アジア主義を問いなおす (ちくま新書 614)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480063182

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  • 1930年代のアジア主義の実態を明らかにしながら、現代のアジア外交について考えるための教訓を引き出そうと試みている、意欲的な内容の本です。

    「アジアの解放」というスローガンが侵略という実態に結びついた経緯を解きほぐしており、当時の政治と文化の複雑な絡みあいの諸相を知ることができました。とくに、三木清や蠟山政道らが参加した昭和研究会の「東亜新秩序」という原理の理念と実現可能性の双方にわたってくわしい検討をおこない、侵略のイデオロギー的な粉飾と切り捨てるのではなく、現実の歴史をどのように変えていく可能性があったのかということを検証しているところは、たいへん興味深く読みました。

    また著者は、閉鎖的なブロック経済を明確に否定した蠟山の「東亜新秩序」構想から、現代に活かされるべき教訓を読み取っています。アジア主義は、アメリカの一極支配に対する対抗原理と考えるべきではなく、世界経済のネットワーク化を形成する国際新秩序へ向けての構想として考えるべきだとする主張には、多くのことを考えさせられます。

    欲を言えば、「アジア主義を問いなおす」というタイトルで、しかも新書というスタイルで書かれた本なので、現代のアジア主義についても紹介してほしかったように思います。宮台真司の「亜細亜主義」には少しだけ言及されていますが、宮台の師匠筋に当たるマルクス主義哲学者の廣松渉も晩年にアジア主義の主張をぶち上げたことがあり、「アジア主義」というテーマのもとで考えるべき事柄はまだ多く残されているように思います。

著者プロフィール

井上寿一
1956年(昭和31)東京都生まれ。86年一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得。法学博士。同助手を経て、89年より学習院大学法学部助教授。93年より学習院大学法学部政治学科教授。2014~20年学習院大学学長。専攻・日本政治外交史、歴史政策論。
著書に『危機のなかの協調外交』(山川出版社、1994年。第25回吉田茂賞受賞)、『戦前日本の「グローバリズム」』(新潮選書、2011年)、『戦前昭和の国家構想』(講談社選書メチエ、2012年)、『政友会と民政党』(中公新書、2012年)、『戦争調査会』(講談社現代新書、2017年)、『機密費外交』(講談社現代新書、2018年)、『日中戦争』(『日中戦争下の日本』改訂版、講談社学術文庫、2018年)、『広田弘毅』(ミネルヴァ書房、2021年)他多数

「2022年 『矢部貞治 知識人と政治』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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