経営戦略を問いなおす (ちくま新書 619)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480063229

作品紹介・あらすじ

世の大半の企業は、戦略と戦術を混同している。成長第一で事業を拡大したのに何の利益も出なかった、という企業が少なくない。見せかけの「戦略」が、企業の存続を危うくする。目指すべきは、長期で見た利益を最大化することである。それを実現する戦略はマニュアル化になじまず、突き詰めれば人に宿る。現実のデータと事例を数多く紹介し、腹の底から分かる実践的戦略論を説く本書は、ビジネスパーソン必読の書である。

感想・レビュー・書評

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  • 経営戦略の大家である神戸大学の三品先生著の新書です。三品先生といえば、『戦略不全の論理』『戦略不全の因果』が有名ですが、読むのに気合が入ります。その点、こちらは新書なので、ハードルは低い。しかし新書といっても侮ることなかれ。かなり骨太です。

    個人的には第5章の『修練』が痺れました。学生、若手社会人、経営幹部に向けた熱いメッセージが書かれていました。三品先生のもとで学べた学生さんは幸せですね。

    ・人間観、世界観、歴史観、事業観を養う必要性
    ・仕事から逃避しないこと
    を学べました。

    【メモ】
    ・戦略の目的は長期利益の最大化にある
    ・優れた企業は成長を目的としない
    ・経営戦略の真髄はシンセシス(統合)
    ・戦略は頂点に座す人に宿る
    ・経営層における人材の集中と選択が必要
    ・優れた管理者が優れた経営者とは限らない
    ・経済史と経営史を学べ
    ・経営者を目指すなら精神の自立が必要

  • ■ひとことで言うと?
    広く深い「観」を身につけることが良い経営戦略につながる

    ■キーポイント
    - 経営戦略はアートに近い
    - ✕ 汎用的・拡大的・客観的、○ 限定的・選択的・主観的
    - 戦略は人に宿る
    - 受動的戦略観
    - 経営者の下す判断の傾向(スタイル)が戦略になる
    - 判断にはその人の「観」が反映される
    - 「観」を養う
    - 観=情報解釈の土台(フィルター)
    - 世界観・人間観・歴史観を土台として事業観がある
    - 「観」を養う ≒ 視野を広げる → 選択の幅が広がる ≒ より良い選択ができる可能性が高まる

  • 戦略と戦術を混同してしまっていた自分。
    この本は戦略を噛み砕いて説明してくれている。

    ・長期利益の安定成長を図ることが本当の戦略
    ・企業の方向性はコンテクスト(背景、状況)に依存
    ・戦略とは、立地に構えを重層的に絡めた上で均整をとること

  • 実は日本企業はほとんど成長していない。規模が拡大しても、皆、利益率は伸びていない。これは、戦略不全が起きているといること。そして、戦略とは、「立地」「構え」「均整」(全体像)のこと。これが、企業が、置かれたコンテキストのもとで描かれていること。現場が優れた日本企業の迷走は、企業風土や任期、育成などを背景とする経営者の課題。戦略は人に宿る。4つの観が大事。世界観、歴史観、事業観、人間観。プラス経験、度胸。人事、人選は不公平でよい。分業体制での現場実績は、経営者としての経験と能力を担保しない。自己選択の仕掛けを作って、帝王学を。
    最後の章では、学生には、大企業に就職するとはどういうことかと、観につながるリベラルアーツの重要性を、中堅社会人には、精神の自立を獲得するために、未開の荒野を切り開くべきことを。そして、幹部社員には、創業理念の研究(弾み車?)と無知の闇を覗くことをメッセージとして付記されています。
    1日で読める新書ボリュームながら、盛り沢山かつなんだか響きまくる気がしました。

  • 「経営戦略を問いなおす」
    三品氏が 戦略とは何?と質問し、社会人が説明できないシーンに出くわす。
    それが執筆の機会とのことです。

    執筆こそ古いですが、花王ライオン、キヤノンコニカの比較は現在こそ省みるテキストかもしれません。
    両者はなぜ利益に差異ができたのか?

