そもそも株式会社とは (ちくま新書 646)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480063519

作品紹介・あらすじ

相次ぐM&Aにより、「会社」をめぐる論議が高まっている。しかし、株式会社の本質からすると、それらの主張の中には感情が先走った誤解や論理的とはいえないものが少なくない。そもそも株式会社とは何か。本書は株主主権か従業員主権かの対立をめぐる問題点と日米の企業統治の差異を検証し、冷静に株式会社を考えるための土台を提供する。

感想・レビュー・書評

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  • 会社は誰のモノか?っという言葉が聞かれた時期があった。ライブドア事件でのフジテレビ買収劇で一躍有名になった出来事があった。
     株主重視型経営は、企業特殊的人的資本投資を阻害するものではないことを指摘するが、従業員の勤続を通じて職業能力を高めていく事も重要である。終身雇用が崩れている現代では、新たなる雇用持続性を考える形がきている。

  • 序章 会社はだれのものか
    第1章 アメリカ型企業統治
    80年代の企業買収とその評価
    第2章 日本企業の行動と日本型企業統治
    戦後日本の会社経営
    日本型企業統治とは
    第3章 日本型企業統治の評価
    日本型企業統治の肯定的・否定的評価
    第4章 従業員主権論とその問題点
    従業員主権の根拠と企業統治の改革案
    従業員主権論の問題点
    第5章 株主主権とは何か
    株主主権の原則
    株主主権に対する批判と疑問
    第6章 株主主権型企業統治の問題点とその改革
    情報の非対称性問題
    経営者を株主重視へ促す改革

  • 何が言いたいのかはなんとなくわかりましたが、一度も企業で汗水流して働いた経験のない学者が書く本は説得力というか、何も響くものはありませんでした。
    新書だし、まぁそんなもんですかね。

  • 新書文庫

  • ゼミのテキストで使用。論点がわかりやすく、明快。

  • 株式についてややわかった気になる本です。
    買収によって業界が合理的になることもある。
    敵対的買収は上手くいかないことのが多い。
    株主が一番リスクを負っている。

  • 株式会社というもの概略を非常に短い時間でつかめるように書かれた本だと思う。

     従来はアメリカ型企業統治とは、株主の利益を優先する「株主主権型企業統治」と考えられてきた。だが1980年の頃は株主の経営に対する支配が及ばなかった(例:石油産業)。そこに目をつけたのがブーン・ピケンズ氏を始めとする乗っ取り屋で、敵対的買収を次々に行ったのだが、これに対し企業は抜本的な企業再構築を行っていったところ、結果的に企業内統治、生産性向上、技術の進歩が改善したというデータがある。
     が、当時エズラ・ヴォーゲル氏(ハーバード大学教授)により提唱された「ジャパン・アズ・ナンバーワン」に勇気づけられていた日本は「株主の利益を優先したことで、従業員の技術・知識の毀損や取引先との関係の悪化が起きた、ただの賃下げと解雇による従業員から株主への富の再分配に過ぎなかった」という見方をするようになったと、筆者は推測している。なお、筆者は一国の雇用を増やし、非自発的失業を減らす取り組みは、企業ではなく政府の仕事であると、企業にすべての非があるわけではないと述べている。

     戦後の日本の経営は「終身雇用・年功序列賃金・企業別労働組合」の3セット、特に終身雇用を特徴としているが、この発端は大正時代の「会社で技術を身につけた職人が、より賃金の高い職場に移ってしまうのを引き止めるため」、つまり熟練労働者の確保にあり、正社員の方でも「自身の人的資本形成の費用を賃金の後払いという形で負担している(これを回収するために長く勤める)」と述べている。
     株主と従業員の間で対立が発生するのは、外部の市場で決まる賃金などの客観的指標が無く付加価値の分配に揉めることにあるが、日本では「管理型企業」が多く、かつ経営者が株主との対立を調整していた。それを可能にしたのは、関係の深い取引銀行や取引先と株式を多く持ち合い、「安定株主」になってもらうことで他の株主を「物言わぬ株主」とさせたことが大きい。が、経営が立ち行かなくなってくると、メインバンクによる口出しが始まると、述べている。
     なお、筆者はこれまでの日本の経営において「株主は株式収益率に等しい分配を受けておらず(当時の配当は簿価の一割で、多くの利益は得られない)、付加価値変動のリスクのしわ寄せがあまりに多く株主にきていた(これにより90年以降は物言う株主が増えた)、長期保有の株式収益率が高かったのはバブルにより株価が伸びたため」と分析している。

