていた。向学心にあふれ、分からない日本語があるとどういう意味なのかとすぐに聞いてきた。
    よくみてまねをすればいい

    うまいひとのやることをよくみてそのわざをまねて盗む、これが上達の大原則である

    盗むべきポイントを絞りこんで見つめる。

    技を盗むちからは暗黙知を自分の認識力で自分にとっての形式知とし、暗黙知へとしみこませる作業である

    技を盗むということは段取りを盗むということでもある。自分自身で段とりが組めるようになるまで修練する。これは同時に段取り力を鍛えることにもなる。

    うまい人のやることをよくみてその技を真似て盗む。これが上達の大原則

    要約の基本は肝心なものを残しその他は思いきって捨てることにある。捨てるといっても全く無意味にしてしまうわけではなく切り捨てたものが残されているものに何らかの形で含まれているような関係を保っているのがベストである、要約力とは常に重みづけを意識していることである。

    どうしても決定しなければならないことを最初に明確にしその決定に必要になる範囲内で質疑応答が簡略に行われるという手順が基本

    要約力の基本は八割がたの重要度もった部分を見つける習慣である

    最重要の技に全エネルギーを傾注する

    本は行きだおれるものというぜんていでとりくむことによっておおくのほんがきゅうしゅうできるようになる

    全体の二割の部分をよんで内容の八割がたを押さえる

    ニッパチ方式
    そこの部分をしっかり読めば本の八割がたをつかむことができる。そのような二割をえらびとろうとすること。そうした意識をもつこと事態が要約力をたかめる

    重要なことがらが向こうからめに飛び込んでくるという間隔をもっていることが多い


    幹となる問いを設定する習慣をつけること。
    本を読む前にあらかじめ三つほどのキーワードを設定することによってばらぱらとめくるだけでもそのワードが飛び込んできやすくなる
    キーワードは太い幹のような磁石の働きをする。キーワードが向こうからめに飛び込んでくるようになるための練習法としてはパラパラとめくりながらキーワードがでてきたらさっと丸をつける方法が効果的

    彼のとったやり方は自分のプレースタイルをまぐしっかりきめ、そのプレイスタイルからしてもっともしよう頻度の高い技術を徹底的に磨くというやり方だった

    私がインパクトを受けたのは彼が試合でも練習同様にハードヒットできるということであった
    いろんな技術をもっていてもマッチポイントを握られた時のように重要な場面では信じて使うことのできる技はせいぜいひとつや二つ。練習と試合都のギャップの少なさをまのあたりにして技を限定して磨くことの重要性をいっそう痛感した

    通常技の会得には一万~に万の反復が必要だとされている。これだけの回数の反復練習を行うためには基本となる技を限定する必要がある。その基本技のなかでももっとも重要な古書をまた選び抜いてそこを集中的に反復練習する。これが技かのコツで湯

    彼の質問力の高さである。
    彼の主な関心はてにすの全技術をまんべんなく習得することにはなく、試合に勝つことに会った
    そのためにはプレイスタイルの確率が必要でありそれの中心となる得意技を伸ばしてきた

    スマッシュを安定させるコツとバックハンドでのストレートへのパッシングショットのこつ
    彼のかだ飯石きの明確さ 
    自分自身でジグソーパズルをある段階まで苦労して組み合わせてきたプロセスがあってはじめて一言のアドバイスがパズル全体を完成させる位置ピースになりうる

    ぱずるでいえばそれを教えれば残りのピースをとうじんがくみたてることができるような鍵のピースを見つける作業だ

    いくつか直すべきポイントがあるなかで各となるポイントを見つけ出すことがアドバイザーにもとめられる力量だ

    静観とはみるだけではない。みてチャンスを待つという意味
    仮に選手が間違った動きをしていてもそれがあとにどういう形でぎじゅつにきいてくるのか、これは瞬時にだめだと判断で似ないから。何をいつ言うのか、そのたいみんぐをまつ、そのタイミングとは選手ほんにんに潮が満ちるように課題が見えてきたときだ

