大衆の反逆 (ちくま学芸文庫 オ 10-1)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480082091

作品紹介・あらすじ

1930年刊行の大衆社会論の嚆矢。20世紀は、「何世紀にもわたる不断の発展の末に現われたものでありながら、一つの出発点、一つの夜明け、一つの発端、一つの揺籃期であるかのように見える時代」、過去の模範や規範から断絶した時代。こうして、「生の増大」と「時代の高さ」のなかから『大衆』が誕生する。諸権利を主張するばかりで、自らにたのむところ少なく、しかも凡庸たることの権利までも要求する大衆。オルテガはこの『大衆』に『真の貴族』を対置する。「生・理性」の哲学によってみちびかれた、予言と警世の書。

感想・レビュー・書評

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  • 両大戦間に新聞投稿された「大衆」についての論考を1930年にまとめて刊行されたもの。主にヨーロッパの停滞が指摘され始めた時期に、ヨーロッパの現状と将来への警句として熱く訴えかけた作品となっているが、その核心部分は現代日本社会への批判の書としても引き続き有効と思えるほど示唆に富んでいる。
    19世紀ヨーロッパでのデモクラシーと科学技術により形成された「文明」である近代社会は、かつて少数な支配者層しか享受できなかった利器を大衆にもたらした。こうした文化、生活水準、財産の均等化にみられる歴史的水準の向上は、「時代の高さ」「生の増大」と表現できるが、一方において過去規範から断絶し水準上昇過程も知らない世代、大量の「大衆」を生みだした。
    そうした「大衆」は、自らの権利を主張することしかせず、自らの生の方向性を決めることもせず、自分が存在する高度で豊かな環境はあたかも自然に与えられたものと錯覚し、それを生み出し維持してきた才能に感謝することもせず、自分より優れた者に耳を貸さず、不従順で自己閉塞的な「未開人」であるという。また、「大衆」は人間社会における諸手続や規範、礼儀、正義、道理などを切り捨て、「直接行動」(=暴力など)をすぐに選択してしまうといい、こうした愚者は現在の位置に安住するため、「バカは死ななければ治らない」と厳しく処断するのである(付け加えていえば、科学者の専門バカ化も「大衆」化だとする)。そしてその「大衆」に支配される近代社会は、「慢心しきったお坊ちゃん」の時代だというのである。
    こうした「大衆」が社会的権力を持ち支配することは危険であり(=大衆の反逆)、少数の質が高い「真の貴族」(門地という意味ではなく)が社会の方向性を指し示す社会を対局に置く。ここでオルテガが提示した「大衆の反逆」からの脱出の処方箋は、「歴史意識」を再生した上で「時代の高さ」に合った社会的生の形式の選択、具体的には未来への共通計画を共有する「国民国家」の創出、当時席巻していたボルシェヴィキズムでもファシズムでもない、ヨーロッパ統合国家を提唱するのである。
    当時のスペイン社会の停滞から、政治活動にも力を込めたという哲学者オルテガらしい現代社会への鋭い警鐘と将来へ向かうべき方向性の熱弁であったと思う。現代社会にも思い当たる事象をいまだ多分に含み、また、結果としてボルシェヴィキズムとファシズムの淘汰、ヨーロッパ連合(EU)の誕生も視野に入っていたその論考は、「歴史」を過去のものとせず未来への方向性を示すものとしたオルテガの、哲学にて社会牽引する意識を強烈にあらわすものと言えるだろう。(ただし、ヨーロッパの停滞が世界の支配層を失くしたが、それに代わるものはアメリカ合衆国でもソビエト連邦でもなく、ヨーロッパ統一国家であるという文脈であり、先鋭化すると国家の個人への過大な介入という方向性を持ちかねない危うさも感じる)
    「大衆」の基本性質については、現代人とりわけ現代日本人が読んでも思い当たることが多くあるのではないだろうか。身近で例えて恐縮ではあるが、このブクログでのいろいろな評価、特に歴史的著作物への極端に低い評価に出会うと、オルテガのいう「大衆」の格好の適用例ではないかと感じる。当然ながら主観の入らない評価やレビューはあり得ず、そこはどのように表現・評価しても全く自由であるのだが、それを良いことに歴史的時間軸の現地点でのみにしか立脚せず、己の現在の理解力でのみ判断している「大衆」評価は苦々しく思う。過去より蓄積されてきた英知に敬意を払っても自らを貶めることにはなるまい。だが逆に、そのような評価・レビューがまだ少数であり、著作物に真摯に向き合っているレビューが多いことも一方にある限りにおいて、このブクログでの集合知を信じる自分としては、全体としてそれなりの評価水準になっていることに少し安心感も持っている。「大衆」からの脱却は個人の意識の課題でもあり、現代を生きる「個人」として真摯に意識されるべきだろう。