     アメリカ型企業と比較したときの日本型企業統治の肯定的な評価には、「日本は従業員の訓練(物的資本だけでなく、研究開発や組織の開発といった目に見えぬ資本)と、取引先の供給者との緊密な関係を築くための投資の配分に成功しており、かつ日本の投資家には長期的な価値の上昇を期待し一つの企業に集中している(長期的関係の維持・強化も含む)、緊密に関連のある分野へ多角化していった」という物が挙げられる。
     一方、否定的な評価には「企業が得たフリーキャッシュフローを株主の利益ではなく、自社及び従業員の利益に優先して使い(「自分たちの将来を売るものだ」と配当金を増やすことに抵抗)、計画性のない多角化が見られるようになり(帝人の大屋晋三氏による関係の無い分野への進出や、投資機会が無いにも関わらず雇用の維持のため)、貸付先が減ったことによりあせった銀行が中小企業や不動産への融資を進めたこと、更には後先を考えぬ財テクによる大きな損失(タテホ化学は金融に疎いにも関わらず国債先物投機に手を出して大損をしている)が生まれた」などが挙げられている。
     筆者は、友人から「バブルに踊ったのは日本型企業統治のせいではない。オランダのチューリップバブルと同じで皆が儲かると思っていたのだから」という指摘を受けたようだが、筆者は本書にて「順序が逆で、多くの会社が財テクを始めたためにバブルが発生した。投資機会を失い現金を持て余しているのなら、配当金を増やし従業員の削減にあたるべきだった。そもそも「財テクに使った金は誰のものか」を考えるべきだった」と反論している。
     また日本が不良債権と不良資産の処理に10年もの年月を要したのは、大蔵省などが保有資産を時価で評価せず、「投資家が混乱するから」という理由で公表をしなかったためと述べている。

     筆者は経済学者、伊丹敬之氏の「従業員型企業統治論」の事を本書において批判している。伊丹氏は「企業統治の主権者は、企業にとって大切かつ希少な資源を長期にわたって提供し、事業の盛衰によるリスクを負担している、コア従業員がなるべきだ。株主よりも貢献度が高く、コミットメントも強く、リスクの負担が大きいからだ」と述べている。
     これに対し筆者は「付加価値の形成に大きく貢献した人物は自ら監視されるべき対象であり、必ずしも主権者にふさわしいとは言えない。従業員によりトップを決めるという手続きは「従業員自身の保身に使われる恐れがある(自分を登用してくれる人に票を入れる)」可能性が否定出来ない。投資家は非常に長い目で見たときに利益が得られることを見越していることも多く、必ずしもコミットメントが弱いとは言えない。従業員が強い権力を握ることにより、自身の昇進機会を増やす、雇用維持のために意味のない多角化を図る、不祥事の隠蔽、雇用削減を行わない(90年代は労働分配率が下がっているのに賃上げがなされた)という企業の発展とは真逆の行為が発生する恐れがある、付加価値の恩恵を最後に受けるからこそ株主はリスクを負担しているのに、すぐに恩恵を受けられる従業員がリスクが高いというのはおかしい。もし伊丹市がこの理論を展開したいのであれば、コア従業員が発行済株式の過半数を所有すべき、「そもそも金も出さずに会社の主権を得ようとするのがおかしい」と、問題点を指摘している。

