「不利益分配」社会: 個人と政治の新しい関係 (ちくま新書 612)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480063168

作品紹介・あらすじ

財政赤字という経済問題と、少子高齢化という社会問題を背景に、日本はこれからしばらく「不利益」の分配、負担増の時代が続く。どの政党のどの首相が政権についても、この時代の宿命は避けて通れない。こうした時代の政治がうまく機能できるかどうかは、「政治家の技量にたいする市民の判断力」と、「政治力」の復権にかかっている。「利益分配」から「不利益分配」への転換点となった、小泉政権以前・以後の政治文化のちがいを明らかにするとともに、不利益分配時代の個人と政治と社会の関係をとらえなおす、目からウロコの政治学入門。

感想・レビュー・書評

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  •  小泉政権最終盤の2006年8月に刊行されたもので、小泉純一郎への評価にかなりの紙数が割かれているが、3年後のいま読んでも新鮮な内容だ。

     てゆーか、総選挙を目前に控えたいまこそ読まれるべき一書である。というのも、“小泉総理登場の前と後では、日本の政治がどう変わったか?”を、政治学者の著者がつぶさに分析した内容だからだ。

     田中角栄以後の日本政治は利益分配政治・バラマキ政治であったが、財政赤字の深刻化と少子高齢化の急速な進展、くわえて小選挙区制への移行によって、もはや利益分配政治をつづけることは不可能となった。
     これからの日本政治は、誰が首相となろうと、「不利益分配」政治とならざるを得ない。だからこそ、国民からの支持が従来以上に政治家の生命線となる。
     小泉はそのことを熟知していたからこそ、荒療治によって利益分配政治の時代を一気に終わらせた。「ポスト小泉時代」の政治家たちは、不利益分配政治の時代に突入したことをよくよくわきまえたうえで、国民を説得すること、国民の支持を集めることに力を注がなければならない。

     ……そのような認識に立ったうえで、著者は「不利益分配時代」に入ったことで政治がどう変わるか、これからの政治家はどのようにふるまうべきかを説いていく。
     著者によれば、それは「見せる政治」「魅せる政治」なのだという。言いかえれば「劇場政治」だ。

    《古代ローマの時代から、政治の要諦は「パンとサーカス」であるといわれてきた。食料の確保と娯楽の提供が政権維持のツボだというのである。いまの言葉なら「食の安全」と「劇場政治」となる。歴史の知恵をあなどってはいけない。》

     小泉純一郎が随所で“不利益分配時代の政治家のふるまいの模範”として称揚されるので、小泉ギライの人には不快な本だと思う。私も、著者は小泉に対して甘すぎるのではないかという気はする。
     しかし、小泉礼讃のくだりをナナメに読み飛ばせば、それ以外の部分には傾聴に値する卓見、思わずうなずく正論がちりばめられている本だ。たとえば――。

    《政治を論じるさい、わけ知り顔で「だれがやっても同じ」などと吐き捨てる人がいるが、これでは能力の差異がわからないおのれの不見識を披露しているようなものである。》

    《日本では「事実上」の首相公選制が確立してきている、というのが私の見立てである。法律上はもちろんそんな制度はない。だから「デファクト首相公選制」とでも呼ぶのが適切だと考えている。
     すでに、「密室の話し合い」による党首選びは、よほどのことがないかぎり、もう許されなくなってきている。談合的決め方は「見せる政治」の時代にふさわしくない。そんなことをすれば、それだけで十分、党のイメージを低下させるだろう。》

    《私は「たんなる俳優」では困るが、俳優の素質がまったくない人に今後の政治リーダーはつとまらないと思っている。いや、いつの時代でも、有能な政治家には役者としての才能があったにちがいないと思っている。》

     いまの時点で本書を読むと、「小泉という最高の手本がそばにいたのに、麻生首相は『見せる政治』『魅せる政治』がまるでわかっていなかったのだなあ」としみじみ思う。
     と同時に、マニフェストに「うまい話」ばかり並べている民主党は、時代遅れの利益分配政治をまだ引きずっているのだなあ、とも思う。

  • 小さな政府の行き着く

  • 小泉を無駄に礼賛しすぎ。
    まぁ政治システムに関してはなかなか記載しているけど。

    不利益分配政治vs.利益誘導政治

  • 日本が少子高齢化社会に突入し、従来型の政治が行えなくなるなか、小泉内閣政治に活路を見出し、これからの政治を司るべきというのが要約。なかなかにスマートにまとまってあって書いている内容も要諦を抑えているが、所々に字数稼ぎのようなムダな著述が見られるのが玉に瑕。

  • [ 内容 ]
    財政赤字という経済問題と、少子高齢化という社会問題を背景に、日本はこれからしばらく「不利益」の分配、負担増の時代が続く。
    どの政党のどの首相が政権についても、この時代の宿命は避けて通れない。
    こうした時代の政治がうまく機能できるかどうかは、「政治家の技量にたいする市民の判断力」と、「政治力」の復権にかかっている。
    「利益分配」から「不利益分配」への転換点となった、小泉政権以前・以後の政治文化のちがいを明らかにするとともに、不利益分配時代の個人と政治と社会の関係をとらえなおす、目からウロコの政治学入門。

    [ 目次 ]
    序章 小泉クーデタの真相
    第1章 「不利益分配政治」への移行
    第2章 ゆらぐ日本の政治文化
    第3章 不利益分配社会の国家像
    第4章 政治力の復権
    第5章 「見せる政治」と「魅せる政治」
    第6章 デファクト首相公選時代
    終章 首相の選び方

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著者プロフィール

(たかせ・じゅんいち)
1958年東京生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒業、
同大学院政治学研究科博士課程単位取得退学。
現在、名古屋外国語大学現代国際学部・大学院国際コミュニケーション研究科教授。
早稲田大学政治経済学部・商学部・社会科学部講師。
著書に『武器としての〈言葉政治〉?不利益分配時代の政治手法』(講談社選書メチエ)、
『情報と政治』(新評論)、
『サミット』(芦書房)など。

「2005年 『情報政治学講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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