統合失調症: 精神分裂病を解く (ちくま新書 361)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480059611

作品紹介・あらすじ

これまで、「わからない病」「治らない病」として差別的に扱われてきた「精神分裂病」という名称が「統合失調症」に変わった。過労・不眠によって心が閉ざされてゆく発病までの初期段階から、対人恐怖・迫害妄想の段階を通り発病に至るまでの経緯を解明。心・身体・社会という統合的視点から、この病を了解的に捉えなおす。汎精神疾患論のアプローチから、精神病理を解体する。

感想・レビュー・書評

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  • 以前は「精神分裂症」と言われていた。
    しかしその病名には、「理解不能」「不治の病」「遺伝的要因」という誤ったイメージが染みついているため、15年ほど前に「統合失調症」とすることになった。

    名前が変わったことは知っていたが、やはり私もこの病気をイメージでしか知らなかった。
    緊張や不安からの自律神経失調、不眠などから発症するこの病気は、決して特殊な人間だけがかかるものではなく、しかし、今は心理・社会的治療と薬物療法で治り得る病気になっているのだそうだ。

    統合失調症に顕著にみられる症状として、迫害妄想(被害念慮)があるが、その中でも日本人に多く見られるのが対人恐怖症。
    これは三段階に分かれていて
    まず赤面恐怖症(恥ずかしい)
    そして表情恐怖症(嫌われてる?)
    最後は視線恐怖症(みんなが見ている→狙われている)となる。
    必ずしも段階を経るわけではないし、一つ所に留まることもある。

    同じ体験をした人が同じ受け止め方をするとは限らない。
    環境・性格・体験によって、病を発症しうる。

    「敏感性性格」とは、「無力性」(弱気)の中に弾力性(強気)の部分を含み、自分の体験への深い印象能力をもち、その体験をひそかに長い間自分の中で加工して外には片鱗をも示さない繊細な人々。
    我慢強い人に甘え過ぎてはいけないということだよね。

    ところで、夏目漱石がヤバい。

    “変物の持つ変物性が具体的にどういうものであるかは、まだ判明ではない。しかし、世の中一般の考え方、生き方とはどこか違っているということだけははっきりしている。世の中一般より自分の方が上等でまっとうだとは思っている。そして自分の中にある〈すき〉〈趣味〉をまげないで生きてゆきたいと思っている。世の中から〈狂愚〉と思われても、変人扱いにされても、頑固に自分を守って生きる頑夫漱石でありたいと思っている。”

    “私はこの世に生まれた以上何かしなければならん、といって何をして好いか少しも見当が付かない。私は丁度霧の中に閉じ込められた孤独の人間のように立ち竦んでしまったのです。”

    漱石、中二病?

    官費で海外留学をしたり、大新聞に連載をもったり、帝国大学で教鞭を取ったりと、傍から見ると順風満帆のような漱石は、生涯自分の心の中にある病的な頑なさや、とてつもない孤独などを抱えたまま、世の中と折り合いをつけながら社会生活を送ってきたんだなあ。
    そうして社会的な成功を得た人なんだなあと思うと、しみじみ「お疲れさま」と思う。
    そりゃあ胃もやられるよ。

    そのうち夏目漱石の作品を読もう。
    どうやって世の中と折り合いをつけていたのか、しっかりと読もう。

  • 今、現在、統合失調症と呼ばれるようになったかつての精神分裂病と呼ばれていたものの変遷のようなもの。多少、専門的で新書レベルを超えている。精神科医に感じる違和感は仕方がないものがある。こういう風に言葉を使ってある程度定義し共有し共に考えていかないことにはいけない側面もあると思うからだ。著書は、おそらく優秀な治療者ではないかと思う。かつての定義では捉えられないものを治療可能なものとして捉え直そうというのはクライアントを思っての結果だと思える。やはり、精神の極北というようなレベルには、日常の共感性を超えていて、大変な仕事であろうなと思う。絶望的な印象を受けつつなんとか道を探ろうとする姿勢には敬意を覚える。

  • 「組織に狙われ、監視され、迫害される」という迫害妄想型を中心に書かれている。どのように治療するかについてはほとんど書かれてない。
    http://www.geocities.jp/toku2501/byousiki.html

  • 薬理学の講義の中で、多少統合失調症に関する説明も受けていたけれど、それは、分子生物学的な観点を基調としたもので、本書の筆者の言うところの「人間学的」な視点は欠けていた。

    僕らは、DISC1だの、ドーパミン仮説だのと、客観的、科学的、物質的な視点から病気を見る立場に陥りがちだけれど、殊、精神科領域では、患者に向き合って、じっくり訴えを聞き、患者がどのような心的、外的な状況を経て今の状態になったのか、把握していこうとする姿勢が大切なのだと改めて感じた。
    特に本書では、主に筆者が体験した多くの症例が提示されており、大変興味深い。
    対人/社会恐怖様段階→幻覚・妄想段階→夢幻様段階
    という経過や、各段階への遷移について、本書を読んでおおまかに「了解」することができたように感じた。

    ところで、本書を読んでいると、独特の言葉/言葉遣いが多く見られ、読みづらく感じた。
    例えば、「了解」という言葉が、ディルタイ哲学的な意味で用いられており、慣れるまで、違和感が拭えなかった。
    また、筆者は本書の中で、先人の視点を度々援用しているのだが、その際それぞれ、病態の分類の仕方が異なっている。
    この人のこの概念は、ほぼあの人のこの概念に対応する、などといったことが述べられているのだけれど、
    正直言って、全てを追いきることはできなかった。
    これは著者の書き方の問題というよりも、精神医学に固有の難しさなのだろうとは思うが…。
    身体的な疾患と比べて、精神科が扱う疾患では、患者間の客観的な比較が難しく、そのため、分類も困難であるのだろう。

    精読したわけでなく、割にさらっと流して読んだけれど、統合失調症について症例に基づいた経過とその人間学的理解を得、精神医学の雰囲気を感じ取ることはできたように思う。

  • [ 内容 ]
    これまで、「わからない病」「治らない病」として差別的に扱われてきた「精神分裂病」という名称が「統合失調症」に変わった。
    過労・不眠によって心が閉ざされてゆく発病までの初期段階から、対人恐怖・迫害妄想の段階を通り発病に至るまでの経緯を解明。
    心・身体・社会という統合的視点から、この病を了解的に捉えなおす。
    汎精神疾患論のアプローチから、精神病理を解体する。

    [ 目次 ]
    精神分裂病から統合失調症へ
    1 精神疾患とはなにか?(精神の危機と自明性の喪失;狂と狂気;汎精神疾患論の提起)
    2 関係失調としての統合失調症(「精神分裂病」概念のはらんできた矛盾;迫害妄想論の展開)
    3 迫害妄想病の人間学的構築(迫害妄想型の三段階;対人/社会恐怖様段階;迫害的幻覚・妄想期;夢幻様状態)
    「慢性化」の問題と「経過型」について

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    [ 参考となる書評 ]

  • やや趣味に走りすぎの印象。もう少しスタンダードな内容を期待していたので残念。学問的には面白いと思うけどね。睡眠障害に注目しているあたりは臨床的に正しいと思われる。

  • 大学教員としては重要な知識。一般解説書としての執筆だろうが、やや難しい。
    専門性:★★★★☆

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著者プロフィール

1934年東京に生れる。1959年東京大学医学部卒業。精神科医。陽和病院名誉院長。

「2020年 『うつ病と躁病 【新装版】 現象学的試論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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