自治体再建: 原発避難と「移動する村」 (ちくま新書 1059)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480067692

感想・レビュー・書評

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  • 自治体政策の専門家による、体制批判書。福島の原発被災者を中心に取材し、復興支援が不十分であることに対し、国家や人権擁護の態勢を批判している。
    被災者の立場のように低い視線から国家の態勢を論じることは、一つの事例を表すにすぎない。あくまでも国家は、国民生活全体を考えて方向を決めるのであるから、福島のことだけを考えて、国家全体の姿を変えることなどあり得ない。多くの国民が幸せを感じてきた現体制を法体系から変えることに賛成する国民は少ないだろう。福島の人たちは、かわいそうだが、だからといって国民すべてが福島のために多くの税金を払うとは思えない。あくまで国を論じるには、その立ち位置が重要であって、その点から言えば本著者の立ち位置は極めて低く、狭視眼的な、ひとりよがりの独善的意見といえる。
    「これから日本では人口減少のスピードが増し、高齢化率が高まる。しかし、実は大部分の地域では、2020年をピークに高齢者の数は増えない。一貫して高齢者が増加するのは「都市」である」p13
    「(震災後の混乱期に無理矢理議会を開いたこと)役所ではできないことを議会としてやるのに意義があると考えた」p68

  • ・現在の戸籍制度(住民登録+戸籍)は、日本だけでありすでに運用として限界が見えつつある。
    ・東日本大震災際での被災村=住民一体での避難を実現し、災害リスクを軽減に成功(移動する村)
    *なお論者、住人によって市長・自治体に対する評価はさまざま(基礎自治体の行動に対しては評価)

    →待避を前提とした、二重住民票の可能性。
    →広域自治体の役割と、広域化した基礎自治体というあり方で本当に良いのであろうか。

  • 自治体の役割とは何か?震災とその直後からの原発災害によって、改めてそのことが浮き彫りにされた。

    この本でも前半は、原発事故からの避難において、それぞれの自治体の長や職員がどのように行動したのか、その結果、いまにいたるまでどのような形で住民が避難生活を過ごしているのかを丁寧に描き出している。

    確かに、事前の自治体の準備や普段からの自治体職員と住民の距離、情報が無い中での災害時の判断の1つ1つによって、大きな差が生まれていることがわかる。住民の暮らしを守る自治体という、「実体感のある姿」が感じられる。

    一方で、避難生活が長期化するにつれて、それぞれの被災者が避難先やそこからさらに別の場所に移って、生活を築き始める。元の場所に戻って生活することに対する思いも、それぞれの住民によって異なる。その時に、新しいまちづくりを方向性付け、また分散して暮らしている住民をまとめる役割としての自治体の存在感は、時の経過とともに少しずつ薄れていっているように感じられた。

    当然、さまざまな努力がなされている。特に、このような時に議会の取り組みが果たす役割が大きいということに触れられているのは、この本のよいところだと感じた。

    しかし、全体的には、自治体の役割は何なのか、ますます不明瞭な時代になってきたという印象を感じた。今回の震災はその1つのきっかけではあったが、実際には大都市圏の自治体も、同様の課題を抱えていると思われる。

    多くの人が基礎自治体どころか都道府県をまたいだ生活圏を持っており、教育、防災、まちづくり、衛生等、機能によってそれを依存する自治体が異なるというのがむしろ普通である。

    本書の中では、2つの住民票という仕組みを検討するべきであるという提起がなされており、それは今の現状をより適切な方向へ近づけるための一案であると感じる。ただ、では住民票は「2つ」で足りるのか?3つの住民票が必要な生活スタイルになっている人もいるのではないか?などと考え始めると、そもそも自治体に所属することとはどういうことなのか、生活に必要なサービスのどこまでを自治体に依存し、どこからは公益企業、民間企業、町会などに委ねるべきなのかということを、考えさせられた。

  • 一般的に自治体とはと問われると、今住んでる地域を思い浮かぶが、東北大震災のような想定外の事態に面したときに、自治体が何ができるか、各地に散らばった避難住民はどうすればいいのか、新たな居住地を自治体と認識するのか、それとも地域を超えた人的繋がりを自治体と捉えるのか、被災者ではない自分としては、何が有るべき姿なのかは言い切れないが、最後に頼るべきは国ではなく、今、自分の属している、もしくは、属していた集合体が何ができるのだろうと考えさせられた一冊だった。

  • 「仮の町」構想は、再び住民が集住して、現在の局面を共に生きていこうという希望を打ち出して共感を呼んだが、以前の数千人、数万人という住民が1カ所に集住するということはまり現実的ではないし、あまり現実的ではないし、必ずしも現時点で避難者が望んでいることではない。やはり、住民が全国に散らばりながら自治体を維持していると言うチャレンジをせざるを得ない。すなわち、ネットワークで結びつくような現代の「移動する村」の設計図を描くのだ。

  • 318.11||Im

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著者プロフィール

自治総研主任研究員

「2021年 『原発事故 自治体からの証言』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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