害虫の誕生―虫からみた日本史 (ちくま新書)

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著者 : 瀬戸口明久
  • 筑摩書房 (2009年7月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (217ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480064943

害虫の誕生―虫からみた日本史 (ちくま新書)の感想・レビュー・書評

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  • 新書文庫

  • 「害虫」という概念は実はそれほど古いものではない。
    そもそも虫による農業被害は天がもたらす災いであり、
    人知の届くものではないという意識が、
    少なくとも江戸時代までは主流であり、
    それが人々と虫との「付き合い方」だった。
    今と比べれば、そこら中、虫だらけだったのだろう。

    明治に入っても相変わらず「お札」やら「虫送り」といった
    迷信的対策に頼るのが普通で、
    国や一部の昆虫学者が提唱していた科学的アプローチは
    普及しないばかりでなく、農民の反発を買うことすらあった。

    それが第一次大戦に入ると一変する。
    すなわち、食料輸入が不安定になったことにより、
    農業の生産性向上が国家の至上命題となった。
    ここで初めて害虫駆除の研究が本格化することになる。
    そして殺虫剤の研究は毒ガス兵器の開発へとつながり、

    さらに戦地におけるマラリアを媒介する蚊の駆除といった
    伝染病予防にも活用された。

    つまり、害虫の歴史は戦争の歴史に重なるのである。
    そしてそれは、ひいては「人間と自然の関係」の変化を
    描写していると著者は主張する。

    ここで著者は、科学の発展をやみくもに否定し、
    自然保護を声高に訴えるわけではない。
    ただ、我々が今日では当たり前に受け入れている

    害虫/益虫といった区分や、「ハエ・蚊の少ない世界」は
    時代背景や社会的要因によって
    形作られてきたものなのだという事実を淡々と明らかにする。

    僕たちが「自然っていいよねえ」というとき、
    それは原始の「自然」ではなく、
    人為的に操作された「心地よい自然」なのだ。

  • 昆虫と人との関わりについて、丹念に調べられた本。かつて害虫の発生が、制御不能の「たたり」や「神罰」だったのが、明治時代以降は、殺虫剤や天敵導入など科学の力で押さえ込もうとしていく。
    エピソードも豊富。江戸時代まではコキは食べ物が豊富な豊かな家にしか出なかったので、「黄金虫は金持ちだ」の黄金虫はチャバネのことだったとか。ハエは19世紀以前は小さくてかわいいイメージで語られていたとか、太平洋戦争中、枯れ葉剤を日本の水田にまく研究がされていたとか、色々勉強になる。

  • 社会科なのか理科なのかチョット不明。凄くマニアチックな本という気がするが結構レビューを書いている人が多い。

    雑草に対応することばはないが、虫は害虫と益虫に分けられる。もちろん、本書にもあるように害虫というのも時と場所によって変わってくるのであって、大いに各個人の認識によるわけではあるが。

    日本において害虫ということばが一般的になるのは20世紀になってかららしい。それまでは、虫の害というのは自然現象として仕方が無いこと、冷害とか干魃とかとかと同列の人間では制御できす、神頼みをするだけのモノであったらしい。
    と言う事で、この本では副題「虫から見た日本史」どおり、日本人の虫観というモノが語られている。その後近世以降は病気、衛生と言う観念からの害虫駆除、さらに戦争での化学兵器と農薬が並列して開発されていった事象が述べられている。

    と言う事で、なかなか興味深い本ではあるが冒頭書いたようにマニアチックではあるので万人にお勧めできる本ではない。

  • 瀬戸口明久さん『害虫の誕生─虫からみた日本史』読了。

    ゴキブリが<害虫>となったのは、じつは戦後になってから。
    屋内に出没するゴキブリの存在自体は、すでに江戸時代から知られていた。
    食物が豊富で冬でも暖かな家でなければ、ゴキブリは定着できない。
    ゴキブリが豊かさの象徴だったという説もある。

    100年ほど昔の日本では害虫駆除という概念がなく、
    お札立てて対処していた(たたりを治めるという発想)。

    プロローグで紹介された、このような衝撃的なエピソード。

    そして、本文から語られる、
    集約的な農業の始まりと害虫の発生。
    戦争時の密林行動のための害虫駆除の必要性。
    食糧増産と様々な害虫の駆除方法の考案と実用化。

    この本を読むことは、まさに害虫と人間の関わりについての
    大河ドラマを時間の流れに沿って見ていくような体験でした。

  • たたりだと思われていた害虫の大量発生。ヨーロッパでも、昆虫学と害虫はレベルの違う話として扱われていたといいいます。天災の一つ、あるいは「たたり」であった虫害が、人が記録し発信することで、はじめて「発見」されたという現象。
    人が制御できないものから制御できる(ように見えるもの)へ、イデオロギーの衝突、別のところへ移してしまいたい、という地元の考え、メディアの役割、兵器転用、そして変化させてしまった環境への問題。人はこういうことを繰り返していくのだなあ。同じ結果でも、良くなっているか、悪くなっているかは知識と立場次第だと痛感する本です。

