日本漁業の真実 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480067708

感想・レビュー・書評

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  • クロマグロやウナギの絶滅が心配され、ニュースでも報じられる。
    だが、それも問題ではあるが、日本の漁業の問題は実はそんなところにあるのではないとする本(『日本人が知らない漁業の大問題』)の広告に目が止まった。
    そう、マグロやウナギの話は自分も気にしてきた。でも一方で何となく思ってはいたのだ。本当にそれだけか? 何かもっとありそうだ。消費者として、何となく、徐々に魚が遠くなっているような気がずっとしているのだ。日常の買い物で目にする魚の種類が減り、価格が高くなり、何となく少しずつ遠い存在になっていきつつあるような。ある決まった種類の、見た目に小ぎれいな切り身ばかり増えてきているような。
    そんなこんなで、上記の本を読んでみようと思ったのだが、さらに包括的に漁業の問題を扱っているというレビューを目にして、本書『日本漁業の真実』を手に取ってみた。

    ざっと漁業の歴史を振り返り、世界の中での日本漁業を俯瞰し、漁業の特殊性を考えつつ、将来を探る。硬めでバランスが取れた本であるように感じる。

    漁業は斜陽産業といわれる。漁獲量も漁業従事者も減っている。
    これを考えるには、漁労(魚の取り方)文化や魚食文化、産業構造といったさまざまな視点から考慮する必要があるという。

    漁業は採る魚種や地域によって取り方がさまざまである。決まった場所ではないところから天然資源を得るという性質から、資源を枯渇させないため、また漁民間のトラブルを避けるため、漁業権に関わる取り決めがある。取り方もさまざま、規模もさまざまな事業者が混在している状況である。

    遠洋漁業に関しては、200海里問題の傷手は大きく、急激に縮小されていったことがデータでも見て取れる。境界を共有する他国との間でうまく住み分けがなされればよいが、交渉が困難な場合も多い。

    海洋資源の場合、どのくらい取れば適正量なのかという予測も一筋縄ではいかない。
    ある魚種だけでなく、生態系との関わりもあり、また例えば沿岸の発電所や工場などが環境にもたらす影響もある。

    養殖漁業は管理がしやすいようにも思われるが、一方で、養殖魚の餌も一般的には漁業によって得たもの(人の食用には適さなかったものなど)が当てられるわけで、自然から取る漁業と無縁ではない。
    養殖業は、大まかに、(クロマグロのように)高額な資本を投じて大規模に飼育・販売するものと、細々と中小企業・個人でも手がけられるものに二分化されていくと考えられるようである。

    消費サイドから見ると、人々の生活様式が都会風に移行していくにつれ、生ゴミが多く出やすい魚は敬遠され、売れなくなってきている。売れなくなれば魚価は下がり、就業者も減っていく。
    人手不足を埋めるために海外からの労働者が入ってくるが、言葉の壁などから軋轢が生じる場合もある。

    漁民間の調整をし、漁業と消費者をつなぐ役割も期待される組織が漁協だが、こちらも漁民の減少や魚価の低下などがあり、職員が減少し、思うような成果を出すことがますます困難になっている。

    問題山積なわけだが、著者は絶望しているわけではないようである。
    困難であっても、個々の漁場にあった漁業、若者も参入できる魅力ある漁業は可能ではないか。それを支援する政策もありうるのではないか。そうした道を探ろうとしているように思える。

    一消費者としては、魚が食卓にあがらなくなるようなことがあればさびしいことだ。
    海洋資源の今後を注視していきたい。

  • 本書は、日本漁業の栄枯盛衰について書かれている。
    様々な視点で、データを用いながら生産者、取扱者(商社や流通業者)、消費者の過去から現在までを細かく説明している。水産業界を知らない人には読むのに苦労する事が考えられる。

    日本漁業に於いて、1番の問題はやはり日本人の魚離れが起因する需要の減少(可食部が少なく、他の食材に比べ食べるのに手間がかかる事が原因か?)、ある魚種では資源が減少していることも原因の一つだが、需要減から漁獲量も減っている。
    都市部では、どのように付加価値をつけて、商品を販売していくのか。地方では、マーケティング・プロモーションを行い、どうやって人を呼び込めるかが需要回復の鍵になると考える。
    その方法を考えていきたい。

  • 漁業の今を伝える良書。漁業の不振は日本の政治経済体制の不振を反映していると結ばれています。今後の漁業の再生は、漁場の維持・保全・再生など、自然環境としての海の生産力を向上させることが大切なのだそうです。

  • 日本の漁業海域は狭まっている。限りある資源の中で漁業はその調整機能を担う。
    瀬戸内海の透明度が高いのはプランクトンが減ったから。
    養殖業も餌は魚から。

  • 日本の漁業の現状を漁法、国際規制、流通、漁協等さまざまな観点からの情報を提供してくれる一冊。

    全く知らない業界の一端を知ることができたが、これからの日本の漁業が非常に心配になった。

  • 漁業者側、業界側に立って書かれた漁業の現状と問題点。
    現状の漁業の仕組みがこうなってしまっている背景はよく理解出来たのだが、勝川先生を『通俗的な改革論をばらまき、業界を混乱させている論者』呼ばわりするのは如何なものか。
    ニシンが消え、鰯がとれなくなり、ハタハタが禁漁になった原因(のひとつ)が乱獲でないとでも言う気なのだろうか?
    寿司屋でまともなヒラメや締め鯖が出てこなくなったのが幼魚漁獲と無関係と?
    境港で起きていることが正しいと?
    正確な持続可能な漁獲高を求めるのは無理なのは分かるし、遠洋だけでなく沖合ですら日本の漁業が退勢なのに危機感を持つのは当然だが、管理可能な沿岸漁業まで同じ土俵に持って行こうとするのは乱暴ではなかろうか。
    水産会社ではなく地域漁業者と将来の消費者に対しての責任感による問題提起を、業界秩序を混乱させると言う限り、業界外のメディアや消費者からの非難論難が増すのみということを理解すべきかと。
    いやまぁ、それはさておきインナーの方の意見として冷静且つ真っ当な反論だし、全体として素晴らしい漁業の概説書だと思います。

  • 読了。知識がないと読むのちときつい。

  • 本邦における、漁業の問題がコンパクトにまとめられている。

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著者プロフィール

北海学園大学経済学部地域経済学科教授

「2021年 『転換期にあるわが国漁業の構造変化』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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