    癖を技に返る、くせのわざか
    高い技術を追求する人間に精神は後からついてくる
    何をどう返るべきかを指示できるのもアドバイザーの重要な能力ではある。しかし一方でかえなくていいもの変えてはいけないものを教えてくれる存在も大変に貴重
    上達の秘訣は自分の癖やスタイルをわかってくれていてタイミングよくアドバイスをしてくれるパートナーや支障をもつこと
    例え自分の映像であってもそこからなにかを盗むという意識で望む
    写真の意味はみるものの観点と写真との対話関係においてうまらる
    脳の中のイメージとしてじぶんのすがだきゃっかんてきににとらえるということは達人の技
    めを前にみてこころをうしろにおけ
    高速で矛盾を連続処理していく彼の身体
    常に見通しと、バランスをテーマとして意識し続けることによって技かしてくる能力

    おなじものをまねしているとおもって結果として違うものになっているというのではなく、違いを性格に認識しているということ
    自分のなかで技術がどのような変形作用を被るのか、を的確に認識する力が上達にとってじゅうよう
    肩を何度も反復練習するのはそうした無意識に生じてしまうずれにたいして敏感になりずれを修正する認識力を育てるためである
    自分は今なんのためにやっているのかということについての正確な認識力を育てることが上達の秘訣
    たまの握りやふりだすときのひじと手首の関係といったものはミクロ的支店、ひとつの技術が自分のプレイスタイル全体のなかでどのような位置をしめるのかを認識するのはマクロ的支店
    何のためにその技術が必要であり、その技術が自分の全技術のなかでどのような位置をしめるのか

    癖や習慣を全て捨ててしまうのではなく全体のなかで、効果的な技になりうる可能性のあるものをアレンジして技として鍛えなおすのが癖の技かというコンセプト

    上達の理想のプロセスはベーシックな力を身に付けたうえで自分の癖を技かして得意技となし自分のスタイルを確立することである

    上達の究極の目的は自分のスタイルを確立することである

    そのものひとつにセザンヌの世界の見方解釈のしかたが込められている

    世界の書き方だけではなく世界の見方そのものにもせざんぬの一貫した変形作用が働いている。スタイルはもののように固有かしたものではなく、活動において生きて働く原理

    Fは各画家のスタイル

    絵画におけるスタイルとはその画家がはじめて示した世界と新しい人間の見方

    自分がスタイルを作っていくときにスタイルの模範とするものが先行者である。自分にとって誰がせんこうしゃであるのか。この問題意識を保ち続けることが上達の秘訣である。
    わだばゴッホになる。

    ビデオや連続写真を何度も繰り返し分析しながらみてひとつひとつのうごきやぎじゅつをぶんせつかしてとらえることが必要

    あこがれにあこがれる関係性


    フーシェは自分自身の特性を知っていた。ナポレオンのようなカリスマ的魅力があるわけではないが、雰囲気をかぎ分ける鋭敏な感覚はもっている。その特性を冷静に認識し徹底的にスタイルにいかした。

    影に隠れている自分が一番強いことを知っていた。



    分けても沈黙の技術堂にはいったトウカイ術
    心底を見抜き気持ちを汲み取る心理的堪能がそれである
    スタイルかんコミュニケーション

    技術のことは得意だが、代金の回収や金作りといった金に関することは比較的苦手としていた本田にたいして藤沢は金のこのは任せておける男であった。
    藤沢は本田にないものをもっており、考え方もかなり違う。しかし違うからこそ、パートナーとして組む価値があると本田は考えた
    お互い知らぬことについては干渉せず相手をしんじきって任せたこと
    藤沢とてを組んだことが決定的だった。あれはすばらしい人で私の人生を変えた

