あざむかれる知性: 本や論文はどこまで正しいか (ちくま新書 1160)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480068620

感想・レビュー・書評

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  • 類似のテーマの、異なる調査結果を統合する方法があるということを、この本から知ることができた。
    それを、メタ分析と呼ぶのだそうだ。
    本文の中ではどういう手法なのかの説明がなく、いらいらしながら最後まで読んだ。
    そうしたら、最後に付録としてその説明があった…。ちょっと脱力。

    効果的なダイエット方法についての研究を検討すると、まず摂取カロリーの総量についてのコントロールがなく、その方法が効いているのか、摂取カロリー量が効いているか弁別できない研究が多いとのこと。
    RIASECで知られる職業興味調査の妥当性係数を検証した研究によると、この調査はほとんど無意味という結論になるらしい。
    なかなかショッキングな話だった。
    主観的な幸福感についての検証も面白い。
    最も効果量が大きいのが健康だそうだ。
    セリグマンのポジティブ心理学への批判も出ていた。
    これはやっぱりそうだったか、という感じだったが、データを示されて納得できた。

  • <目次>
    第1部  真実を知るためには
     第1章  科学の営み
     第2章  研究の価値は何で決まるか
     第3章  何が判断を歪めるか
    第2部  どこまで本当なのか
     第4章  なぜダイエットは難しいのか
     第5章  健康で長生きするには
     第6章  仕事での間違った思い込み
     第7章  幸福になるには
    付録   メタ分析とは

    <内容>
    「科学」はどのように解析されていくのか?それは研究成果を論文で発表し、それを他の人が再度再現実験をおこない、同じような結果が出るからだ。このやり方(ランダム化比較試験)をメタ分析という統計技法で(これは付録にあるが、読んでもよくわからなかったが…)まとめた論文=システマチック・レビュー、これを読めば、その成果の信憑性がかなりわかるらしい。著者は「心理学」系の専門家だが、興味もあり様々な分野のシステマチック・レビューを読み、今話題の事柄を分析して見せた。
    結果は、ほとんどが「クロ」。つまり、研究として信憑性に欠けるもの。ダイエットも健康も投資も幸福論も…。ダイエットは比較的強度な運動を続けること。それは健康で長寿にもつながり、ビジネス書の理論はほぼ「思い込み」。幸福論もしかり。この分野はきちんとした研究もないようだ(出版バイアスや確証バイアスがかかった研究だった)。理系はともかく、文系(社会科学)の研究は、なかなか難しいようだ…。 

  • 世の中の食事や運動などの健康法にどれだけのエビデンス(科学的根拠)があるのかと言えば、かなり多くのものが怪しいと言わざるを得ない。

    それでも効果が出ないくらいならいいけど逆に健康を害するものだってあるのだから、そういったものを見極める目は必要。

    この本ではそういった情報に騙されない為の指南書です。

    ただしどんなに正しい理論でも自分自身がその理論にあてはまらない例外者である可能性もあるという感覚も必要かなとは思います。

    個人的には健康に関しては知識だけでなく自分の身体の感覚を磨くことが必要だと思います。

  • p.99 BMIと死亡率
    メタ分析:行動科学における統計解析法

  •  この著者の本は、以前取り上げた『心理学で何がわかるか』が面白かった。心理学者(現・富山大学名誉教授)だが、本書は心理学のみならず科学全般に目を向けたものである。

     タイトルだけ見ると、どんな本なのかさっぱりわからない。副題の「本や論文はどこまで正しいか」のほうが、よく内容を表している。

     我々シロウトはとかく、研究者が書いた論文というとそれだけで恐れ入ってしまい、「科学的に正しい内容だ」と思い込んでしまいがちだ。しかし実際には、次のような現状があると著者は言う。

    《真面目な研究者の科学論文でさえ、さまざまなバイアスから自由ではない。
     研究論文は星の数ほどある。実証科学では、ある特定の仮説を支持する研究が一◯◯%ということはあり得ない。支持する研究はあるが、支持しない研究もある。ウェブや書物の科学記事の大部分は、自分の意見に沿う研究のみを取り上げ、他を無視するという方法で書かれている。つまりは、つまみ食い的評論で、自分の意見を科学的に装っているだけである。無料で読める記事はそれなりの内容である。結局、記事の大部分は疑似科学にすぎない。》

