理想だらけの戦時下日本 (ちくま新書)

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著者 : 井上寿一
  • 筑摩書房 (2013年3月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480067111

理想だらけの戦時下日本 (ちくま新書)の感想・レビュー・書評

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  • 「日本を取り戻す」って「どの日本を取り戻すの?」というツッコミはナイス。「そんなアンタの理想の日本なんてどこにもないのでは?」という問題提起から戦時下の日本人の生態を検証。当時既に家族共同体や地域共同体もなくなっているようだし、皆それなりに自由気ままに暮らしてしたらしい。「国民精神総動員運動」があまり機能しなかったのは、日米開戦前だし、当時の人々にもあまり危機感とか切迫感もなく、モノや娯楽を追い求めたんじゃないのかなあという印象。
    資料として読む分にはそれなりに参考になるのだが、少々引っかかるのは著者が現代との類似性からいろいろと提言している点。経済成長して上方平準化ってのは現実的には無理だろうし、する必要もあるのかと。もうこれだけモノが溢れている現代においては大衆消費社会は終わってるし、格差社会といいつつ、モノには十分満たされているし(世代格差はなくすべきとは思うが)。逆に言えば、モノより心(精神)に向かい易くなっているとも言えなくもなく、その風潮を都合よく利用しようとする政治・宗教・企業・その他勢力が増大する事は危惧しなきゃいけないとは思うが。

  • ≪目次≫
    はじめに
    第1章  「体を鍛えよ」といわれても
    第2章  形から入る愛国
    第3章  戦前昭和のメディア戦略
    第4章  気分だけは戦争中
    第5章  節約生活で本当に国を守れるのか?
    第6章  戦争の大義はどこへいった?
    第7章  ファシズム国家になれなかった日本

    ≪内容≫
    日中戦争時の国内の社会の様子がよくわかる本。
    さまざまな事例を詳らかに並べてあるので、読むのにはややかったるいですが、今まで「一億総戦争」だったのかな?と思ったが、とんでもなく普通の(現代のような)生活をしていたんだな、とわかりました。
    もうちょっと現代と対比して、今が昭和10年代に逆コース状態、と指摘するのか思ったら、そうでもなかったですが、よ~く考えてみると、似てるよね、と。政治家をあまりのさばらせていると、結局自分たちの首を絞めるのかな…

  • 国民精神総動員運動がいかに推進され、形骸化・衰退化していったかをエピソード的に論じた一冊。「おわりに」で言及している、下方平準化社会を志向すると社会に暗い情念が渦巻く、というまとめは示唆に富んでいる。

  • 日中戦争当時の「国民精神総動員運動」がいかに「失敗」したかを論じた本。
    1931年 満州事変
    1932年 5・15事件
    1933年 国際連盟脱退
    1935年 天皇機関説事件
    1937年 盧溝橋事件、日独伊防共協定、南京攻略戦
    ときて、国民精神総動員運動(精動運動)とくれば、暗黒時代の始まりかと思いきや、実はそうではなかった。
    お上が乱発するスローガンや◯◯運動は食傷気味、贅沢撲滅運動は抜け穴だらけ、国威発揚映画にはからっきし人気がなく洋画は超満員、肉体労働ばかりの勤労奉仕は評判が悪く、国防婦人会と愛国婦人会は内輪もめ、挙句、戦争の大義名分であるはずの「肇国の大理想」だの「日本精神」だのの中身も一向に定まらない。
    そんな様子を、マスコミは好き勝手に批判したり揶揄したりする。
    結構、グダグダなのだ。

    なぜグダグダになったかというと、国威掲揚のための「日の丸展覧会」だの銃後の守りの「家庭報国展覧会」だのがデパートの催物場で行われていたというエピソードが象徴的なのだけれども、昭和初期には既に大量消費社会が到来していたから。さらに、都市部にあっては地域の共同体ももう崩壊していた。
    上から押し付けようが、下から盛り上げようとしようが、擦れっ枯らしで飽きっぽい臣民の精神は、並大抵のことでは総動員されなかった。

    そんな精動運動は、戦争の大義名分を確立して国威掲揚を図るという(失敗したけど)側面の他に、国民生活の平準化・平等化をも志向していたという点は興味深い。
    贅沢は敵だ的な国民生活の平準化・平等化には、都市のリベラル層は白けていたとしても、労働組合や農村部は精動運動にノリノリだった。
    この辺り、当時の無産政党は軍部に協調的だったことや、2・26事件の青年将校に農村部出身者が多かったことと考え合わせるとちょっと面白い。

