教育改革の幻想 (ちくま新書 329)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480059291

作品紹介・あらすじ

二〇〇二年度より新学習指導要領が実施される。この要領がめざす教育改革のねらいは「ゆとり」と「生きる力」の教育であり、それを実現するものが「総合的な学習の時間」である。これらをつなぐ論理は「子ども中心主義」であるが、この教育方針は本当に子どもたちのためになり、学校を再生するに足るものなのか?また、受験や詰め込み教育は本当に罪悪なのか?さまざまなデータを検証し、教育と日本社会のゆくえを見据えて緊急提言する。

感想・レビュー・書評

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  • ゆとり世代を生み出してしまった歴史的背景を概観できます。

  • 1 教育の制度疲労
    ・印象論・体験論にもとづく教育改革
    ・1999年7月 苅谷−寺脇対談
     論点1:教育内容の削減は「全員が百点」をめざす
     論点2:「自分で学びたい」という学習意欲を高めることをめざす
     論点3:学習指導要領の成果は教師たちのやりかた如何による
    →しかし、データからみると成果がでていない

    2 「ゆとり」と「新しい学力観」「生きる力」の教育
    ・「ゆとり」が必要と見る問題意識…「過度の受験競争」「授業についていけない子ども」「学ぶ意欲の欠如」

    3「ゆとり」のゆくえ
    ・受験競争が激しいとされていた時期でも、極度の競争はデータ上見られない
    4 「子ども中心主義」教育の幻惑
    5 教育改革の幻想を超えて

  • 105円購入2010-12-31

  • 2002年にすでにこのような本が出ていたんですね。知りませんでした。

  • 当時の「受験地獄」の実態を知らないで、ゆとり教育批判をするのは、お門違いではないか?ということに気付くことができた。

  •  現在はゆとり教育が否定され、脱ゆとり教育などと言われているようですが、この本は、ゆとり教育がまだ推進されていた2002年に出版された本です。

     この本が指摘していることは、「ゆとり教育が必要」とした根拠が、実にあいまいであるということです。例えば、中学3年生の帰宅後の勉強時間というデータが紹介されていますが、1975年をピークに勉強量は減り続け、2000年においては、ほとんど勉強しない、毎日ではなく、ときどき勉強するが、実に半数という結果が示されています。つまり、子どもたちは、少なくとも勉強が忙しくて生活にゆとりがないという状況にはなかったことが分かります。

     にもかかわらず、詰め込み教育や受験地獄という言葉ばかりが強調され、子どもたちが勉強漬けの生活を送っているかのような錯覚を抱いてしまい、ゆとりのある子たちにさらにゆとりを、つまりゲームをやる時間を与えてしまったわけです。

     さらに、教育改革と言いながら、具体的な手段や方法論を欠き、学校や教師任せの、例えば総合的な学習の時間のような、無責任な改革が進められていることも後半では指摘されています。問題認識があいまいなだけでなく、解決策もあいまいな改革がうまくいくはずがありません。

     もっとも、教育の難しさは検証の難しさにあります。人間の子どもが相手ですので、動物実験のようなことをするわけにはいきません。少なくとも、結果はどうであれ、よいかどうか分からないことはできないので、よいと信じてやるしかないわけです。しかも、一人の子にとってよいことが、他の子にとってよいかは分かりません。それでも、区市町村単位、都道府県、国単位で施策を決めていかなければなりません。

     ゆとり教育は、今となっては否定的な評価に落ち着いてしまいましたが、次の脱ゆとり教育にしても、将来の評価はまだ分かりません。教育改革に携わっている人はもちろん、これから携わろうとしてる人も、ぜひこういう本を読んで、教育に対する見方を広げて欲しいものです。

  • さまざまなデータを検証して、「ゆとり教育」が推進されてきた背後にある考え方が、もはや通用しないものになっていることを論じた本です。

    戦後、子どもたちの学習時間がどのように推移してきたのかを分析して、子どもたちが過度の受験競争に苦しんでいるという「ゆとり教育」の根拠になっている事実が存在しないことを、説得的に示しています。

    また、「生きる力」を育てることをめざす「新しい学力観」とそれに基づく「子ども中心主義教育」が、具体的な手段を欠いているために実効性に乏しいという批判をおこなっています。

    「ゆとり教育」の問題が喧しく論じられるようになり、その見なおしがおこなわれた今となっては、すでに広く知られるようになった議論ですが、それにしてもこれほど実際のデータを無視した教育論が推進されてきたことに驚いてしまいます。

  • 「ゆとり教育」に対して様々なデータを紹介しながら果たしてこのまま行っていって大丈夫なのか、「子ども中心主義」の問題点などを指摘している。2002年に出ているが、現在起きているコトをすでに予見しているので今読んでも十分参考になる一冊。

  • 子ども中心主義と伝統的アプローチの間にあるものはなにかを考えたいと思いました。どんなプロセスで子どもは意味や価値をつくっていくのか…。また、知識注入型でも必ず何かは構成(再構成)して意味づけていくという考え方には個人的に賛同するものの、構成主義的にどう他の人たちがとらえるかは興味がわきました。

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著者プロフィール

オックスフォード大学教授

「2023年 『新・教育の社会学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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