    このようにして徹底した技術やスタイルの本田を経営的な面から藤澤が支えるというクリエイティブなスタイルかんコミュニケーションが成立した

    勝とうとして売ってはいけない、負けまいと打つべきである。どのてが負けないかと考えその手を使わずに一目であっても遅く負けるてを選んでいくべきだ

    あやまちは簡単なところになって必ず起こすものです

    恥ずかしがらずに上手なひとのなかにまじって実践すること

    その道の決まりをはずさずにしっかり持続させること

    過ちの兆しを細かな点から察知する力、これが達人の力

    ファーストのときに、一級しかもたないよう「くふう

    初心の人二つのやをもつことなかれ、はじめのやになおざりのこころあり

    後では小さな利を捨てて大きな利に向かうことが必要。
    あちらこちらを適当に掘ってみるのではなくて、これと思い定めた一点に全勢力を傾注して深く岩盤を貫いて掘り進むことによってつきることのない泉をえる井戸堀のししつである
    道を極めるということは単にその領域の事柄が出きるというだけではなく、ある種の境地をも獲得する
    つまらないことでもいいからひとつの道を極めたものはなにかをつかんでいる
    上達するためには自分がまだ会得していないことに対する予感やビジョンをもつことが重要。それを会得するための練習メニューをたてることができれば上達は確実性を増す。

    ここで強調したいのはさまざまなものを上達論のテキストとしてみる習慣そのもののことである
    重要なことはこうした上達論的な観点を日常のさまざまな活動のなかで習慣かし、技かすることである
    技を修得かするためには繰り返し練習し量か質に添加する瞬間を逃さないことが重要である
    のうのこまわりを増やすためには早い店舗の集中した環境にみをおくのが早道

    頭の中の作業員何人起きてるか

    脳のギアチェンジという感覚
    自分の意識の状態にたいしての意識を性格にもつ習慣をつけること

    写真はカメラマンと被写体までの関係までをうつすもの
    被写体との間にクリエイティブな関係性が成立すること
    自分を目覚めさせるきっかけを自分の直感や身体感覚を手がかりにして差がし続けること。これがインスピレーションをうむこつ
    結城を技かする

    一流とよばれるレベルの人は誰でもが自分自身を上達させるコツをもっている。また一流の人間のしかたにはその人独自のスタイルをもっていることが多い
    基礎的な技術をマスターして、そのうえで自分の得意技をもち自分らしさを発揮できるそうしたスタイルを確立していくこと
    朝早く起きて夜は約寝て運動をして体力もつくる
    曲がりなりにも小説かになれたんだからとことんやるしかないよな?だから根性を据えてとにかく体をびしびし鍛えてやろうとそう決心したんだ
    不健康なものや毒をとりだしてくるためには体そのものが健康でなくては行けない
    技においては同じことの繰り返しが量的に積み重なるとあるときに質的な変化がおこる
    村上は集中力と持続力というのはコインの表と裏だという。どちらも鍛えれば互いを強めあう
    最初のにヶ月半は毎日つ久江ノ上に座ってとにかく何でもいいからかく。のらなくても楽しくてもとにかくどんどんかいていく
    仕事をしていて集中にはいるのがわかるときがある。それまでの時間がその言わばゴールデンタイムにはいるための除草機かんであるような、そうした高い集中上体がおとずれることがある
    肝心なことは高い集中の坪が来ることを確信できていること、その確信によってそこまでのしこみの期間を耐えることができる
    よく賭け事をやる人でつぎにどんなふだがでてくるのかすっとわかっちゃう人がいるね、それににている
    音楽を流用して文章を描く

    ランニングを本格的に始めた動機はたいりょくの問題である

    自分のからだのリズムと仕事のリズムを重ね合わせていくところに上達の秘訣がある
    画家が描く文章って情景がとてもきれい
    いきのながさ、つよさは凡そどんな仕事にも必要
    上手につかれることができれば上手に眠れる、上手に眠ることができればうまく起きることができる

