医療政策を問いなおす: 国民皆保険の将来 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480068637

感想・レビュー・書評

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  • 医療政策といった分野の知識・理解を深めたいと思いながらも、読み手の自分のアホさもあって、この分野の本ってなかなかとっつきづらく読み進むのが難しいものが多い。ところがこの本はかなり読みやすかった。
    日本が誇る(?)国民皆保険として、医療保険制度を軸にこれまでをわかりやすく解説してくれ、そしてこの先の案を紹介してくれている。状況を解説するだけで予防線を張るかのように持論を披露してくれない本も多いけど、一歩踏み込んで著者なりの今後の方向性をしっかりと書いてくれているのも、見通しが利かない身としては視点が一つ得られるようでよい。
    医療や介護の先行きってなかなか難しいものだし、財務省や経産省やらの経済発展ばかりに目を向け社会保障や健康・医療なんか二の次的な動きが目立ち暗澹たる気持ちにもなるし、国民皆保険も60年ほどで危うくなってきた感もあるけど、まだまだ保険制度をベースに現実と先行きを精緻に見通すことでできることはあるという希望のようなものも感じられる一冊だと思う。

  • 〇国民皆保険も社会経済の「土台」の上に成り立っている。
    〇日本の国民皆保険の特質や基本構造を押さえ、近未来の人口構造の変容の影響を正確に把握した上で、医療政策の道筋を明確に描き着実に実行する。
    〇第一に、「国民皆保険の堅持」とは社会保険方式を維持することまで含意するか。第二に、「保険あって医療なし」の状態でも国民皆保険と言えるか。第三に、仮に給付範囲や給付率が縮減されても国民皆保険と言えるか。
    〇医療制度は医療サービスの提供に関する制度(医療提供制度)と医療費用の調達・決済に関する制度(医療財政制度)の二つからなる。
    〇税方式では政府が直接医療を提供するので医療提供制度と医療財政制度は一体化している。社会保険方式では医療提供程度と医療財政制度は分離するため、両者の接合の仕方が重要な問題となる。
    〇「保険あって医療なし」という状態は国民皆保険の実質が備わっていない。
    〇患者負担は約13%(裏から言えば実行給付率は約87%)。給付範囲の縮小、給付率の引き下げ、高額療養費制度の廃止といったことが生じれば、それでも国民皆保険といえるのだろうか。
    〇医療保険の目的は傷病に起因する家計の破綻を防止することにある。
    〇わが国が国民皆保険を実現したのは1961年のことである。1961年時点ではUHC(国民皆保険と言い換えてもよい)の実質が完全に具備されたとは言えない。なぜなら国民が必要とする医療が全て保険給付されていたわけではなくいわゆる制限診療が行われていたからである。わが国の国民皆保険は1961年で完了したのではなく、その後十年余の成熟期間があった。
    〇第一次ベビーブーム世代が年少人口から生産年齢人口に移行した。
    〇「国民皆保険の堅持」という旗は掲げたまま、給付範囲や給付率の縮減、地域医療の崩壊が進み、国民皆保険が形骸化する。
    〇ドイツの「国民皆保険化」とは民間医療保険の受け皿を用意することにより、公的医療保険に加入できないものに救済の道を開くことに本質がある。
    〇民間医療保険は公的医療保険と代替関係あるいわ相互補完関係にあるわけではないという制度的な位置付けである。
    〇保険医療機関の指定とは、簡単に言えば公的医療保険の取り扱いを認めるということである。
    〇保険給付の対象となる医療行為や使用薬剤は原則として点数表に掲載されているものに限られるため「保険診療一覧表」としての性格も持つ。
    〇要するに重要な点は①医療財政制度と医療提供制度は現物給付及びその対価である診療報酬により接合されていること、➁保険診療の適正を確保するため、療養担当規則及び点数表により規律するとともにレセプトの審査によりその確認を行っていること。
    〇医療制度や医療政策のパフォーマンスの目標(評価基準)は元①医療の質、➁医療へのアクセス、➂医療のコスト、の3つである
    〇要約すれば一①日本の医療保険制度は、保険給付及び診療報酬は同一であり統合性が高く、➁国民皆保険は狭義にはファイナンスの仕組みであるが、現物給付及び診療報酬を媒介としてデリバリーと結びついており、➂国民皆保険であるからこそ、診療報酬が医療費の制御やデリバリーの政策誘導ツールとして有効に機能している。
    〇一定上の報酬を得ている職員(高報酬職員)も健康保険法の被保険者とした。
    〇国民が必要とする医療は基本的に公的医療保険でカバーするという方針が確認された。
