遺伝子の不都合な真実―すべての能力は遺伝である (ちくま新書 970)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 660
感想 : 70
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480066671

作品紹介・あらすじ

勉強ができるのは生まれつきなのか?仕事に成功するための適性や才能は遺伝のせいなのか?IQ、性格、学歴やお金を稼ぐ力まで、人の能力の遺伝を徹底分析。だれもがうすうす感じていながら、ことさらには認めづらい不都合な真実を、行動遺伝学の最前線から明らかにする。親から子への能力の遺伝の正体を解きながら、教育と人間の多様性を考える。

感想・レビュー・書評

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  • 同じ著者の「心は遺伝する」とどうして言えるのか」が面白かったので続けて読んでみた。
    副題は「すべての能力は遺伝である」。まじかよ、と思われるかもしれないが、著者の主張は「遺伝が影響している」であって、遺伝「だけ」で決まっているとは誰も書いてない。編集者のつけたタイトルなんだろうけれど(あとがきで触れている)、ひでえなあ。

    タイトルを別にすれば、内容は興味深い。ぼくは前の本で読んでいたので新鮮味はなかったが。
    学会の中でも環境重視派と遺伝重視派の対立があるそうだが、これはわかるな、と思う。進化論におけるラマルクの「獲得形質の遺伝」もそうだけれど、「がんばった結果」が報われない、とは誰も思いたくない。
    ただ著者(というか編集者?)は能力に対する遺伝の影響が相当大きいことが「不都合な真実」だと考えているようだが、そうなんだろうか? ウサイン・ボルトの子とぼくの子がかけっこをしたら、たぶんボルト子が有利だよね? みんなわかっているんじゃないだろうか。それはまあ、しょうがない。

    個人的に気持ち悪いな、と思うのは、DNAを根拠に方向性や志向をほかの誰かに決めつけられることだ。ウサイン・ボルトの子はかけっこが早そうだけれど、動物が好きだからトリマーになりたい! と言い出したらボルトには応援してあげてほしい。ぼくの子が陸上部に入ってボルトを目指す! と言い出したら、がんばれ! と言おうと思う。ぼくが高校のマラソン大会でビリ近かったことは内緒にしておく。
    女だから建築士はやめとけ、男だから保育士は向かない、という主張も気持ち悪い。性別とか人種とかで人間をまとめて集計すると、平均値はそれなりに異なるだろうが(黄色人より黒人のほうが背が高い、とか、女より男のほうが重い、とか)だからどうした、ということでしかない。

  • ヒトの能力がどの程度遺伝によるものかを検証したもの

    個人的には、あたりまえの事を今更書かれてあるなぁといった印象

    以下、公式の概要
    -----------------
    勉強ができるのは生まれつきなのか?仕事に成功するための適性や才能は遺伝のせいなのか?IQ、性格、学歴やお金を稼ぐ力まで、人の能力の遺伝を徹底分析。だれもがうすうす感じていながら、ことさらには認めづらい不都合な真実を、行動遺伝学の最前線から明らかにする。親から子への能力の遺伝の正体を解きながら、教育と人間の多様性を考える。
    -----------------

    副題は「すべての能力は遺伝である」とあるけど、かなり誤解を招くのではなかろうか?
    本文では、何でもかんでも遺伝で決まるわけではない事を説明していながら、遺伝に関する誤解を解きたいのかいいように誤解させたいのかわからない

    形質によって遺伝の寄与率が異なるのは当たり前でしょうに


    わかりやすい説明例はよかった
    「人間の能力は遺伝と環境のどちらで決まるのか」を「長方形の面積は縦の長さと横の長さのどちらで決まるのか」と同じくらいナンセンスだというのは納得
    条件を揃えないと、そりゃぁ比較はできないでしょうね

    あと、世間の人が如何に遺伝子を誤解しているか
    「遺伝的差異を指摘することは差別につながるからそういうことは言ってはならない」と行動の遺伝的影響を否定する人たちは、むしろ彼ら自身が「もしも遺伝的差異があったならそれは差別の対象となる」という優生思想にとらわれている

    機会の平等が成された社会は遺伝による能力の優劣が決め手になる
    結果の平等の社会だと、能力的に不利な人に手厚い保障が必要になる
    まぁ、現代に於いて有利なのは「親ガチャ」という言葉が出てくるように、遺伝もさることながら生まれ落ちた環境も大きなものになってるけどね


    全体的に感情論が所々に入ってきている印象
    バート事件の検証にかんしても、結局著者も明確なデータに基づいて主張しているわけではなく、憶測を過分に含んでいるなぁ


    「環境こそが遺伝子を制約している」という主張に関しても、あたりまえの事じゃね?という感想しかない
    遺伝子なんて、結局は環境に適応したものが残るわけで
    遺伝、各種形質や行動が環境にどう有利に働くかはどんな環境下なのかが大きな要因になるのはあたりまえでしょうに