    エネルギーの燃焼は大問題でありその燃焼のしかたには知恵がいる
    心地よい疲れの感覚、この感覚は私たちに生きている充実感と共に安らぎをあたえてくれる
    心安らかに眠りに落ちていく一番の好条件はしんしんの心地よい疲労感だ、この疲労感を習慣化し技かすることができればいきる上での基本技となる
    過剰なエネルギーを費やし充実感のある拾うに至るには上達しようとする意識は王道となる
    上達することのおもしろさは自分の技を身に付けることができることにある
    アリのままの自分よりも技を身に付けた自分のほうが重んじられてよいのではないだろうか
    段取り力や盗む力あるいはスタイルといった言葉を用いるだけでも自分のなかに埋蔵されている上達の体験が鉱脈として掘り起こされてくる
    上達の普遍的な論理を捕まえているからこそ新しい領域にたいしても結城をもってチャレンジすることができる。そうしたバックボーンをできる人はもっていると感じた
    些細なことでもいい、そこでの上達の経験を普遍化しつつ、他の領域の上達方へと応用していけることができる人とそうでない人との違いであると考えた
    目指すべき自分のスタイルの中でその練習がどのような意味をもつのかをかんがえるようになる
    新しいように見えるアイデアの多くは全く別の領域のコンセプトや記述の転用、アレンジ空埋まれている
    りょういしまたぎこしということじたいがひとつの技である。習慣化することによってうまくなっていく。
    別領域であっても自分とにたスタイルでやっている人たちの工夫を転用すること 
    方は上達の論理を具現化したもの。方を行うことによって自分のなかに自分をチェックする基準が埋まれ事故との対話が可能になる
    本当に必要な力とは真似る盗む力、段取り力、コメント力、という三つの力と、スタイルというコンセプト
    ひとは一般的に何かに上達しているという充実感をもっているときはむかついたりきれたりしにくいと考える。
    上達への憧れと確信をもって生活しているときにはエネルギーをうまく循環している

    領域を跨ぎ越すビジョンをもつとき同じことがらでも全く意味が変わってくる





  • 3、あこがれにあこがれる

    スタイルという概念は
    自らがどのような系譜に連なろうとしているかの問題意識を持ち、常に「先行者を」意識し続けること
    それがあこがれにあこがれる

    スタイルという概念を意識し、それを見抜く観察力を持つ

  •  本書は、何らかの学問的裏付けがあって書かれているのではなく、著者が集めた事例にラベルをつけて語るという帰納的な方法によって書かれている。
     筆者の優れた点は、この事例の意味合いを抽象化してラベルをはるという点にある。また、豊富な事例を集めることも得意のご様子。考えるための材料を沢山集めてくれているというのが本書の最大の価値だろう。
     したがって、この本の内容を消化するには、この逆を行えばよい。つまり、ラベルをいったんとりはずし、全体を断片化する。それらの断片を自分なりの切り口で再構成し、新たなラベルをはる。それこそ、筆者の重視する「まねる力」「段取り力」「コメント力」を駆使して本書を料理することで、本書で提供された素材も生きてくる。

    キーワード
    上達の普遍的な論理、スタイル、技、あこがれ、盗む、模倣、要約力、質問力、コメント力、カリキュラム構成力、二/八方式、関心の樹木系磁石、癖の技化、集中に入るシステム

    ゲーテ、蓮見重彦、世阿弥、棟方志功、フーシェ、ボルグ、マッケンロー、城山三郎、吉田兼好、デルスー・ウザーラ、アラーキー、村上春樹

    目次
    プロローグ
    第一章 子どもに伝える〈三つの力〉
    第二章 スポーツが脳を鍛える
    第三章 ”あこがれ”にあこがれる
    第四章 『徒然草』は上達論の基本書である
    第五章 身体感覚を〈技化〉する
    第六章 村上春樹のスタイルづくり
    エピローグ

