- Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480063915
作品紹介・あらすじ
ブログやミクシィで、ある人物への非難が燃え上がり、収拾不能になることがある。こうした現象を「炎上」と言う。時に何千もの批判が押し寄せ、個人のプライバシーすら容赦なく暴かれる。有名無名を問わず「炎上」の餌食となるケースが頻発する今、そのメカニズムを明らかにし、そうした集団行動(サイバーカスケード)にはポジティブな側面もあることを指摘する。ウェブという「怪物」の可能性を見据えた、現代の「教養」書。
感想・レビュー・書評
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ウェブ炎上という事態が生じるのかをていねいに解き明かしている本です。
見るにたえないような「炎上」を嘆き、手っ取り早い処方箋を提示するのではなく、人びとのネット上での行為をキャナライズして炎上を作り出していく、インターネットという「アーキテクチャ」を冷静に分析することに、著者の努力は注がれています。インターネットは、それぞれの利用者の選好に合致した情報を容易に集めることができますが、そのために人びとが同じ事件に接していながら、お互いに異なった現実を見ているという事態を生み出しやすい特徴を持っています。そしてこのことが、サイバー・スペースで各人が自由に情報を収集して議論や対話をおこなっていった結果、極端な言説や行動のパタンに流れ込んでいくという「サイバー・カスケード」と呼ばれる事態を作り出します。
オルタナティヴなハブ・サイトを作ることの重要性が論じられてはいますが、ウェブ炎上に対する具体的な対処法は示されていません。ですが、インターネットというアーキテクチャが、人びとのこうした行動を解発する特徴を持っているということをはっきりと認識することが、何よりも重要だというのが、本書から読み取るべき主張ではないかと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
最近、個人的に注目の荻上チキさん。
テレビとかでたまにお見かけするが、すごく頭が切れる印象。
ウェブ上で起こる「炎上」についての本。 -
「サイバーカスケード」というものの成り立ちや、僕らがそれ加担しうる状況はままあるという現実を知り、インターネットに対して、ひとまず距離を置かせてくれるような著書。ネットに慣れてない人は読むといいかも。
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ツイッターやFacebookなどで一人ひとりが発信者となってしまったここ最近、飲酒運転や誹謗中傷がどこかで取り上げられてしまって炎上になるニュースは枚挙にいとまがありませんね。
本書ではちょっと前にネットで話題となった事例を多く取り上げてその炎上に至るプロセスを解説するものです。(のまねこ、きんもーっ☆、イラク人質事件など)
炎上するときは、その中身が本当の場合なら私刑の助長に、本当でない場合でも流言として広がっていきます。仕組みであるサイバーカスケード(ネット上で個々人の自由判断がいつの間にやら一極に傾いていくこと)自体が悪なのではないと言うのは分かるがじゃあどうすればというところはよく分からない感じです。炎上のところはノリノリでチキさんが喋っている姿が目に浮かびますが、結章でトーンダウンしてるのがうーむという感じ。
2007年の本ですが、今でも通用します。炎上プロセスに興味がある人や2ch歴長い人におすすめですね。 -
これまで集めてきた情報の集合体。丁寧。
アーキテクチャ/可視化とつながりによってもたらされる過剰性 -
ウェブ上での炎上、いわゆる「サイバーカスケード」について、どうして発生するのか、どのように理解すればいいのか。著者はサイバーカスケードそれ自体については、否定的でも、肯定的でもない。まずは現象を理解すること。これが本書の目的だ。
で、そのサイバーカスケード発生のメカニズムなんだけど、これが拍子抜けするくらい、旧来の社会学や心理学の見地で説明できちゃう。書名から何となく「これまでにない現象の謎を解き明かす!」的なノリを期待すると、間違いなく肩透かし。「確証バイアス」だの、「予言の自己成就」だの、なんつうか、ほんと「古典的」な理屈で説明しきれてしまうのだ。
むしろ、新しく、若い読者に身近で、興味の持てる題材を「使って」、大学の一般教養で学べるような社会学を楽しくレクチャーしてくれてると言った方が読後の印象に近い。
って、こう書くと、新鮮味がなくて悪いと言ってるように見えるかもしんないけど、そうじゃない。逆。インターネットは、とかく新奇なもの、しばしば過度に危険であったり、我々の生活をラディカルに、革命的に、容赦なく変えてしまうものであるかのように、語られがちだ。「インターネット」という言葉を使って良くも悪くも煽られてしまってるところ、なきにしもあらずな現状、「あ、意外と従来の枠組みで説明できちゃうのね」と納得させてくれる本書は、冷静に、上手く、インターネットとそこで生じる現象=炎上、サイバーカスケードに付き合っていく上で、非常に有効なツールを提供してると思う。
まあ、よくよく考えてみれば、「ネットで世界はこうなる!」系の予言や、「ネットのせいで若者のコミュニケーション能力がゴニョゴニョ」な話って、それ自体が、新奇な対象・現象と遭遇した際に、その不安を解消するために取られる言説受容方法でしかないってところも多分にあって、それって本書の中で取り上げられている「イラク人質事件」サイバーカスケードの現象と、置かれてる状況、基本的にまったく変わらないわけだしな。
もちろん著者はネット社会になって「何も変わらない」とは言ってない。ネットはコミュニケーションを可視化してしまう、まったく異なった文脈のコミュニケーションをより容易に結び付けてしまう点が、従来とは異なる。こうした点についても著者は注意を促す。この変化が、どんな風に、どこまで影響するのかって分析は本書では、あんまりなされてないけど。
個人的には、デイリー・ミー(個人が好きなニュースを好き勝手に選択した結果、事前に一定の情報がフィルタリングされてしまう現象)とか、ネットによるタコツボ化、不快経験の事前消去を懸念していたので、自分の懸念するように程度がひどいとは限らない、と、気付かせてくれたことが大きかった。単に自分の好きなものだけ見れば済むのがネット、とばかりも言い切れないんだよね(お隣さんブックマークの存在など)。
というわけで、身近なトピックで「従来の学的蓄積の成果、実はヤバイんだぜ」「結構使えるツールだぜ」と平易な記述で教えてくれる本書は、非常に良質な新書の鑑だと思う。同じ著者の『社会的身体』はあんまり面白くなかったけど・・・。 -
炎上の心理がわかりやすく説明されており勉強になった。ネットは収集する情報をカスタマイズしやすく、それゆえに特定の考えに集団で流れていく。しかしこの現象自体はネット以前からあったもの。炎上することではなく、自分のバイアスに無自覚のまま影響されることの危険性を感じた。
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ネット特有のもの、ネット以前からあるもの、を具体例をあげつつ検証。
良い悪いの物差しを当てはめずに、丁寧に分析してある。
新書かくあるべしな一般向けの教養書。オススメ。
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