    〇①民間医療機関の開設資金の調達を容易にするため、1960年に医療金融公庫が創設された、➁1962年に医療法改正が行われ、病床過剰地域では公的医療機関の新設を禁じた。
    〇非営利とは利益を上げてはならないことを意味しないことである。医療法で禁じられているのは利益(余剰金)を出資者に分配することであり、得られた利益を医療機器の投資や病床の拡張等に使うことは何ら禁じられていない。民間セクター中心主義がとられたといっても、株式会社の医療機関経営への参入は認めていない。
    〇特に重要な点は次の五つである。第一は総人口の減少である。日本の総人口は今後半世紀の間に約2/3まで縮小する。人口減少のピッチが今後加速することを意味する。第二は高齢者の増加および高齢化の進展である。超高齢社会は「多死社会」なのである。第三は出生数の減少及び年少人口の激減である。1970年代半ばに合計特殊出生率が人口置換水準(その出生率が維持されれば人口が維持される水準)を割り込み、それ以降長期にわたり減少傾向が続いた結果、出産数の母数となる出産適齢年齢人口(子供産む親世代の人口)が減ってしまっている。出生率を高めれば近未来の年少人口や総人口の減少を回避できると安易に考えることは適当ではない。第四は、生産年齢人口の激減である。第五は、老年人口の生産年齢人口に対する比率の急騰である。
    〇過疎地を多く抱える県は、高齢化と人口減少が同時に進むという深刻な事態が生じる。
    〇我国の世帯は、三世代同居世帯が減り、単独世帯や夫婦のみの世帯が急増する。
    〇2010年の「国勢調査」によれば65歳以上の未婚者は110万人おり、その内訳を見ると、男が45万人、女が65万人と女性の方が多い。しかし50歳から64歳の未婚者数268万人の内訳は、男179万人、女89万となっており男性の方がはるかに多い。
    〇今後の社会保障の持続可能性の焦点は、年金よりも医療と介護に移る。年金については経済成長の伸びの範囲内に給付を抑える制度的枠組みが設けられた。
    〇高齢化による需要の増大に伴い、医療(介護を含む)・福祉の就業者数は2012年の706万人から、2030年には908万人ないし962万人に増加する。これは製造業の就業者数に匹敵する数字である。シンガポール、台湾、韓国の出生率は日本より低く、外国人労働力の需要は今でも競合状態にある。医療・介護は、国内で必要な労働力を確保することを基本に据えるよりほかはない。
    〇国民皆保険は利害対立が先鋭化し連帯感を喪失すれば成り立たない。その懸念材料は、第一は世代間対立である。第二は世代内対立である。「知価」の創出(ICTのソフト開発、商業デザインなど)が企業の収益の源泉になれば、高付加価値を生み出す者とそうでない者の賃金格差が広がる。第三は地域間対立である。まだ、比較的冷静に議論できるのは今しかない。
    〇自分の生活はできるだけ他人の世話にならず自ら支えるという社会、個人の意思や選択が尊重される社会である。
    〇①高齢者がもののように扱われており一人の生活者であるという視点が欠落している。➁高齢者やその妻の願望を代弁する者がおらず問題の解決が2人に放り投げられている➂その結果高齢者はおよそ尊厳とはかけ離れた最期を迎えた。一つは、この問題は患者の自己決定権の尊重や最善の利益とは何かという観点に立って議論すべき。二つ目に自己決定が重要だということは医学的妥当性・適切性の確保を疎かにしてよいということを意味しない。三つ目に延命治療(終末期医療)か積極的治療(一般医療)かという二項対立的な議論の建て方は適切でない。
    〇医療制度や医療政策のパフォーマンスの目標は世界共通であり、①医療の質、➁医療へのアクセス、➂医療のコスト(費用)の3つで評価される。この3つはトレードオフの関係にありいずれを重視するか選択することが迫られる。
    〇第一に、医療の質は医療の本質的要素であり犠牲にすることはできない。第二に医療へのアクセスは見直しの余地がある。第三にコストについては高齢化にともなう医療費の増加は避けられない。
    〇①労働生産性の向上、➁労働参加率の増加、の二つが重要である。
    〇予防によって健康寿命が延伸されても、(いずれは有病虚弱状態になるため)生涯医療費・介護費の減少効果に関する明確なエビデンスはない。
    〇医療介護人材の確保については、①新規陽性数を増やすという方策は現実的ではない。現在の新規陽性数を維持すること自体が至難である。➁離職の防止、➂潜在看護師・潜在介護福祉士等の活用は非常に重要であるが、看護・介護の仕事の魅力が相対的に低ければ、良い人材は集まらず、離職の防止や復職を期待することもできない。定年退職後の就業希望者が少なく60歳を過ぎると就業率が一気に下がる。