    1)教育論の文脈
    ・「学校の主な役割は、物事ができない状態からできるようになるまでの上達のプロセス・論理を普遍的な形で把握させることにある。」というのは、ビジネスにおける会社の役割、スポーツにおけるチームの役割、などにもあてはまる。
    ・この本で言う「上達の秘訣」とは、特定のジャンルにおける上達ということではない。むしろある領域での上達の体験が核となって、他のジャンルの事柄にチャレンジしたときにも、その上達の体験を活かすことができるような力。それが上達の秘訣につながる。」
    ・「時代の全体的傾向として親切に教える役割の人間が増えてきた」
    ・「言う、ことではなく、見る、ことこそ指導者の役目なのです。」

    2)スタイル論の文脈
    ・「上達の普遍的な論理」とは、基礎的な三つの力を技にして活用しながら、自分のスタイルを作り上げていくということ。基礎的な三つの力とは、〈まねる(盗む)力〉、〈段取り力〉、〈コメント力(要約力・質問力を含む)〉である。
    ・「自分のスタイルを持つことができるということは、非常な喜びである。」
    ・「ここでいう「スタイル」とは、・・・自分の持つ諸技術を統合する原理である。」
    ・「スタイルを意識的に適用して絵を描くというわけではない。むしろ、絵を描くという行為の最中において、スタイルという一貫した変形作用の原理が働いているのである。」
    ・「元来スタイルは、一つの流派もしくは潮流のようなものである。」
    ・「スタイルという概念は、自分がどのような系譜に連なろうとしてのかという問題意識を鮮明にさせるものである。」
    ・「重要なのは、自分にあったスタイルを「選択」するということだ。」
    ・「自分の得意技を持ち、その世界において明確な関わり方、あるいは戦い方を為すレベルになってはじめてスタイルという概念は意味を持つ。」

