柳田国男: 知と社会構想の全貌 ((ちくま新書 1218))

著者 :
  • 筑摩書房
3.33
  • (1)
  • (4)
  • (2)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 89
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (574ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480069283

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 柳田國男の思想の全体像をえがき出している本です。

    農政官僚であった柳田が、失脚を経験して民俗学への道へと方向転換することになったという見かたを著者はしりぞけ、柳田の農政論と後年の民俗学をつらぬく社会経済思想を明らかにしようとしています。自作農を創出することで、地域経済に根ざした社会的紐帯を生み出し発展させていくことをねらいとした柳田の立場が、大塚久雄の国民経済論に通じる発想を含んでいたと著者は考えており、その構想のひろがりを柳田のテクストから多くの引用をおこないながら示しています。

    つづいて柳田民俗学については、ヨーロッパ滞在中に彼が摂取した文化人類学のあたらしい展開からの影響を受けていることが指摘されています。従来のフォークロアは、ことさら珍奇な習俗の蒐集に明け暮れていたのに対して、マリノフスキーらの文化人類学者は、現地調査をおこない対象地域の住民の生活文化全体を包括的に把握することをめざしました。著者は、こうした文化人類学の方法を、自国の民俗の研究に取り入れることで、柳田民俗学が成立したと論じています。

    さらに著者は、柳田の氏神信仰にかんする研究をていねいに検討し、それが日本人の倫理的な心性の基礎を明らかにするというねらいをもっていたと主張します。ここで著者は、フレイザーとデュルケームの比較をおこない、呪術を倫理以前のものとみなしていたフレイザーではなく、トーテミズムなどの習俗のうちに倫理の基盤を見いだそうとしていたデュルケームに近い立場を柳田がとっていたとされています。さらに、そうした柳田の氏神信仰についての考察が、国家神道に対する根底からの批判としての意味をもっていたことが指摘されています。

    新書としてはややヴォリュームのある本ですが、柳田民俗学の全体像について明確に把握するという著者のもくろみはじゅうぶんに果たされており、優れた入門書といってよいのではないかと思います。

著者プロフィール

1947年生まれ。名古屋大学大学院法学研究科博士課程単位取得。現在、日本福祉大学教授、名古屋大学名誉教授。法学博士。専門は政治外交史、政治思想史。『原敬 転換期の構造』(未来社)、『浜口雄幸』(ミネルヴァ書房)、『浜口雄幸と永田鉄山』、『満州事変と政党政治』(ともに講談社選書メチエ)、『昭和陸軍全史1~3』(講談社現代新書)、『石原莞爾の世界戦略構想』(祥伝社新書)など著書多数。

「2017年 『永田鉄山軍事戦略論集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

川田稔の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ヴィクトール・E...
トマ・ピケティ
J・モーティマー...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×