ルポ 餓死現場で生きる (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 44
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480066039

作品紹介・あらすじ

飢餓に瀕して、骨と皮だけになった栄養失調の子供たち。外国の貧困地域の象徴としてメディアに描かれる彼らも、ただ死を待っているわけではなく、日々を生き延びている。お腹がふくれた状態でサッカーをしたり、化粧をしたりしているのだ。ストリートチルドレンや子供兵だって恋愛をするし、結婚をするし、子供を生む。「餓死現場」にも人間としての日常生活はある。世界各地のスラムで彼らと寝食を共にした著者が、その体験をもとに、見過ごされてきた現実を克明に綴る。

感想・レビュー・書評

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  •  石井光太の著作の中では、『絶対貧困』と同系列の一冊。つまり、『レンタルチャイルド』のようなワンテーマ・一国に絞った内容ではなく、彼が取材を重ねた最貧国各国の状況を、章ごとのテーマに沿って網羅的に紹介したものなのだ。
     ゆえに、彼の著書を初めて読む人にとっては『絶対貧困』と並んでオススメできる一冊。「光太ワールド」への入門書として好適であり、同時に世界の貧困状況の優れた概説書にもなっている。

     読み終えてみると、書名にいささかの違和感を覚える。この書名だと、餓死寸前で寝たきりの人々を著者が看取っていく内容のように思えてしまうから。
     実際にはそうではなく、餓死と隣り合わせの貧困状況の中でぎりぎりの生を生きる人々を活写した内容である。

     章立ては、以下のとおり。

    第1章 餓死現場での生き方
    第2章 児童労働の裏側
    第3章 無教養が生むもの、奪うもの
    第4章 児童結婚という性生活
    第5章 ストリートチルドレンの下克上
    第6章 子供兵が見ている世界
    第7章 なぜエイズは貧困国で広がるのか

     この章立てからもわかるとおり、貧困の悲惨さがいちばん如実に表れる子どもたち(そして女性たち)の生活にウエートを置いた内容になっている。

     最終章に、「世界は私たちが想像しているよりもはるかに複雑です」という一節がある。私が本書から抱いた感想も、その一言に集約される。
     私たちはとかく、自分の知らない世界を単純化し、善悪二元論にあてはめて捉えがちだ。「児童労働? 児童結婚? まあ、なんておぞましい! そんなことは絶対に許されるべきではありません」というふうに……。

     もちろん、児童労働も児童結婚もないほうがいいに決まっている。しかし、それは現実にあるのだし、それを「させる側」が一方的な悪であるともかぎらない。

     たとえば、著者は次のように言う。

    《地域によっては児童労働それ自体が貧困のセーフティーネットになっています。それを奪ってしまうことは、貧困家庭の命綱を断ってしまうことにもなりかねないのです。》

     また、ムンバイーの売春宿を取材した際に見た、売春組織が幼い売春婦たちに言語教育を施している例が紹介される。
     彼女たちは元ストリートチルドレンであり、多くは文盲である。そのため、客と円滑なコミュニケーションが取れるようにと、ヒンディー語を教えているのだった。

    《売春宿で働くある女の子がこう語っていたのが印象的でした。
    「ストリートチルドレンとして生きていたら、一生そのままだったと思う。けど、こうやって売春宿で働かせてもらえれば、言葉をちゃん理解できるようになれる。そうすればどこへでも行けるし、別の仕事だってやれる。何も知らずに路上でゴミを拾っているよりはずっと良かったと思っている」》

     ストリートチルドレンをさらってきて児童売春をさせる組織――それは、世間的な基準ではまごうかたなき極悪である。しかし、売春させられている当人たちにとっては必ずしも悪ではないのだ。よい悪いはべつにして、そのような現実がある。まさに、「世界は私たちが想像しているよりもはるかに複雑」なのである。

     石井光太の本がつねにそうであるように、彼は最貧国の現実を先進国的正義で裁断するような真似はしない。ただ虚心坦懐に、人々の生の営みを見つめるのだ。そのまなざしを通じて、読者にとっても「世界が変わって見える」好著。

  • 世界の貧困問題のルポタージュ。

    石井光太さんのルポは事実を客観的に述べながらも、悲壮感だけでない部分もしっかり切り取る眼差しがある。遠い遠い国の話ではなく、自分達の世界の延長にあることを感じさせてくれる。

    同時に、こうした地域では良い悪いではなくもともとの習慣や風習、思考が前提として大きく違う。違いをわかったうえで支援をしていかないと穴のあいたバケツのように全く意味をなさなくなってしまうという事を感じた。

