日本の殺人 (ちくま新書 787)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 314
感想 : 36
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480064882

作品紹介・あらすじ

人殺しのニュースが報じられない日はない。残忍な殺人鬼が、いつ自分や自分の愛する人に牙を剥くか。治安の回復は急務である、とする声がある。しかし、数々の事件を仔細に検証すると、一般に叫ばれる事態とは異なる犯罪者の実像が浮かび上がる。では、理解不能な凶悪な事件を抑止するために、国はどのような対策を講じているか。そして日本の安全神話はどうして崩壊してしまったのか。さらに、刑罰と出所後の生活、死刑の是非、裁判員制度の意義まで。

感想・レビュー・書評

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  • 日本での殺人事件がどれほど特殊な事象かということ

  • 社会
    思索

  • 737円購入2010-02-01

  • 本書270頁の半分以上は日本の殺人の統計的な整理を試みている前半部分。不謹慎かもしれないが興味深い。家族殺しが大半を占める、とか怖ろしい殺人鬼というより間抜けな人間という犯人像とか。世界でも有数の治安の良さは近年マスコミの報道によれば崩れてきているとされているがこの分析からは全く逆の状況が浮かび上がる。警察の批判に批判的過ぎる点など気になる点はあるものの知っておいて損はない。そんな本。

  • 語りが非常にわかりやすい。裁判員裁判への的確な一冊。

  • 大学の法学部入門で少しかじったのを思い出した!安全神話が崩れたのは犯罪が増えているのではなく、ハレとケの境界がなくなってきたことでの体感値の変化、マスコミの偏重報道など
    。凶悪犯罪、特に殺人事件は減少し続けていて、先進国の中でも1/xほど。大部分が心中であったり親族による殺人。強盗や強姦は1/100ほど。世界的に見ても、犯人検挙や犯人の更生・再教育はよく出来ている。
    ただ出所後の保護司さんを中心とした更正システムはこれまでうまくまわっていたけれど、後継者の欠乏やより人間関係の閉ざされた社会にあっていくことでどうなるか。。。

  • 全体として科学的といえる論証には概ね同意できる。ただ、どうしても違和感が残るのは裁判員制度を肯定する著者の論拠だ。「(裁判員としての)刑事裁判への参加は、人生を深く味わう機会を与えてくれるであろう」という言葉は、新制度を忌避しがちな人々への説得という部分を割り引いてもやはり本末転倒の感がぬぐえない。
    さらに著者は、「安全神話崩壊」の原因を共同体のあり方に求める考え方から、「犯罪への対処として、一部の人々ががんばる一方、残りの一般市民は、何も知らずに安心してきた」現在までのあり方を根本的に変える契機として、市民参加型司法制度=裁判員制度に期待している。何万人に一人という少数の裁判員が参加することがどのように安心をもたらすのか、その辺りの説明にも曖昧なものを感じた。

  • 日本の10万人あたり殺人件数は先進諸国のおよそ1/xである。外国では強姦強盗が数百倍あるのと比較すると、心中が多いから差が減ってることがわかる。また、殺人件数は親族>非親族であり、親族の中でも子殺しが群を抜いている。次が配偶者で、この時点でほぼ半分。しかし、子殺し件数は減っており、それは嬰児殺(新生児)の減少にある。また、嬰児殺は、ほとんどが「不義の子」殺しである。児童虐待の数は増えているが、これは新しいカテゴリが生成されただけで、実際に増えたかどうかは微妙である。あとは、軽い障害児の殺害がある。重い障害児の殺害事例が少ないのは、医者によっても隠されているから、なのではないかと考えている。近年増えているのは、介護を苦にした殺人である。彼女らを無罪にすることは、自殺防止の観点からもよくないと考えられている。

    殺人は年1400程度。うち600が入所。入所しない理由のほとんどは被疑者死亡か心身摩耗だと考えられる。凶悪事件は300程度。金目当てで一番多いのは飢餓でなく遊興費。日本では収入に匿名性がないため、誘拐でも強盗でも逃げおおせた例はない(三億円事件は除く)。幼児殺人事件の件数は減少している。「相次いでいる」は増えていないことに注意。バラバラ殺人は遺体の処理に困っただけで、猟奇的ではない。精神病が危険というが、酔っ払いも薬物で正気を失ったもの。問題は対応を知っているか。