     では、ゴミ論文と優れた論文、誤った知識と正しい知識を見分けるにはどうすればよいか? そのための有効な方法として、複数の論文を「メタ分析」という統計技法で評価した「システマティック・レビュー」を基準とすることが挙げられている。

     本書は、第Ⅰ部「真実を知るには」で、バイアスのかかった論文が量産されてしまう背景と、研究の価値・質を決める基準について説明する。
     そして、第Ⅱ部「どこまで本当なのか」は、システマティック・レビューを用いて研究の質を測るやり方の実践編となっている。
     ダイエットの方法・健康で長生きする方法・ビジネス書に説かれる仕事術・幸福になる方法という4つのテーマを取り上げ、各分野の一般書がいかにいいかげんな根拠で書かれているかを、それぞれ一章を割いて暴いていくのだ。

     第Ⅱ部の4つの章のうち、ダイエット・健康長寿・ビジネス書を取り上げた章は、いずれもすこぶる痛快。

     巷のダイエット本や健康本などのどこがおかしいかを簡潔明瞭に指摘したうえで、真に有効なダイエットや健康法を抽出しており、本書一冊さえあればダイエット本も健康本もいらないような気もする(ただし、本書に説かれるダイエット法や健康法はあまりにもあたりまえのことなので、面白みはない)。

     ビジネス書を取り上げた章では、30分程度の採用面接で相手の仕事適性を見抜くのは不可能であること、すなわち採用面接は無意味であることが論証されている。
     「面接の妥当性は低いので、人を見て選ぶより、見ないで選ぶ(引用者注/学力検査などだけで選ぶという意味)方が合理的である」という一節に爆笑した。

     ただ、「幸福になる方法」を取り上げた章、つまりポジティブ心理学の研究成果について評価した章だけは、やや切れ味が悪いと感じた。

    《ポジティブ心理学は、幸福感を最大化するよう果敢に挑戦したが、成果は非常に限定的である。ポジティブ心理学は人々の希望に沿うような主張をしたので、大衆的人気は獲得した。しかし、エビデンスは乏しく、すべては希望的観測に彩られている。〟

     ……と著者は言うのだが、「エビデンスは乏しく」というのは、目に見えない心を扱う心理学そのものが宿命的に孕む弱点なのではないか。著者がポジティブ心理学自体を擬似科学扱いするのは、ちょっと行き過ぎだと思った。
     たしかに、「ポジティブ・シンキングでガンが治る」みたいなことを言う「ポジティブ健康学」にまで至ると、それは疑似科学だろうが。

     とはいえ、面白くてためになる本には違いない。もっと評判になり、売れてしかるべき本だと思う。

  • 内容は、本や論文はどこまで正しいかという副題の通り。
    ダイエット、健康、仕事など現代の関心の高いテーマについて様々な本や論文を分析する。
    著者の本は、以前に心理テストの信憑性について論じた本を読んだことがある。この本もその系統で、世の中には信憑性の無い理論や似非科学が蔓延しているかをメタ分析を使って紹介する。
    例えば巷にはダイエット本が溢れているが、その中でも近年一般化したのが炭水化物ダイエットで、自分の周りでも多くの人が実践している。原始時代の食生活に範をとって、ダイエットの効果を説明をする本もあるが、論理が破綻しているので、内容を鵜呑みにするのは間違いの元となる。やや過激な説明も多いが、著者の分析は一般人の感覚からも的を得ていると思う。
    残念だったのは、様々な事象をデータを使って検証しているが、新書としては少し詰め込み過ぎの印象がある。欲を言えば、新書ではなく単行本で出して欲しかった。タイトルもいま一つかも。