    3)上達論の文脈
    ・「上達を根底から支えるのは「あこがれ」である。・・・「あこがれ」や「志」のスケールが器の大きさだとも言える。・・・自分が何に驚き、何に引かれたのかがわかるのは、むしろ上達を続けていくプロセスにおいてである。・・・出会ったものが持っているベクトルの方向性と強さに、自分のあこがれのベクトルが沿ってしまう。ベクトルにベクトルが反応してしまうこの現象こそが、上達を根底において支えるものだ。」
    ・「うまい人のやることをよく見て、その技をまねて盗む。・・・それを強い確信を持って自分の実践の中心に置くことができているかどうか。それが勝負の分かれ目」
    ・「言葉で教えてもらえる以上のものを身につけたいからこそ、「技」を盗もうという意識が生まれる。」
    ・「技を盗むためには、漠然と見るのでは不十分である。盗むべきポイントを絞り込んで、見つめる必要がある。」
    ・「熟達している者が、トータルに見れば自分よりも未熟な者から盗む場合もある。」
    ・「技を盗む力は、「暗黙知(身体知)」をいかに明確に認識するか」にかかっている。・・・コツは、この「暗黙知」と「形式知」の循環を技化することにある。・・・この循環には、的確な〈要約力〉や・・・〈質問力〉、〈コメント力〉などが大きな力を発揮する。また、仕事自体が「段取り」によって組まれているので、技を盗むということは段取りを盗むということでもある。」
    ・「〈三つの力〉と本を読むことを結びつけているのが、〈要約力〉である。・・・要約力はもっと広い観点から意味づけ直されるべきものである。たとえば映画を観て、そのあらすじや面白さを他の人に伝えられるのも要約力だ。また、武道や武芸における「型」も、要約力の結晶である。」
    ・要約力は、上達の基本である。上達するためには課題をはっきりさせる必要がある。その課題の設定が的外れであれば、上達は遅れる。重要な課題を絞りこむのに〈要約力〉が必要となる。その上で、自分にとっての課題を、様々な課題の中で重みづけをして、重要性の高いものをピックアップして優先順位をつけ、それをトレーニングメニューとして時系列順に並べていく。これが、いわば〈カリキュラム構成力〉である。」
    ・「ある動きをいつでも使えるような技にすることを〈技化〉と呼ぶことにすると、この技化は反復練習によってなされる。通常、技の会得には一万回から二万回の反復が必要だとされている。これだけの回数の反復練習を行うためには、基本となる技を限定する必要がある。」
    ・「上達のコツは、自分自身で自分の基本技を設定し、その基本技を身につけるためのミクロな練習法を工夫し、反復練習することにある。」
    ・「上達の秘訣は、自分の癖やスタイルをわかってくれていて、タイミングよくアドバイスをしてくれるパートナーや師匠を持つことだ。しかし、こうした存在が身近にいない場合もあるし、一人で練習しなければならないことも、実際には、多い。こうした状況において、無類の価値を発揮するのが、「型」である。・・・練習によって習得した型は、そうしたズレを修正する機能を持つ。「何がどれくらいずれているのか」という情報を、一回一回フィードバックできるところに、型の良さがある。」
    ・「映像から「意味」を取り出すのも一つの技なのである。」
    ・「上達という観点から見て重要なのは、主観的に感じられるものと外側から見られるものとの「すりあわせ」である。話をする場合にも、聞き手の立場になって自分の話を捉えなおすことのできる人は、話がうまい。」
    ・「技術が技として取り入れられるプロセスにおいては、各人のもっている身体性に沿って微妙な変形を受ける。この微妙な変形の工夫がなければ、その技術が身体に馴染んでいくのはむしろ難しい。」
    ・「何のためにその技術が必要であり、その技術が自分の全技術の中でどのような位置を占めるのか。こうした課題を認識するマクロな視点が、技の上達には大きな役割を果たしている。明確な目的意識が細かな工夫を生み出すからである。」
    ・「変化・発展のプロセスにある領域やオリジナリティ(独自性)が重視される領域においては、基本を押さえた上で、自分の癖を技にアレンジしていくやり方も、効果的である。・・・〈癖の技化〉というコンセプトである。」
    ・「上達の理想のプロセスは、ベーシックな力を身につけた上で、自分の癖を技化して得意技となし、自分のスタイルを確立することである。」
    ・「上達論が普遍的なものだとすれば、むしろ複数の道を進み、さまざまな領域の達人にあこがれてそのコツや極意を知りたいと思うような人が、上達論をなすのに向いている。」
    ・「上達するためには、自分がまだ会得していないことに対する予感やヴィジョンを持つことが重要である。
    ・「集中力というのは、・・・「意識のコマ割り」の多さである。」
    ・「自分の生来の才能に比して自分の望むものが大きければ大きいほど、こうした集中に入ることを偶然的な出来事ではなく〈技化〉する必要性が生まれる。」

    4)読書論の文脈
    ・「全体の八割の重要性をもつ部分を的確に捉える練習は、短時間に大量の本を要約するトレーニングによって高められる。」
    ・「「全体の二割の部分を読んで内容の八割方を押さえる」という課題をこなす練習をすることは、トレーニングメニューとして効果的である。本全体の頁数が二百頁とすれば、その一、二割、つまり、二十頁から四十頁程度を読んで、全体の主旨の八割方を押さえるという課題である。」
    ・「目次と前書き、あとがきを手かがりにするのは、基本である。」
    ・「三分で一冊の本を要約できるように読むというのは、無理な注文ではある。しかし、大学でこれを行うと、三分間の間に本の主旨を的確につかまえることのできる学生もでてくる。
    ・「自分の関心事やテーマ、あるいはキーワードをはっきりと持つことによって、いわばそれが磁石となり、他の様々な言葉がそれにくっついてくるのである。」
    ・「「幹となる問いを設定する習慣」をつけることである。」
    ・「キーワードの設定も効果的である。本を読む前にあらかじめ三つほどのキーワードを設定することによって、パラパラとめくるだけでもそのワードが飛び込んできやすくなる。二、三のキーワードを組み合わせて一つのまとまりのある見解にまとめる作業を、次の課題として行えば、本の要約が仕上がることになる。」
    ・「「キーワード間の関係を明確にする」という意識をもって、本をめくっていくことを通して、漠然とした読み方ではない効果的な情報の張り付きが起こりやすくなる。」
    ・「キーワードにざっとマルをする癖をつけておくと、後で読み返すときにそれが手がかりとなって理解を深めやすい。」