    〇日本の病院は、①病床数が多い、➁日本の平均在院日数が非常に長い、➂病床当たりの医師及び看護スタッフが非常に少ないという特徴がある。
    〇必要な医療サービスは「居宅」の場合と同じように外部から提供することを基本とするべきだと思われる。現行の介護保険施設と純然たる居宅の間にさまざまな「住まい」の形態があり、そこに住む者のニーズに応じて影響される医療・介護サービスの濃淡があるだけの違いとなる。
    〇患者の生活が医療機関の都合で分断されている。第一は、「インターフェース・ロス」の発生である。職能・職責の相違のほか、受けてきた教育のバックグラウンドや思考のロジックが違うために、同じ患者を見ても観察のポイントや必要な情報の「切り取り方」が異なってしまう。第二は、属する組織隊の間では意思統一や迅速な決定が難しい。組織間で利害があい相反する場合、メリットや負担が一方に偏る場合には、そもそも連携は成立しない。これを回避するには、連携ではなく、同一法人あるいは系列化した事業体により統合するという方法がある。医療・介護関係者や行政関係者の中にはこれは「患者や要介護者の囲い込み」だとして嫌悪感を抱く人が少なくないが、連携と統合は連続的な関係にあり、「連携か統合か」といった二者択一的な問題設定の建て方は妥当ではない。
    〇日本の診療報酬の特徴は、第一に、診療報酬は一点単価に点数を乗じて算定されるが、一点単価固定制がとられている。第二に、点数表の性格及び複雑性である。第三に、診療報酬は全体として医療経営が成り立つように設定されており、個々の点数と当該行為の費用は厳密な対応関係にはない。第四に、出来高払いと包括払いが併用されている。特に1980年代以降、医療サービスの包括化が進められてきた。DPC(診断群分類)による包括払いが導入された。DPCによる包括払いは①転帰単位ではなく一日当たり包括払いである、➁出来高払い部分(例:手術料や1万円以上の処置料)がある、➂包括部分は医療機関別係数により調整される。日本の医療制度の特徴として出来高払いが挙げられることがあるが、今日では出来高払い制度方式と包括払い方式の混合形態だという方が正確である。
    〇わが国の診療報酬が果たしている機能は、第一は、医療費のマクロ管理機能である。第二は、医療費のセクター間の配分調整機能である。第三は、医療機関の政策誘導機能である。診療報酬による政策誘導がこれまで奏功してきたという理由である
    〇診療報酬による政策誘導には限界や問題点がある。第一は、診療報酬の基本的性格は療養の給付に要する費用の対価であり、診療報酬に馴染まない領域が存在する。第二は、診療報酬は地域医療の特性や実態の相違を反映しにくい。第三は、診療報酬は患者の一部負担金に跳ね返る。一つは診療報酬の重点評価を行うと、その政策意図に反した患者の受診行動を招く、もう一つは患者の受益と負担の乖離である。第四は診療報酬の政策誘導が医療経営上のリスク要因になりかねないことである。マイナスの診療報酬の評価が行われた場合、医療機関は採算ラインを維持しようとするため、政策誘導の効き方は悪く、政策意図に反する結果を招きやすい。
    〇まとめると、医療報酬は医療政策上重要な役割を果たしてきた。しかし、診療報酬だけで医療提供体制の改革を誘導することは難しい。従って、計画的手法等とのポリシー・ミックスが必要になる。但し、わが国の医療提供体制の特性を考えれば、診療報酬は今後とも最も有力な改革手法だということに変わりはない。
    〇医療提供体制改革の大きな柱は、地域包括ケアの推進と地域医療構想の策定である。
    〇地域包括ケアは在宅医療と重なり合う。
    〇集住形態のケア付き住宅も在宅である。
    〇多職種連携に関し「顔の見える関係」という言葉がよく使われるが、この程度の関係では覚束ない。他の職能に対する敬意と信頼や医療観等の共有を含め「腹の見える関係」にまで達しなければ「包括性」は確保できない。
    〇臓器不全など「非がん系」では、死期の予測が困難であるだけでなく急性憎悪を繰り返す場合が少なくない。
    〇特に気になる課題は、第一は、関係者の意識改革である。自治体行政や医療・介護の現場では、「地域包括ケアの所掌は市町村、在宅医療の所掌は都道府県である」という縦割り意識が強い。第二は、「住まい」に関する政策である。家族の介護力の低下や高齢者単独世帯の増加等を考えると、集住形態の「住まい」が一般化すると考えられる。第三は、在宅医および訪問看護師の確保である。
    〇医療法上の仕組みは、第一は、病床機能報告制度である。これは各医療機関に対し病棟ごとの医療機能の現状および将来の方向性を報告させる制度である。第二は、都道府県知事の権限行使の仕組みである。第三は、新たな財政支援制度(基金制度)である
