世直し教養論 (ちくま新書 848)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480065520

作品紹介・あらすじ

日本人は、今、あらゆることに疲れている。閉塞感が漂い始めてから、かれこれ二十年を閲したが、われわれは生き方の輪郭をつかめないまま、社会とともに磨りへっていくほかないのだろうか。生を支える"教養"の形を描き直すことはできないのか。本書は、経験と思想のつながりに立ちながら、文化、政治、教育、身体を結ぶ教養像を求めたひとつの試論である。個人の成長(徳の涵養)と社会の再建(デモクラシーの復興)を接続する可能性へ、もう一度。

感想・レビュー・書評

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  • 雑文集でまとまりがないが、著者の問題意識は伝わってくる。話がアチコチに飛ぶが、コンテンツとしては豊富で示唆に富むので、本書をきっかけに読者が今後の興味関心を展開できるか否か。という意味においては大学教員としての責務は果たしているように思える。

  • 現代の日本社会のありかたに対する著者の不満を表明しつつ、その状況を変えるための「市民」を創出するための啓蒙に努めている本です。

    本書のなかでもっともおもしろく読むことができたのは、東浩紀や濱野智史といった現代の日本のポストモダン・リベラリズムに対する著者の違和感を語った補章でした。著者は、「わたしには東浩紀のテクストのなかに直接的に表現されることのない政治的立場が、行間から理想はラディカルな直接民主制主義者であり、リバータリアンであると叫んでいるのに、やむをえず環境管理の方向で社会が進むことがリアリズムであるとため息をもらす姿(現状追認)となって映るのである」と述べています。こうした著者の感想は、個人的には腑に落ちるものでしたし、また著者が東を批判しながらも、ていねいにその思想的パフォーマンスの意味を読みとろうと努めている姿勢には好感をもちました。ただその一方で、現代の社会のリアルなありようを認識しながら、あくまで啓蒙の可能性に賭けようとする著者の姿勢には、どうしても疲弊感をおぼえてしまいます。

    なお本論のほうは、消費社会批判、倉田百三や阿部次郎らの教養主義の検討、現代の大学のありかたに対する不満、はては東洋医学の身体観など、雑多な内容が詰め込まれています。ルソーの解釈をおこなっているところは多少興味をもって読んだものの、全体を通じて議論の焦点が定まっていない印象を受けました。

  • 人文学者で学術博士が書いた書物であり、現在の大学の教育、特にリベラル・アーツについて示唆をいただけるかと思って読みましたが、言葉が随分荒っぽい印象でした。蘇我氏・物部氏が百済から渡って来たことは事実だなどと断定されてしまうと、この人の書いていることは全ていい加減ではないのかと思ってしまいました。欧州諸国の休暇が長いことは有名ですが、制度上、祝日が一番多い国は日本だということがコラムで書かれていました。最も面白いと思ったところです。日本は祝日にしないと国民が休まないから国からお仕着せの休暇ということなんですね。旧制高校の教養主義が91年の大学設置基準の大綱化まで残っていたということが書かれていますが、今となっては懐かしいです。北杜夫の「どくとるマンボウ青春記」などは楽しく読みましたし、その辺りを書いていることは分かり易いところではありますが、この著者の乱暴さを感じるところでもありました。「大学の中で学生がお客様になってしまったときに、そこには教育は成り立たない。」この言葉は誠に至言だと思います。学生集めに奔走する大学が増えてきているということはそのような方向性をたどっているということでもあります。

  •  個人の成長(徳の涵養)と社会の再建(デモクラシーの復興)のための教養を提唱した本。抽象論だけでなく著者の経験に基づく文章が多いのが特徴です。扱う論点は幅広く、コミュニティ、大学、現代思想について言及する。

     元々”教養”とは閑暇を過ごす術のことで、学校は閑暇を活かして教養を身につける場所。思い詰め、働き詰めよりも如何にして人生を充実させていくか。その時考えさせられるのが、まさにこの本でいう”教養”。

     この本では”幸せ”の代わりに”仕合わせ”という表記が使われている。この表記を使うことで本来の”しあわせ”の意味である「めぐり合わせ」に近づいて人間の根本に立ち返ろうとしている著者の姿勢がわかる。

     老荘思想に近いものを感じる本だった。個人的には老子のいう「小国寡民」が理想の国なんですけどまず無理か。

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著者プロフィール

学者・教育者(哲学)。
1969年生。
『バブル文化論』(慶應義塾大学出版会)、『世直し教養論』(ちくま新書)など著書多数。
ポンピドゥー・センター付属研究所客員研究員、明治学院大学教養教育センター教授、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学教育学部及び文化構想学部非常勤講師等を歴任。
葉良沐鳥(はらしずどり)の筆名で文学研究・評論、随筆や文芸批評も手がける。 旅、山と海と川、霊峰、野球、生きもの、ねこやイヌや山羊をこよなく愛し、音楽と映画、読書を趣味とした。2021年6月没。

「2023年 『ラプサンスーチョンと島とねこ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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