    どんな課題や問題であっても、まず相手を知ること、現状を客観的に正しく理解することが必要。

  • 餓死現場というよりも、飢餓の中で人々がどう生きていて、世界の中でどれくらいの人が絶対貧困状態にあって、彼らが決して救われないスパイラルの中にいるという事がひしひしと感じられます。
    偶然日本に生まれて相対的な貧困を感じながら生きてきましたが、この本の中で語られるような生活が、とても遠い所に感じられるのは事実です。彼らから搾取したもので豊かな生活をしている一部の人々の中に、自分も含まれているんだなと実感しました。
    世界が等しく豊かになるという事は、搾取する先が無くなるという事なので、何らか搾取する先を見つけて貧者を作り出すことになるのでしょうか。だとしたら悲しい事です。

    世界でどれくらいの割合の人が・・・。という数値を表しながら、石井氏が各国で見て来た事柄を語ってくれます。いかに教育というものが大事かという事と、一概に誤りを糾弾する事が貧しい人達の為になるのかは難しい問題だと感じました。
    人道的に間違っているとしても、そのシステムの中で生きている人がそこからはじき出された瞬間に、何もかも失ってしまうとしたら、必要悪という言葉の意味も変わって聞こえるのではないでしょうか。

  • 世界の飢餓について、貧しい国の現状について、ただ統計の数字ではなく実態をひとつづつ紹介するもの。
    普段私たちの目に入らない情報がたくさんわかりやすく書いてあります。
    飢餓であってもそれですぐ死に至るという話しではなく、それは彼ら、彼女らには日常で、その状況の中で生きなければならない。
    本書の中にNGOや政府の支援の行き違いについて記述されている部分もありましたが、それでもこうした現状を目の前にした時に、私たちはただかわいそうで終わらせるだけではなく、何かできることをする必要があるのではないか。と考えさせられる一冊でした。
    少しでも世界の貧困の問題に興味のある方にはお勧めします。

  • 石井氏のルポは、いつもいろいろと考えさせられるものがある。
    例えば児童労働の問題。批判するのは簡単だが、なぜ子どもたちはそこで働かなければならないのかということを考えていくと、「児童労働は”悪”」と単純に決めつけてしまうことの怖さが見えてくる。
    石井氏は批判はしない。ただ弱者の横に寄り添ってくれる優しさがある。

  • 貧困や飢餓、ストリートチルドレン、少年兵、性犯罪、エイズ。
    漠然と大変な問題という認識はあったが、こんなにも悲惨な事だったとは。
    改めて自分が如何に満たされた生活をしているのかを認識し、何が出来るのかを考えさせられる本でした。

    著者が現地で聞いた話がリアルに書かれており、ショッキングな内容が多い。
    倫理に反した犯罪や人身売買等も書かれているが、現地の人達の気持ちや状況を考え、一概に否定していないのが素晴らしいと思う。
    我々の物差しで測れる事では無い。
    ただ、解決に協力は出来ると思う。
    もっと積極的に知って、行動していきたい。

  • 久しぶりの石井さんの本。

    貧困についてやけど、その貧困を理由に生じる児童労働・教育・児童結婚と性・ストリートチルドレン・子供兵・エイズについて書かれている。

    それぞれ筆者が出会った人たちの個人のストーリーが紹介されるので、自分が思ってたそれぞれの問題が一概に言えないと痛感。

    とくに児童労働の話が印象的で、ハッとさせられた。
    児童労働と聞くと小さい子供たちが朝から晩まで長時間、低賃金で肉体労働させられて可哀想!と思ってたけど、実際はそうとも言えないなと。
    そこで働けなくなったら、本当に餓死しかない切羽詰まった環境。

    よくよく考えたら分かる事を気付かされた!

  • 2011-4-24

  • 知らないままに いる
    ことと
    知らなかった とは
    ずいぶん 違う

    知らないままに する
    ことと
    知ろうとする のは
    もっと 違う

    石井光太さんの
    「本」に惹かれるのは
    そういうことなのだろう

  • 15.nov.7

    最近読み漁っている石井光太氏の新書。
    絶対貧困の中で餓死や病死が起きるメカニズムや地域差などについて分かりやすく書いてある。
    タイトルからは「レンタルチャイルド」のようなノンフィクションルポ?のような印象を受けるが、そうではなく体系だてて分析・解説されている本だった。

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著者プロフィール

1977(昭和52)年、東京生れ。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。ノンフィクション作品に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『遺体』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『こどもホスピスの奇跡』など多数。また、小説や児童書も手掛けている。

「2022年 『ルポ 自助2020-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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