    まとめると、殺人は戦後減少し、 過半数以上が家族がらみで、底辺社会で起こる場合が多い。重要なことは、犯罪者も人間であり、それぞれの背景があるということだ。

    留置所=警察、拘置所=推定無罪の裁判待ちと死刑囚(罪は勾留でなく死刑)、年間220万の犯罪のうち、刑務所入りは3万。更生可能なら刑務所には入れないので、刑務所にはほぼ障害者クラスの人や、ホームレスが多い。むしろ殺人者のほうが知能が高い。罪状や職種(ヤクザ)ごとに刑務所は分けられる。窃盗は18万1000件あるが、刑務所or少年院に入れられるのは1万強。被害者の命日には供養がある。殺人犯は家族ごと追放されたり家が荒らされるので、帰る場所がない。また、長年服役していると知り合いが消滅するとともに現実と知識に齟齬をきたし、まともな社会生活を送れないため、実際はほぼ保護観察官のもとに行くことになる。仮釈放再犯率は37%。釈放再犯率は約6割。殺人犯はめったに再犯しない。

    無期刑は釈放されても死ぬまで保護観察がつく。報告を怠れば再び収監される。彼らはほぼ再犯はしない(交通事故レベル)。ただ、職に付き、家族を持ち、更生が認められると、恩赦が下る(それでも自発的に連絡は取るらしい)。ここまで全て保護観察官の斡旋ということもあり、社会階層は明確に分けられている。体感的に犯罪件数が増加している(実際には減少している)のは、住宅街と繁華街、昼夜の区別が曖昧になり、職業選択の自由が加速した結果、「犯罪の世界」と「普通の世界」がクロスするようになったからではないだろうか。

    刑務官等、民間に現れない人たちの頑張りをフォローしてきたのは天皇からの褒章であった。しかし、保護司の平均年齢が60を超えている上、人間関係や地域コミュニテイも衰退している。かつてはヤクザが受け皿になったが、それすらも衰退している。共同体の社会的制裁も弱まった。社会的制裁と特別なマンツーマンという組み合わせが破綻しかけているいま、犯罪者の更生システムは転換を迫られている。

    被害者がPTSDを発症するのは、事件そのものよりも、事件外の心の支えに裏切られた場合のほうが影響が大きい。殺人の場合、遺族の怒りは脱力による心神喪失の防衛反応とされている。しかし、過半数が家族に対する殺人で、次が喧嘩殺人であることは忘れてはいけない。また、地域コミュニテイの衰退によって、匿名性が高まった結果、犯罪は「誰に対しても」起こりうるようになった。

    道徳性が完全に欠如したものは、冷静な判断ができるため、死刑ならない。死刑になるのは、まぬけな奴である。また、死刑による抑止効果は全くないことはデータ上明らか。日本では「死んでお詫びする(=死ねば許される)」という思想がはびこっているように思える。また、戦争では勝利者が正義である。フランスのレジスタンスも今は正当化されているが、ナチス傀儡政権時は犯罪者だった。ユダヤ大量虐殺をさばくために作られた戦争犯罪「人道に対する罪」も、実際に適用されたのは敗戦国だけである(例:原爆投下)。

    外因による死者数は7万5000。うち、不慮の事故が3万8000、自殺は3万2000、他殺は705。不慮の事故のうち、交通事故が1万1000、家での事故が1万1290(風呂、のどを詰まらせる、転落・転倒など)。

    哲学的には、殺人の魅力というのは、他者の生命に縛られない究極の事由として立ち現れるのではないか。決定者と執行者が分かれる工夫があるとはいえ、裁判員とは人を殺す自由を得た「神」となる。

    日本において、犯罪はなによりもケガレ。ケガレた世界とケガれてない世界に分けられ、日本人は加害者にも被害者にも犯罪者の更生にも携わらない。それらの仕事を担当するのは公務員。欧米では危険なものは殲滅するが、日本では関わってはいけないとされる。しかし、先に見たように、その境界は衰退し、更生を行う人も減少した。裁判員制度や刑事施設視察制度(素人市民が刑務所と拘置所、死刑執行場を視察できる)は、この境界の見直しの現れであるように思える。

    最近何かと社会問題が騒がれるが、政府は様々な対応をしてきた。問題は、知らなかった国民と、騒ぎ立てるマスコミである。必要なのは、本当の情報に触れることである。

  • 様々なデータを取り上げて、日本で起こった殺人を分析した一冊。
    データ分析を丁寧に行い、また、投獄中の生活や出所後の生活、また司法(量刑)にまで踏み込んだ内容である。

    ただ、本書がカバーする範囲が広すぎるため、筆者の主義主張が少し見えづらくなっている部分は残念。

  • 250 文英堂

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