ヤクザに弁当売ったら犯罪か? (ちくま新書 961)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 61
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480066657

作品紹介・あらすじ

全国の都道府県で施行された暴力団排除条例。その特徴は「警察vs.暴力団」から「市民vs.暴力団」へと社会を転換することにあるという。つまり市民の側がヤクザとどう向き合うかを厳しく制限するものである。しかし、何が暴力団への「利益供与」「活動助長」に当たるか基準はあいまいなままだ。さらに暴対法改正によって、憲法の基本理念すら揺るがされようとしている。暴力団排除という反対しようがないスローガンのもとで進行する知られざる事態とは?-。

感想・レビュー・書評

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  • <blockquote>ヤクザが生きる環境を根絶するために「治安の風景を変える」(安藤長官)というのは、警察が掲げる近年の犯罪理論、犯罪が社会的要因や犯人の生育条件に起因すると言うことを重視する立場から、犯罪を誘発する機会や環境の抑制、浄化を重視する、いわゆる「割れ窓理論」とも合致している。犯罪が発生してから操作するのではなく、警察が社会の隅々まで影響力を行使して、公判に監視の網の目を敷くことで犯罪を未然に防止する、との公安エリート的な発想がその根本にある。もちろん、たとえば監視カメラの導入など環境整備のための警察の予算獲得や、各種関連団体への警察OBの再就職先の確保というような、利権的な狙いが見え隠れする。(P.38)</blockquote>

    「暴力団排除」によって得をしたのは誰か? それは天下り先をたくさん手にした警察官僚である。
    例えば1985年の新風営法施行と1992年の暴対法施行によって、警察官僚は巨大なパチンコ景品交換の利益を手にした。
    それまではグレーな領域な分野だけにヤクザが統括してきたが、合法化と引き換えにプリペイドカード方式に強制的に変えることによって、カード運営会社の大半を警察官僚が抑えた。
    この時にソープなどの売春業も警察が手中に収めている。

    ヤクザのシノギを警察が奪ったのだ。

    自動車のハンドルに遊びが必要であるように、社会にもある程度の遊び、グレーゾーンが欠かせない。グレーゾーンの存在がある側面から支援し、文化を発展させるという側面も持っている。グレーゾーンから生まれた産業や文化がメインストリームを活性化することもあるのだ。
    こうしたグレーゾーンに警察が行政指導と称して介入し、自らの利権拡大を図ることで、産業が窒息し文化が衰退していくのだ。

    しかし、法で排除したからといってヤクザのような闇勢力がなくなるわけではない。地下に潜るだけだ。所謂裏社会は統制不可能となっていき、犯罪は益々増加するだろう。

    その反面、警察はその権力を強大化し、磐石化させるのである。
    かつて東大卒の国家一種試験合格者の一番人気は大蔵省(財務省)、外務省あたりと相場が決まっていたものだが、現在の一番は警察庁なのだというのも頷ける話しだ。


    元々ヤクザは地元の地域経済に寄生し持ちつ持たれつの関係にあった。ところが、警察による数度の頂上作戦により中小零細ヤクザが大手組織に統合されることによって広域化し、その過程で数の論理が支配する競争原理が導入され、地域共同体から利益の機会を縁としたネットーワーク型組織へと変質を迫れた。皮肉にも警察の取締りが地域に根ざしたヤクザを暴力団へと変身させていったのである。

  • [ 内容 ]
    全国の都道府県で施行された暴力団排除条例。
    その特徴は「警察vs.暴力団」から「市民vs.暴力団」へと社会を転換することにあるという。
    つまり市民の側がヤクザとどう向き合うかを厳しく制限するものである。
    しかし、何が暴力団への「利益供与」「活動助長」に当たるか基準はあいまいなままだ。
    さらに暴対法改正によって、憲法の基本理念すら揺るがされようとしている。
    暴力団排除という反対しようがないスローガンのもとで進行する知られざる事態とは?
    ―。

    [ 目次 ]
    第1章 暴力団排除条例とは?(「暴力団と社会的に非難されるべき関係」とはなにか;市民、企業に「抗弁権」なし ほか)
    第2章 暴力団排除体制の成立まで(ヤクザの分類;ヤクザの社会的成り立ち ほか)
    第3章 自由な社会と暴力団排除(メディアへの影響;ヤクザコミックの販売規制 ほか)
    第4章 暴力団排除の反作用(ヤクザをやめる条件;ヤクザなき社会の行方 ほか)
    第5章 改正暴対法と排除社会(ハシズムの病理;マッカーシズムと日本社会 ほか)

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • ヤクザとの付き合いがあると警察に認定されてしまうと社会的に抹殺されてしまう可能性があること、それは罪刑法定主義に反していること。
    また、任侠モノのコミックすら実質的に流通から排除されてしまう点については表現の自由への圧迫であろう。
    こういった指摘は正しいことだと思う。