  • 心理学の研究者である筆者がダイエット、健康、ビジネス、投資、幸福感などさまざまな分野のシステマティックレビューを読んでまとめたもの。

    要点をまとめると以下のような感じ。

     因果関係の研究には実験群と実験群との比較の対象群(何もない)を置く必要がある
     質のいい論文は二重盲検ランダム化比較実験のシステマティックレビュー。
     肥満の原因としては総カロリーの現象以外は大きい違いは見えにくい。食べる時間(例えば朝ご飯は食べたほうがいい)やスピード(ゆっくり食べたほうがいい)というのは相関関係であって因果関係ではない可能性が高い。
     最強のダイエットはレコーディングダイエット+適度な運動ぐらいしかない。
     健康になるためには果物と野菜を積極的に食べる。煙草を吸わない。お酒は少々、心身ともに活発に行動する。
     仕事のできる人間は一般知能+良識性(自己管理能力に相当するもの)が高い人間。採用面接はあまり意味がない。
     幸福感は遺伝、収入、雇用状態、健康、教育、自然とのかかわり、宗教などが関係している。いわゆるポジティブシンキング系のことは相関関係と因果関係の読み間違いなことが多い。

    研究者が書いているため、全体として難しい。
    統計データモデルが感覚的に理解はしにくいところがある。
    各章の最後にまとめがあるので、そこをしっかり読み込み、それ以外はわかる部分のみ拾えばいいかも。

  • 複数の論文を統合するメタ分析の手法を用いた研究を紹介している。諸説が入り乱れる食事や健康の分野についても、結論が出ているものが多いようだ。

    scienceの語源は、ラテン語のscientia(知識)、その起源はギリシャ語のskhizein(分割する)。現象を分割すると数量化が可能になり、伝達が可能になる。すなわち、科学の特徴は、検証可能性と言える。

    アーチポルド・コクランは、1972年に根拠に基づく医療(EBM)を提案し、1993年には、ひとつのテーマに関する広範な文献を重みづけを用いた統計的手続き(メタ分析)で要約して全体的結論(システマティック・レビュー)を出すコクラン共同計画を開始した。

    日本人の食事摂取基準のエネルギー比は、タンパク質が9〜20%、脂質が20〜25%、炭水化物が50〜70%で、スポーツ選手でも、国によっても大きく違わない。炭水化物制限ダイエットや高タンパク質ダイエットは、総摂取カロリーを統制した通常のバランスダイエットと効果に違いはない。炭水化物制限ダイエットの死亡率は1.3倍になっている(ただし、後ろ向き追跡の調査で、優位水準にも達していない)。食品別では、野菜や果実、乳製品で減量の効果が認められ、精製した小麦粉、砂糖、ジャガイモ、加工肉と赤身の肉で体重が増えている(ただし、総摂取カロリーは統制されていない)。

    死亡率が最も低いBMIは、高年齢になるほど高くなる。アメリカ人では25〜26、日本人では23前後が最も低い。ランニング程度の運動を行うと、死亡率が3割ほど減少する。肉の摂取量については、4つの研究で摂取量が少ないほど寿命が長くなったが、2つの研究では差がなかった。コーヒーを飲む量が1日8杯までの人は死亡率が低い(ただし、因果関係は証明されていない)。アルコール量は、1日30g(ビール中ビン1本、酒やワインで1合)までは寿命延長効果がある。睡眠は7時間が死亡リスクが最も低い。性格では、良識性が高いと死亡率が低いが、他の性格では差がない。

    幸福感は、健康状態、婚姻状態、就業状態との関係が大きいことを示す研究が多いようだ。自然との関わりも効果が大きい。

    メタ分析は結果のみを統合するものであり、論文の取捨選択という恣意的な余地もあるが、個人の医師などが書いた本よりは信頼性は高いだろう。特に、健康に関する研究については、死亡率といった客観的な数字で分析できるので説得力はある。

  • 自然の中に囲まれると幸福感が高まる。雇用を確保し、収入や社会経済状態を改善すれば幸福感は高まる。

  • 怪しげな健康食品が溢れているが,効果に対して正確な検証がなされているかどうかに疑問を持っていたが,本書は適格な回答書だ.盲検化されたランダム化比較試験で有意差があることを証明できることの重要性をマスコミに周知させる必要がある.ビッグファイブと呼ばれる 外向性,協調性,良識性,情緒安定性,知的好奇心のうちどの要素が優位かという第6章「仕事での間違った思い込み」は楽しめた.最後の(p160),「面接の妥当性は低いので,人を見て選ぶより,見ないで選ぶほうが合理的である」は至言だ.またp126の「長寿を保証する魔法のような食べ物や,特別な薬物は存在しない.無意味で非科学的な健康情報に振り回されないようにしたい」も大事な言葉だ.

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