    現代に於いて有利な遺伝子と、高々100年前まで遡っても求められる遺伝子は違うし
    一世代をざっくりと20年としても、五世代しかないし、しかもセレクションプレッシャーの強さにもよるわけで
    遺伝の影響はあるものの、それ以上に個々の育つ環境の方が個体の生存には影響があると思うけどね

  •  行動遺伝学という、最近になって研究が進んでいる分野の非常に興味深い一冊である。なぜか「氏より育ち」という言葉がしばしば使われたりしてきたが、これは違っていて、「氏も育ちも」ということであり、その初級編に相当する。また「育ち(=環境)」は、その「氏」によって影響する形がひとりひとり異なるという。親子は顔が似ているのと同じで、脳も行いも似ているのが自然なのである。
     こうした基本知識を踏まえ、子育てにあたって参考になるところが多く、また子育てを取り巻いている環境へのアプローチを考えさせられたりもする。もう少し行動遺伝学の研究を追いかけたくなる、そんな入口となるものである。

  • ほとんど全ての能力や思想傾向について遺伝要素が関与している、という内容がデータ付きで示されています。

    こういった内容はタブー視されている向きもありますが、どんな能力がどの程度遺伝子に支配されているのかというのは知っておくことはこれからの遺伝子情報社会に備えるためにも大事なことだと思います。

    教育現場では、こういった事実を正しく捉えた上で方針決定をするのが理想だと思います。

  • 適切な環境とたゆまぬ努力さえあれば、いかなるの人間も遺伝子に縛られる事なく自由にどこまでも自分の個性や能力を伸ばすことができる…そう信じなければ私たちは平等を成し遂げられないと思っている。

    ★行動遺伝学の三原則
    ・行動にはあまねく遺伝の影響がある
    ・共有環境の影響がほとんど見られない
    ・個人差の多くの部分が非共有環境から成り立っている

    ★子供の問題行動の差
    3歳から4歳にかけて、子供の行動は劇的に変化する。落ち着きがない、不安を訴えやすいと言った感情問題も、この時期には随分移り変わる。この変化にも遺伝と環境の両方が関わっていると考えられている。感情問題を遺伝的に起こしやすい子供でも、親の養育態度(子供への接し方)が温かくなるにつれ遺伝の影響が出にくくなる。

    「言ってはいけない」より

  • 学歴やIQ、収入は遺伝の影響を受けるー。誰もが薄々気付いているが口に出すことがタブー視されている遺伝子の不都合な真実について論じられている。
    例えば、学習成果は勉強によって個人の遺伝的才能があぶり出された結果であり、学歴の何割かは遺伝によって決まるという。そうすると「やればできる」などの学習塾のキャッチコピーも虚しく響いてくるが、経験上何となく納得できる。
    印象的だったのは、大リーグのスター選手のイチローには特別な遺伝的才能が必要だが、観客が気持ちよく観戦するために球場のトイレ掃除を根気よく続ける人にも特別な才能が必要だという点。個人の優れた才能が補完し合う互恵的関係が社会に必要なのである。
    それら個人の遺伝的才能を発掘し、伸ばすことが教育に求められていると結論づけている。

  • 遺伝子と向き合った「教育」の必要性が求められる。こう、一口で教育と言った時、学校教育が真っ先に思い浮かべられる環境にも問題があるのだろう。

  • 面白い研究結果だが、では教育をどうすべきかについての考察が乏しいのは、教育学の研究者として足りなくて残念。

  • フォトリー4冊目、この本は面白かったです。

    「遺伝子」で才能は決まるんだ!という、何となく分かってはいたもののこう断定されちゃうと委縮しちゃいます。

    自分にはどんな遺伝子が含まれているのかは、最近話題の「23andMe」を使えばある程度分かってしまうものの、それで自分の才能が分かる訳ではありません。

    才能は遺伝で決まってしまうものの、それをどう生かすかは環境により左右されてしまいます。

    つまり、

    ・同じ遺伝子を持っていても、環境によってどう生かされるかは変わってしまう
    ・同じことをしていても、遺伝子によって結果は違ってくる

    ということ。
    結局は自分が苦労せずに、空気を吸うかの如くできる「得意なこと」を活かして、自分の目標に進んでいきたいと思います。

  • ざくっと読みましたが、著者がわりに問題意識の強い方で、遺伝を社会的な視点からとらえた項目が印象的。好き嫌いはありますが。遺伝の基本的な情報もわりあいしっかり載ってます

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著者プロフィール

慶應義塾大学文学部教授
主要著作・論文:『生まれが9割の世界をどう生きるか―遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』(SBクリエイティブ,2022年),『なぜヒトは学ぶのか―教育を生物学的に考える』(講談社,2018年),『遺伝と環境の心理学―人間行動遺伝学入門』(培風館,2014年)など

「2023年 『教育の起源を探る 進化と文化の視点から』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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