    戦略とは立地そして均衡。
    キーエンスの記述も見逃せません。

  • 〜p128。これ以上は効率悪い。

    求めていたものと違ったことを抜きにしても、正直なぜ比較的高い評価を得ているのか理解できない本だった。

    おそらく最も大きな期待との乖離は、「どのように戦略を策定するか」という実務上の要請に応えようとした本ではないということ。その前提となる「戦略」について、失敗例と成功例を並べて論じているが、結局「人」だと結論づける著者の主張には、「だからどうした?」という不満しか生まれない。

    あと、確かに読みやすいが、それは平易な文章で書いているだけで、決してそれぞれの項目を説明する論理の流れが明快なわけではない。

    書いてあることは、的を得ているのかもしれないと思った。だが、それが何も生まなかった。

  • 某社の新社長が「事業の立地を替える」と言いはじめたが、中国からベトナムへ工場の場所を変えることではない。神戸大学の三品教授によれば、業種や売り先(産業・官公・量販など)、「誰を相手に何を納めるか」が立地の本質。立地によって業界の利益率に大きな差があり、荒廃した”立地”では神様でも高い利益率をあげることは無理だという。

    難しいのは、事業戦略にサイエンス的な普遍性があるとすれば、誰が考えても理詰めで理論展開すると、同じ結論にたどり着くことになるので、同じ戦略をもつ企業だらけになって、同質競争も招く。 戦略が合理的であればあるほど、誰もが同じことを考えるから、長期的な利益に繋がらない。一方で、戦略が非合理であると、うまくいくはずがない。

    実際、人口構成を合理的にみて「新興国」「ボリュームゾーン」という戦略をとる企業ばかりになっている。戦略にサイエンス的な普遍性・再現性があるから、同じ戦略がまたたく間に普及する。新聞メディアや経営コンサルタントが、さらに同じ戦略の普及を加速する。

    コンサルタントといえば、SWOT分析やポートフォリオ分析も、そこから導かれる結論に意味はないと言い切る。先に事業の構想やアイデアがあって、それを簡単に説明するためのツールではあるが、分析から事業の構想を導きだそうとするのは危険である。 

    松下幸之助、本田宗一郎、井深大、現代ではカルロスゴーン、ジャックウェルチ、サムヲルトン、更に稲盛和夫、スティーブジョブズなど、経営はいつの時代も人に依存する。 経営は普遍的なサイエンスではなく、ダビンチやモーツアルトなど、人の才能や生き様と密接なアートに近い。

    以上がこの本の前半で、後半は、だから人材の育成が必要だという。日本企業では有能な管理職がそのまま経営者になることが多い。だからバランス重視の調整型経営に終始する。 しかし、管理職にもとめられるものと、経営者にもとめられるものは、異なる。 協調性が重視される管理者は、普遍性・再現性のあるサイエンス的な仕事だ。一方、経営者に求められるのはアートに近い「その人ならでは」の独立心とアイデアだ。

  • 昨今は、とかく「戦略」という言葉が用いられがちです。でも、改
    めて戦略とは何かを問われると、きちんと答えられる人は多くない。
    にもかかわらず、少なくともビジネスの場面においては、戦略のこ
    とを語れないといけないような空気がある。そこに落とし穴がある
    のではないか、という問いかけから本書は始まります。

    確かに、改めて戦略とは何かと聞かれると、答えに窮しますよね。
    戦略という言葉は、その意味をよくわかりもせずにしたり顔で使わ
    れてしまう言葉の典型でしょう。だから、改めて戦略とは何かが問
    い直される必要があるのです。

    戦略的という言葉は、ロジカルとか、合理的とか、とかくこちらか
    ら何かを仕掛けていくようなイメージの強い言葉です。しかし、本
    書では、そのような戦略観は否定されます。戦略は、「次々と飛び
    込んでくる情報への処し方」で決まるものであって、従って、それ
    は、言葉にできるものでも、つくるものでもなく、「頂に座する人
    に宿るもの」だからです。

    そして、人に宿るものだからこそ、観(K)と経験(K)と度胸(D)
    が戦略の要になる、というのが本書の基本的な主張です。これは、
    世の中の経営戦略論の多くが、KKDからの脱却を説いているのとは、
    極めては対照的です。ただし、ここで言うカンは、「勘」ではなく、
    「観」(ものの見方)であることに留意する必要があります。

    著者の言う「観」とは、直接的には事業観のことですが、この事業
    観をつくるものとして、その人の世界観と歴史観と人間観という三
    つの観を挙げています。そして、これら三つの観は、広義の教育に
    よるもの、いわば「教養の土台」ですから、スキルとして教えられ
    るものではありません。自らつかむしかないのです。そういう意味
    では、その人の生き方そのものが観をつくる、とも言えるでしょう。

    そう考えると、経営戦略とは、経営者の生き様から導かれるもの、
    いや、生き様そのもの、と言ってもいいのかもしれません。だから
    こそ面白くて、奥深くて、難しいのです。