    〇急性期と回復期の境界点は、定常状態に落ち着く段階の医療資源投入量である600点とする。同様に他の医療機能についても医療資源投入量の多寡に着目し、高度急性期と急性期との境界点は3000点、回復期と慢性期の境界点は225点(在宅復帰に向けた調整幅を考慮すると175点)で区切る。
    〇医療資源の分布、人口密度、地勢など地域医療の諸条件は千差万別であり、病棟や病床の機能を無理に特定の類型に当てはめようとすると地域の実情に合わなくなる。生活圏や患者の流れと適合していない二次医療圏が数多くみられる。
    〇次の3つのプロセスを通じ、病院経営者は地域医療における自院のポジションの取り方の見直しが迫られよう。第一は、診療報酬改定である。第二は、金融機関からの圧力である。患者数が早晩減少する中で経営の健全性が確保できるのかが問われる。第三は、公立病院改革である。
    〇医師の絶対数が減っていると思っている人が多いが、毎年4000人程度増加していると言う事実がある。県庁所在地や医学部所在地に医師が偏在する傾向がみられる。
    〇「医師不足」問題に関する政策的対応は、第一は、医師の養成数である。人口減少が加速するため2030年代に医療需要が飽和状態に達することが見込まれる。第二は、総合医(総合診療専門医)の養成である。医療の高度化に伴い専門分化は必然であるが、同時に日常的な疾病について的確な診療が行える医師も極めて重要になる。実際、地方の医療機関で最も求められているのは、総合的な診療能力と地域医療のマネジメント能力を持つ総合位である。第三は、医療の高度化等と地域住民の医療需要との調整である。第四は、行政、大学(医局)医療機関、医師会等が、地域医療に関するそれぞれの責任をしっかり果たすことである。
    〇税方式では、給付の必要性や負担能力の高低を斟酌し対象者を選別せざるを得ず、税収規模等に応じて全体の枠が決まり、その中で優先順位をつけ配分するという制約が本質的につきまとう。
    〇国民健康保険は、①高齢者(前期高齢者)の加入割合が高い、➁無職者(退職高齢者)などが多い、➂低所得者が多い、④保険料の収納率が約9割と低い、⑤小規模保険者が多い、⑥保険料のばらつきが大きい、といった問題を抱えている。医療供給の過剰による医療費の増加分は応益割で対応する。
    〇保険料と保険給付の対応関係を著しく損なうことは適当ではない。
    〇わが国では混合診療(保険給付の対象として認められている診療と対象外の診療を併用すること)は原則として禁止されている。そして混合診療が行われた場合は一連の医療行為すべてが自由診療(全額自己負担)として取り扱われる。保険外併用療養費制度の下で混合診療は一定のルールの下に解禁されている。一定の有効性・安全性等は認められるものの保険収載されるには至らない療法等に限り、所定のルールの下で基礎的診療部分につき保険給付の対象とする仕組みである。
    〇医師が薬事法上承認されていない医療技術や医薬品を用い診療を行っても、医師法や薬事法違反にはならない。混合診療禁止は患者との関係で議論されることが多いが、一義的には保険診療を扱う保険医および保健医療機関に対する行為規範である。健康保険法は、被保険者に対し必要かつ妥当な医療サービスを「療養の給付」として現物給付することを保障しており、一連の医療サービスを個々の医療行為に分割しそれぞれの行為ごとに給付の可否を決めているわけではない。
    〇保険外併用療養費制度の下では、評価療養の対象となる先進医療は、個々の医療技術ごとに一定の実施体制が整っている等の条件を満たした保険医療機関でのみ行うこととされている。
    〇結論は、第一は、医療政策の制約条件である。医療制度の財政制約が厳しくなるだけでなく、生産年齢人口の激減に伴い医療の人的資源の制約も厳しさを増す。第二は、医療提供体制の改革である。高齢化に伴い医療費が増加することは避けられないが、医療の生産性の向上・効率化が求められる。「医師不足」が指摘されるが、医師の総数は増加している。国は制度の細部まで規律しようとしがちであるが、複雑系では「急所」だけ押え、後は関係者の創意工夫を生かす方がうまくいく。第三は、保健医療制度の改革である。医療保険制度の改革については、国民が必要とする医療は公的医療保険できちんとカバーした方が、医療の質や安全性を確保できるだけでなく医療費の総額も制御できる。
    〇課題は、一つ目は我が国は既に超高齢・人口減少社会に突入しており、救急搬送時間の長期化や医療スタッフの不足等の形で問題が顕在化している。第二は、専門家の責任である。各専門職能集団も自らの利益のためでなく公益的な観点に立ち、それぞれのビジョンを示す必要がある。被保険者が医療の何に不満があり何を期待しているのかを明確にし、医療提供の問題を含め積極的に関与する必要がある。第三は、民主主義の成熟である。

