功利主義入門: はじめての倫理学 (ちくま新書 967)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 61
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480066718

作品紹介・あらすじ

倫理学とは「倫理について批判的に考える」学問である。すなわち、よりよく生きるために、社会の常識やルールをきちんと考えなおすための技術である。本書では、「功利主義」という理論についてよく考えることで、倫理学を学ぶことの意義と、その使い方を示す。「ルールはどこまで尊重すべきか」や「公共性と自由のあり方」という問いから「幸福とは何か」「理性と感情の関係」まで、自分で考える人の書。

感想・レビュー・書評

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  • 倫理とは何か、について、功利主義という主義に入門してざっと全体を眺めてみようじゃないか、という本。

    最近、自動運転で流行りのトロリー問題から始まり、豊富な例題と読みやすい文体で一気に読んでしまった。

    功利主義とは、簡単に言ってしまえば快楽の総和を最大化することが目的であり、純粋に言えばトロリー問題で言えば迷わず5人の命を救うのだろうけど、実際に功利主義の原理主義みたいな、最大幸福の実現のために少数を犠牲にするような考え方は古く、その起りもむしろ少数のないがしろにされている人間も平等に扱うべきだというところがあることが理解できた。また、それに対する批判もあった上で、どう変遷していったかがわかりやすい。

    特に興味深かったのが公衆衛生の章。この本はコロナ以前に書かれた本だが、政治と功利主義の関係性について現実と照らし合わせるとよく理解できた。コロナに罹患した状態、というのをどう定義するかによるけれども「他人に危害を与える状態」という立場をとれば確実に公衆衛生上隔離や強制的な治療といった措置は免れないし、ただしその場合でも功利主義の最大幸福のために公権力からの個人への介入をどれだけ許容するのか、という議論になる。ほぼ最大限に介入しているのが中国で、自由主義を極端にいっているのがアメリカ、ととらえられるかなと。日本は、というと、その中間というか、自粛という言葉も何もかも「ナッジ」という考えで実行されているとするとある程度は納得できるかなと。公衆衛生は守りたいのでコロナがうつりやすい状況は変えたい(緊急事態宣言や自粛)が、個人の自由は最大限に尊重したいのでその環境は整える(GoTo)みたいな。まあ、ただそのやり方がどこから見ても非常にまずいという気はするけれど、極端な立場から批判できるものでもないかなという気はする。

    参考文献も面白そうだったので、倫理学というか功利主義についてもうちょい理解を深めてみたい。

  • なんかようやく倫理学に入門できた気がする。功利主義に絞っているから、ふつうの『倫理学入門』みたいな本には書いてないこともあれこれ書いてある。田上孝一先生の本のタバコ批判とかもああこういう話かと納得。

  • 入門書ではあるけれど、あくまでイメージを掴めるという程度で本格的に学べる本ではなかった。この本だけで功利主義と言うものを判断するのはよくないと思う。議論は緻密でなく、例えも的を射ているとは思えなかった。マイケル・サンデルの「これからの「正義」…」や永井均の「倫理とは何か」の該当章の方が、議論も確かで内容も深い。

  • 新書ということもあって、とても平易に書かれている。人間の倫理観を疑うような事件が次々と起こっているが、倫理というものは『学ぶ』ことではなく『考える』、『考え続ける』ことが重要であることがわかる。「いつわりの世界で幸福感に浸って生きるよりも、真実の世界で不満を感じながら生きていた方がよい」(P152)。不満があるということは人間として『正常』であるということなのかな。

  • 大学推薦の入門書には珍しく、本当に最後まで読者を振り落とさない配慮を感じた。功利主義者を批判する人は、今では誰もその立場をとっていないような古い流派の功利主義を批判して「藁人形論法」に陥りがちである、という文があり、最近よく聞く「ストローマン論法」の意味を初めて調べた。言い尽くされているが、Twitterは批判→応答→批判→応答…の軌跡が見えにくいので、最初に思いついた批判をお互いがぶつけて終わりやすいと改めて思った。巻末に倫理学に入門するための推薦図書リストがあり、早速1冊手配した。全部読みたい。

  • とあるところで紹介されていたので読んでみました。

    功利主義というと、「最大多数の最大幸福」の実現を目指す考え方と思えばよいのですが、「最大多数」が誰を指すのか、そこから漏れた人はどう扱うのか、「幸福」とは何か、「最大幸福」にあたって「幸福」は数値化できるのか、など、いろいろと実現にあたって定義すべき問題があります。