  • ニーチェの『悲劇の誕生』、フーコーの『監獄の誕生』、平朝彦の『日本列島の誕生』と「誕生モノ」で感銘を受けた名著は多いが、この『害虫の誕生』も名著である。
    現代に生きる私たちは、パソコンやテレビなどの現代生活の必需品に対しては、それなりの経緯を知っているが、生活の場から消え去ったものにたいしての「誕生」の経緯を知らない。
    私は、よく変人扱いされるが、一般人がもつゴキブリ、ハエや蚊(ひどい場合には、昆虫全般)に対する嫌悪感にはまったく同感できず、常々、なぜこんなにこの人たちは、昆虫を怖がるのだろうと感じていた。
    その嫌悪感の由来が、害虫の誕生とともに伝承された習慣であるという認識の正しさをこの書物は教えてくれた。
    そもそもマラリアのような伝染病を広める生物に嫌悪感をもつというのはわかる。しかし、順序だてて考えると、ハエがマラリアを伝染するという事実を知る前には日本人も西洋人もハエに愛着を感じていた。すなわち、害虫という言葉や思想が形成されることによって生まれた嫌悪感なのである。
    農業でも虫追いの行事は、虫に対する悪意ではなく、自然現象への「祈り」をふくみ、嫌悪ではなく、諦めから生まれた祈りなのである。虫追いは、虫を駆逐する作法ではない。
    殺虫剤というのは、正解でも正義でもなく、科学知識が生んだ思想の一つなのだ。
    そこにはたくさんの矛盾がある。たとえば、害虫の大量発生に対して現代人の対処法は、除去するという方法をとる。
    科学知識が表面的な「悪」をあぶり出すのだが、まず、なぜその害虫が大量発生する土壌が生まれたのか、また、必然的に大量発生したものを「殺虫剤」で除去することによって生まれる弊害はないのか。という思想は殺虫剤の思想を越えた思想になることができる。
    現在の学問の志向は、害虫を排除するという方向を向いていない。
    「害虫」という概念を作り出した科学は、「害虫」を害虫であるという理由で共生の世界から排除したりしない。これからの科学を予見するという意味では、「誕生もの」の名著にふさわしい書物である。
    有吉佐和子の『複合汚染』で指摘されている毒ガスと農薬、火薬と肥料のつながりを越えるような思想が本書では見て取れる。
    昆虫学の応用範囲はこれからまだまだ広がるのだと再認識した。

  • 日本の近代化と共に「虫」の一部は「害虫」となった。

  • [ 内容 ]
    江戸時代、虫は自然発生するものだと考えられていた。
    そのため害虫による農業への被害はたたりとされ、それを防ぐ方法は田圃にお札を立てるという神頼みだけだった。
    当時はまだ、いわゆる“害虫”は存在していなかったのだ。
    しかし、明治、大正、昭和と近代化の過程で、“害虫”は次第に人々の手による排除の対象となっていく。
    日本において“害虫”がいかにして誕生したかを、科学と社会の両面から考察し、人間と自然の関係を問いなおす手がかりとなる一冊。

    [ 目次 ]
    第1章 近世日本における「虫」(日本における農業の成立 江戸時代人と「蝗」 虫たちをめぐる自然観)
    第2章 明治日本と“害虫”(害虫とたたかう学問 明治政府と応用昆虫学 農民VS明治政府 名和靖と「昆虫思想」)
    第3章 病気―植民地統治と近代都市の形成(病気をもたらす虫 植民地統治とマラリア 都市衛生とハエ)
    第4章 戦争―「敵」を科学で撃ち倒す(第一次世界大戦と害虫防除 毒ガスと殺虫剤 マラリアとの戦い)

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    [ 参考となる書評 ]

  • むかし、昔・・・ 人はゴキブリを「コガネムシ」と呼んで、富の象徴としてきた。しかし、昨今ゴキブリは、害虫の象徴的存在。
    人々の自然観は作られ、次々と害虫が生まれていく・・・。
    環境時代といわれる現代、自分の周りに「境(さかい)」を作らず、自然と共に生きる日本人本来の自然観を取り戻してもいいと思う。

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害虫の誕生―虫からみた日本史 (ちくま新書)の作品紹介

江戸時代、虫は自然発生するものだと考えられていた。そのため害虫による農業への被害はたたりとされ、それを防ぐ方法は田圃にお札を立てるという神頼みだけだった。当時はまだ、いわゆる"害虫"は存在していなかったのだ。しかし、明治、大正、昭和と近代化の過程で、"害虫"は次第に人々の手による排除の対象となっていく。日本において"害虫"がいかにして誕生したかを、科学と社会の両面から考察し、人間と自然の関係を問いなおす手がかりとなる一冊。

害虫の誕生―虫からみた日本史 (ちくま新書)はこんな本です

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