     企業は1.従業員への訓練・教育という資本投資を通して付加価値を上昇させ、かつ2.熟練度が高まった従業員に給与のアップという形でモチベーションを上げる。この時1.から2.を引いた値が株主にもたらさせる利益となり、この値を伸ばすことを企業と投資家は目指している。
     「株主に経営者の選任をさせるなんて」と批判する人もいるが、常に必ず収益が得られるという保証も無く、企業は事業の拡大のために株を発行して資金を回収しているのだから口を出さざるを得ないと述べている(逆にいうと、常に安定している企業には口は挟まない)。
     「このような状況下では、経営者は株価を気にするあまり「目に見えぬ価値」を見謝る」という指摘に対しては、「投資家もそこまで愚かではない。そもそもそれが事実なら日本の大手企業に外国人投資家が多い説明にならない」と述べ、「従業員が株主に利益を吸い上げられている」という指摘には、「もしそれが事実なら、働く意欲を失い、商品の質の低下などを招き、結果的に株主は損をしている」と反論している。
     結局のところ、「コア従業員と株主との上手い折り合いが付いていなければ、付加価値と株価は上昇していかない」ということである。

     最後の章では株主主権型企業統治の問題点と疑問を洗い出している。
     株主が大きな決定権を持っているのは「従業員にとって都合の良い人物が上に就くのを監視しる役割がある為であり、悪いイメージの強い機関投資家も、持株の比率の高さから多くの情報を活用して意見を述べるため、企業の促進だけでなく、株主のただ乗り問題を防ぐという、存在意義がある」と述べている。
     なお後半では王子製紙による北越製紙、東急グループにより東京地下鉄道の敵対的買収の例を挙げ、独立委員会の存在意義に触れている。

    自分用キーワード
    ステークホルダー 株主主権の原則 株主主権型企業統治 解雇理由制限の原則 使用人の先取特権 相互解除自由の原則 善管注意義務 物言わぬ株主 付加価値 所有と経営の分離 『貪欲と過剰の10年』 マイケル・ジャンセン(80年代のアメリカへの経営批判を否定) 人的資本への投資 フリンジベネフィット 労働者管理型企業(社員一人あたりの所得が最大になるよう産出量・資本・労働の投入量を決定している企業) エズラ・ヴォーゲル(『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を出版) プラザ合意 フリーキャッシュフロー アルフレッド・チャンドラー R&D(研究開発投資) 日本労働組合総連合会(派遣の規制緩和に猛反対) ゴールデンパラシュート 株主価値 ファンダメンタルズ 発明対価訴訟(青色発光ダイオード) 長期継続取引資本 IR(インベスター・リレーションズ) ストック・オプション制度 毒薬条項(ポイゾン・ピル) 第三者割当増資

  • やっぱり、この手の本で、
    刊行から5年以上経っているというのはかなりのマイナス要因。

    まあ、株式会社の仕組み、見方について、
    ひとつひとつ丁寧紐解いていく内容で、
    エッセンスとしてはまあまあ良かった。
    が、冗長過ぎる。

    もうこの手の本を読むのはやめようと思わせられた一冊。

  • 株式会社についての入門書。

    会社法によれば株式会社とは株主のものであると明確に書いてある。
    しかし日本では長く続いた終身雇用や年功序列などの慣行により
    「従業員主権型企業統治」の意識が強く「株主主権型企業統治」に不信感を抱く人々が多い。著者は両者の比較しながら冷静に分析を加えていく。

    80年代の日本の企業は株式持合いなどを利用した「モノ言わぬ株主」を
    定着させ、経営者とコア従業員による内部支配を確立させた。
    配当はほとんどなく、内部に現金を抱え込みそれを事業多角化の為に
    どんどんばらまいた。従業員は会社特殊的技能を駆使することによって付加価値を生み出したが、やがて限界が訪れる。。。

  • タイトルどおり「株式会社とは?」について書かれている本。
    よくまとまっている良書。

    日本的な企業統治やアメリカ的な企業統治などについて
    メリット・デメリットなどを踏まえて書かれており、わかりやすい。

    本書で再認識したこととして、以下はちゃんと理解しておこう。
    <3つの市場の法則>
    ・交換の法則
    ・誘惑の法則
    ・希少性の法則

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著者プロフィール

学習院大学経済学部教授。金融論、経済政策専攻。主な著書に『金融入門』『経済学を学ぶ』『金融危機の経済学』など。

「2010年 『初歩から学ぶ金融の仕組み』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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