  • 『医療政策を問いなおす~国民皆保険の未来~』 島崎謙治

    医療政策について、財源論、他国との制度の比較、現在の日本の医療政策の成立背景等がよくわかる。
    個人的な興味関心は、職域医療政策である健康保険組合についてであるが、健康保険組合を論じる上では、そもそもの日本全体の制度についても理解が必要であると感じ、本書を手に取った。
    日本の医療政策として、社会保険方式(⇔租税方式)で国民皆保険(⇔アメリカのような一部保険)を実現しており、医療の提供においては現物給付方式(⇔償還払い方式)によって成り立っているということについて、それぞれの代替案や他国の制度の形を示しつつ、なぜそのような仕組みを取っているのかが詳説されている。個人的には、どうしても保険業界にいると、財源と給付について目が行きがちであったが、本書では現物給付方式を成立させている医療機関の供給サイドの仕組みや、現物給付方式にすることで民間医療機関が多いにもかかわらず、それらの経営原資を診療報酬に依存させ、実質的には政策誘導がしやすい形にしている(なっている)等の観点は新鮮であった。
    また、社会保険方式の運営は、保険主義とイコールではないことなども、記載があったことは納得感がある。保険業界の身からすると、現代の保険商品のほとんどは応リスク負担保険料、つまり、一定のリスクに応じてその分保険料を負担するリスク細分化の商品設計になっているが、日本の社会保険は応能負担であり、個人のリスクにかかわらず、負担できる所得の有無によって、保険料が決定しているという点に、ちぐはぐさを感じざるを得ないが、ある意味、国民皆保険を達成するための方便として完璧な保険主義の遂行は不可能と認識しながらも運営でカバーしているという実態を改めて認識できた。
    そうした中で、応リスク負担であるべきところを、応能負担にしていることにより、低リスク者から、高リスク者へ、高所得者から低所得者への所得移転がされることを理解した上で、そのような所得移転が容認されやすい一定顔の見える共同体として、カイシャ(職域)とムラ(地域)が現在の健康保険の基礎となったという点も、合点がいく。

    一方で、高度経済成長期かつ人口ボーナスのある中で設計された日本の社会保障制度のほとんどが、人口減少社会と定常経済により、機能不全に陥っていることについて、課題点として挙げている。
    そもそも、社会保険といいつつも、給付財源のうち保険料で賄われているのは5割であり、4割が公費、患者負担が1割となっているのは、保険業界の者か見ると明らかに保険制度とは言えないシロモノである。そして、もっと言えば公費で賄われているものの財源には、国債発行によるものも多くあり、明らかな給付過多である。後期高齢者の患者給付の異常な少なさ(十分な所得があるにもかかわらず、負担割合が少ないケースも散見されること)や、健康保険組合でも、後期高齢者医療制度への上納金が4割程度を占める等、世代間の格差が甚だしいというのが現状である。少子高齢化により、このままの仕組みであれば、社会保障制度の給付の財源割合はより、公費によって行くことも考えられる。社会保険方式を取りつつも、実態は税財源になりつつあるということが述べられている。その上でも、税財源確保のための消費税引き上げが急務であることなどの、政策提言も行われている。
    本書の締めとして、そのような状況の中で、今以上に世代間格差が加速する前に、現状分析の下で理性的に議論することが求められる。社会保障制度は、寄木細工のように複雑な構造であり、部分最適が全体最適を意味しない。そのような中で、データを交えて真剣に議論するような土壌として、民主主義の成熟が欠かせないことが述べられており、そこに私も合意する。

  • 日本の医療制度、政策の分析が細かくされ、かつ、論点や課題が的確にまとめられており、わかりやすかった。

  • 現行の医療政策がまとまっていて、面白かった!