  • 私は暴力団とは関わりがないし、弁当を売る仕事もしていないけれど、暴力団排除条例にはもっと関心を持つべきであったなあ。
    「あったなあ」なんてのんきな表現でいいのか、もう何年かしたら身に染みてわかるときが来るのかもしれない。

  • 暴排条例と治安維持法の比較にはハッとさせられました。
    暴力団の話ではないんだ。

  • 暴力団排除条例は全国の都道府県すべてで実施されている異例の
    条例だ。しかも、その内容については各自治体ではなく警察庁の
    ホームページに掲載されている。

    暴力団の利益になることはしてはいけません。暴力団と交際しては
    いけません。暴力団を「格好いい」と思わせてはいけません。

    要はそんな条例なのだが、これ、処罰されるのは暴力団員ではなく
    一般市民や企業の方なのだ。

    民主党のとある大臣が暴力団員との交際を云々されて辞任せざるを
    得なくなったことは記憶に新しい。

    数十年前の話を持ち出されて攻められる元大臣は少々お気の毒
    だった。だって政治家と暴力団なんて似たようなもんじゃないか。

    同じように大物司会者と呼ばれた芸人が、引退を余儀なくされた。
    これだって、何を今更…なのだ。チンピラ芸人がヤクザと仲良し
    なんて驚くことじゃない。そもそも、芸能界とヤクザは持ちつ
    持たれつの関係じゃないか。

    結社の自由は憲法で認められている。だから「組」は認めましょう。
    でも、「組員」は認めませんよ。ヤクザに人権なんかないし、そんな
    ヤクザと付き合う人にも人権はありませんってのがこの条例だ。

    本書では実際にあった事例を引きながら、暴力団排除条例の危うさ
    を説いている。怖いぞ~、本人の知らないところで「交際者」とされ、
    申し開きの機会も与えられないんだから。

    著者も書いているが、これ、悪名高き治安維持法に通ずるものがある。
    警察のさじ加減で、いかようにも解釈できる条例は暴力団だけではなく、
    一般市民をも警察権力の監視下に置こうとしているのだから。

    山口組6代目・司忍組長の出所映像を見ながら、「組長、格好いい~」
    とか言っている私は警察のリストに載るんだろうか。汗。

  • 今度会社での教育の時に質問してみよう。
    でも講習を担当される方は元★★OBなので・・・

  • 暴力団排除条例の導入により、「暴力団と関係している」と警察がみなせば「この企業は暴力団と関係あり」とされてしまう。
    一旦そうみなされて企業名が開示されるとその企業は立ち行かなくなる・・が、「暴力団と関係している」の明確な基準はなく警察の裁量にゆだねられている。
    このような条例の導入により警察は権力を拡大、天下り先を確保・・といったような内容。
    著者の父親はヤクザだったこともあってか、著者の作品ではヤクザ寄りの記述が目立つけど、中立の視点から見てもこの条例の導入は気味が悪いな、という思いを再度抱いた。

  • 宮崎氏の暴対法に関する一連の著作には目を通してきた。

    「ハシズムの病理」では、”大衆のルサンチマンを掬いあげ、特定の階層へのバッシングを煽ることで、権力の基盤をえる。この手法がかつて蔓延したことで手痛い傷を被った事例がある。格差社会化で日本が「お手本」としてきた米国である。"と結ばれ、マッカーシズムにより反共ヒステリー社会と化した米国が、「敵か味方か」で相手を二分する事により、WAPS社会に亀裂がもたらされ、結果それが社会的荒廃へとつながっていくとの見方が展開されている。

    一番考えさせられたのは「暴力団排除の次に来るもの」である。司法取引、おとり捜査、共謀罪へとつながっていく危険性が指摘される。

    また、あとがきには”健康増進法とか、喫煙防止法とか法律ができるたびに、職場や業界で何々委員会とやらを立ち上げさせられて、指針を表明させられたりしていないだろうか。それが、本当に私たちの生活に役立っているだろうか?私は息苦しさしか感じない”とある。
    誠に同感である。

    司法の米国化、コンプライアンス原理主義へと今まさに突き進む社会への警告の書だと思う。

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著者プロフィール

写真家。1949年長野県生まれ。精密機械会社勤務を経て、1972年、プロ写真家として独立。自然と人間をテーマに、社会的視点にたった「自然界の報道写真家」として活動中。1990年「フクロウ」で第9回土門拳賞、1995年「死」で日本写真協会賞年度賞、「アニマル黙示録」で講談社出版文化賞受賞。2013年IZU PHOTO MUSEUMにて「宮崎学 自然の鉛筆」展を開催。2016年パリ・カルティエ現代美術財団に招かれ、グループ展に参加。著書に『アニマルアイズ・動物の目で環境を見る』(全5巻)『カラスのお宅拝見!』『となりのツキノワグマ』『イマドキの野生動物』他多数。

「2021年 『【新装版】森の探偵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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