金融史がわかれば世界がわかる: 「金融力」とは何か (ちくま新書 516)

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  • 筑摩書房
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  • / ISBN・EAN: 9784480062161

作品紹介・あらすじ

本書は、世界の金融取引がどのように発展してきたかを観察しながら、今後の国際金融の展望を、実務的な視点から考えたものである。国際金融という場には、金や銀という一時代前の地金の問題や、中央銀行の役割、変動する為替市場、金融技術、資本市場といった現代的な問題が複雑に絡み合っている。これを網羅的かつ歴史的に捉えることを試みる。

感想・レビュー・書評

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  • ちょっと古い(2004年)の著書ということで、まだ中国経済が日本経済を追い抜いていない状況で書かれている。
    日本経済が中国に抜かれるのはもっと先だろうと当時は予測しているが、あっという間だったね。ノスタルジックな気持ちになりました。
    世界の通貨が英国のポンドから米国のドルに移っていく背景が良く分かりました。

  • ◆著者の造語「金融力」を軸に、これを保持していた英米の近代以降の英米の史的展開を踏まえつつ、デリバティブの拡充、ユーロ・元の台頭に見舞われる今を解説。もっとも金融デリバティブの功罪の甘い見方に疑問符も◆

    2005年(サブプライム危機は勿論、リーマンショックよりも前)刊。
    著者はチェースマンハッタンのマネージング・ディレクター、中央大学大学院経済学研究科客員教授。

     概括的に言うと、本書は、近代以降、著者の造語たる金融力を保有していたイギリス・アメリカの金融史・経済史を概説しつつ、金融力の源泉ともいうべき、金保有高、貿易収支を中核とする経済力が、いわゆる金兌換停止を来たしたブレトンウッズ体制崩壊の前後でいかに変容し、また体制崩壊後、アメリカの金融力を高めたと著者が目す金融デリバティブの内実と意義に触れ、さらに統一通貨ユーロが力をつけてドルに対抗できる状況にまで進展してきている他、元が国際通貨として勃興しつつある現代を素描する書である。

     とまあ野心的ではあるし、著作が意図していることは判らないわけではない。
     ここで、金融力とは、「金融政策への信頼性、民間金融機関の経営力、市場構造の効率性、金融理論の浸透度、新技術や新商品の開発力、会計・税制などインフラの強さ、金員運用力、金融情報提供や分析力など、総合的に評価した力量」を指すようだ。

     その中で、金本位制における金融力の機軸であった金保有を中核に据えて叙述する英米近代経済・金融史(金融覇権国盛衰史)は、通常とは違った角度、異質な視点から近代史を見せるものであって、まずまずの印象である。

     しかしながら、本来リスクヘッジの手段でしかないはずの、金融デリバティブ。これに関して、投資ないし投資類似の手法に変容していった問題点については、悲しいほどに等閑視している。

     ここで、著者は「金融デリバティブ」の正当化を、事故があるからといって自動車のない社会が望まれるわけではない比喩で提示する。しかし、その比喩の正当性は、自動車に欠陥のない社会の成立、欠陥のない自動車を作り上げる規制やルールの成立が大前提となっている。
     ところで、金融デリバティブの個人利用の場合(殆どは金融機関が強いて・引っ掛けて利用させる)、情報の過剰な非対称性、リスク蓋然性の不覚知に加え、オプション料の正確な分析・批判的分析が不可能であり、かつレバレッジの問題点を考えると、金融デリバティブにおいて、欠陥自動車と同様の趣きはないとは言えまい。
     このあたりの甘々の評価は、東京銀行出身、米投資銀行の録を食む者の宿痾なのだろうか。

     またブレトンウッズ体制後の金融秩序が、金本位からドル・オイル兌換体制へ移行との見方もある中、基軸通貨ドルの信用源泉として何を置いたのかという点では、本書は何も答えないままに、結果として価格変動により齎されるリスクの技術的回避策にすぎないデリバティブを説明するだけに止まっている。
     本書がデリバティブを説明する書であるのなら兎も角、金融論を世界史と絡めようとするのであれば、全く物足りないと言わざるを得ない。