  •  団塊の世代が全員後期高齢者になるという超高齢社会を迎えるなか、医療政策が大きな転換点を迎えている。
     筆者は日本の医療政策の要点をわかりやすく解説している。

    ・日本の医療政策に悪影響を及ぼしたもの→1980年代の老人医療費の無償化の継続→経路依存性をもつこととなった。

    医療政策→県単位→市町村単位での積み上げが必要となってくる。

    筆者の立ち位置は、現状維持的(現在の政策志向に同調的である)

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:498.13||S
    資料ID:95160039

    (生体分子分析学研究室 山岸先生推薦)

  • まじめな本。医療制度について概観するにはよいし、著者の意見についてもごもっとも

    75歳以上:後期高齢者医療制度
    75歳未満:被用者保険と国民健康保険の二本立て。被用者保険の保険者としては、大企業の被用者が加入する健康保険組合、中小企業の被用者が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)、公務員らが加入する共済組合がある。
    国民健康保険は75歳未満で被用者保険の対象でない者が対象で、住所地の市町村が運営する国民健康保険に加入する。
    生活保護の受給者は国民健康保険の適用が除外されるが必要な医療は生活保護法に基づく医療扶助でカバーされる
    すなわち、日本国民は全員、いずれかの医療保険制度に強制的に加入している

    2012年度の国民医療費39兆円。保険料が19兆円(49%),公費15兆円(39%、うち国庫は10兆円で26%)、患者負担5兆円(13%)

    比較的健康で所得も高い者が加入している健康保険組合や共済組合に対しては公費の投入は行なわれていない。協会けんぽに対しては邦が給付費(自己負担を除いた部分をいう)の16.4%を補助している。国民健康保険は5割が公費で負担されている(国庫41%、都道府県9%)

    2018年度からは都道府県が国保の運営の責任主体となる。毎年3400億円の公費が国から投入される。公費の投入によって所得水準や年齢構成の差による医療費の違いを調整するが、医療供給が過剰なための医療費高騰などについては保険料の差として反映されるだろう

    後期高齢者は、1割が自己負担。5割が公費。被用者保険や国民健康保険からの支援金が4割

    負担は三割だが、義務教育就学前の者は2割、70−74は2割(ただし、2014.3末までに70歳になっている者は特別措置として1割に据え置き)。75歳以上は1割。ただし70歳以上であっても現役並み所得者は3割負担。

    1960年代半ばに岩手県沢内村で老人医療費の無料化が試行された。70年代に全国に広まり、72年に国の制度として実施された。これが過剰受診や社会的入院の増加を招いたとされる。平均在院日数も70年代になってから急伸し、介護や福祉が受け持つべき領域を医療がカバーすることになった。2002年にようやく自己負担1割になった。

    2012時点で65歳以上は人口の24%だが医療費の57%を占めている

    医療保険は社会保険なので、低リスク者から持病のある高リスク者へ、(定率負担なので)高所得者から低所得者へ、所得移転が起きている

    延命治療を望む人の割合は1割程度だが、家族としての意見になると2割になってしまう。はっきりしているうちにリビングウィルについて話し合っていないため、家族としては重い決定を避けたがることになる。

    医学部の増員は暫定処置ということになっており、2019年に見直される予定。2008以降の増員の効果がこれから出てくるのと、人口減少によって2030には医療需要は飽和するため、医師は余ってくるだろう

    混合診療について。療養担当規則では保険医は厚労大臣が定めた医薬品以外の薬物を施用・処方できないことになっているし費用負担を求めることもできない。保険の考え方としては、一連の医療サービスは不可分一体のものであり、個別に切り分けて給付対象とすることは好ましくない。つまり保険で認められている診療に保険外のものを組み合わせた時点で保険診療の行為は給付対象にならない。(2011の最高裁判決で決着済み)

    現在は混合診療が禁止されているからこそ会社としては保険収載されるように多額の治験費を投入しているし、薬価に不満があっても受け入れている。しかし混合診療が解禁されたら特に癌など患者が多額の治療費をすすんで払うような分野ではわざわざ保険収載を目指そうとしなくなるだろう。価格は高止まりし、利用できる者が限られることになる。

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著者プロフィール

国際医療福祉大学大学院教授

「2023年 『社会保障法研究 第18号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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