空飛ぶ円盤 (ちくま学芸文庫 ユ 1-3)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480080578

作品紹介・あらすじ

UFOの存在を示す確証は何もない。しかし、心的存在としてのUFO現象は古代にまで遡ることができ、その中心には円い物にまつわる幻視や伝説、神話がある。ユングはそれを曼陀羅へ通ずる全体性の象徴と見、そこには人類の深い過去に根ざした元型があると考えた。象徴比較や夢解釈を駆使して、現代の神話としてのUFO現象を分析し、心的全体性を回復する契機にしようとした、ユングの生前に刊行された最後の著書。

感想・レビュー・書評

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  • 第40回アワヒニビブリオバトル「出会い」で発表された本です。
    2018.07.03

  • マザーテレサが宗教家といふ行動かなら、ユングといふひとは、どこまでも考へるひとであると思ふ。
    心といふ不可解で目に見えないからこそ、数多の理論が打ち立てられる心理学の世界にあつて、人間の「存在」そのものをどこまでも考へたひとだといつも思ふ。
    実際にUFOが飛来したかどうかではなく、ひとがUFOといふものを知つてゐるといふことには、ひとに何かしら「存在」してゐるからだといふところから彼は考へる。さういふ意味で、彼の心理学は「超」心理学である。もはや心理学ではなく、純粋な思考へとたどり着く。
    ひとはどうあがいたとしても、この自分であること以外にはできない。「存在する」より他ない。「ない」といふことがわからない。「ない」といふことばさへも「あって」しまふ。
    しかし、その辿り着けない「絶対無」といふものがなければ、存在するといふことはできない。「死」のない「生」はない。それらがあるから、止揚してひとは存在できる。無意識といふ謎の存在によつて意識が生かされてゐる。
    この不可解で知ることのできない、わからない「無意識」といふ存在は「元型」としてひとの意識に現れる。それはどういふわけか、丸であつたり、曼荼羅のやうなものである。過去の錬金術師たちはそれを「金」だと考へた。
    古来は、さういふ不可解な存在を不可解なものとして「信じて」きた。「聖なる」ものとして、時に奇跡と呼ばれたり、啓示として現れたりしてゐた。ところが、さうした「聖性」が忘れ去られてくる。夢はだからこそ「補償」する。
    死に裏付けされた生を知る時、ひとは癒される。彼はそれこそ心理療法だと信じてやまなかつた。自分を超えた何か不可解な存在に触れる時、ひとは自分の存在をさういふものとして受け容れる。全体性の回復とは、ないといふことばがあること、他人といふ存在を知る自分がゐること、わからないといふことばがあることを知るといふ極めて逆説的な状態である。
    彼が何か治してゐるとするなら、さうした全体性を忘れ、不可思議な存在の声に耳をふさいでゐる「自我」であらう。「自我」から止揚した「自己実現」へ。無意識に裏打ちされた意識、どこまでいつても個人は個人でしかないが、その個人といふ存在が他ならぬ他人により裏打ちされてゐるといふ「個性化」を彼は治療だと考へた。もはや心理療法家を踏み越えてゐるが、どこまでも彼は自分を宗教家や哲学者ではなく、心理学者であることをやめない。考へれば考へるほど、形而上的なところに至らざるを得ないといふのに、彼は科学者でありつづける。それは、どこまでも独立した人間だといいふのにもかかわらず、さうした個人がみせる奇妙な共時性の実体があつてしまつたからだと思ふ。
    だが、さうした全体性の回復が、なぜそのタイミングでそのひとに起こるのか、このことの説明がつかない。個人差があるとしても、他ならないその瞬間の夢でUFOをみるのはなぜか。現象の説明として、彼の分析や積層法は鮮やかに説明してゐる。時間の流れの中の無意識といふものを彼はどこまで洞察してゐたのか。

  • 人間の深層心理みたいなものが幻視としてUFOを登場させてしまうのではないか?というユングの分析は面白いと思ったけど、あとは何書いてあるかさっぱり分からなかった。UFOというテーマはなんとなく近づきやすそうなもんなのに・・・。

  • 無意識のイメージが自分の中で最近やっと固まってきたんです。それで、原型とか、シンクロニシティとかがもっとリアリティーをもって感じられるようになってきました。具体的に言うと、数の持つ具象性と抽象性ってのはちょっと前だと理解できなかったかも。どことなく、1q84において村上春樹が語っていた潜るという単語とも結び付く。

  • 人々が幻視によって神を見たように、UFOも心の中の反映として"みえている"という解釈、、、だと思われる。がかなり文章が難解で理解するに至らなかった。心理学をもっと勉強したのちに再読せねば。

  • ユングの「集合的無意識」というコトバは、コトバとしては知っていましたが、うーんこういうことなのか。

    「魂の現実性がいかなるものであるにせよ、それは生の現実性と軌を一にしており、さらにそれを超えて、無機物の形成法則とも関連をもっているように見える。さらにいうならば、最も人の信じたがらないことながら、超心理学の課題である、あの時間と空間を相対化してしまう要素さえそなえている。」

    …集合的無意識というのは、バクゼンと「DNAの記憶みたいなもんか」と思っていたんですが、それよりも、もっとデカいものみたいです。むしろ、「無機物の形成法則」にもつらなり、物理的な時間や空間を超えるような存在が活動するところ…

    UFOというのは、そういう普遍的無意識が生みだす元型的イメージが、たまたま現代風に工学的な装いをもって表出したものだ、と。「核」と「冷戦」の時代の元型的イメージがUFOというかたちをとったとしたら、「原発」と「国際的市場経済システムの疲弊」と「地球的環境危機」の時代には、どういう元型的イメージがふさわしいのでしょう。

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