    経営戦略とは何かについて目から鱗が落ちる思いをしながら読み進
    んでいるうちに、気づくと自らの生き様について考えさせられてい
    る、そんな好著です。是非、読んでみてください。

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    ▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

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    それなりに頭の良い人が、推論の過程を途中で間違えることは滅多
    にありません。間違えるとしたら、推論の前提となる仮定の方です。

    優れた企業は成長を「目的」としません。目を見張るような成長を
    遂げていても、それはあくまで「結果」に過ぎないのです。「目的」
    は、実質のあるところにあり、それが大きな価値を生み出すから自
    然に顧客が集まってくる、その結果として成長が実現する、そんな
    因果になっています。

    売上は、伸ばすより選ぶことが肝心なのです。また、そういう節操
    を保つことが、経営の奥義と知るべきでしょう。

    戦略の真髄は、見えないコンテクストの変化、すなわち「機」を読
    みとる心眼にあると言ってよいかと思います。もちろん、心眼は人
    に固有のものであり、そこに戦略の属人性が根ざしているわけです。
    主観に基づく特殊解、それが本当の戦略です。

    企業の命運を分ける戦略は、まさにここにあります。そう「立地替
    え」です。荒廃の進んだ旧天地を捨て、新天地に打って出る。これ
    をいかに実現するかという話です。「立地替え」は掛値なしの難業
    であり、時間もかかります。であるがゆえに、戦略の核心となるの
    です。

    日本の企業においては、事業部長職が事業部制に潜む矛盾の吹きだ
    まりのようになっています。うまくいってもいかなくても腰掛けの
    ポジションで、求められるのは事業計画の達成だけ。そうなれば、
    事業の将来像を語る人間はバカという話しになってしまいます。遠
    い未来のための戦略よりも、今日の飯の種。そんな風潮が生まれる
    のは、火を見るより明らかでしょう。
    これが戦略不全の深淵です。

    日本企業は、ここ数年、「事業の選択と集中」を精力的に進めてき
    ましたが、本当に必要なのは経営層における「人材の選択と集中」
    なのだと思います。

    戦略とは「本質的に不確定」な未来に立ち向かうための方策です。

    事業を取り囲む今という時代をどう読むのか、それさえ定まれば、
    為すべきことは自ずと決まります。(中略)その意味で、戦略の本
    質は「為す」ではなく、「読む」にあります。経営者が持つ時代認
    識こそ、戦略の根源を成すのです。

    戦略が人に宿るとすれば、戦略そのものを選ぶことはできません。
    そのかわり、人を選ぶことで戦略を間接的に選ぶという図式が成立
    します。

    経営は何をもってするものなのでしょうか。答は事業観です。

    見えない未来に向かって、時代の趨勢を読み、世界の動向を捉え、
    技術と市場の進化を予見し、大きな投資判断をするとなると、求め
    られるのは専門知識の深さではありません。実務能力の確かさでも
    ありません。視野の広さこそ、モノを言うのです。まさに歴史観や
    世界観、そして人間観が問われます。

    疑惑、反感、不満、この類の感情エネルギーが盛り上がってくると
    きは、自立を遂げる好機だと思います。そんな好機を活かす鍵は、
    少なくとも男性の場合、一人になることかもしれません。私は、ア
    メリカ北東部の丘陵地帯を週末にひたすら歩きました。木漏れ日を
    浴びながら、自然の営みを見つめながら、ただただ歩くのです。
    (中略)
    こういう時間を積み重ねると、自分は自分と、不思議なことに腹が
    据わってきます。そして不安が消え去ります。自分の人生など、雄
    大な時の流れの中のほんの一コマに過ぎないことがわかるせいかも
    しれません。道無き道を歩いても、どこかにつながることを知るせ
    いかもしれません。何とかなる、何とでもなる、そんな気がしてき
    ます。組織にしがみつく発想も消え失せます。

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    ●[2]編集後記

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    今日は出張でロンドンに来ています。ロンドンに来るのはかれこれ
    7年ぶりくらいでしょうか。ずいぶんと久しぶりです。

    夜に着いたので、街を味わうどころではないのですが、それでも、
    日本とは明らかに違う空気を感じることができました。住んだこと
    があるわけでもないのに、何故だかとても懐かしい感じがして、わ
    くわくしてきます。

