監督小津安二郎 (ちくま学芸文庫 は 1-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 166
感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (391ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480080035

作品紹介・あらすじ

小津的なるものの神話から瞳を解き放ち、その映画の魅力の真の動因に迫る画期的著作。

感想・レビュー・書評

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  •  この蓮實重彦という人は、好きになれない。吉本隆明さんが、蓮實氏がどこかで「天気予報を見て傘を持って出かけるような俗物」などと言っていたと書いていて、こりゃあ凄いスノッブだなと思った。2冊くらい著書を読んだが、頭は良いようだけど結局何が言いたいのかはっきりさせずにごまかして逃げている様子が感じられた。
     自分だけは頭脳明晰な知的貴族であるなどとうぬぼれているこういう奴が東大の学長になって、さぞかしご満悦であろう。日本の大学は、やはりしょうもない。
     蓮實重彦がゴダール映画を愛好するというのは、なるほどそうだろうなという気がする。しかし小津安二郎は、凡庸な中流階級のささやかな日常をえがいた映画作家である。小津ファンは必ずしも「知的セレブ」に限られないと思う。
     だから蓮實氏が小津映画が好きだというのは多少意外な感じもしたが、この本で彼は、一般に言われている「小津的なもの」を否定し、「より知的な」理解の仕方を示そうと頑張っている。
     小津映画ではよく「記念撮影」の場面があると、その後その家族に別離や、誰かの死が招き寄せられる。とか、食事のシーンはよく出てくるが、ローアングルなので何を食っているのか、その「食物」は見えない=不在である。とかいう指摘は、ああ、なるほどそうだなあ、と思った。
     しかし全般に、構造主義的あるいは脱構築的な手法で、なんとか蓮實は自分の知的レベルの高尚さを証明しようと躍起になっているのだが、どうもあまりうまく行ってない。
     なんだかんだ言っても、結局は一般人の言う「小津的なもの」を否定しきれず、やはり権威主義者は他者の権威に弱いから、批判にびくびくしているんだろうなあ、と感じた。
     で、結局、蓮實は何が言いたいのかよくわからない。「小津の映像をもっとよく見ろ」と言っているのだが、いや、そんなこと言われなくても、みんなよく見ているのである。小津安二郎の映画は、そんな映画なのだ。
     要するに蓮實重彦は私には、知的レベルはそこそこ程度なのに、やたら高尚ぶっているアホにしか見えない。この本を読んでもやっぱりそうだった。

    • ikusaさん
      私も小津の映画が好きで、DVD全集まで買ってしまいました。吉本の蓮實批判も知っての上で、敢えてこの本も読んでみましたが、ご指摘のとおりの感想...
      私も小津の映画が好きで、DVD全集まで買ってしまいました。吉本の蓮實批判も知っての上で、敢えてこの本も読んでみましたが、ご指摘のとおりの感想を持ちました。「知識人は小津映画をこのように観なければならない」という押しつけがましさを感じてしまいます。私の知人にも蓮實ファンはいるのですが、知識人へのコンプレックスを内に抱えている年配者には蓮實や柄谷ファンが多いように感じています。
      2012/09/10
    • ntさん
      >ikusaさん
      うーん、蓮實さんはどうにも好きになれないですよね。柄谷さんは、まだマシな気がしています。小津安二郎の映画は、蓮實さんなんか...
      >ikusaさん
      うーん、蓮實さんはどうにも好きになれないですよね。柄谷さんは、まだマシな気がしています。小津安二郎の映画は、蓮實さんなんかが下手な分析を下さなくたって、じゅうぶんにリアルな手応えがありますし、それを理解している人間は実際にたくさんいるだろうと思います。芸術性はとてもたかいのに、敷居は高くない。実に希有な作品群ですよね。
      2012/09/14
  • 何も起こらない映画、と言われている。
    ヴィム・ヴェンダースを始め、海外の映画監督に多くの影響を与えている(彼らが、影響を受けていると言って憚らない)。
    墓碑銘は「無」の1文字。
    …小津安二郎、という人。

    彼が監督した映画は、目新しいというのでもないし、かと言って、古典的な日本人的な情緒で観る人の感動を誘うというわけでもない。
    ストーリー的にそれほど大きな事件や出来事が起こるわけでなく、家族の日常の風景を撮っていることが多いので、「何も起こらない」とか「淡々」とか言われるわけだが、それにしても妙に心に残るのは何故か。

    蓮実は、その「何故」を言葉にして、解明していく。
    ローアングルのカメラ、会話の時の話者の目線、カメラに添ってたどる家の間取り……などの細かい具体から、小津の映画がなし得たことを明確にしていく。それまでの映画の文法を破っている、ことを論考する。
    目から鱗が落ちまくる。

    しかし、これだけ手法としては前衛的とも思える映画でありながら(笠智衆、原節子といった魅力あるスターの存在はともかくとして)、なぜ今も忘れ去られることなく、人の心をつかんでいるのか。やはり不思議に思わずにおれない。

  • 小津安二郎が反=日本的な作家ではないということ。
    否定的な言辞で紡がれてきた作家像を、肯定的な言辞によって再構築する試み。

  • 再読必須でした。
    小津年表は便利です。

  • 序章 遊戯の規則
    Ⅰ 否定すること
    Ⅱ 食べること
    Ⅲ 着換えること
    Ⅳ 住むこと
    Ⅴ 見ること
    Ⅵ 立ちどまること
    Ⅶ 晴れること
    終章 快楽と残酷さ
    <付録1>厚田雄春氏インタヴュー
    <付録2>井上雪子氏インタビュー
    <付録3>『東京物語』『秋日和』撮影記録(厚田雄春)
    監督作品目録
    年譜
    参考文献
    あとがき
    文庫版あとがき
    索引
    (目次より)

  • 080513(a 080607)

  • 文芸評論まで含めて筆者の最高作だろう。
    ただ、こういう画面だけを見る方法というのも小津だからできたことで、誰にでも通用する方法ではない。もっとも、方法を持った映画評論って今あるっけ。

  • どうもお世話になりました。とは言い切れません。なかなか縁が切れません。

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著者プロフィール

蓮實重彦(はすみ・しげひこ):1936年東京生まれ。60年東京大学文学部仏文学科卒業。同大学大学院人文研究科仏文学専攻修了。65年パリ大学大学院より博士号取得。東京大学教養学部教授(表象文化論)、東京大学総長を歴任。東京大学名誉教授。仏文学にとどまらず、映画、現代思想、日本文学など多方面で精力的な評論活動を展開し続けている。著書に『表層批評宣言』『凡庸な芸術家の肖像』『映画の神話学』『シネマの記憶装置』『映画はいかにして死ぬか』『映画 誘惑のエクリチュール』『ハリウッド映画史講義』『齟齬の誘惑』『映像の詩学』『『ボヴァリー夫人』論』『伯爵夫人』『ジョン・フォード論』ほか多数。

「2023年 『ゴダール革命〔増補決定版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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