  • 残念ですが、タイトルが内容に完全に負けてます。徒然草や世阿弥、スポーツ選手から村上春樹まで、領域横断的に、熟達化と教育について理論を深めていく、素晴らしい内容で、大変学びになりました!

  • 新しい時代を求められる<3つの力>とはまねる(盗む)力,段取り力,コメント力(要約力・質問力)
    この本を読んだとき,我が意を得たり!とひざをたたいた。
    今まで20年近く「小学校の先生」をやってきて,ことばにならなかったことを斎藤さんがことばにしてくれた感じがした。
    上達するためにすべきことは何か。そして,上達への意識づけの大切さ。それを教えてくれる。
    スポーツと言葉を愛する彼だから共感するのかもしれないけど。
    スポーツや音楽を愛する人の文章にはリズム感がある。 私も村上春樹のスタイルに惹かれる。

  • 広義の教育論であり内容は良いのに、安っぽい自己啓発的題名で損している印象。プロローグの要約が体系的で素晴らしいので、それを読んで感じるものがあれば、読み進めればよいと思う。

  • つまらない

  • 世の中にはどんなことでも器用にこなしてしまう人がいる。彼ら「できる人」に共通していることは何か。上達の経験を普遍化し、他の領域においても応用していけることである。彼らは上達の論理を知っているのである。
    上達の論理は3つの基礎力からなる。「まねる力(盗む力)」「段取り力」「コメント力」の3つである。これらを元に独自の上達スタイルを構築する。
    ではそのスタイルを作り上げるためには具体的にどういった施策を行えばよいのだろうか。3つピックアップする。
    一つ目は憧れを持ち、それを維持すること。憧れが上達のためのモチベーションになる。二つ目はどんなことでも上達論のテキストとして見る癖をつけること。筆者は本書において「徒然草」をそのテキストとして紹介している。三つ目は領域跨ぎ越し。別分野における一流人の工夫を自分の領域にアレンジしつつ活かすのだ。

    重要なのは上達の論理という概念を知ることだと思う。これを知っているだけで日々の意識を変えることが出来るはずだ。

  • 2001年刊行。◆親が子どもに伝えるべきは「上達の普遍的な論理」である。そして「上達の普遍的な論理」とは、「『<まねる>(盗む)力』『段取り力』『コメント力(要約力・質問力を含む)』を技にして活用しながら、自分のスタイルを作り上げていくこと」というものとする。◇これに関する実例等を古今東西、芸術・スポーツから教育界まで広く渉猟し、説明する。個人的には、今の瞬間を常に意識的に生き、かつ、その帰結・目標まで見通しつつ生活していくことに尽きると思う。が、疲れる生き方ではある。時には、流されて生きたいからだ。

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著者プロフィール

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程を経て、現在明治大学文学部教授。教育学、身体論、コミュニケーション論を専門とする。2001年刊行の『声に出して読みたい日本語』が、シリーズ260万部のベストセラーとなる。その他著書に、『質問力』『段取り力』『コメント力』『齋藤孝の速読塾』『齋藤孝の企画塾』『やる気も成績も必ず上がる家庭勉強法』『恥をかかないスピーチ力』『思考を鍛えるメモ力』『超速読力』『頭がよくなる! 要約力』『新聞力』『こども「学問のすすめ」』『定義』等がある。

齋藤孝の作品

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