    そして結局、大量消費社会もその大量消費社会へのアンチテーゼにして戦争の大義名分たる八紘一宇の精神も日本精神も、大日本帝国まるごとアメリカの圧倒的な物量にまとめて押しつぶされてしまうというのは結構な皮肉だ。

    精動運動とその失敗を受けて始まった大政翼賛会(の失敗)を議会制民主主義、わけても政党政治との関係に求める著者の筆の運びには、え?と思った。ちょっと説明が足りない印象。

  • 【目次】
    はじめに

    第一章 「体を鍛えよ」といわれても 
    1 質実剛健、己の肉体を磨け 
    健全な精神と健全な肉体/体育日/運動大会/水泳/東京オリンピック/剣道/体操/徒歩/漢口陥落/外地/体力の向上
    2 日本国民は健康が大事 
    健康週間/心身鍛錬運動/早起きの励行/「名士に健康を聴く」/白米をやめる/厚生省の役割/結核予防/性病予防/優生学

    第二章 形から入る愛国 
    1 あらゆる場所に日の丸を 
    低い掲揚率/日の丸の扱い方/日の丸弁当/高島屋「日の丸」展覧会/法制化されていなかった日の丸
    2 思いを込めて君が代を歌え 
    精動運動と君が代/世界無比の国家/君が代だけでいいのか/君が代の強化
    3 いつなんどきでも宮城遥拝 
    宮城/甲子園/元日/宮城に集まる人々/形式化する精動運動の精神

    第三章 戦前昭和のメディア戦略 
    1 庶民の味方ラジオ 
    精動運動にとってのラジオ/精動運動のラジオ番組/国民がラジオに求めたもの
    2 洋画に負けるな精動映画 
    精動運動にとっての映画/戦争景気のなかの映画/洋画の輸入禁止/激増する戦時下の観客動員数/映画法の公布
    3 大人もはまる紙芝居 
    印刷物/新聞/紙芝居/演劇・展覧会・その他
    4 面白くないメディアは飽きられる 
    逆効果/国民心理

    第四章 気分だけは戦争中 
    1 傷ついた軍人を大切に 
    冷淡な銃後の国民/中山亀太郎君――戦前昭和の「五体不満足」/傷痍軍人の名誉/雇用問題/結婚問題/仏教界の協力/制度の整備/銃後後援強化週間
    2 女の仕事は銃後の守り 
    国防婦人会/かっぽう着/たすき/歓送迎の接待/映画「輝く国婦」/前線の銃後/愛国婦人会VS国防婦人会
    3 学生にボランティアを義務づけてみる 
    勤労奉仕の精神/ドイツの影響/厚生省VS文部省/令嬢動員/副産物/社会の分断線
    4 ご近所仲良く隣組 
    隣組とは何か

    第五章 節約生活で本当に国を守れるのか? 
    1 戦時下での資本主義 
    「資源愛護」「消費節約」/産業報国運動/下からの運動/資本家批判=労働者擁護 
    2 家庭でできる小さな節約 
    節約は家庭から/「家は国の礎」/模範国ドイツ
    3 息が詰まる非常時生活 
    非常時国民生活様式委員会/服装に関する委員会/戦時下のファッション/思いどおりにいかない服装の統制/生活刷新運動
    4 贅沢はやめられない 
    精動運動の改組/贅沢全廃運動/国民厚生運動

    第六章 戦争の大義はどこへいった? 
    1 アジアの盟主をめざす 
    毎月一日は興亜奉公日/戦争目的をめぐる対立/興亜奉公日の現実/興亜奉公日の失敗
    2 曖昧なままの日本精神 
    八紘一宇とは何か/日本精神の強調/あいまいな日本精神
    3 欧州情勢に翻弄される 
    食いちがう日独/ちがいを認識する日独/独ソ不可侵条約の衝撃
    4 方針なきまま進む日本 
    迷走する日本外交/近衛文麿の再登場

    第七章 ファシズム国家になれなかった日本 
    1 外から見た精動運動 
    ドイツ人ジャーナリストの視点/江ノ島での光と影/アメリカ人ジャーナリストの視点/軍部の認識/磨滅する「精神主義」
    2 精動運動VS新体制 
    国民生活新体制/精動本部の反論/精動運動の「発展的解消」
    3 大政翼賛会は国民をまとめられたのか 
    外から見た大政翼賛会/中央協力会議の議論/大政翼賛会の現実

