地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか? (ちくま新書 853)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 81
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480065629

作品紹介・あらすじ

社員を大切にしない会社は歪んでいく。それと同じように、市民を蔑ろする都市は必ず衰退する。どんなに立派な箱物や器を造っても、潤うのは一部の利害関係者だけで、地域に暮らす人々は幸福の果実を手にしていない。本書では、こうした「罠」のカラクリを解き明かし、市民が豊かになる地域社会と地方自治のあり方を提示する。

感想・レビュー・書評

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  •  地方の街づくりについて考えさせられる本です。成功していると言われている商店街でも、実は一月のほとんどは閑古鳥が鳴いていたり、これまでの大型商業施設誘致、官中心の街づくりについて徹底的に批判し、住民視線での街づくりを提唱しています。

     地方へ旅行に行くと、シャッター街のさびれた商店街をよく目にします。買い物しようにも開いている店を探す方が難しく、購買意欲が無くなってしまう経験は誰でもあると思います。

     著書では、従来の街づくりでの問題点を指摘し、間違った街づくりで街がさびれてしまった例を引き合いに出しています。地域再生の罠として、2つの本質的な問題を挙げています。

    ・(大型商業施設のような)「目に見える」「誰でも分かる」ものを尊重し、とりわけ「数値や力の大きい」ものや権威に依存する。
    ・「目に見えにくい」「気が付きにくい」ものを軽視する。
     
     街作りで大事なのは、そこに住む住民視線でいかに考えるかであり、著者は地域再生の7つのビジョンを掲げています。

    ①私益より公益
    ②経済利益よりひとの交流
    ③立身出世より対等で心地よい交流
    ④器より市民が優先される地域づくり
    ⑤市民の地域愛
    ⑥交流を促すスローフード
    ⑦心の拠り所となるスポーツクラブ、居場所

     いずれも住民の為の街づくりであり、住民が主役となるキッカケを作ることが大切と説明しています。ボトムダウンではなく、ビルトアップの考えが、これからの街づくりに必要と言えると思います。

     思うに、活き活きしている街は、人々も活き活きしています。施設や街並みに目を奪われがちですが、その街に活力を与え、輝かせているのは、間違いなく「人々」です。「人々」の活気や笑顔によって、街がつくられると言えると思います。

     地方の温泉街でもそれが当てはまるかもしれません。食べ歩きやレストラン、お土産屋、足湯のある街は人通りも多く、「街」の光景がイメージできます。一方、豪華な大型旅館中心で形成されている温泉街は、食事や温泉等、旅行客は大型旅館の中でしか過ごさないため、一歩外に出ても人通りが少なく、有名な温泉街でも閑散としている場合があります。

     豪華な大型旅館は日本全国どこにでもあります。一方、自然と文化、そこで生活する人々が織り成す温泉街は、そこにしかない、まさにオンリーワンと言えると思います。日本全国ここにしか存在しないコンテンツで勝負することで街づくりを進めることが、これからの時代必要かもしれません。

    目次
    第1章 大型商業施設への依存が地方を衰退させる
    第2章 成功事例の安易な模倣が地方を衰退させる
    第3章 間違いだらけの「前提」が地方を衰退させる
    第4章 間違いだらけの「地方自治と土建工学」が地方を衰退させる
    第5章 「地域再生の罠」を解き明かす
    第6章 市民と地域が豊かになる「7つのビジョン」
    第7章 食のB級グルメ化・ブランド化をスローフードに進化させる―提言1
    第8章 街中の低未利用地に交流を促すスポーツクラブを創る―提言2
    第9章 公的支援は交流を促す公益空間に集中する―提言3

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/60813

  • 本文は論旨が不明瞭だと感じる部分が多いが、提言のクオリティーの高さから、本書は買い、だ。

    特に、入口をフリーにしておくという戦略を、まちづくりに適応したのは、筆者が初めてではないかもしれないが、インパクトがある。

    言われてみれば、西欧の広場はそのように作られている。

    日本が地域をどのように再生できるか。まだまだ、知恵が使えることを痛感。

  • 地域活性化の成功例と失敗例を実名入りで解説。

  • 社会

  • 全体的に既存の都市整備を批判した本.
    土建工学者のダメなところ,制度,施策のダメなところはよくわかった.“人”を大事にしないとダメなこともよく分かった.車優先の環境整備しているまちはダメになる.
    公益施設はお金は生まないが,重要でなので,赤字覚悟でつくるべきという話もわかる.
    でも,どうしたらいいのか…?誰が赤字を被るのか…?赤字を覚悟するのは誰なのか…?
    土建工学者の存在は無意味なのか,どういう制度が必要なのか,公益施設はどうやってつくるべきなのか,そのあたりについてはよく考える必要があると思う.
    批判は大事だけど,先に,未来に,希望につながる話がないのが残念に思った.

  • 一見成功しているように見える街おこしの現実の姿を取り上げ、地域活性がなかなか定着しない理由に本音で迫る。

  • 成功事例の模倣による地域再生がうまくいかない理由を解き明かし、「土建工学者などが提案する提供者目線の机上の空論」ではない「地域の現場・市民との交流」から感じとったエピソードにもとづく地域再生に向けた提言を行っている。
    本書の内容には、地域再生についての鋭い洞察が含まれていると感じた。ただ、根拠が明確でない決めつけ的な論調が少なくなく、著者の提言についても十分に説得力があるとは感じられなかった。

  • 街中再生(中心市街地活性化)の手法に対し、行政と土建工学者への痛烈な批判を展開する。行政は、土建工学者が推奨する成功事例を鵜呑みにして、累々たる失敗事例を造っていく。地域資源や住民に着目した再生が求められるという著者の主張は首肯できる。しかし、それが上手くいかないからこそ地域は悲鳴を上げるのだ。土建工学者さえ触手を伸ばさない弱小自治体は、箱物さえ作れずにソフト施策のモノマネでしのぐ様を著者は見えているのだろうか?

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