  • 199夜『大衆の反逆』オルテガ・イ・ガセット|松岡正剛の千夜千冊
    https://1000ya.isis.ne.jp/0199.html

    綴じが外れるほどにくりかえし開いた本特集 ちくま学芸文庫創刊20周年|ちくま学芸文庫|鷲田 清一|webちくま
    http://www.webchikuma.jp/articles/-/872

    筑摩書房 大衆の反逆 / オルテガ・イ・ガセット 著, 神吉 敬三 著
    https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480082091/

  • この本は、1930年にスペインで生まれのオルテガによって書かれたものですが、現在の日本の「空気感」、「閉塞感」や、経済的にもピークを超えた日本の社会状況ととても似ていて、内容的にも新刊本を読んでいる感じになり、驚きました。
    過去にも同じような社会状況が繰り返されており、現在読んでも、とても参考になる名著でした。
    ぜひぜひ読んでみて下さい。

  • 良い文章の宝庫! 例えが秀逸!!

  • 人生で最も影響を受けたトップ5に入る本。

    100年前に書かれた内容は今でも色褪せない。「精神の貴族」はよいことばですね。

  • 1世紀前あたりに書かれた書籍。ちょうどヨーロッパでは、ファシズムが興り始め、ヨーロッパ全土が、その風潮に押し流されようとしている背景がある。文章は非常に難しく翻訳されており、なんとか読了するものの、そこから読み取れることは、保守の中に、リベラルがあるということ。反対者、敵をも含めて統治することこそ、人間の英知であると…まさに、ボートを漕ぐようにゆっくり後ろ向きに前に進むのだと…そういうことかな?

  • 本気なのか?反語なのか?といった攻めている感じの文章がある。その先を続けてよく読めば本当に言いたいことが何かわかるが。センセーショナルな章タイトルや導入部の書き方は、新聞のキャッチ―な見出しやリード(前文)に通じるものがある。
    「大衆とは、良い意味でも悪い意味でも、自分自身に特殊な価値を認めようとはせず、他の人々と同一であると感ずることに喜びを見出している」という部分で、自分のことを言われているようだった。
    「研究者の仕事がますます専門化する」「科学者が一世代ごとにますます狭くなる知的活動分野に閉じこもってゆく」「自己の限界内に閉じこもりそこで慢心する人間」といった言葉は、思想を持つために知を得る時に陥りがちな専門バカや狭窄的な視点への警鐘に思われた。
    また「真に自己を迷える者と自覚しない者は、必然的に自己を失う」「一つの真理を発見するものは、その前に習得したものを粉砕しなければならない」という言葉も心に残った。

  • アバタロー氏
    1930年出版
    大衆社会の到来を告げ、その問題点について分析した大衆社会論
    同じころラッセルが「幸福論」を出版

    《著者》
    1883年生まれ
    7才ドン・キホーテを暗唱
    15才マドリード大
    21才哲学の博士号

    《内容》
    1930年代はファシズム台頭
    大衆という支持基盤が存在している否か、これが従来の独裁システムとファシズムの大きな違い

    自分に何らかの特別な要求をしない人を大衆とした
    特徴として、自分より優れている人は嫌い、欲望は抑えない、自分がよければいい、他人は考慮しない、義務もない、社会保障制度やインフラなど当たり前に受け取っている

  • 4年ほど積読の後、読了w
    大昔読んだ侏儒の言葉と似た雰囲気。イギリス・ドイツ・フランスを挟んで、アメリカとロシアが対峙している。話題は流れ流れて、なんとなくダウナーな方向へ。

  • それ以前の人々にとって生とは重苦しい運命だった。しかし、現代の「大衆」=「平均人」は、彼を取り巻く世界に甘やかされている。経済的、肉体的、社会的安楽さをあたりまえのものと思っている。

    近年のヨーロッパに蔓延する無力感は、「潜在能力の大きさ」と「政治機構の大きさ」とのアンバランスから生まれる。

    「国家というものは、人間に対して贈り物のように与えられる一つの社会形態ではなく、人間が額に汗して作り上げてゆかねばらないもの」

    国家を成り立たせる要因は、血縁でも、言語でも、過去でもなく、「われわれが一緒になって明日やろうとすること」

    「国家は一つの事物ではなく、運動である」

    「ヨーロッパ大陸の諸民族の集団による一大国民国家を建設する決断のみが、ヨーロッパの脈動をふたたび強化しうるであろう」

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