日本近代史 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
3.86
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本棚登録 : 1073
感想 : 75
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  • Amazon.co.jp ・本 (948ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480066428

作品紹介・あらすじ

この国が最も激しく揺れ動いた一八五七(安政四)年から一九三七(昭和一二)年までの八〇年間。近代日本の劇的な歩みを、「改革」「革命」「建設」「運用」「再編」「危機」という六つの時代に区分し、通観する-。はたして日本の近代とは何だったのか。わずか数十年の間にめざましい「近代化」を実現しながら、やがて「崩壊」へと突き進まざるをえなかった根本原因はどこにあるのか。史料を精緻に読み解くことで、図式的な理解を超えて、近代史をダイナミックに捉えなおす。

感想・レビュー・書評

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  • 新書にしては大部です。幕末維新から日中戦争が全面化するまでにいたる日本の近代政治史を、碩学の学者が一人で、しかも新書なので専門家向けではなく一般向けに、まとめ上げた労作です。きちんとした史料に裏付けられながらも、かなり大胆ともいえる整理がされていて、近代政治史の流れが掴みやすく書かれています。ある意味では、現代の日本を理解する上でも良書です(そこに作者の本当の意図があるのかもしれません)。非常にお奨めの一冊です。

  • 幕末から昭和初期までを解説する一冊。
    教科書の年表では1行で述べられる事件・出来事を有機的なものとして関係づけていることに価値がある。

    たとえば、
    板垣退助がうっかり(?)「納税者には政治参加の資格がある」と書いたことが、当時唯一の国税(地租)納税者であった地主層の政治意識を刺激し、開設された国会においては地主層の主張(地租軽減)が主流になり、「超然主義」を生んで膠着状態になったが、日清戦争の賠償金を地方振興に回すことで地租軽減の代わりとし(インフレによって絶対額であった地租の負担が相対的に低下したこともあって)、政府と結びついて利益誘導を図る自由民主党の源流が生まれた…
    のような感じで、連続的な因果関係が述べられている。

    一方で、その時々において複数の主張・勢力が争っている様も描かれていて、歴史の進展が一直線な、必然的なものではないこともわかる。

    それだけのことを丹念に述べるのだから、新書版で400ページを超える大部になるのも無理はない。
    その作業を追いかけて読み終えたところで「あとがき」の一文はとても説得力がある。

    「「国難」に直面すれば、必ず「明治維新」が起こり、「戦後改革」が起こるというのは、具体的な歴史分析を怠った、単なる楽観にすぎない。」

  • 次の部分が印象的でした。

     約1500名の軍人が重武装して総理大臣や天皇側近を射殺したというと、1936(昭和11)年の日本は無法者が支配する無秩序社会だったように響く。しかし、当時の日本は、大日本帝国憲法の下にある立憲国家であり、その第45条は、議会解散後の5ヵ月以内には特別議会を召集しなければならないと定めていた。先の解散が1月21日だったから、二・二六事件が起ころうとも、6月21日までには特別議会が召集されるのである。
     また、特高は憲兵の支配した戦前日本にあっては、衆議院での議員の発言は制限され、その議事録にも検閲の手が入ったように誤解している人も少なくないが、衆議院は政府と並ぶ国家機関であり、政府の一部でしかない内務省警保局がその議事録を検閲したり、発言者を逮捕するなどの権限はなかった。言いかえれば、憲法の規定により5月4日に開会された第69特別議会で、議員は二・二六事件とその後の陸軍の対応を堂々と批判できたのである。

  • 薩長同盟、大政奉還などから、日中戦争までの近代史80年間を通して読むことができる。政体の変遷がダイナミックに感じられる。

    議会制民主主義がどのように、この国で育っていったのか。日本の民主主義は、戦後米国という外力によって与えられたものだから、日本人は有権者の意識が低い、という議論を耳にしたことがある。この著作を読む限り、戦前の日本にも、民主主義の獲得、浸透の課程には、それなりのいきさつがあったのだ。

    政権交代に沸いた前回の衆議院議員選挙から一転、今回は投票率が下がり、地域、地元を固めた自民党が、小選挙区で軒並み勝利し、結果として圧勝するという結果であった。確かに民主党に失望したものの、投票先の見つけにくい、言わば”人気の無い”選挙であったかもしれない。それでも、最善解を模索し、選択、決断をするという政治の本質を考慮すると、やはり何らかの意思は表示すべきだろう。参政権があるということのありがたさについて、この著作は再認識させてくれる。