    おわりに 
    参考文献
    あとがき(二〇一三年一月 井上寿一)

  • 大東亜戦争中に日本で取り組まれた国民精神総動員運動について、実際問題国内で何が行われていたのか。上の本もそうだが、実際に生きていない人間はイメージだけが先行してしまう。しかしこちらも酷い事になっている。結局行き着く所は時局柄贅沢禁止運動と化すのだが、大日本愛国婦人会(総裁は閑院宮妃で上流層中心)と大日本国防婦人会(庶民層中心)の対立や、官僚の指示に全く従わない国民で、不当利益と闇商売があらゆる所ではびこり(統制経済は穴だらけ)、アメリカ人ジャーナリストに「日本人はそうした規則を出来るだけごまかす点で、極めて臨機応変」と書かれる始末。すでに1939年頃から物資の欠乏が顕著になると、上流層による田舎からの買占めと、百貨店の売り惜しみが発生。まだ対米戦も始まる前に早くも厭戦気分が台頭してくる。極めつけは1938年に訪欧した高級官僚はナチスの幹部にこっぴどく非難される。ドイツは日中戦争の長期化を極めて憂慮しており、なぜ日本が南京攻略時にドイツの和平斡旋を受け入れなかったのか、この時を逃して和平のチャンスは無いとして、「正気の沙汰とは思えぬ」と言われた。日本の指導者よりナチスの方が余程大勢を理解していた訳だ。挙句の果てその後ドイツの最盛期に高値掴みをしてしまうようでは、戦争に勝利するなど最早有り得ぬことであった。最近も日本は勝利の芽も有ったなどという、自称保守派が大好きなお話が本になっているが、いつまでたっても愚かが直らないのはどうしたものかと思う。

  • 1937年日中全面戦争の勃発に伴って、近衛文麿内閣が決定した国民を戦争に動員するための官製運動「国民精神総動員運動(精動運動)」についての本です。

    この時代、莫大な軍事費を捻出し、インフレを抑え、兵隊として奪われる多くの労働力を補充する政策を実行していました。

    その政策を実行するために、国家はどのようなプロパガンダを行ったのかについてわかります。

  • 感想未記入

  • 戦争を推進する側の、文書がたくさん引用されているが、それを「裏読み」して、当時の大衆の動向読むと興味が深い。当時、「大衆消費社会」の動向や、闇取引きや、厭戦気分を、行間から読み取れる。
    話はそれるが、太宰治の作品の中で戦中の小説、随筆を読むと、隠然とした反戦気分が伝わってくる。『桃太郎』は軍部によって、「鬼畜米英」の象徴とされたが、『御伽草子』を読むと、軍部をおちょくる内容である。富士山に月見草が似合うという名言も、日本のウルトラナショナリズムへの抵抗である。

  • いつのことかはわからないが、過去の日本が理想的だったことがあるような、そんな幻想を持っていた。ただ戦時下というのは、何か昨今の「空気」に似たものによる支配の色合いが強い気がして、どうにも手本になり難い、と考えていた。
    本書のタイトルは、そういう視点からは刺激的ではあるけれど、そんな僕の薄い想像よりもずっと懐の大きいものだった。メディアを総動員しても、国民を精動運動にどっぷりにすることは、実はそうそう出来ていなかった。形から入る愛国、そして大義がなんだったかもわからないままに、ようするに飽きてくる、疲れてくる。これは国民性と考えていいかもしれない。
    「おわりに」にある三つの示唆は非常に面白いけれど、何か色々膨らんだ想像や期待が、納得が行くながらも、そこに当てはめるにはもったいなくて、もう少し頭のなかに放流しておきたいような、そんな気分。

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理想だらけの戦時下日本 (ちくま新書)の作品紹介

日中戦争中、格差の是正・政治への不信・共同体志向などが大衆の間に広がっていた。その様相はまさに現在の日本と重なる。そういったなか、戦争勝利へ向けて国民を一致団結させるために国民精神総動員運動が開始される。「日の丸を敬う」「節約した生活」「前線と心を共にする」など上からの国民運動が巻き起こった。果たしてこの運動は当時の国民の期待に沿うものだったのか。その実態はどのようなものだったのか。いままで見逃されてきた戦時下の日本社会を克明に描く。

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