    ヨーロッパが特に好きというわけでもないのに、何でこんなに懐か
    しくもわくわくしているのか、自分でも不思議な感じがしました。

    久しぶりの海外だから、というのは勿論あるのでしょうが、わくわ
    くしているのは、きっと、肌の色が違う人に囲まれているからだと
    思います。最近は東京もいろいろな肌の色の人が増えましたが、ヨ
    ーロッパにくると明らかに多様性の質が違います。白人は勿論です
    が、インド系、アフリカ系、アラブ系の人が多くいるのを見ると、
    ここは異国なんだなぁという気分に否が応でもさせられます。

    多様で異質な環境というのは、人をわくわくさせ、自由な気分にさ
    せるものなのですね。そんな当たり前のことを忘れていました。

    懐かしく感じるのは、きっと古いものが多いからです。電車も車も
    駅の設備も、ハイテクでツルツルの日本に比べると、随分と無骨で
    す。鉄の匂いや手の匂いがしてきそうなものばかり。おまけに、照
    明はまだほとんど白熱灯ですから、光がぼわんとしていて、柔らか
    い。ホテルから見える夜景は、東京に比べて圧倒的に光が少ないで
    すし、黄色っぽいというのか、赤っぽいというのか、白っぽい東京
    の夜景とは明らかに雰囲気が違います。

    イギリスが遅れている、というのではありません。当然、日々、変
    わっているのでしょうが、簡単には変わらないもの、確かな手ごた
    えのようなものがここにはある。もしかしたらそれは日本が既に失
    ってしまったもので、だから懐かしく感じるのかもしれません。

  • わかりづらい。ポイントとして重要な点もありそうだがそもそも読み進められず。

  • 経営者は、戦略とどう向き合えばよいのか?時々刻々と変化する状況に、いかに対応すればよいのか?経営戦略の専門家が、一般論ではない、実践的な戦略論を指南する書籍。

    戦略の核心をなすのは、次の3つ。
    ①立地:事業を構える「場所」。需要があって供給が少ない立地が望ましい。
    ②構え:立地以外の、後からでは簡単に変えられない要素。小売業でいえば、店の基本設計や、商品の展示密度など。
    ③均整:会社全体のバランスを取ること。すべてが無駄なく稼働するよう、ボトルネックを解消する。

    戦略は、不確定な未来に立ち向かうための方策である。想定が崩れた時、新しい展開にリアルタイムでどう対処するか、それが結果として戦略になる。その判断を下すのは、経営者。

    予想外の展開に対処する時、次の3つ(KKD)が判断のベースとなる。
    ・観:人の受けた教育を投影するモノの見方。「世界観」「歴史観」「人間観」の集大成として、自ら営む事業の見方、「事業観」ができ上がる。
    ・経験:不確定な未来に立ち向かう時、答のない問いに取り組む時、自らの経験が拠より所になる。
    ・度胸:戦略は理詰めで解けるものではない。不確定な未来に向けて手を打つ以上、最後は思い切りが必要である。

    人が替われば、戦略が変わる。企業は、外部の人材を登用するなど、人選により戦略を間接的に選ぶことができる。

    人を選ぶ際は、「パーソナリティ(性格、人柄)」や「キャラクター(品性、人格)」ではなく、「テンパラメント(気質、感受性)」を基準にする。これは、人が何を楽観し、何を悲観するかを決めるものだ。そういうテンパラメントが、経営者の「観」の形成を左右する。

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著者プロフィール

三品 和広(ミシナ カズヒロ)
神戸大学大学院経営学研究科教授
1959年愛知県生まれ。82年一橋大学商学部卒業。84年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、89年ハーバード大学文理大学院企業経済学博士課程修了。同年ハーバード大学ビジネススクール助教授、北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助教授等を経て、現在、神戸大学大学院経営学研究科教授。

著書:
『戦略不全の論理』(第45回エコノミスト賞、第21回組織学会賞(高宮賞)、第5回日経BP・BizTech図書賞受賞)
『経営は十年にして成らず』
『経営戦略を問いなおす』
『戦略不全の因果』
『戦略暴走』
『総合スーパーの興亡』
『どうする? 日本企業』
『リ・インベンション』
『高収益事業の創り方(経営戦略の実戦(1))』
『市場首位の目指し方(経営戦略の実戦(3))』
『モノ造りでもインターネットでも勝てない日本が、再び世界を驚かせる方法』
『デジタルエコノミーと経営の未来』(共著)
『信頼とデジタル』(共著)

「2022年 『企業成長の仕込み方(経営戦略の実戦(2))』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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