  •  日本史(歴史)嫌いで、高校の授業はほぼ昼寝でやり過ごした私ですが、この本を機に歴史への興味を取り戻せそうです。
     明治維新から日中戦争までの近代を6つのフェーズで捉えなおし、それぞれにキーワードを与えて論じていますが、区分自体に大きな意味は無いように思えます。むしろ、これらのフェーズを通じ現れては消えるさまざまな対立軸(e.g.「公議輿論」-「富国強兵」、「積極財政」-「緊縮財政」、「政友会」-「憲政会」etc.)に焦点が当てられており、これらの対立軸が3次元的に重なり合いながら時代を織り成すさまが鮮やかに描かれています。
     個人的には、二・二六事件直前の混乱期、宇垣一成(朝鮮総督だそうですが、この本を読むまで知りませんでした)の言葉「現在では…如何にも争いが小キザミと成れり来り。これは果たして何を物語るか?」が印象に残りました。政治的対立軸の過細分化とリーダーシップの弱体化を案じての言葉ですが、現代日本のおかれた政治的状況と相違点を探すのが困難なほどです。

  • 明治維新から第二次世界大戦直前までを六つの時代構成に分けて論じている。様々な登場人物とイデオロギーが浮かんでは消え、近代化から崩壊への80年間の怒涛のような様相をよく表している。日本史の授業中も寝てたから、ようやく歴史を歴史として認識できるようになった。十分、理解できたわけではないが。あとがきには、震災後の現代を戦後直後や明治維新前夜と同じように論じる風潮に対し、筆者は「日中戦争が勃発したころ」に類似していると反論する。その理由は本書をずっと読んでいればわかる。政治が四分五裂している状況は、まさに日中戦争時代の政友会、民政党、社会大衆党、軍部と様々な指導者がいた状況と酷似しているという主張は深く納得できた。維新、維新と言う現在は、逆に大きな危機の途上にあるのかも。

  • 日本近代史の1850年から1940年の90年を、6期(改革期、革命期、建設期、運用期、再編期、危機期、崩壊期)にわけて、通史として述べた本。

    日本史の特に近代史を知っている人にとっては、きっといろいろな史実が関係し、1つの歴史の流れを作っていることに興味がわくとは思うが、自分があまり日本近代史に詳しくなく、新しく知った史実が多すぎて消化不良だった。

    ただし、最後の最近の日本の大地震を1945年の終戦に次ぐ復興と考える人も多いようだが、著者は政治家が小物化した危機期の方が近いのではないかと考えている。「智者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」の言葉のように、歴史をもう少し勉強するべきなのではと感じる本だった。

  • すでに評判が高くなっていますが、なかなかおすすめできる一冊です。題名は「日本近代史」ですが、「日本近代政治史」というほうが正確でしょう。80年位前までの歴史とはいえ、自国の政治史を誰もが納得できる様に客観的、実証的に記述することは、困難というより不可能だと私は考えています。この本にしても、引用している史料は、著者の提示する構図を補強するものばかりが選択されている可能性もあります。それを疑念を持って読むことも良いでしょうが、まずは著者の提示する歴史像を理解することでしょう。
    随所に散りばめられている、著者の現代日本政治に対する危機意識にある程度共感できるなら、面白く読めると思います。

  • 坂野潤治らしい一作。
    日本の幕末史から昭和初期までをネストゲームの応用の発想で分析している。(と思われる)
    ただエリート論的な書き方になっており。明治初期は維新の三傑によって政治の方向性が決定づけられていたのが次第に多極化したことで日本政治が崩壊したというあらすじにはやや疑問符がつく。

  • 幕末から日中戦争の80年を改革・革命・建設・運用・再編・危機の6つに区分して描く。この後「崩壊」の時代が到来する。危機的な現状を「明治維新前夜」と何の根拠もなく騒ぐ風潮を否定し、「昭和維新・崩壊前夜」では、との危機感を呈示する。良い通史書と思う。

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著者プロフィール

一九三七年神奈川県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学大学院人文科学研究科博士課程中退。東京大学社会科学研究所教授、千葉大学法経学部教授を経て、現在は東京大学名誉教授。専攻は日本近代政治史。主な著書に、『明治憲法体制の確立』『日本憲政史』(以上、東京大学出版会)、『帝国と立憲』(筑摩書房)、『昭和史の決定的瞬間』『未完の明治維新』『日本近代史』(以上、ちくま新書)、『近代日本の国家構想』(岩波現代文庫)、『〈階級〉の日本近代史』(講談社選書メチエ)、講談社現代新書に『明治維新1858-1881』(共著)、『西郷隆盛と明治維新』などがある。

「2018年 『近代日本の構造 同盟と格差』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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