     他方、現代については、金融力が亢進しつつあるEU(これが国際情勢分析としては甘いのだが)の統一通貨ユーロがドルに対抗する力を持ちつつあるとし、他方、元という新奇プレイヤーについても筆が及んでいる。あるいは、金融秩序制御に関する米国連邦制度準備理事会議長の手腕にも検討の先が。
     まあそれはいいのだが、今となってみれば(いや平成バブルを経ている我々においては当時でも)、制御不可能なバブル崩壊論とそのメカニズムを等閑視しすぎていて、甘さが残る。

     ただ、もっとも、ルールチェンジに関する欧米の貪欲さに比し、日本の官民金融担当者の遅い動きと、策定能力の低さに関する慨嘆は、なるほどと思わざるを得ないが…。

  • 金融がどのように発展して行ったのかを歴史をひもときながら、解説してくれる。

    以下に興味深かった点を述べておく。

    ①金本位制と通貨価値
    金が流入すれば、それだけ通貨の流通量は増えるため、インフレーションが起こる。この現象を拡大すると、金本位制のもとでは、貿易収支が長期的には均衡に至ることを説明出来る。貿易黒字国は輸出超過によって大量の金を備蓄することができ、金を通貨に交換することで市場の通貨供給量が増加する。すると、物価が高騰し、インフレーションが起こる。インフレーション下では、他国の財の方が自国の財よりも、相対的に安くなるために輸入が促進される。よって、貿易黒字国の輸入が増加し、結果的に貿易収支は均衡に至る。

    ②貿易収支と通貨価値
    円安であれば貿易黒字になることは自明の理である。輸出ではドルを始めとする外国通貨で利益を得るため、円に換算する必要がある。このとき、米国ドルが売られて日本円が買われるため、円高ドル安が進むことになる。同様に、貿易赤字または経常収支が赤字であれば、円安ドル高が進むはずである。しかし、実際には、こうした自動調節は起きていない。その大きな原因は、投機的取引やファンダメンタルズに応じた為替レートの変動である。

    ③スタンダードプアーズの始まり
    格付け会社として有名なスタンダードプアースの始まりは、19世紀後半にまでさかのぼる。当時鉄道の建設ラッシュで景況感が良かった米国では、鉄道会社が雨後の筍のように乱立し、収益性の高い会社とそうでない会社を見極めることが困難であった。この点を克服するために、スタンダードプアースは、鉄道会社の信用情報を金融機関に売却し、優良債権と紙屑の区別をしていた。

    ④金本位制の問題点
    金本位制の最大の問題点は、デフレの進行である。通貨供給量と金が厳密に固定化されているため、金の裏付けなしに、通貨供給量を増加させることができない。経済規模が拡大していくにつれて、さらに通貨供給量は必要とされるはずなのだが、金本位制では経済の拡大スピードと通貨供給がマッチしない。ゆえに、デフレへと陥る。

    ⑤スワップは金利の交換
    例えば、固定金利と変動金利でそれぞれ100万円を別々の人が取引しているとする。固定金利であれば、デフレになった際にも安定的に利回りを得ることができる。一方、変動金利であれば、インフレになっても資産の目減りをふさぐことが出来る。こうした2つの金利を交換するのがスワップ。

    ⑥証券化
    土地や教育ローンなど流動性に欠ける資産を証券化する。具体的には、それらの資産をもつ企業などが特別目的会社に資産を譲渡し、特別目的会社が証券を発行する。

  • 面白かったし、金融の歴史についてもっと深く知りたいと思った。

    金の精錬技術が発達する前は、銀本位制だった。アメリカ大陸で銀が豊富にとれたことにより、欧州はインフレに。16世紀前後の日本の銀も影響。価格革命。
    次第に金の価格が対銀比上昇、英国でも頭の痛い問題、ニュートンが造幣局長官として対処→結果として金本位制への契機に。
    1816年に本格的な金本位制に(〜1931年迄)
    20世紀初頭も、まだ金融観の中心。ポンド→ドルへの覇権争いの間でも。
    金と銀の交換比率は、長い間為政者の悩みの種だった。南北戦争もあって、FRB成立は遅かった。
    第一次世界大戦後、傷ついた欧州諸国に対してアメリカは債権国としての存在感を高めた。

