- Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480082183
感想・レビュー・書評
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葬送儀礼に蓑笠が用いられることについての解説が興味深かった。
死者が装う場合と、葬列の参加者が纏う場合があるようだというのも初めて知った。
蓑笠については、中近世の百姓一揆の際に身に着ける人がおり、それについて社会的役割や人物の特定を難しくする「隠れ蓑」として機能していたという説も紹介されている。
言及されてはいないが、このあたりを読むと「じゃあ、昔話の笠地蔵って・・」と思う。
笠と蓑を身に着けることにより、石の像に異界から菩薩を招来したということなのだろうかと思ったりする。
それ以外の論考も私にはかなり難しかったが興味深いものが多かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「異人殺しのフォークロア」はずっと読んでみたかった話。すげー闇深いな...。日本昔ばなしで見たような「旅人を泊めたら、次の日大量の財宝が!」って話が「異人殺し」という忌まわしい要素を抹殺するために作り変えられた「異人歓待」モノだったという説は目からウロコ。
訪れた異人に対してコミュニティは門戸を閉ざすのではなくて、コミュニティを維持させるための装置として利用する。内部の特定の家を殺すために、異人殺しの罪を擦り付けて、祟りを発生させる。内部での差別の辻褄合わせとして犠牲になる異人。どこまでも差別的で鳥肌が立つ。
伝説は民族社会の具体的な事象を語る、つまりは表層の現実を語る。一方、昔話は抽象的な事柄を語る、つまりは深層の現実を語る、というのがタメになった。
「妖怪と異人」は、著者の河童考を他の著書で読んで感動したので詳しく知りたいと思って読んだ。
河童=川の民=穢多、非人、河原者という定義はかなり好きだ。山姥=山の民も、金銭を要求する山姥がいたということは、経済活動を必要とする異人が山の中に存在したということという説明でゾッとした。異形の者や被差別者を妖怪視するって中々グロテスクだけど、今の私たちの心にもまだある。差別意識根深〜。 -
人類学的な手法にもとづいて民俗学の刷新を図ったことで知られる著者が、「異人」というテーマについて考察している本です。
著者は『憑霊信仰論』などで、村内で急速に金持ちになる家があったり、急速に没落したりといった異常な事実を説明するために、さまざまなフォークロアがつくられるという議論をおこなっています。本書もそうした観点から、「異人殺し」にまつわるフォークロアをとりあげ、それが人びとの心理における「歴史的事実」として位置づけられていると考えて、その心理的な意義についての考察を展開しています。
また、やはり他の著作でもくわしく論じている「異類聟入」についてあらためてとりあげ、構造主義的な物語論の観点から分析をおこなっています。 -
・「女性は男性を作る。男性は儀礼によって死を超越することを通じて、物のみでなく社会と文化を創造する」
―P・L・ラヴェンヒル
・私がここでとくに強調したいのは、異類異形性とそれに関連する他者性の問題です。
異類異形性というのは、人間の普通にもつ姿とは異なった鬼や怪物、動物たち、人間なんだけれども人間のカテゴリーを少し逸脱したようなもの、自分たちが聞いたことのない言葉をしゃべったり、自分たちとは違った服装や生活をしているような人、そういったものをすべてまとめてここでは異類異形性と呼んでおります。このなかには「化ける」というようなことも当然入ってくるわけです。
妖怪のなかの妖怪、もっとも妖怪らしい妖怪というのは目に見えない妖怪だといえると思います。そういう妖怪は異類異形成というような言葉では表現できません。
阿部正路氏は形のあるお化けというのは弱いお化けである、ほんとうの妖怪、お化けというのは、形のないところに真の力がある、だから妖怪やお化けが形を与えられたときにはすでに力が衰えているんだ、ということを述べておられます。その通りだと思います。 -
ちくま文庫
小松和彦 「 異人論 」 文化人類学の本。異人や妖怪に関する民俗伝承から 民俗社会の心性を抽出した本。中沢新一 氏の解説も本編理解を深めている
主な内容
*異人殺しの民俗伝承から、異人を見る民俗社会の心性を分析
*折口信夫のマレビト概念の文化人類学への利用
*異人を妖怪視する意識を分析し、妖怪論を展開
日本の神について、折口信夫と柳田國男の違い に納得
異人殺しのフォークロア
*異人=六部、座頭、山伏、巫女など 殺された来訪者の伝承の研究〜来訪者に対する定住者の意識(民俗社会の心性)の研究
*異人を神と重ね合わせる観念が衰退→民俗社会の心性として、異人殺し伝説を神霊虐待伝説へ変形
*民俗社会は 社会の生命を維持するために 異人を吸収したのち、社会の外に吐き出す
折口信夫マレビト概念=折口信夫にとっての日本人の神
*神話としてのマレビト=常世から来訪して祝福をもたらす神
*歴史としてのマレビト=神を背負って村に祝福をもたらす神人
折口マレビト概念を人類学で利用するために
2つのマレビト概念を分離独立させ、負のマレビト(災厄をもたらすものとして 排除される異人)を加える
妖怪論
*災いをもたらす神も神→祀られている超自然的な存在は 神→祀られていない超自然的な存在は 妖怪
*妖怪の背後に 人間(異人)が存在=異人を妖怪視する意識
解説 中沢新一
*物事は必要に応じて用途を変える
*学問に所有権など存在しない〜これは私が発見したことということは 人知を超えた真理を目指そうとする学問にとって 無意味
*よい学問は たくさんの知性〜お互いのアイデアを贈与しあうときに生まれ出る
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1 異人の民俗学
異人殺しのフォークロア
2 異人の説話学
恐怖の存在としての女性像
猿●人への殺意
3 異人の人類学
異人への人類学的視点
蓑笠をめぐるフォークロア
4 異人論の展望
妖怪と異人
初出一覧
あとがき
文庫版あとがき -
1 異人の民俗学(異人殺しのフォークロア―その構造と変容)
2 異人の説話学(恐怖の存在としての女性像―化物退治譚の深層;猿聟への殺意―昔話における「主題」と民俗社会)
3 異人の人類学(異人論への人類学的視点 折口信夫の「マレビト」再考;簑笠をめぐるフォークロア―通過儀礼を中心にして)
4 異人論の展望(妖怪と異人―新しい妖怪論のために)
解説:中沢新一 -
「ポストモダン」が喧伝された時代に登場した書物だが、浮ついたところはない。人類学、構造主義などの多角的視点で日本民俗学の「異人」テーマについて論じている。そのため、柳田・折口・宮本など、過去の民俗学の著作とは異なった、現代的で重層的な知性がほの見える。
おおげさな<理論>をもくろむのではなく、民俗学的各事象を一つずつ読み解いていこうというスタンスであるため、地味ではあるが、著者はおそらくなかなか一級の知性を持った人物なのではないかという気がした。
神や妖怪、霊とも隣接し、人々がおそれ、あがめ、忌避した<異人>をめぐる記述はなかなか面白い。
著者はこの本を「異人論」の序章にあたるもの、と述べているが、その後どんな本を書いていったのか、興味を惹かれる。 -
民俗学に興味がある人にとって面白いと思う。(読んだことがきっかけで興味を持つ人も多いと思う。)
因習とかが多く出てくるからか、ひさしぶりにTRICKを見たくなった。 -
大学時代に読んで、「異人殺しのフォークロア」が特に面白かった。