    また、「最大多数の最大幸福」の考え方が広く知られるようになってから200年ほど経ちますが、この200年の間で科学(とくに生命科学で中でも脳科学、あるいは心理学)が大きく進歩した結果、倫理学や哲学(道徳哲学)においても、科学の知見を取り入れざるを得なくなってきており、功利主義は、どんどん洗練されてきています。

    そういった経緯をわかりやすく丁寧に説明してくれているのが本書、といえると思います。
    著者が言うには、本書は、入門書としてまだまだ難しいようで、さらなる入門書を紹介するなど、そういった面でも親切な一冊です

  • 2023.3.4読了。弟子筋の人に教えてもらって読み始めた本。功利主義についてはあまり理解できていない部分が多かったが本書でざっくりと、功利主義の形成の流れについて知ることができた。

  • 読みやすくて、倫理学の知識を体系的に学ぶ事が出来た。引用してくる倫理学者の古典文章を、わかりやすい所を分かりやすく引っ張ってきてくれてるのが助かります。今まで麻薬で出す快楽と、知的活動で得られる快楽の違いをずっと考えていたけど、本文の「それが客観的な快楽かどうか」という文書で何となく腑に落ちた。

    相対主義批判の矛盾 根本的ルールは同じ
    自然は正しいの?
    ジレンマに対して備えておく より洗練された倫理

    共感 反感の原理 自分の好きなことだけ
    ベンサム 道徳と"立法"の諸原理序説
    帰結主義 行為の帰結を評価 幸福主義 幸福だけが内在的価値を持つ

    ゴドウィン 政治的正義 婚姻制度批判 「わたしの」という発想をなくせ 公平性 結婚後は変わる
    家庭の人間関係のうちに暮らす人は、他の人に快を与える機会を持つ

    規則的功利主義 規則や義務に2次的に採用 間接功利主義 行為功利主義 個々の行為に ゴドウィン
    道徳的に重要な違いがあれば 異なる仕方で ピーターシンガー 貧しい国への援助 最大多数はどこまで含むのか

    公共政策における功利主義 最小不幸社会 トリアージ 優先度 ロールズ「功利主義は人格の個別性を無視する」どんぶり勘定 長い目で見たら

    ミル 自由主義的 長期的に見て社会全体が幸福に ロックの自然権は根拠 他者危害原則
    チャドウィック 権威主義的 パターナリズム 当人の意思に関係なく、当人の利益のために
    どこまで正当化されるか
    リバタリアンパターナリズム ナッジ 人間は合理的に行動しない 人々を取り巻く環境を変更して自然と正しい選択肢を

    高級な快楽とは 高級な苦痛は 快楽ソムリエ マトリックスは幸福? 我々は客観的にも幸福でありたい
    快楽とは選好 選好功利主義 適応的選考の形成 選好の充実が幸福なのか 吾唯知足 厚生功利主義

    特定の命を救うことに大きな共感 募金 思考は直観的な経験的システムと分析的システム mri
    デブトロッコ実験 落とす派は認知的活動を司る脳の部位が活性化 落とさない派 感情を司る脳が活発

    ビル・ゲイツの寄付のやり方 j美







  • 「功利主義」という言葉の意味が全くわからなかった初学者であった私。
    この本を読んで、大枠を掴むことができた。
    人類が進化しているのは技術だけでなくて、倫理の面もだということを実感した。

  • 功利主義入門にふさわしい。実例を挙げながらわかりやすく功利主義の全体像や、ベンサム、ミルの思想に加え、リベラリズムとの関係性なども説明されており、スッキリとした内容になっている。

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著者プロフィール

1974年大阪府生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程研究指導認定退学。博士(文学)。東京大学大学院医学系研究科専任講師等を経て現在,京都大学大学院文学研究科教授。
主な著書に『COVID-19の倫理学』(ナカニシヤ出版,2022年),『実践・倫理学』(勁草書房,2020年),『正義論』(共著,法律文化社,2019年),『入門・倫理学』(共編,勁草書房,2018年),『マンガで学ぶ生命倫理』(化学同人,2013年),『功利主義入門』(筑摩書房,2012年),『功利と直観』(勁草書房,2010年,日本倫理学会和辻賞受賞)など。

「2022年 『オックスフォード哲学者奇行』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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