    ユーロは実験
    ①為替リスク
    1.為替リスク消滅による資本市場の変化。欧州は国数も多く、輸出入の財務管理が極めて煩雑、無視できないコストがかかる。
    2.機関投資家にとってもポートフォリオにおける為替リスクの管理を簡素化。
    ②欧州諸国の財政赤字問題
    財政赤字をGDPの3%以下に抑制(うまくいってないが)

    スワップとは〜現在価値が等しいキャッシュフローの交換。

    1970年代〜USドルの弱体化
    1980年代〜レーガン時代、強いドルへ

    著者曰く、日本の金融にも優れた材料はある。インフラ、人材、熟練度の高い外為、集金能力の高さ、決済機能、有価証券管理等、資本の蓄積もある。

    金融立国は、金融でメシを食うのではなく、金融の円滑化を通じて経済の活性化を図ること、とのこと。至極同感というか、仰る通りだと思った。

  • 金融史を俯瞰出来る

  • [ 内容 ]
    本書は、世界の金融取引がどのように発展してきたかを観察しながら、今後の国際金融の展望を、実務的な視点から考えたものである。
    国際金融という場には、金や銀という一時代前の地金の問題や、中央銀行の役割、変動する為替市場、金融技術、資本市場といった現代的な問題が複雑に絡み合っている。
    これを網羅的かつ歴史的に捉えることを試みる。

    [ 目次 ]
    第1章 英国金融の興亡―地金からポンドへ(ポンドと銀貨の長い歴史;ポンドがめぐり英国経済はまわる ほか)
    第2章 米国の金融覇権―ポンドからドルへ(英国はなぜ動脈硬化に陥ったのか;新興国アメリカの挑戦 ほか)
    第3章 為替変動システムの選択―金とは何だったのか(ブレトンウッズ体制の時代へ;変動相場制の幕開け ほか)
    第4章 金融技術は何をもたらしたか―進化する資本市場(先物取引の誕生;金融技術はどう利用されたか ほか)
    第5章 二極化する国際金融―ドルvsユーロの構図(ユーロの驚くべき金融力;米国の金融覇権を支えるFRB議長 ほか)

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • ポンドからドルへの基軸通貨の変遷や金本位制からドル本位制への移行がいかにして生じたかという歴史をたどることで、金融力という概念が経済力やその他の概念とは独立して存在するパワーであることを明らかにする。
    その歴史はブレトン・ウッズ体制に象徴されるような国家間のパワーシフトという側面と、デリヴァティヴスをはじめとする金融技術の進化の側面を併せ持つ。基軸通貨=ドルに陰りが見え始めた21世紀、次の時代に向けた金融力を蓄えるためにとるべき方策とは何か、本書は明確にはしていないが、大筋でグローバリゼーションを背景とした金融自由化の流れを肯定していることは間違いない。
    ただ、金融の自由化が様々なプレイヤーを金融市場に呼び込むことで、短期的な不安定や急変動が生じても長期的には安定した金融市場の成長が見込まれる、という著者の説は一見もっともなようだが、それはあくまで金融市場(関係者)にとってという前提でしかない。昨今のサブプライム危機や投機的資金によって引き起こされているとする原油価格の高騰をみても、その福利を享受している人々の傲慢が金融市場のリニアな発展を阻害する段階となりつつあるのではないか、という懸念を強くしている。

  • 2011/6/14
    正直少し難しかった
    あ、陰謀論本じゃないです。

  • (後で書きます。良書)

  • 経済と密接な関係にある金融。その歴史的変遷と今後について書かれています。
    読むのに時間かかりましたが、内容は素晴らしいです^^
    詳しい金融技術や知識が得られる訳ではありませんが。。

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